遺産分割調停とは?流れや有利に導くための進め方について解説

遺産分割協議でどうしても話し合いがまとまらず、お困りではないでしょうか?事実、多くの人が相続で揉めています。(※)

(※)参考:8割の人は「相続で揉めた経験あり」。トラブルの4割は遺産総額1000万円以下。「親の希望」「資産」の把握を

そんなときの助けになるのが、遺産分割調停です。遺産分割調停は、遺産分割についての話し合いがまとまらなかった場合に利用できる調停のことです。調停委員が中立公正な立場で、すべての相続人から言い分を聞き、具体的な解決策を提案してくれます。

この記事では、遺産分割調停のメリット、デメリット、手続の流れ、調停を有利に導くための進め方についてご紹介します。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺産分割調停とは、遺産分割が解決できるよう斡旋をする手続き
  • 遺産分割調停は、公平で円満な解決が期待できる
  • 遺産分割調停で弁護士に依頼することで、有利な結論が期待ができる

遺産分割調停とは

遺産分割調停とは調停委員会があいだに入り、遺産分割について解決できるよう斡旋をする手続きのことです。相続人による遺産分割の話し合いがまとまらなかったとき、調停委員会がすべての相続人の言い分を平等に聞いて、具体的な解決策を提案してくれます。

遺産分割調停は、裁判官と調停委員で組織される調停委員会によって進められます。

遺産分割調停を利用したい相続人(単独または複数)が他の相続人を相手方として家庭裁判所に申し立てることで、調停が開始されます。

調停委員とは

調停委員は、民間から選出された非常勤の国家公務員です。遺産分割調停などの家事調停では、基本的に男女1人ずつの調停員が選任されます。

調停委員には年齢制限があり、40歳以上70歳未満とされています。そのうえで、次の条件に合った者が選任されます。

  • 弁護士となる資格を有する者
  • 民事もしくは家事の紛争に有効な専門知識経験を有する者
  • 社会生活のうえで豊富な知識経験を有する者

どのようなケースで利用されるのか

遺産分割協議をしても、意見の対立で合意の目途が立たない場合や連絡を重ねても協議の場に現れない相続人がいる場合など、遺産分割協議による話し合いがまとまる見込みがないと判断したときに遺産分割調停を利用します。

遺産分割調停のメリット

相続人が遺産分割調停を利用した場合、どのようなメリットがあるのかご紹介します。

冷静な気持ちで話し合いができる

遺産分割協議で合意がみられないケースでは、お互いの認識の違いや感情の行き違いでトラブルになることが少なくありません。お互いに感情的になると、本来であればまとまる話もまとまらない事態に陥ってしまいます。

遺産分割調停では当事者同士が直接顔を合わせる必要がなく、調停委員を介して話し合いが進められるため、冷静な気持ちになって話し合えます。

公平な提案が出される

調停委員はどの相続人に対しても利害関係がないため、申立人と相手方の区別なく公正・中立的な立場で解決策の提案が出されます。

相続人の意見の相違点を見極めたうえで、それぞれが納得する方向に調整してくれるので、公平で円満な解決が期待できます。

遺産分割調停のデメリット

次に、遺産分割協議のデメリットをご紹介します。

時間がかかる

遺産分割調停は、1カ月に1回程度の間隔で開催されます。通常、スムーズに進んだとしても4~5回程度は行わないと結果は出ません。結果がまとまるまで1年程度はかかるのが一般的です。

複雑なケースでは、2年以上かかることもあります。

自分の主張どおりにはいかない

遺産分割調停では、裁判官や調停委員が、全相続人から意見を聞きとり、最終的に全員が納得する解決を図る手続きです。調停の申立人だからといって、有利に計らってくれるわけではないので、自分の主張がすべて通るわけではありません

遺産分割調停の申立て手続の方法

遺産分割調停は、相続人のうちの1人か、あるいは複数が申立人として、他の相続人全員を相手方として家庭裁判所に申立てをします。遺産分割調停においては、相続人全員が必ず申立人か相手方の立場で、当事者になるのです。

どんな結論でも受け入れるという相続人であっても、申立人にならないのであれば、相手方になります。多くの場合、対立していない相続人が共同して申立人になり、対立している相続人を相手方として調停を申し立てる構図になります。

申立先の家庭裁判所

遺産分割調停の申立ての提出先は、次のいずれかです。

  • 相手方のうちの1人の住所地を管轄する家庭裁判所
  • 当事者が合意で定めた家庭裁判所

申立て費用

申立てに必要な費用は次のとおりです。

  • 被相続人1人につき収入印紙1,200円分
  • 連絡用の郵便切手代

申立てに必要な書類

遺産分割調停の申立てには、次の書類を用意します。

  1. 申立書1通及びその写しを相手方の人数分
  2. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍改製原戸籍)謄本
  3. 相続人全員の戸籍謄本
  4. 被相続人の子(及びその代襲者)が死亡している場合は、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  5. 相続人全員の住民票または戸籍附票
  6. 遺産に関する証明書(不動産登記事項証明書及び固定資産評価証明書、預貯金通帳の写しまたは残高証明書、有価証券写し等)

遺産分割調停の流れ

遺産分割調停の申立書が受理されると、家庭裁判所は、調停委員会の担当者を決定します。次に、初回の調停が行われる日時(調停期日)が決定されます。調停期日の目安は、申立ての1〜2カ月後です。

 調停は裁判所の開庁日である、平日(祝日・年末年始を除く)の午前10時〜午後5時の間に行われます。家庭裁判所が調停期日を決定すると、その通知書が、相続人全員に郵送で届きます。おおむね申立ての2週間後が届く目安です。

調停期日当日の流れをご紹介します。

裁判所の待合室に入室する

調停期日に裁判所に到着したら、通知書に記載されている指定の待合室に向かいます。待合室は、申立人と相手方で別室が用意されています。申立人同士あるいは相手同士は同室となります。

ただし、裁判所によっては、先に受付が必要な場合もあります。

調停手続に関する説明を聞く

最初の調停期日の開始時は、調停に入る前に、遺産分割調停の手続と内容について説明が行われます。

調停室に入室する

調停は「調停室」で行われます。申立人・相手方の相続人がそれぞれ個別に呼ばれて、調停委員と話をします。順番がきたら調停委員が待合室まで呼びにくるため、案内に従って調停室へ向かいましょう。

調停委員に話をする

調停室に入ると、本人確認がありますので、持参した身分証明書(運転免許証、マイナンバーカードなど)を提示しましょう。

その後、調停委員との話が始められます。事前に提出した事情説明書や答弁書に基づいて、さまざまな事情を聞かれます。

的確に受け答えするために、手元に提出した書類のコピーを持っておいたほうがいいでしょう。

交互に2回程度のやりとりがある

調停委員との話は、1回につき30分程度です。その後申立人と相手方が交代し、それぞれ2回ずつのやり取りを行います。

30分ずつの2回の話し合いですから、全体で2時間ほどで、その日の調停は終了です。

調停委員のまとめ

最後に調停委員が、次の事項をまとめとして提示します。 

  • その期日に合意できた内容
  • 次回期日以降に解決する課題

次の話し合いをいつ設けるかを調整して、次回の期日を決めます。

調停が成立した場合の対応

調停によって遺産の分け方に相続人全員が納得をして合意ができた場合は、裁判所が合意の内容を証明する書類である「調停調書」を作成します。

調停調書の正本または謄本を利用することで、不動産の名義変更や預貯金の解約できます。調停調書は判決と同じ効力を有するため、調停調書の内容に従わない相続人に対しては、強制的に調停内容を実行できます。

調停が不成立となった場合の対応

調停委員の努力が実らず、調停が不成立になった場合には、自動的に「遺産分割審判」の手続きが開始されます。以後は、法律に従って裁判所によって判断が示されます。

 遺産分割審判は、訴訟のように各当事者からの主張や提出された証拠資料などに基づいて、裁判官が遺産の分割方法を決める手続きです。

ただし、審判継続中においても、当事者間の話し合いが行われることもあります。その話し合いで合意ができた場合には、調停が成立した扱いになりますので、ただちに調停調書が作成されて、審判は終了します。

遺産分割調停を有利に進めるには

遺産分割調停は、申立人と相手方の分け隔てなく、公平に進められます。そのため申立人の言い分が反映されないこともしばしば起こります。

遺産分割調停は当事者全員が納得する解決を図る手続であり、勝ち負けを決めるものではありません。しかし、自分の希望に添った結論に導いてほしいと願うのは、当然の成り行きです。

調停を有利に進めるためには、どのような点に心がければいいのか紹介します。

調停委員の心証を損ねない

調停委員は公正中立な立場を原則としているとはいえ、私たちの身の回りにいる人達と同様に感情に左右されることは否めません。

礼を失して敬意を払わない人と礼儀正しい態度の人では、対応に差がでるのはやむを得ないことです。必要以上にへりくだる必要はありませんが、調停員に敬意を払い、誠実な態度で接することは、調停を有利に進めるための最低限のマナーです。

また調停委員が、公平中立を掲げている以上、相手方を批判しても、それを額面どおりに受け取ってもらえない可能性があります。むしろ他人に対する罵詈雑言を控えることで、自分の主張が聞き入れてもらえるのです。

質問に対しても、誠意ある明確な回答をするように心がけてください。

法律を根拠にした主張をする

裁判官や調停委員は法律的な根拠をもとに判断をします。相続や遺産分割は、法律を背景にした問題ですから、法律上の基本ラインはどこにあるのかを見据えておく必要があります。

たとえ、困窮状態にあったとしても、それだけの主張では調停委員の心には届きません。言い分を調停委員に納得してもらうためには、法律的な根拠に基づいた主張が効果的です。

虚偽や隠蔽はしない

遺産に関して事実と異なることを言ったり、不利な事実を隠していたりすると、調停が進む中でそのことが明白になった際、調停委員からの信用を失うことになります。また、相手側も不信感から感情的になることがあり、まとまる話もまとまらなくなります。

調停では、嘘、隠し立てはやめて、知っていることはすべて話すようにしてください。

主張を具体的に伝える

文化的背景などから、金銭のことを口にするのははばかられるという人もいるでしょう。しかし、遺産分割は、まさに金銭そのものが絡む話ですから、遠慮をしていたら主張が通らなくなります。

自分の主張を明瞭にきちんと伝えることで、調停委員が解決案を提示しやすくなり、遺産分割調停を有利に進めることに繋がります。

優先順位をつける

遺産分割調停では、主張がすべて通るわけではありません。双方が納得しなければ成立しないため、合意形成を優先することで、ベストではないけれど、主張に極めて近い結論になることがあります。

そのためには、主張ばかりを押しつけるのではなく、あらかじめ譲れるものと譲れないものの優先順位をつけて、一定の範囲は譲る心づもりで話し合いを進めるようにしましょう。

弁護士に依頼する

遺産分割調停では、本人が対応するのではなく、弁護士に依頼するという方法があります。

実は、裁判所の司法統計によると、令和2年に遺産分割調停が成立した5,846件のうち4,907件が弁護士関与となっています。これは、全体の84%に相当する割合です。現在の遺産分割調停では、弁護士が関与することが一般的な流れとなっているのです。

弁護士に依頼するメリット

遺産分割調停で弁護士に依頼するとどのようなメリットがあるのか紹介します。

申立手続を依頼できる

弁護士に依頼することで、家庭裁判所への申立て手続きをすべて任せられます。

申立てに必要な戸籍謄本、住民票や固定資産税評価証明書などの書類の収集も依頼できるため、これらに要する時間を省けます。

また、調停では、追加資料や証拠書類の提出を求められることがあります。こうした書類の整備、提出も依頼できます。

主張を代弁してくれる

調停では、どれだけ自分の主張を調停委員に伝えられるかが重要です。

調停期日に弁護士が同席していれば、代わりに話をしてくれるため、高齢者や日頃から口下手な方でも、必要な主張を十分に伝えられます。

もちろん、主張する内容も事態も、依頼者にとって有利になるような判断をしてくれます。

調停委員と有利な交渉ができる

弁護士がついていれば、調停委員の対応も大きく異なります。

弁護士は、法律的な根拠に基づいた主張をするため、調停員を説得でき、結果として交渉を有利に進められます。

代理人として出席してもらえる

調停は、平日の午前10時から午後5時の間に開かれます。体調不良やどうしても仕事を休めず欠席することになった場合でも、弁護士であれば代理人として調停に出席し、裁判官や調停委員とやりとりできます。

調停を早期に進められる

弁護士は、法律的な知識や経験から、早い段階でお互いの主張の妥協点を見極められるため、弁護士が関与した場合のほうが、早期に合意ができる傾向にあります。

調停中の相続税の申告期限はどうなる

相続税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内に申告と納税をしなければなりません。しかし、遺産分割調停が長引いてしまうと、相続税の申告期限までに遺産分割が行えません。調停中の相続税の申告対応についてご説明します。

法定相続分で仮申告する

遺産分割調停中であっても、申告期限は延長できません。そればかりか、申告期限までに相続税の申告と納税をしなかった場合には、無申告加算税や延滞税などのペナルティを加算して納めることになります。

そのため、遺産分割が申告期限までに決まらなかった場合は、民法に規定されている相続分により計算された金額で未分割のままいったん仮申告をして、分割が決まった後に速やかに申告を訂正する手続きをします。

特例が適用されない

相続税の特例は節税に大きな効果があります。しかし、申告期限までに遺産分割が決まっていない場合、次の特例は適用されません

配偶者の税額軽減の特例

配偶者の相続分が「法定相続分または1億6,000万円どちらか多いほうの金額」以下である場合には、配偶者には相続税がかかりません。しかし分割が決まっていない場合は、この特例は適用されません。

小規模宅地等の評価減の特例の適用

相続によって取得した財産のうち、被相続人または被相続人と生計を共有していた親族の事業に使用されていた宅地や、居住用として使用されていた宅地等について一定限度の面積まで評価額を減額できます。

しかし、分割が決まっていない場合は、この特例は適用されません。

物納

相続税の納税が現金で困難な場合、物納が認められています。しかし、認められるのは、申告期限までです。分割が決定していない相続財産の物納は原則として認められません。

農地の納税猶予の特例

農業に供されていた農地を相続した相続人が、その農地で引き続き農業を営む場合には、一定の要件に適合していれば相続税を猶予される特例があります。

ただし、この特例は申告期限までに適用を受けようとする農地を取得し、農業経営を始めなければ適用されません。

未分割の場合の対策

相続税の仮申告の際に相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付することで、相続税の申告期限から3年以内に財産が分割できれば、「配偶者の税額軽減の特例の適用」と「小規模宅地の評価減の特例」は遡って適用されます。

ただし「物納」と「農地の納税猶予の特例」については、遡って適用されることはありません。

3年以内に遺産分割が完了したら、修正申告更正の請求をすることで特例が適用されます。仮申告での税額より遺産分割に基づき計算された税額の方が多い場合は、修正申告を行います。

仮申告での税額より遺産分割に基づき計算された税額の方が少ない場合は、更正の請求を行います。この場合、遺産分割完了後、4カ月以内に行う必要があります。

仮申告では特例の適用を受けていないことから、ほとんどの場合、仮申告の方が多いため、更正の請求になります。

更に延長する

3年以内に分割が終わらない場合には、申告期限から3年を経過した日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を税務署長に提出し、承認を受けます。

やむを得ない事由が解消し、分割できることとなった日の翌日から4カ月以内に分割が完了すれば、特例が適用されます。適用を受けるには、分割が行われた日の翌日から4カ月以内に更正の請求をしなければなりません。

ただし、相続人同士が不仲という理由や、相続人が遺産分割協議に参加しないために分割協議がまとまらないという理由では、延長は認められません

 「分割ができないやむを得ない事情」として認められるのは、相続に関しての提訴がある場合、調停や審判中である場合、被相続人が遺言により期間を定めて遺産の分割を禁止している場合などの事由に限定されています。この場合、証明する書類の提出が必要となります。

まとめ

遺産分割調停とは、遺産分割の話し合いがまとまらなかったときに利用する手続きです。中立公正な立場の調停委員会が具体的な解決策を提案し、遺産分割について解決できるよう斡旋してくれます。

遺産分割調停では、当事者同士が直接顔を合わせる必要がなく、調停委員を介して話し合いが進められるため、冷静な気持ちになって話し合えます。

遺産分割調停では、全体の8割以上が弁護士に依頼しています。弁護士に依頼することで、調停を有利に進められることが期待できます。

遺産分割調停を検討中の方は、この記事を参考にしながら、手続を進めてみてください。

ほかにもこちらのメディアでは、遺産分割協議に期限はある?遺産分割協議書と印鑑証明書はセット?といったテーマについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。

\相続1分診断!/