遺産分割協議書に預金の分け方はどう書く?分割方法や注意点を解説

「遺産分割協議書に預金の分け方を書くとき、どのよう書けばいいのだろう?」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

相続が発生し、被相続人の預金を分けるときは遺産分割協議書に必要事項を記載しなければなりません。相続人の氏名や預金を取得する割合を明記し、相続人全員の署名・押印があれば有効な遺産分割協議書となります。

こちらの記事では、遺産分割協議書に預金の分け方を記載する方法や、具体的な例文を解説します。相続における預金の分け方で悩んでいる方に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺産分割協議書には相続人の氏名や取得する財産の割合を明記する
  • 預金の分け方が不明瞭の場合、遺産分割手続きができない
  • 遺産分割協議書は資産の種類ごとに分けられる

遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書とは相続が発生したときに「相続人で遺産の配分方法について、きちんと話し合って納得しました」という旨を証明する書類です。被相続人の遺産を承継するにあたり、金融機関や役所で手続きするときに遺産分割協議書が求められます。

もし遺産分割協議書の作成が必要なケースにおいて、遺産分割協議が整わず遺産分割協議書が作成できないと、いつまで経っても被相続人の遺産を分配できません。なお、遺産分割協議書には相続人全員の署名・押印が必要となるため、非協力的な相続人がいると手続きが滞ってしまうことも少なくありません。

相続での預金の分け方

被相続人が預金を有していたら、相続人で預金の分け方を決める必要があります。被相続人は複数の銀行口座を保有しているケースがほとんどです。ここからは、代表的な相続での預金の分け方を解説します。

銀行口座ごとに分ける

銀行口座ごとに相続人に分ける方法があります。「A銀行の口座は配偶者へ」「B銀行の口座は長男へ」「C信用金庫の口座は次男へ」のように、1つの口座を相続人で分ける必要がなく、スムーズに手続きを行えるメリットがあります。

しかし、メインバンクとサブバンク、また普通口座と定期口座で残高に差があることもあるでしょう。残高の差が大きいと不平等な分割になってしまうため、銀行口座次第では採用できない方法と言えます。

銀行口座ごとに分ける方法
  • A銀行の口座:配偶者
  • B銀行の口座:長男
  • C信用金庫の口座:次男

預金残高を合計して分ける

銀行口座ごとの残高に差がある場合は、預金残高を合計して分ける方法があります。被相続人が保有していた口座残高を合計してから分ければ、平等な遺産分割が可能です。

例えば、「A銀行の残高が500万円」「B銀行の残高が300万円」「C信用金庫の残高が100万円」という場合、銀行口座ごとに分割すると不平等が出てしまいます。しかし、各口座の残高を合計して900万円を3人の相続人で分配すれば、平等な預金の分割が実現可能です。

金融機関の中には、遺産分割協議書の内容通りに被相続人の口座から各相続人へ振り込みをしてくれる場合もあります。しかし、金融機関によっては、相続人の代表者がすべての預金口座の払い戻し手続きを行ったうえで、各相続人へ振り込む流れとなるケースもあります。

預金残高を合計して分ける方法
  • 残高:A銀行「500万円」B銀行「300万円」C信用金庫「100万円」
  • 合計900万円を3人の相続人で分配
  • 相続人それぞれ300万円ずつ受け取り

代償金を活用して分ける

代償分割は、不動産などの分割が不可能な財産を相続したときに活用される方法ですが、預金を分割するシーンでも活用できます。

例えば、長男が1,000万円の預貯金を相続し、次男が200万円相当の財産を相続した場合で考えてみましょう。この場合、1人あたり600万円の相続ができるのに対し、次男は200万円分の相続しかできていないため、不平等感が出てしまいます。

しかし、長男が相続した預金のうち、400万円を次男に代償金として渡せば、平等な遺産分割が可能です。相続財産の内、預金と預金以外のバランスが悪い場合は、代償金の活用を検討しましょう。

代償金を活用して分ける方法
  • 長男:1,000万円の預貯金を相続
  • 次男:200万円相当の財産を相続
  • 長男から次男へ400万円の代償金を支払い

預金を分けるときに遺産分割協議書が必要なケース

預金を分けるときに遺産分割協議書を作成する必要があるのは、「被相続人が遺言書を残しておらず、相続人が複数人いる場合」です。被相続人が遺言書を残しており、相続人全員が遺言書の内容に反対しない限り、遺言書の通りに遺産分割が行われるのが相続の基本的なルールです。

つまり、相続人が複数いて、遺言書がない場合は遺産分割協議書が必須です。

また、遺産分割協議書は預金を分ける用途以外にも、下記のような遺産分割に関わる相続手続きにおいて必要になります。

遺産分割協議書が必要な手続き
  • 法務局で相続登記を行う
  • 銀行・信用金庫で預金を移す
  • 証券会社で株式・債券を移す
  • 運輸局で自動車の名義変更を行う
  • 税務署で相続税の申告を行う

預金を相続するときの遺産分割協議書の書き方

遺産分割協議書を書くときには、第三者がみたときに「誰が、何を相続したのか」がかるように書く必要があります。以下で、預金を相続するときの遺産分割協議書の書き方を解説します。

  • 1つの銀行口座を1人が相続する場合
  • 1つの銀行口座を複数人が相続する場合
  • 複数の銀行口座を複数人が相続する場合
  • 代償分割が発生する場合

1つの銀行口座を1人が相続する場合

1つの銀行口座を1人が相続する場合は、「この口座を、相続人の誰が相続する」ことを記載します。具体的な遺産分割協議書の書き方の例は下記のとおりです。

銀行名や支店はもちろん、預金の種類や口座番号まで間違いがないように記載しましょう。

1つの銀行口座を複数人が相続する場合

1つの銀行口座を複数人が相続する場合は、預金残高の分配割合について、明確にすることが大切です。具体的な遺産分割協議書の書き方の例は下記のとおりです。

相続割合と被相続人の口座情報を明記することを意識してください。

複数の銀行口座を複数人が相続する場合

複数の銀行口座を複数人が相続する場合の遺産分割協議書の書き方は、「1つの銀行口座を複数人が相続する場合の内容を複数書く」というイメージです。具体的な遺産分割協議書の書き方の例は下記のとおりです。

代償分割が発生する場合

代償金を用いて遺産分割協議書を行う場合は、書面の中で「代償分割である」ことを明記することが大切です。具体的な遺産分割協議書の書き方の例は下記のとおりです。

代償金に関する記載がない場合、他の相続人に代償金を支払った行為が「贈与」とみなされ、贈与税を課される可能性があります。余計な税負担を避けるためにも、代償金を用いて預金を分ける場合は「代償」というフレーズを必ず用いてください。

預金を分けるときに遺産分割協議書に書く内容

預金を分けるにあたって、遺産分割協議書に書くべき内容は下記の項目です。いずれかが欠けると手続きを進められないため、必ず漏れがないようにしてください。

預金を分けるときに遺産分割協議書に書くべき内容
  • 誰が相続するのか
  • 誰がどの割合で相続するのか
  • 被相続人の預金の銀行名・支店・口座の種類・口座番号
  • 代償金がある場合は「代償」の文言
  • 相続人全員の署名・押印

遺産分割協議書は人生の中で書くシーンは少ないため、書き慣れていないのが当たり前です。しかし、上記の項目を漏らさずに書けば、誰でも有効な遺産分割協議書を作成できるので安心してください。

金融機関で預貯金を相続する手続きの流れ

金融機関で預貯金を相続するには、段階を踏んで相続の手続きを進める必要があります。以下で、遺産分割協議書を用いて預金を相続する手続きの流れを解説します。

  1. 相続人を確定する
  2. 保有している口座や残高を確認する
  3. 遺産分割協議を行う
  4. 金融機関で預貯金を移管する

相続人を確定する

遺産分割協議書には相続人全員の署名と押印が必要になるため、相続人を確定させる必要があります。

被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本があれば、相続人を確定できるため、相続人に連絡して相続が発生したことを伝えましょう。

保有している口座や残高を確認する

相続人が確定したら、被相続人が保有している口座や残高を確認します。また、信用情報機関に問い合わせて負債がないかも確認しましょう。

被相続人が保有している口座を調べるには、財布にあるキャッシュカードや自宅にある通帳を確認する方法が挙げられます。また、直接金融機関に問い合わせる方法もあります。

遺産分割協議を行う

相続人の確定と被相続人の口座の調査が終わったら、遺産分割協議を行います。有効な遺産分割協議書を作成するには、相続人全員が遺産分割方法に合意したうえで署名・押印する必要があります。

相続人全員が納得できるように預金の分け方を決め、遺産分割協議書を作成しましょう。遠方に住んでいる相続人がいる場合は、郵送で署名・押印をもらうケースが多いため、作成に時間がかかる点に注意してください。

金融機関で預貯金を移管する

預金の分け方について相続人で合意したら、金融機関で預貯金を移管します。代表者が預金の払い戻しを受けて相続人に分配する方法を採用した場合、代表者の相続人が手続きを進めます。

金融機関によって預金を移管するために必要な書類が異なるため、事前に確認しておくと安心です。

遺産分割協議で預貯金を相続するときの必要書類

遺産分割協議に基づいて預貯金を相続するにあたって、必要となる書類は下記のとおりです。

遺産分割協議で預貯金を相続するときの必要書類
  • 遺産分割協議書
  • 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 相続人の実印
  • 被相続人の預金通帳・キャッシュカード

必要となる書類は多いうえに、相続人全員の戸籍謄本を揃える必要があるため、すべて用意するのに時間がかかる点は押さえておきましょう。また、金融機関によっては追加で書類が必要となるケースもあるため、手続き前に確認することをおすすめします。

預貯金を遺産分割するときの注意点

相続が発生した後に被相続人の口座を勝手に使うと、トラブルに発展するケースがあります。以下で、預貯金を遺産分割するときの注意点について解説します。

  • 被相続人の口座は凍結され引き出しができない
  • 凍結される前に預金を引き出すとトラブルになる
  • 生活費や葬儀費用を工面したい場合は仮払制度を活用する

被相続人の口座は凍結され引き出しができない

原則として、金融機関は口座名義人が死亡したことを知ると口座を凍結します。凍結された口座は、相続に関する書類が揃うまで一切手出しができなくなります。

もし葬儀費用や同居親族の生活費を被相続人の口座から下ろそうとしても、凍結されると引き出すことはできません。被相続人の預金を何らかの用途で使いたい場合は、生前にいくらか下ろしておく必要があります。

凍結される前に預金を引き出すとトラブルになる

被相続人が死亡する前、つまり口座が凍結される前に被相続人の口座から現金を引き出すことは可能です。実際に、葬儀費用を用意する目的で相続発生前に被相続人の口座から現金を引き出すことはあります。

しかし、凍結される前に預金を引き出すと相続争いを生んでしまうリスクがあります。相続で預金の調査を行う段階で多額の引き出しがあると、葬儀費用に使っていたとしても、他の相続人から「財産を隠しているのではないか?」と疑われる可能性があるためです。

特に、仲が悪い相続人がいる場合はトラブルになりやすいため、きちんと領収書などを残しておくことが大切です。

生活費や葬儀費用を工面したい場合は仮払制度を活用する

仮払制度とは、相続人の生活を守り、資金需要に対応するための制度です。

仮払制度を活用すれば、遺産分割協議が整う前でも被相続人名義の預金を払い戻してもらえます。払い戻せる金額は「死亡時の預貯金残高×当該相続人の法定相続分×1/3」か「150万円」のいずれか低い額になりますが、相続人にとって助かる制度と言えるでしょう。

仮払制度で払い戻せる金額
  • 死亡時の預貯金残高×当該相続人の法定相続分×1/3
  • 150万円

複数の銀行に口座がある場合は、金融機関ごとに払い戻しを受けられるため、必要に応じて活用してみてください。

遺産分割協議書は資産ごとに分けて作成できる

遺産分割協議書は資産ごとに分けて複数枚作成できます。例えば、「預金の分け方に関する遺産分割協議書」「不動産に関する遺産分割協議書」など、必要な部分ごとに分けて作成が可能です。

被相続人の死亡後は、葬儀費用や各種支払いなどで現預金が必要になるケースが多いです。遺産が多いと、いつまでも遺産分割協議が整わない可能性がありますが、「まず預金だけ遺産分割協議書を作成して分割する」という対応ができます

また、預金に関する遺産分割協議書も、必要に応じて分けられます。「A銀行に関する遺産分割協議書」「B信用金庫に関する遺産分割協議書」など、複数枚の遺産分割協議書を作成し、名義変更手続きを行えば各種支払いに対応できるでしょう。

すべての相続財産について、1通の遺産分割協議書にまとめる必要はありません。複数枚の遺産分割協議書を作成すれば、早急に名義変更が必要になったケースにおいてスムーズに手続きを進められるでしょう。

書類作成の手間が複数回発生する点はデメリットですが、「できるだけ早く預金だけでも分けたい」と考えている方にとって、遺産分割協議書を複数枚作成するのは有用な手段となります。

相続財産の種類が多い場合や、相続人が多い場合は手続きが複雑になり、相続によるトラブルを引き起こす可能性があるので、専門家に依頼することも視野に入れても良いでしょう。

また、不動産を相続する場合は不動産登記も並行して行う必要があるので、専門家に依頼することをおすすめします。

遺産分割協議書で預金の分け方を記載するときによくある質問

最後に、遺産分割協議書で預金の分け方を記載するときによくある質問を紹介します。相続に慣れている方は少ないため、多くの方が疑問に感じるポイントに目を通しておきましょう。

遺産分割協議書に預貯金の残高を記載するべきですか?

遺産分割協議書に預貯金の残高を記載する必要は、必ずしもありません。相続人同士で合意した分割割合を記載すれば足りるため、記載してもしなくても大丈夫です。

遺産分割協議書は自分たちで作成できますか?

遺産分割協議書はご自身で作成できます。ただし、遺産分割協議書の書き方に不明点があるときや相続トラブルが起きそうなときは、専門家に依頼することも検討しましょう。

遺産分割協議書の作成を専門家に依頼する場合は、費用がかかります。

端数はどのように記載すればいいですか?

被相続人の預金残高が相続人で割り切れない場合は、1円以下の端数が発生します。端数に関しては、特段遺産分割協議書に記載する必要はありません

端数の取り扱いは相続人で自由に決めて問題なく、相続人が預金を取得する割合を記載すれば、有効な遺産分割協議書を作成できます。

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