相続税の修正申告とは?期限や延滞税のリスクをわかりやすく解説

相続手続きの中でも大変な相続税の申告ですが、苦労して申告を終えた後で新たな相続財産が見つかったり、計算ミスが判明したりすることがあります。

このような場合に必要になるのが、「相続税の修正申告」手続きです。では、修正申告は具体的にどのように進めれば良いのでしょうか?また、似た手続きに「更正の請求」がありますが、両者はどう違うのでしょうか?

この記事では、相続税の修正申告について、必要となるケースや具体的な手続き、遅れた場合のペナルティなどを、わかりやすく解説します。相続税の修正申告に不安のある方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 修正申告が必要となる典型的なケースは4つある
  • 修正申告は税務署からの指摘を受けるまでは何度でも可能
  • 修正申告を怠るとペナルティが課せられる

相続税の修正申告とは

相続税の修正申告とは、相続税の申告手続きを終えた後に、本来申告すべき金額と申告した金額に食い違いが生じた場合に、正しい金額に修正する手続きを指します。

相続税は、自分で計算した税額を計算して申告する「申告納税制度」が採られています。そのため、申告後に新たな相続財産が見つかるなどして税額が変わることがわかった場合は、修正も自分で申告しなければなりません。

相続税の修正申告は、税務署から修正の指摘を受けるまでは何度でも提出し直すことができます。ただし、指摘を受けてから修正に応じると、ペナルティが課せられることもあるので、注意が必要です。

「修正申告」と「更正の請求」の違い

「修正申告」と似た手続きに「更正の請求」と呼ばれるものがあります。両者の基本的な違いは、申告した相続税額が本来納めるべき相続税額よりも「少ないか」「多いか」という点です。

申告額が本来納めるべき相続税額よりも少なかった場合は、「修正申告」により不足分を納付します。対して、本来申告すべき金額よりも多かった場合は、「更正の請求」により納めすぎた分を還付してもらいます。

なお、どちらも相続税申告期限後に誤りを正す手続きですが、申告期限内に誤りを正す場合は「訂正申告」の手続きを取りましょう。三者の違いを、以下の比較表にまとめましたので、ご覧ください。

手続き修正申告更正の請求訂正申告
タイミング申告期限後申告期限後申告期限前
申告した相続税額本来の税額より少ない本来の税額より多い本来の税額より少ない
または多い
提出する書類修正申告書など更正の請求書など申告書の再提出
期限申告期限から5年以内申告期限から5年以内
または再申告期限から4カ月以内
申告期限内

修正申告と更正の請求は、どちらも基本的には相続税の申告期限から5年以内に手続きする必要があります。ただし、未分割申告後に分割が決まったなど特別な事情がある場合の更正の請求は、再申告期限から4カ月以内に行う必要があるため注意しましょう。

相続税の修正申告が必要となる4つのケース

相続税の修正申告が必要となるケースは、細かく見ていくとさまざまなパターンが考えられますが、主に以下の4つに分類されます。

  • 申告した相続税額に誤りがあった
  • 申告後に新たな相続財産が見つかった
  • 未分割申告していた相続分が確定した
  • 相続税軽減の特例措置を誤って適用した

申告した相続税額に誤りがあった

土地や建物の評価額の算定が誤っており、相続税額を少なく算出してしまったケースです。特に土地の場合は権利関係や周囲の環境などによって評価額が大きく変動するため、専門家でないと正確な評価額の算出が難しい面があります。

また、単純な計算ミスで誤った相続税額を申告してしまうパターンもあります。プロである税理士に依頼している場合はあまり考えられませんが、自分で税額を計算して申告するケースでは十分に起こり得ます。

申告後に新たな相続財産が見つかった

当初申告した相続税額は正しかったものの、その後に新たな相続財産が見つかったことにより、遺産分割の再協議、相続税の再計算が必要になるケースです。ただし、再協議により相続分が変動しても、相続税に変動がなければ修正申告は不要です。

よくあるパターンは、「遺品整理をしていたらタンス預金が見つかった」「誰も認識していなかった株式を保有していた」などです。

なお、遺産分割協議の際に、「新たな財産が見つかった場合は誰が承継するのか」を指定しておけば、再協議は不要です。ただし、修正申告が不要になるわけではないので注意しましょう。

また、申告時点で認識していながら、あえて相続財産に加えていなかった場合は、相続財産を隠匿したことによるペナルティが課せられます(詳しくは後述します)。

未分割申告していた相続分が確定した

遺産分割協議は、基本的に申告期限内に終えて、協議内容に沿って相続税を申告しなければなりません。ただし、どうしても期限内に協議が整わない場合は、法定相続分で仮の申告を行うことができ、これを「未分割申告」と呼びます。

未分割申告後に遺産分割協議が整い、それぞれの相続分が確定した場合は、改めて確定後の金額で修正申告が必要です。なお、未分割申告時の申告額よりも少なくなる場合は、更正の請求により還付を受けることができます。

また、未分割申告時と遺産分割協議後で相続人間の相続割合が変わった場合でも、相続税の総額に変動がなければ、修正申告は不要です。

この場合でも、相続割合が変わったことにより、更正の請求を行った相続人がいれば、他の相続人は修正申告が必要になる可能性もあるので、注意しましょう。

相続税軽減の特例措置を誤って適用した

相続税には、基礎控除とは別に以下のような税額軽減措置が設けられています。

税額軽減措置
  • 贈与税額控除
  • 配偶者の税額軽減
  • 未成年者の税額控除
  • 障害者の税額控除
  • 相次相続控除
  • 外国税額控除

ここでは個別には触れませんが、それぞれの軽減措置には細かい適用条件があります。そのため、誤って適用対象外である軽減措置を使って税額を計算していた場合は、本来の税額に修正しなければなりません。

相続税の修正申告の手続き

ここからは、具体的な修正申告の手続きの流れと注意点について解説していきます。

修正申告の期限

修正申告は、税務署の調査により指摘を受けるまでであればいつでも何度でも行なえます。ただし、納期限の翌日から納付の日までの期間は延滞税が課せられるため、誤りに気づいたらなるべく早めに修正申告することをおすすめします。

なお、修正申告書の提出そのものに期限はないものの、相続税には「申告期限から5年」という時効があります。申告期限から5年を経過すると、修正申告も更正の請求もできなくなるのです。

ただし、相続財産を隠匿するなど、税金逃れの悪質な行為があると認められた場合には、この時効が7年まで延長されます。

修正申告の必要書類

修正申告は、「修正申告書」に必要書類を添付して行います。修正申告書は基本的に、国税庁のWebサイトにある「相続税の申告書等の様式一覧」のなかから「第1表:修正申告書」と「第15表:相続財産の種類別価額表(修正申告用)」を使用します。

参考:国税庁-相続税の申告書等の様式一覧(令和5年分用)

添付書類としては、以下のようなものが挙げられますが、追加書類の提出を求められる場合もあるため、あらかじめ税務署に確認することをおすすめします。

添付書類
  • 相続税納付書
  • 本人確認書類(マイナンバーが確認できる書類と身元が確認できる書類)
  • 追加書類(第5表:配偶者の税額軽減額の計算書、第6表:未成年者控除額・障害者控除額の計算書など)

修正申告書の書き方

修正申告書のうち、「第1表:修正申告書」には「修正前の課税金額」と「修正後の申告金額」を記載します。また、「第15表:相続財産の種類別価額表(修正申告用)」には「修正後の相続財産の種類別価額」を記載します。

相続開始日が2016年(平成28年)以降の場合は、相続人全員のマイナンバーの記載も必要です。

記載内容
第1表:修正申告書 ・修正前の課税金額
・修正後の申告金額
第15表:相続財産の種類別価額表(修正申告用) 修正後の相続財産の種類別価額

修正申告書の提出方法

修正申告書は、以下の3つの方法により提出可能です。

修正申告書の提出方法
  • 税務署窓口に持参
  • 税務署宛に郵送
  • e-Taxで電子申告

e-Taxによる電子申告を利用すると、本人確認書類の提出が不要となったり電子納税の手続きが行えたりと多くのメリットがあります。ただし、2019年(平成31年)1月1日以降に相続開始された相続税が対象である点には注意しましょう。

修正申告により追加で納付すべき相続税は、修正申告書を提出する日までに延滞税と合算して納付します。

相続税の修正申告を怠った場合のペナルティ

相続税の修正申告が遅れたり申告そのものを怠ったりした場合は、以下のようなペナルティが課せられます。

ペナルティとして課せられる税金ペナルティ対象となる事由
延滞税納付期限を超過して申告した
過少申告加算税申告した額が本来納付すべき額より少なかった
無申告加算税相続税の申告そのものを怠った
重加算税課税逃れのために無申告または過少申告をした

基本的には、早めに行えばそれだけ課税率も低く済むので、誤りに気づいたら早急に対応しましょう。

延滞税

延滞税は、納付期限を超過したことに対するペナルティです。納付期限から修正申告書の提出日までの日数に応じて、以下の計算式により課税されます。

  • 追加納税額✕延滞税率✕延滞日数÷365日

なお、延滞税率は納付期限から2カ月経過しているか否かによって異なります。令和5年1月1日以降の税率は以下のとおりです。

期間延滞税率
(令和5年1月1日以降)
納期限から2カ月以内年2.4%
納期限から2カ月経過年8.7%

過少申告加算税

過少申告加算税は、本来納付すべき相続税額より少なく申告したことに対するペナルティです。ただし、税務調査の事前連絡を受ける前に自ら修正申告した場合は、過少申告加算税は課せられません。

税務調査の事前連絡後に修正申告した場合は、「税務調査の指摘前か指摘後か」と「追加納付する相続税額」によって、以下のように税率が異なります。

修正申告のタイミング追加納付する相続税額加算税率
税務調査の指摘前50万円以下5%
50万円超10%
税務調査の指摘後50万円以下10%
50万円超15%

無申告加算税

無申告加算税は、そもそも相続税の申告自体を怠っていたことに対するペナルティです。ただし、申告期限内に納付だけは済ませているなどの要件を満たし、かつ1カ月以内に期限後申告すれば無申告加算税は課せられません。

無申告加算税の税率は、「税務調査の事前連絡前に自ら申告したか」「税務調査の指摘前か指摘後か」などにより、以下のように異なります。

申告のタイミング納付する相続税額加算税率
税務調査の事前連絡前5%
事前連絡前から税務調査の指摘後50万円以下の部分10%
50万円超の部分15%
税務調査の指摘後50万円以下の部分15%
50万円超の部分20%
税務調査の指摘後(※1)50万円以下の部分25%
50万円超の部分30%

(※1)税務調査の指摘後、かつ過去5年以内に相続税で無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合

重加算税

重加算税は、相続財産を隠匿・仮装するなど、課税逃れのために意図的に相続税を過少申告したことに対するペナルティです。対象行為としては悪質であるため、ペナルティの中では最も重い加算税率となっています。

申告の種類加算税率
申告はしていたが過少申告だった35%
申告そのものをしていなかった40%

なお、無申告加算税と同様に、過去5年以内に相続税で無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合は、上記に10%が加算され、それぞれ45%、50%となります。

相続税の修正申告でよくある質問

相続税の修正申告に関して、よく寄せられる質問とその回答をFAQ形式でまとめました。

税務調査の指摘に異議がある場合は?

税務調査で指摘を受けて修正申告を促された場合でも、指摘内容に納得がいかなければ修正申告に応じないという選択肢もあります。

税務署から改めて納付すべき税額が記載された「更正の通知」が届くため、修正申告に応じない場合は、税務署長に対する再調査請求もしくは国税不服審判所に対する審査請求を行いましょう

さらに国税不服審判所の裁決に不服がある場合は、裁決から6カ月以内に裁判所に対して不服申立ての訴訟を提起することも可能です。

なお、一旦修正申告に応じると、その後は上記のような不服申立てはできなくなるので注意が必要です。

相続税の修正申告は自分でできる?

相続税の申告および修正申告の手続き自体は、税理士などの専門家に依頼しなくても自分で行えます。ただし、相続税の計算は非常に煩雑で、特に不動産の適正な評価は不動産鑑定士でなければ困難でしょう。

また、延滞税などのペナルティは、納期限から遅れれば遅れるほど大きくなるため、少しでも負担を減らすためにはスピードが重要です。

このような事情を踏まえると、相続税の修正手続きは税理士に一任するか、自分で進めるにしても税理士と連携してアドバイスを仰ぎながら進めることをおすすめします。

相続税の修正申告の費用はいくら?

修正申告の手続きそのものに、手数料のような費用はかかりません。税務署に持参する場合は交通費、郵送する場合は送料などがかかりますが、e-Taxを利用すればこれらの費用もかかりません。

修正申告手続きを税理士に依頼する場合は、依頼先の事務所の報酬体系によりますが、およそ5万円からが相場となっています。付随する作業によっては追加で費用が発生することもあるので、事前に見積を取っておくことをおすすめします。

相続税の修正申告に不安がある場合は、税理士に相談を

本記事では、相続税の修正申告について、必要となるケース、具体的な手続きの流れ、課されるペナルティの内容などを中心にお伝えしてきました。

相続税の計算は非常に複雑であるため、苦労して申告手続きを終えた後で、修正申告が必要となった場合、途方に暮れることになるかも知れません。また、修正申告が遅れるとその分課されるペナルティも膨らんでいきます。

そんなときは、専門家である税理士に相談してみましょう。税理士に依頼することで、どの部分に誤りがあり、具体的にどう再計算すべきなのかが明確になり、スムーズに修正申告手続きを進められるでしょう。

ほかにもこちらのメディアでは、相続税の物納とは何かについてや遺産相続の相談は誰にしたらいいかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。

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