空き家を相続放棄するとどうなる?管理義務の所在や手続きも解説

「空き家を相続しそうだけど、いらないから相続放棄したいな」「相続放棄しても、空き家の管理責任が残るって聞いたけど、本当?」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?空き家を管理する手間は重いため、空き家は相続したくないですよね。

空き家を絶対に相続したくない場合は、相続放棄という手段があります。相続放棄をすれば「最初から相続人ではなかった」とみなされるため、相続関連の事務から解放されるのです。

こちらの記事では、相続放棄をして空き家を継承せずに済ませる方法や、相続放棄の注意点などを解説します。相続が起きている、あるいは起こりそうで空き家の相続問題を避けたいと考えている方に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてみてくださいね。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続放棄をしても空き家の管理義務を負うことがある
  • 他の相続人に引き継いでもらう、相続財産清算人を立てることで管理義務から解放される
  • 空き家の管理を放棄するとトラブルにつながる恐れがある

相続放棄とは

相続放棄とは、相続した財産について権利義務の承継を拒否する意思表示です。相続放棄をすれば「財産は一切相続しない」ことになるため、遺産相続協議をはじめとした相続関連の事務を行わずに済みます。

なお、相続の方法には、相続放棄を含めて以下の3通りがあります。

単純承認 相続人の遺産をすべて承継する
限定承認 相続人の遺産について、プラスの場合のみ承継する
相続放棄 相続人の遺産を一切相続しない

遠方に住んでいる親が亡くなられた場合、住んでいた家が空き家となるケースがあります。実家に戻る気がない場合、相続放棄をしないと、遺産分割の内容次第では空き家を相続しなければなりません。

「空き家の管理や保存は面倒だから、できれば相続したくない」と考えている場合は、相続放棄を検討しましょう。

空き家を相続放棄すると管理義務はどうなる?

空き家を相続放棄しても、必ず管理義務から解放されるわけではありません。

2023年4月に改正された民法では「相続の放棄をした者は、その放棄のときに相続財産に属する財産を現に占有しているときは(中略)自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない」と規定されています。

つまり、空き家となる物件を定期的に清掃したり、使用したりした場合は相続放棄をしても管理義務が残ります。「相続放棄をすれば空き家の管理義務から解放される」と考える方もいますが、必ずしもそうではない点は押さえておきましょう。

相続放棄をして空き家の管理義務を免れる方法

空き家の管理義務を負っても、免れる方法があります。以下で、空き家の管理義務から解放される具体的な方法を解説します。

ほかの相続人に引き継いでもらう

他の相続人に引き継いでもらえば、ご自身に空き家の管理義務は生じません。実際に空き家を引き渡すまでは管理義務を負いますが、移転登記が済み引き渡しが完了すれば、管理義務が終了します。

ただし、相続放棄をするタイミングで家に住んでおり、さらに相続人全員が相続放棄をすると占有していた相続人が管理義務を負います。この場合は、占有していた相続人は保存義務を免れません。

相続財産清算人を立てる

相続放棄をするタイミングで家に住んでおり、空き家の管理義務を負うことになったら、相続財産清算人を立てることで管理義務から解放されます。相続財産清算人とは、相続人の代わりに財産を管理する方のことです。

相続放棄を行い、正式に相続財産清算人が選任されたあとは、相続財産清算人が保存義務を負います。

相続財産清算人の選任は、必要書類と費用を準備したうえで「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」へ行います。場合によっては数十万円の予納金を求められるケースがあるため、家庭裁判所からの指示に従いましょう。

相続土地国庫帰属制度を利用する

2023年4月27日より、相続した土地を手放したい場合、国に引き取ってもらえる「相続土地国庫帰属制度」が始まりました。空き家だけでなく、土地の管理からも解放されたい場合は、相続土地国庫帰属制度の利用を検討しましょう。

ただし、相続土地国庫帰属制度で国に引き取ってもらえるのは「土地」に限られます。さらに、下記に該当する土地は対象外です。

相続土地国庫帰属制度の対象外となる土地
  • 建物がある土地
  • 担保権や使用収益権が設定されている土地
  • 他人の利用が予定されている土地
  • 土壌汚染されている土地
  • 境界が明らかでない土地・所有権の存否や範囲について争いがある土地

空き家があると「建物がある土地」に該当するため、土地を国に引き取ってもらうためには空き家を解体して更地にする必要があります。また、手続きを進めるにあたって土地の審査を受ける必要があり、審査手数料として土地一筆あたり1万4,000円が必要です。

実際に引き取ってもらうハードルが高いことと、手数料が発生する点は押さえておきましょう。

空き家を相続放棄する手続きの流れ 

空き家を相続したくない場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続きをする必要があります。以下で、具体的な手続き方法や流れについて解説します。

遺産を確認して相続方法を検討する

相続人の遺産を確認して、相続方法を検討しましょう。プラスの遺産が多く、空き家の管理コストを上回るメリットが期待できる場合、相続放棄をせずに単純承認か限定承認をしたほうがよいケースもあります。

「本当に相続放棄をしたほうがよいのか」を、冷静に判断してみてくださいね。

手続きに必要な書類と費用を用意する

相続放棄の手続きを進めるには、相続放棄申述書と申立添付書類を家庭裁判所に提出する必要があります。申立添付書類とは、被相続人の住民票除票や戸籍謄本などで、被相続人との関係によって必要書類が異なります。

詳しくは裁判所のホームページに記載されているので、参考にしてみてくださいね。

また、相続放棄の手続きを行う際には、800円分の収入印紙と連絡用の郵便切手も必要です。相続人の数にもよりますが、手続きに要する費用はおおむね3,000円~5,000円程度になります。

弁護士に一連の手続きを依頼することも可能ですが、弁護士に依頼すると5万円程度の費用が発生する点は知っておきましょう。

相続放棄申述書に必要事項を記入する

相続放棄申述書には、作成した日付や提出先の家庭裁判所を書きます。ご自身の住所や生年月日、被相続人との続柄などの基本情報も記載します。被相続人の本籍と最後の住所、死亡年月日を記載する欄もあるため、間違えないように注意しましょう。

申述書には相続放棄をする理由を選ぶ欄がありますが、どの理由を選んでも相続放棄は認められるため、安心してくださいね。

家庭裁判所に必要書類を提出する

必要書類と収入印紙が用意できたら、家庭裁判所に提出します。相続放棄の手続きを行うのは、原則として相続人本人です。相続人が未成年者または成年被後見人である場合は、法定代理人が行っても問題ありません。

提出する家庭裁判所は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」です。ご自身の住所を管轄する家庭裁判所ではないため、間違えないように気をつけてください。

相続放棄申述受理通知書が届く

家庭裁判所に対して相続放棄に関する書類を提出(持参でも郵送でも行えます)したら、何日か経過すると裁判所から「照会書」が届きます。照会書を返送し、回答に問題がなければ後日「相続放棄申述受理通知書」が届きます。

相続放棄申述受理通知書が届いたら「相続放棄が無事に完了した」と捉えて問題ありません。

「相続放棄が裁判所から正式に認められた」ことを示す書類なので、大切に保管しましょう。相続放棄申述受理証明書は、被相続人に借金があり、債権者(お金を貸している人)から請求を受けたときに使う可能性があります。

「自分は相続放棄をした」という主張をするために欠かせないため、紛失しないように気をつけましょう。

空き家を相続放棄するときの注意点

相続放棄をすることで、空き家の管理責任を負わずに済みます。しかし、空き家を相続放棄するにあたって注意するべき点があるため、以下で解説します。

空き家だけ相続放棄はできない

「預貯金は相続したいけど、空き家は相続したくない」と考えている方も多いのではないでしょうか?残念ながら、相続放棄は遺産の種類ごとに決められません。

相続放棄をすると、空き家だけでなく被相続人が有していたすべての遺産を相続できなくなります。「空き家だけ相続放棄する」のように、ピンポイントで都合よく相続放棄できない点は知っておきましょう。

遺産がプラスでも相続できなくなる

相続放棄をすると、被相続人の遺産がプラスの場合も、一切相続できません。「空き家の管理が面倒だから」という理由で安易に相続放棄をすると、後悔する可能性がある点には注意しましょう。

一度相続放棄を行うと、原則として撤回できません。先述したように、遺産の種類ごとに都合よく相続放棄を選択できないため、遺産総額を鑑みたうえで判断することが大切です。

相続放棄手続きには期限がある

相続放棄の手続きは「相続があったことを知った日から3カ月以内」に行わなければなりません。期限内に手続きをしない場合は「単純承認をした」とみなされるため、注意しましょう。

単純承認では、被相続人が有しているすべての遺産を相続します。つまり、空き家はもちろん、借金や負債も承継するため要注意です。

相続放棄を選択したい場合は、必ず法定期限内に一連の手続きを完了させましょう。

相続放棄した空き家を放置するデメリット

親と同居していた子をはじめ、空き家の管理義務を負うケースは考えられます。「管理するのが面倒だから、放置してしまおう」と考えてしまう気持ちはわかりますが、残念ながらその考えは危険です。

以下で、相続放棄した空き家を放置するデメリットを解説します。

損害賠償請求を受けるリスクがある

建物が倒壊して通行人や隣家に損害を与えた場合、損害賠償を受ける可能性があります。建物は、放置すればするほど劣化し、倒壊リスクが高まります。

つまり、適切に空き家を管理する責任を放棄していると、高額な損害賠償を迫られるリスクがあるわけです。管理や保全が面倒という気持ちはわかりますが、相続財産清算人に引き継いでもらうまでは適切に管理しましょう。

苦情を受けるリスクがある

空き家は誰も管理していないことから、害虫や害獣の住処になるリスクが高いです。また、場合によっては犯罪に利用されるケースや悪臭を発して近隣住民に迷惑をかけるケースも考えられます。

その結果、自治体を通じて苦情を受ける可能性があるため、注意しましょう。苦情対応を無視すると、管理責任の放棄を問われてトラブルが大きくなる可能性もあります。

相続放棄した家の解体費用を払う方

相続放棄した空き家に倒壊の恐れがある場合は、解体するケースもあります。解体費用を払う方は、相続人がいるかどうかで異なる点は押さえておきましょう。

原則として、相続人がいる場合は相続人が解体費用を負担します。ご自身が相続放棄をしており、ほかに相続人がいて単純承認あるいは限定承認した場合は、当該相続人が解体費用を支払う流れです。

一方で、全員が相続放棄をして相続人がいない場合は、相続財産清算人が解体費用を支払います。相続財産清算人は、被相続人の財産を売却して解体費用を工面するため、実態としては相続財産清算人が自腹を切るわけではありません。

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