遺言書の効力が認められるのは?法的な範囲や有効期限を解説

遺言書を残しておきたいけれど「効力が認められる範囲がわからない」「有効期限がわからない」などと困っていませんか?

有効な遺言書の作成方法は法律で定められており、要件を守れば効力が認められます。また、遺言書の効力が認められる範囲も、法律で決まっているため注意が必要です。

この記事では、遺言書の種類による効力や有効期限などをわかりやすく解説します。有効な遺言書を残したいと思っている方は必読です。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺言書の効力が及ぶのは法律で定められた範囲
  • 遺言書に有効期限はない
  • 遺言書が無効にならないためには法律の要件を守って作成する

遺言書の主な効力の範囲

遺言書とは、被相続人が亡くなった後に財産をどう分けるのかについて意思表示をした書面のことです。

遺言書の効力が及ぶ範囲は、主に次の9つです。

  • 推定相続人を廃除できる
  • 自由に相続分を決定できる
  • 遺産分割の方法を指定できる
  • 遺産分割を禁止できる
  • 法定相続人以外に遺産を渡せる
  • 子どもを認知できる
  • 第三者を後見人に指定できる
  • 担保責任・負担割合について指定できる
  • 遺言執行者を指定できる

それぞれの内容について、解説します。

推定相続人を廃除できる

「遺言による推定相続人の廃除」は、民法第893条で定められています。推定相続人とは、相続が発生したら相続人になる予定の方です。

廃除とは、被相続人が推定相続人に財産を相続させたくないという意思表示の遺言書を残した場合、推定相続人の相続権を消失させることを意味します。

例えば、虐待されたなどの理由で特定の人物を相続人から廃除したいと考えているケースもあるでしょう。その場合、遺言書に推定相続人の名前と廃除の旨を記載することで、遺産を引き継がせないようにできるのです。

ただし、遺言によって推定相続人を廃除できるのは、遺言執行者を選任し要件を備えている場合に限られます。

民法第892条に定められた推定相続人の廃除の要件は、以下のとおりです。

推定相続人の廃除の要件
  • 推定相続人が被相続人に対して虐待したとき
  • 推定相続人が被相続人に重大な侮辱を加えたとき
  • 推定相続人にその他の著しい非行があったとき

自由に相続分を決定できる

被相続人の財産の相続では、各相続人の取り分が法定相続分として民法で定められています。しかし、被相続人が遺言書を作成することによって、各相続人の取り分を自由に決められるのです。

例えば、被相続人に配偶者と2人の子どもがいた場合、法定相続分どおりに分割すると配偶者の取り分は2分の1、子どもの取り分はそれぞれ4分の1ずつになります。

しかし、遺言書であらかじめ取り分を決めておけば、配偶者の取り分は4分の3、子どもの取り分はそれぞれ8分の1ずつなどと指定できるのです。

注意したいのは、遺言書があっても遺留分は侵害できない点です。遺留分とは、法律で定められた最低限の財産を相続できる権利を意味します。上記であげた例の場合、子どもの遺留分の割合は、8分の1です。

遺産分割の方法を指定できる

民法第908条(遺産の分割の方法の指定及び遺産の分割の禁止)では、「遺言者は遺言で、遺産分割の方法を決められる」「遺産分割の方法を第三者に委託できる」と定められています。

遺言書がない場合や遺言書で遺産分割の方法を指定していない場合は、遺産分割協議によってどのように分割するか決めなければなりません。

この協議で相続人全員の合意に至らなかった場合は、家庭裁判所で調停・審判が行われた後、法定相続分で遺産分割することになります。

遺産分割を禁止できる

相続開始のときから5年を超えない期間で、遺産の分割を禁止できます。遺産相続でのトラブルを防ぐための冷却期間を置くために、利用するケースも多いようです。

具体例としてよく見られるのは、相続人に未成年者がいる場合です。未成年者は遺産分割協議に参加できないため、特別代理人を選任する必要があります。

しかし、未成年者が成人になるまで遺産分割を禁止することで、本人が遺産分割協議に参加できるのです。

法定相続人以外に遺産を渡せる

原則として、遺言者の財産は配偶者や子どもなどの法定相続人が相続しますが、遺言によって法定相続人以外の第三者に渡せます。これを遺贈といいます。

例えば、「A銀行にある預貯金100万円は、孫Bに遺贈する。」などと遺言書で決められるのです。このように特定の財産が指定されている遺贈の場合、受遺者遺産分割協議に参加せずに財産を受け取れるというメリットがあります。

子どもを認知できる

婚姻していない女性との間に子どもがいる場合、遺言書で子どもを認知できます。認知された子どもは、法定相続人となります。

第三者を後見人に指定できる

遺言者が亡くなり未成年の子どもの親権者が不在になってしまうケースでは、遺言で第三者を後見人に指定できます。未成年後見人とは、判断能力が未熟な未成年者に代わり、財産の保護や生活支援を行う方のことです。

遺言書で未成年後見人を指定していない場合は、未成年者本人や親族などが家庭裁判所で「未成年後見人選任の申立」をする必要があります。

担保責任・負担割合について指定できる

相続人相互の担保責任とは、相続した財産の欠陥によって特定の相続人が損害を受けた場合、その他の相続人が損害を賠償する責任を負うことを指します。

例えば、遺産分割で相続人Aと相続人Bが、それぞれ土地を相続します。相続人Bは相続した土地を売却しようと考えていましたが、土壌汚染が発生しており売却できなくなりました。

この場合、BはAに損害賠償を求められる可能性があり、これを「相続人相互の担保責任」というのです。

遺言者は、担保責任を負う相続人や負担割合について遺言で指定できます。例えば、資力がない相続人には、担保責任を免除するといった内容です。

遺言執行者を指定できる

遺言執行者とは、遺言書に記載された内容を実行するために、必要な手続きを行う方のことです。遺言者は遺言書で、遺言執行者を指定したり、第三者に遺言執行者の指定を委任したりできます。

具体的には、次のようなケースで遺言執行者を指定します。

遺言執行者を指定するケースの例
  • 相続人に手続きの負担をかけたくない
  • 子どもを認知したい
  • 相続人の廃除や取消をしたい

遺言書の種類と効力

遺言書の種類には、「普通方式の遺言書」と「特別方式の遺言書」があります。遺言書に効力を持たせるためには、法律で定められた方式で作成しなければなりません(民法第960条)。

  • 普通方式の遺言書
  • 特別方式の遺言書

法律で定められた形式や要件を満たしていれば、方式による優劣はなく法的な効力は同じです。

普通方式の遺言書

普通方式の遺言書には、次の3つの種類があります。

  • 自筆証書遺言
  • 公正証書遺言
  • 秘密証書遺言

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、財産目録を除く全文を自筆で書く遺言書のことです(民法第968条)。財産目録は、パソコンで作成してもよいことになっています。自筆証書遺言は、財産目録を除く全文を必ず自筆で書かなければなりません。

パソコンで作成したり、映像や音声で作成したりしたものは無効になるので注意が必要です。

公正証書遺言

公正証書遺言とは公証人が作成する遺言書です。遺言者が公証役場へ行き、公証人に口頭で遺言内容を伝えて作成してもらいます。公正証書遺言には、要件の不備によって無効になるおそれがほとんどないというメリットがあります。

遺言書の効力を確実に発生させるという面では、公正証書遺言は自筆証書遺言より優れているといえるでしょう。

また、公正証書遺言は、家庭裁判所での遺言書の検認手続きが不要です。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言の内容を遺言者が死亡するまで秘密にしたまま、遺言書の存在だけを公証役場に証明してもらう遺言書のことです。

遺言書を入れた封筒に封をしてから公証役場に持っていくので、遺言執行まで遺言の内容を第三者に知られる心配がないのがメリットです。一方で、費用がかかることや手続きに手間がかかること、証人2名を手配する必要があることなどのデメリットもあります。

特別方式の遺言書

特別方式の遺言書とは、命の危険が迫っている場合や海上など一般社会から隔離されている場合に作成する遺言書です。

特別方式の遺言書には、次の4種類があります。

  • 一般応急時遺言
  • 難船応急時遺言
  • 一般隔絶地遺言
  • 船舶隔絶地遺言

一般応急時遺言

一般応急時遺言とは、疾病などで死亡の危機に陥っている場合に認められる遺言書です。遺言者が氏名などを自分で書くことが難しい場合、内容を聞いた3名以上の証人が遺言書を作成します。

難船応急時遺言

難船応急時遺言とは、船舶の遭難で遺言者が死亡の危機に陥っている場合に認められる遺言書です。遺言者が口頭で伝えた内容を、2名以上の証人が作成します。

一般隔絶地遺言

一般隔絶地遺言とは、伝染病・行政処分・刑事処分などによって一般社会との接触が断たれている場合に認められる遺言書です。警察官1名、証人1名の立ち会いのもと作成されます。

船舶隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言とは、船舶内で一般社会から隔離されている場合に認められる遺言書です。船長または事務員1名および証人2名以上の立ち合いのもと作成されます。

遺言書の効力発生時期と有効期限

遺言書の効力発生時期と有効期限について、解説します。

効力発生時期は遺言者が亡くなった時

遺言書の効力が発生するのは、遺言者が死亡したときです(民法第985条1項)。遺言は遺言者がいつでも自由に撤回できるため、遺言者が死亡するまで法的な効力は発生しません。

有効な遺言書に有効期限はない

遺言書の記載内容や形式が法的に有効な遺言書には、有効期限がありません。遺言書を作成した日から長年経過していたとしても、無効になることはないのです。

遺言書が無効になるケース

遺言書が無効になるケースを解説します。

自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言が無効になるのは、次のようなケースです。

自筆証書遺言が無効になるケース
  • パソコンやワープロで作成している
  • レコーダーなどで作成している
  • 日付の記載がない
  • 作成日時が特定できない
  • 作成日とは異なる日付が記載されている
  • 遺言者以外の方が書いた
  • 遺言者の署名がない
  • 遺言者以外の方が署名している
  • 相続財産の内容が明らかではない
  • 2人以上が共同で書いている

公正証書遺言の場合

公正証書遺言が無効になるのは、次のようなケースです。

公正証書遺言が無効になるケース
  • 公証人不在で作成している
  • 証人になれない方が立ち会っている
  • 公証人に内容を口授せずに伝えた
  • 証人がいないときに作成している
  • 証人の数が足りない状態で作成している

秘密証書遺言の場合

秘密証書遺言が無効になるのは、次のようなケースです。

秘密証書遺言が無効になるケース
  • 氏名を自書していない
  • 押印がない
  • 2人以上が共同で作成している
  • 訂正の方式に不備がある
  • 新しい遺言書があり内容が異なる

遺言書が無効にならないための注意点

遺言書が無効にならないための注意点を解説します。

法律で定められた要件を満たす

遺言書を作成するときに、必ず守るべき法律上の要件は次の3つです。

遺言書作成時に守るべき法律上の要件
  • 遺言書の全文、作成日付、氏名を遺言者が自書し押印
  • 自書ではない財産目録を添付する際、全ページに署名押印
  • 訂正や追加をする際、その場所を示したうえで、訂正・追加した旨を付記して署名押印

最適な場所に保管する

遺言書は、最適な場所に保管する必要があります。遺言者が生存中に遺言書が他の方に見つかってしまった場合、内容を知られたり改ざんされたりするリスクがあるためです。

また、遺言者の死後に遺言書が発見されなかった場合は、遺言書の効力が発生しないというリスクもあります。このようなリスクを避けるために自筆証書遺言の場合は、法務局で保管してもらったほうがよいでしょう。

公正証書遺言を選ぶ

どうしても遺言書を無効にしたくない場合は、公正証書遺言を選びましょう。公正証書遺言が無効になるケースは、ほとんどありません。法律の専門家である公証人が、公文書として作成するためです。

遺言書の効力が認められない事項

遺言書の効力が認められないのは、次の3つの事項です。

「遺留分」は侵害できない

遺留分は遺言書であっても侵害できません。遺留分とは相続人が最低限の財産を相続できるように保障されている権利のことで、民法で定められています。

子どもの認知以外の身分に関すること

遺言書には養子縁組・離縁・結婚・離婚など、子どもの認知以外の身分行為について記載しても効力は発生しません。

付言事項は法的効力を持たない

葬儀についての希望家族への感謝の気持ちなどを記載する付言事項は、法的効力を持ちません。

遺言書に不満があるときの対処法

遺言書の内容に不満がある場合は、次のような対処法があります。

遺産分割協議で配分を決められることがある

遺言書の内容に基づいて遺産相続をするのが原則ですが、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議で相続内容を決められる場合があります。

しかし、次のケースでは、遺産分割協議で決められた内容より遺言書の内容が優先されます。

遺言書の内容が優先されるケース
  • 遺言書で遺産分割を禁止している
  • 遺言執行者が選任されている
  • 第三者に遺贈が行われる

遺留分侵害額請求を検討する

遺言書の内容に不満があるときは、遺留分侵害額請求で解決できることがあります。遺留分侵害額請求とは、不平等な遺言や贈与によって遺留分を侵害された法定相続人が、侵害した方へ遺留分の取り戻しを請求できる権利のことです。

遺留分侵害額請求には時効があるので注意が必要です。

遺言書によるトラブルを未然に防ぐ方法

遺言書によるトラブルを未然に防ぐためには、次のことに注意して遺言書を作成しましょう。

遺言能力のあるうちに作成する

遺言能力とは、効力が認められる遺言書を作成するため、遺言者に必要な能力のことです。遺言書は、遺言能力のあるうちに作成しなければなりません。

例えば、認知症と診断されてから遺言書を作成すると、後に裁判になったとき遺言能力がなかったため無効と判断される可能性があります。

要件を守る

遺言書を作成するときは、民法で定められた要件を必ず守らなければなりません。要件を満たしていない遺言書は無効になるので、注意が必要です。

財産を特定する

相続させる財産を特定して、記載することが大切です。

例えば、「私の預貯金のすべてを妻に相続させる」「私の不動産のすべてを長男に相続させる」などと遺言執行者が遺言内容を実行しやすいように記載しましょう。

遺留分を侵害しない

遺言書でも遺留分は、侵害しないようにしましょう。相続が発生した後に、遺留分侵害額請求をされる可能性があるためです。

遺言執行者を選任する

遺言執行者を選任しておくメリットは、遺産をしっかり管理してくれることです。遺言者の不動産や預貯金などの遺産を、勝手に使われてしまうトラブルを防止できます。

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