法定相続人とは?相続人との違い・範囲や順位・確認方法などを解説

相続に関するさまざまトラブルを回避するためには、法定相続人という民法の規定について正しく理解する必要があります。遺産相続では相続割合を巡るトラブルが多く、遺産分割調停にまで発展するケースが少なくありません。

本記事では、法定相続人の範囲や順位、法定相続分について解説します。また、遺産相続の最優先事項である「相続人の確認方法」も解説しましょう。

1分でわかる!記事の内容
  • 法定相続人とは、相続財産を継承する権利を民法で定められた人
  • 法定相続人になれるのは配偶者のほか、「子・孫」「父母・祖父母」「兄弟・姉妹」
  • 法定相続人であっても相続できないケースがある

この記事の監修者

税理士法人みらいサクセスパートナーズ


代表


宮川 真一/税理士、CFP®

1996年一橋大学商学部卒業、1997年から税理士業務に従事。現在は、税理士法人みらいサクセスパートナーズの代表として、M&Aや事業承継のコンサルティング、税務対応をはじめ、CFP®(ファイナンシャルプランナー)の資格を生かした個人様向けのコンサルティングも行っている。また、事業会社の財務経理を担当し、会計・税務を軸にいくつかの会社の取締役・監査役にも従事する。

法定相続人とは?

法定相続人とは、「相続財産を継承する権利を民法で定められた人」を指します。法定相続人の範囲や割合も民法で定められており、相続財産は民法887条から890条(※1)に基づいて相続人に継承されます。これを「法定相続」と呼びます。

(※1)参考: e-Gov 法令検索 民法887条から890条

法定相続人の対象範囲は、夫や妻などの「配偶者相続人」と、子や親、兄弟といった「血族相続人」です。ただし全員に相続権があるわけではなく、さらに被相続人との関係性で順位や遺産を受け取れる割合が異なります。

法定相続人以外でも相続は可能ですが、その場合は民法の規定に則った遺言書が必要です。遺言書がない場合は遺産分割協議で誰が何を相続するのかなどを決定します。

その際は「法定相続分」に基づいて話し合うのが一般的です。法定相続分とは民法の規定に基づく遺産の相続割合を指します。ただし、法定相続分は法定相続人の数や組み合わせで変動する点に注意が必要です。

相続人とは?

相続人とは、故人が遺した財産を受け継ぐ人です。人が不動産や株式などの財産を遺して死亡した場合、基本的には法定相続人に継承されます。しかし、相続人は必ずしも法定相続人であるとは限りません。

先述したように、法的効力のある正式な遺言書があれば、血縁関係のない第三者や法人などでも遺産を相続できるためです。つまり相続人とは、被相続人の遺産を実際に継承する人を指します。

法定相続人と相続人の違い

法定相続人と相続人は似た意味合いをもつ概念ですが、その定義は明確に異なります。冒頭で述べたように、法定相続人は相続財産を継承する権利をもつ人です。一方で相続人は遺産を受け取る人を意味します。

法定相続人は相続権をもつものの、必ずしも相続財産を引き継ぐとは限りません。たとえば、相続放棄した配偶者は法定相続人ではあっても実際に遺産を継承する人ではないということです。つまり法定相続人は「相続権のある人」で、相続人は「相続する人」という点が異なります。

被相続人とは?

被相続人とは、不動産や預金などの財産を遺して死亡した故人を指す用語です。一般的には「故人」といいますが、法的な手続きの上では「被相続人」と呼ばれます。そして被相続人が生前に保有していた財産や権利、義務などを継承するのが相続人です。

法定相続人の範囲と順位

法定相続人の範囲と順位は民法で厳格に規定されており、すべての血族相続人に相続権が発生するわけではありません。先述したように、相続財産を継承できるのは配偶者相続人と最高順位の血族相続人です。

同じ順位の法定相続人が複数人いる場合は原則として同じ相続割合となります。自分よりも順位の高い人がいる場合は権利が発生しません。民法が定める法定相続人の範囲と順位は以下の通りです。

民法が定める法定相続人の範囲と順位
  • 常に優先的な法定相続人:配偶者
  • 第1順位:直系卑属(子や孫)
  • 第2順位:直系尊属(父母や祖父母)
  • 第3順位人:兄弟・姉妹

被相続人の配偶者

民法890条(※2)には「被相続人の配偶者は、常に相続人となる」と記されています。したがって、配偶者は子や親よりも相続順位が高く、仮に婚姻期間が一日でも常に優先的な法定相続人となるのが大きな特徴です。

(※2)参考:e-Gov 法令検索 民法890条

配偶者の法定相続分は「2分の1から4分の3」で、法定相続人が配偶者のみの場合は夫もしくは妻がすべての遺産を相続します。ただし法律上の婚姻関係を結んでいる必要があり、内縁関係の場合は法定相続人に該当しません。

第1順位:被相続人の子・代襲相続人

いかなる場合も優先される配偶者を除いた場合、第1順位の法定相続人は直系卑属です。直系卑属とは自分よりも後の世代の直通する血縁者を指します。最も近い直系卑属は子です。

なお、故人の子がすでに死亡している場合、その相続権は直系卑属に移行します。このような仕組みや制度を「代襲相続」と呼びます。代襲相続は子から孫へ、孫からひ孫へと血縁が続く限り継承されます。

たとえば、被相続人の子がすでに死亡しており、その子に子(孫)がいる場合、その権利は孫に継承されるという仕組みです。このケースでは亡くなった被相続人の子は「被代襲者」、その子(孫)は「代襲相続人」と呼ばれます。

直系卑属の法定相続分は「2分の1」です。仮に被相続人に妻と3人の子がいる場合は、妻が2分の1を継承し、3人の子は2分の1を人数で分割して6分の1ずつが法定相続分となります。

第2順位:被相続人の父母・祖父母

第2順位は直系尊属です。直系尊属とは自分より前世代の父母や祖父母などを指します。ただし法定相続人と認められるのは原則として被相続人に直系卑属がいない場合です。

直系尊属の法定相続分は「3分の1」です。仮に直系卑属がおらず、法定相続人が妻と父母の場合は、3分の1は父母の法定相続分となり、残る3分の2が妻の法定相続分となります。

なお、直系尊属に代襲相続の制度は適用されません。しかし父母がすでに死亡しており、なおかつ祖父母が存命の場合は相続権が繰り上がり、祖父母が法定相続人となります。

第3順位:被相続人の兄弟・姉妹

第3順位は兄弟や姉妹です。被相続人に子がなく、父母や祖父母などもすでに亡くなっている場合、被相続人の兄弟および姉妹に相続権が発生します。

兄弟・姉妹の法定相続分は「4分の1」です。たとえば法定相続人が配偶者、そして兄と姉だと仮定するなら、兄と姉は8分の1ずつが法定相続分となり、配偶者は残る4分の3が法定相続分となります。

被相続人の兄弟や姉妹がすでに亡くなっている場合は代襲相続が適用され、甥・姪が代襲相続人となります。ただし兄弟・姉妹の代襲相続は一代限りとなっているため、甥や姪の子には適用されません。

相続人が誰なのかを確認する方法

遺産相続における最優先事項は相続人の確定です。その具体的な方法としては以下の2つが挙げられます。

遺言書を確認する

相続が発生した場合、まずは遺言書の有無を確認しなくてはなりません。民法で定められた要件を満たす遺言書があれば法定相続人以外でも遺産を相続できるため、血縁関係のない第三者に遺贈の意思を書き記している可能性があります。

また、「遺言は遺産分割協議や法定相続分よりも優先される」という原則があります。仮に遺言で長男の相続割合が法定相続分より多く設定されていた場合、原則としてその意向に従わなくてはなりません。

したがって相続人を確定させるためには、まず遺言書を確認するプロセスが極めて重要です。

戸籍謄本を調査する

法的効力のある遺言書がない場合は、法定相続人全員による遺産分割協議で遺産分割の方法を決定します。誰が法定相続人なのかを確定させるためには、「戸籍謄本」を取り寄せなくてはなりません。

戸籍謄本は被相続人の出生から死亡までの婚姻事項や出生事項が記されています。ただし戸籍謄本だけでは除籍された人の情報を確認できない場合があり、相続手続きでは「除籍謄本」や「改製原戸籍謄本」が必要となるケースがほとんどです。

戸籍謄本は被相続人の本籍地の役所に出向くか郵送で取得できますが、本籍地の移動があれば前の本籍地から取り寄せなくてはなりません。そのため、戸籍の調査・収集は相応の手間と時間を要します。

なお、戸籍謄本の調査過程で非嫡出子の存在が発覚するケースも少なくありません。認知された非嫡出子は子と同じく第1順位の法定相続人となるため、遺産分割協議の参加が必須となる点に注意が必要です。

法定相続人が相続しないパターン

法定相続人であっても遺産を相続しない、あるいは相続できないケースが想定されます。代表的な事例として挙げられるのが以下の3つです。

不正に相続しようとすると適用される「相続欠格」

民法が定める相続欠格事由に当てはまる場合、たとえ法定相続人であっても相続権を失うケースがあります。たとえば被相続人を殺害していたり、脅迫、詐欺行為など、法律に抵触する重大な非行を行ったりした場合です。

具体的な欠格事由は民法891条(※3)で定められており、以下の項目に該当する人は裁判を経ずに相続権を剥奪されます。

(※3)参考:e-Gov 法令検索 民法891条

欠格事由
  • 被相続人や相続人を死亡させた者
  • 被相続人が殺害された事実を知りながら告発しなかった者
  • 詐欺や脅迫で相続に関する遺言を妨害した者
  • 詐欺や脅迫で相続に関する遺言をさせた者
  • 遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿をした者

権利義務の承継を拒否できる「相続放棄」

法定相続人が遺産を相続しない事例として挙げられるのが相続放棄です。たとえば被相続人の子が相続権を放棄した場合は相続人ではなかったことになり、その権利は直系尊属に移行します。

相続人が継承する遺産は銀行預金や不動産、株式といった積極財産だけではなく、借り入れや未払金、保証債務などの消極財産も含まれます。そのため、積極財産よりも消極財産が多い場合は相続放棄によって損害を回避するというケースが少なくありません。

ただし、相続放棄の期限は3カ月と民法915条(※4)で定められており、その期間内に申し立て書類を管轄の家庭裁判所へ提出する必要があります。また、遺産相続は包括継承が原則であり、積極財産だけを相続して消極財産は放棄するといったことはできません。

(※4)参考:e-Gov 法令検索 民法915条

法定相続人を相続から外せる「相続廃除」

相続廃除とは、相続が発生した際に相続人となる予定の人の権利を排除できる制度です。この制度は遺産を譲りたくない法定相続人がいる場合に有効ですが、被相続人の好き嫌いや仲の良し悪しといった感情論レベルで決定できるものではありません。

生前の被相続人、もしくは遺言執行者が管轄の家庭裁判所に申請し、廃除するに相応しい理由がある上で、承認される必要があります。具体的には被相続人に対して重大な侮辱や虐待行為、著しい非行があった場合と民法912条(※5)で定められています。

相続欠格や相続排除は当人のみに適用される制度であり、代襲相続は可能です。たとえば相続欠格や相続排除の対象となった法定相続人に直系卑属がいる場合、相続権は法定相続人の子や孫に移行します。

(※5)参考:e-Gov 法令検索 民法912条

法定相続人に該当するか状況別に解説

相続財産を受け取る権利をもつのは配偶者相続人と最高順位の血族相続人ですが、故人との関係性や状況によっては該当するか否か分かりかねるケースが少なくありません。ここでは法定相続人に該当するかどうかを状況別に解説します。

被相続人と内縁関係

お互いが婚姻の意思をもち、夫婦同然の生活を営んでいたとしても、内縁の夫もしくは妻には原則として相続権はありません

内縁関係の人に遺産を相続させたい場合は、遺言書に遺贈の意思を記載する、あるいは生前贈与を活用するといった方法が考えられます。

また、相続人としての権利を有する人がおらず、内縁関係にあった夫や妻が被相続人と特別な関係にあり、特別縁故者」として認められた場合は相続権が発生します。

ただし内縁関係にある人への遺贈や贈与はトラブルに発展するケースが少なくありません。相続税や贈与税の知識も求められるので専門家への相談が推奨されます。

被相続人の内縁の子

被相続人と内縁関係にある人との子の相続権は、血縁関係ではなく認知の有無によって変わる点に注意しなくてはなりません。先述したように、非嫡出子は子と同様に第1順位の法定相続人となりますが、それは非嫡出子が認知されている場合のみです。

内縁関係の夫が非嫡出子を認知した場合、その子は夫の戸籍に入ることになり、法律上の親子関係が成立します。しかし、認知されていない非嫡出子は法律上の親子関係が認められないので、残念ながら直系卑属に含まれません

したがって、認知されていない非嫡出子には相続権が発生しません

また、再婚相手の連れ子は法定相続人として認められませんが、養子縁組をした場合は法律上の親子関係が成立します。その場合、血縁関係がなくとも直系卑属に含まれるため、第1順位の法定相続人となります。

被相続人の孫

被相続人の孫は原則として法定相続人には当てはまりません。被相続人の孫が法定相続人となるのは代襲相続人となった場合です。

それ以外で孫に遺産を相続させたい場合は内縁関係の人と同様に、遺言書に遺贈の意思を記載するか、生前贈与をする、養子縁組するといった方法が考えられます。

相続人が未成年者

法定相続人としての権利に年齢は関係ないため、未成年者であっても遺産の相続は可能です。しかし、未成年者は単独で有効な法律行為を行えないと民法5条(※6)で定められています。

このため、未成年者は法定相続人としての権利はあっても、原則として遺産分割協議には参加できません。このような場合は「法定代理人」を立てる必要があります。

通常は親権者が法定代理人になりますが、遺産相続で未成年者が法定相続人となる場合、被相続人の配偶者(未成年者の親)も法定相続人であるケースが少なくありません。

子と親で利益相反が発生する場合は、家庭裁判所を通して利害関係のない第三者や弁護士などを「特別代理人」として選任する必要があります。

(※6)参考:e-Gov 法令検索 民法5条

相続人が行方不明

行方不明の人であっても法定相続人としての権利は失われません。遺産分割協議が成立するには、法定相続人全員の合意が必要であり、一人でも欠けている場合は無効となります。

たとえば、被相続人が遺した銀行預金の相続手続きを進めるためには、相続権を証明する戸籍謄本や原戸籍謄本、印鑑登録証明書などと同時に遺産分割協議書の提出が必要です。

そのため、法定相続人が行方不明で連絡が取れない場合は「不在者財産管理人」を選出しなくてはなりません。不在者財産管理人は行方不明者の財産を本人に代わって管理する人であり、遺産分割協議に代理で参加できる権利を有します。

また、法定相続人が生死不明なら家庭裁判所に失踪宣告の申し立てをするのも有効です。失踪宣告を受けた行方不明者は法律上では死亡扱いとなり、法定相続人から除外されるので遺産分割協議への参加義務もなくなります。

法定相続人がいないと遺産はどうなる?

相続人が不存在、またはすべての法定相続人が相続放棄をした場合、被相続人の遺産はどのように処理されるのでしょうか。

様々なパターンが考えられますが、その1つとして挙げられるのが遺贈です。たとえば被相続人に配偶者や子がなく、父母や兄弟もすでに亡くなっている場合、慈善団体への遺贈寄付を遺言書に記す人も少なくありません。

相続人の不存在が明らかな場合は、「相続財産は法人となる」と民法951条(※7)で定められています。そして、家庭裁判所が法人格となった相続財産の管理人を選任し、被相続人の債権者からの法定手続きに則った申し出があった場合は清算手続きを行います。

債務の精算後も相続財産が残存している場合は、特別縁故者と認められる人に遺産が継承されます。それでもなお残存する相続財産は民法959条(※8)に基づいて、国庫に帰属するというのが原則です。

(※7,8)参考:e-Gov 法令検索 民法959条

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法定相続人とは、相続財産を継承する権利を民法で定められた人です。法定相続人となる可能性があるのは、配偶者・直系卑属・直系尊属・兄妹・姉妹・甥・姪です。原則として配偶者相続人と最高順位の血族相続人が法定相続人となります。

遺産相続は民法に関する高度な知識が求められます。そもそも、大切なご家族が亡くなった時には、なかなか冷静な判断も難しいものです。だからこそ、専門的かつ冷静に対応できる第三者である専門家への相談も、選択肢に入れてみてはいかがでしょうか?

ほかにもこちらのメディアでは、相続欠格について推定相続人についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。