公正証書遺言とは?作成手順や注意点をわかりやすく解説

そろそろ遺言について検討したいけれど、どのような方法で作成すれば良いのか悩んでいる方も多いのではないでしょうか?

そのような方におすすめしたいのが「公正証書遺言」です。公正証書遺言は公証人が作成し、公証役場で保管してもらえます。自分で書く遺言と比べ、無効になるリスクが少なく安心の遺言方法です。

今回の記事では、公正証書遺言の作成手順や費用、注意点などをわかりやすく説明します。遺言書を作成しておけば、遺された人たちに自分の意思が伝えられ、相続人同士の争いを避けることが可能になります。確実な遺言を作成するための参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 公正証書遺言は民法で定められた遺言方式の1つ
  • 公正証書遺言は信用性が高くメリットが多い
  • 公正証書遺言は確実性が高いが効力を持たないケースもある

公正証書遺言とは遺言方式の1つ

遺言は、被相続人が自分の財産を誰に渡したいのかを意思表示するものです。遺言書とは、遺言を書面に残したものであり、遺言書が作成されている場合は、原則としてその内容に沿って遺産を分割します。

遺言には「普通方式遺言」と「特別方式遺言」があり、通常の遺言は普通遺言方式で作成されます。「公正証書遺言」も普通遺言方式で、民法に定められた遺言方式の1つです。普通遺言方式は他に「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。

まずは、一般的に使われている3種類の遺言書について概要を確認しておきましょう。

1.自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、文字通り遺言者が自筆で作成する遺言書です。遺言の内容・日付・氏名を自書し、押印して作成します。遺言の内容は、財産目録の部分のみ代筆やパソコンでの作成が可能です。

また、通帳のコピーなどの資料添付も認められています。筆記用具や紙に決まりがないため手軽に作成でき、費用もかからないのが自筆証書遺言のメリットです。

自筆証書遺言は1人で作成して遺言書を自宅に保管します。自宅で保管していた自筆証書遺言は、家庭裁判所での検認手続が必要です。

自筆証書遺言は自宅で保管する遺言書の一つでしたが、2020年7月より「自筆証書遺言書保管制度」が始まり、手数料を支払えば、法務局で保管してもらえるようになりました。法務局で保管していた遺言書は、開封時に家庭裁判所での検認が不要になります。

2.公正証書遺言

公正証書遺言は、公証人へ遺言の内容を伝え、その内容で公正証書として遺言書を作成してもらう遺言方法です。公正証書遺言の作成には、証人2名が立ち会います。

公証人の手数料など費用はかかりますが、公証人のチェックが入るため形式不備の心配がなく、遺言書は公証役場で保管されるため保管の面でも安心です。

3.秘密証書遺言

秘密証書遺言とは遺言の内容を秘密にし、遺言書の存在のみを証明してもらう遺言の方法です。公証人と証人が立会いのもと、公証人役場で保管されますが、遺言の内容は確認されません。自筆での署名は必要ですが、パソコンでの作成や代筆も可能です。

秘密証書遺言は、遺言書の内容を秘密にしておけるメリットがありますが、公証人のチェックが入らないため方式不備により無効になるリスクもあります。

2020年7月の法改正により、自筆証書遺言でも手数料を支払えば法務局に保管できるようになりました。秘密証書遺言の公証人役場で保管してもらえる点でのメリットが弱まり、実際にはあまり使われていない遺言方法です。

公正証書遺言のメリット

遺言の方法は3種類ありますが、公正証書遺言はメリットが多いため専門家からおすすめされるケースも多いでしょう。

公正証書遺言には以下のようなメリットがあります。

  • 信用性が高い
  • 紛失のリスクがない
  • 遺言内容を秘密にできる
  • 文字が書けなくても作成できる
  • 家庭裁判所の検認が必要ない

詳しく見ていきましょう。

信用性が高い

公正証書遺言のメリットは何といっても、信用性が高いことです。

公正証書遺言は、公証人が遺言者に十分な意思能力があるかを確認のうえ作成されるため、遺言書が無効になるリスクが避けられます。

遺言書は形式が厳格に定められており、法的な要件を満たしていなければ遺言書として認められません。公証人が遺言書の作成に関わることで、ちょっとした不備や誤りを防ぎ、正しい遺言書が残せます。

また、作成には2人の証人が立ち会うため、内容の信用性が高まります。

紛失のリスクがない

公正証書遺言の原本は公証役場に厳重に保管されるため、紛失のリスクがありません。

大規模災害などでの紛失のリスクに備え、公証役場での原本保管とは別に、データ化して二重に保管するように整備されているので安心です。

遺言書を自宅に保管していれば紛失の他、隠匿や偽造の危険性も考えられます。また、遺言書を作成しているにもかかわらず、見つけられないといったリスクも避けられるでしょう。

遺言内容を秘密にできる

公正証書遺言は、遺言の存在や内容を相続人に知られたくない場合に、秘密にしておくことが可能です。

遺言の作成には公証人と、相続に関して利害関係のない証人2名が立ち会います。しかし、公証人や証人には秘密保持義務があるため、遺言の内容が他に知られることは考えられません。遺言者が他の人に話さなければ、相続人に対して内容を秘密にしておけます。

作成した遺言書は公証役場で保管されるため、家族が見つけて開封してしまう心配もありません。

文字が書けなくても作成できる

公正証書遺言は、口頭で公証人に内容を伝えて作成してもらえるため、何らかの理由で字が書けない状態であっても遺言書が作成できます。

原則、遺言者の自筆による署名が必要ですが、字が書けない場合は公証人がその事由を付記すれば、遺言者の署名を代筆できると認められています。

ただし、遺言者が高齢や認知症が原因で遺言能力が認められない場合は、遺言を遺すことはできません。

自筆証書遺言の場合は、遺産目録以外の本文を全部自筆しなければ遺言書として認められないのです。したがって、文字が書けない方が遺言を遺したい場合は、公正証書遺言を選択することになるでしょう。

家庭裁判所の検認が必要ない

自筆証書遺言で遺言書を自宅で保管していた場合は、遺言書の開封時に家庭裁判所での検認手続きをしなければなりません。

検認とは遺言書を家庭裁判所に提出し、相続人の立ち会いのもと、遺言書の内容を確認する手続きのことをいいます。遺言の内容を明確にし、偽造されるのを防ぐために大切な手続きです。

公正証書遺言の場合は、公証人の正確な法律知識に基づいて遺言書を作成し、公正役場で保管されるため検認の手続きが不要です。

検認の手続きには、申立書や戸籍謄本類などの提出書類が必要で、手続きだけでも1カ月位以上かかってしまう可能性があります。公正証書遺言の場合は面倒な手続きが不要なため、すぐに相続手続きが開始できます。

公正証書遺言の作成手順

公正証書遺言の作成手順は以下のような流れです。

  1. 遺言内容の原案を作成する
  2. 公証役場で内容を相談する
  3. 証人2名を決める
  4. 公証役場で遺言を作成する

それぞれの進め方について詳しく解説します。

1.遺言内容の原案を作成する

公証人との相談の前に、相続人を決定し、相続する財産の内容を洗い出して整理しておきましょう。相続の内容は遺言者が自由に決定できるため、自分の意思を明らかにしておくことが大切です。

洗い出しておくべき財産には以下のようなものがあります。

洗い出しておくべき財産
  • 現預金
  • 家・土地などの不動産
  • 株式・投資信託などの有価証券
  • 貴金属類・骨董類
  • 生命保険
  • 権利関係

お金に換算できるものは財産になります。抜け漏れがないように注意しながら内容を整理しておき、手続きをスムーズにできるように準備しておきましょう。

2.公証役場で内容を相談する

相続の内容が整理できたら、遺言の内容をあらかじめ公証人と相談することが可能です。

公証役場に連絡し、公証人との相談日時を予約しましょう。相談当日は、相続内容をメモしたものと必要な書類を持参します。公証人に遺言の内容を伝え、遺言の細かい内容を決定していきます。内容により1回〜複数回対応してもらえ、相談料は無料です。

3.証人2名を決める

公正証書遺言作成には2名の証人が必要です。遺言の内容が遺言者の意思を反映して作成されたかどうかを第三者の視点からチェックする役割があります。遺言が本人のものであることや、本人の正常な判断のもと作られていることを証明するためにも証人は重要です。

証人は誰にでもお願いできるわけではなく、証人になる資格がない人もいます。証人になれないのは以下のような人です。

証人になれない人
  • 未成年者
  • 推定される相続人
  • 受遺者(遺言により財産を取得する人)
  • 推定相続人や受遺者の配偶者、子・孫・父母・祖父母などの直系血族
  • 公証人の配偶者、4親等以内の親族、書記、雇人

証人は遺言者と利害関係の無い第三者に依頼する必要があります。また、公証人の不正を防ぐ目的で公証人と関係がある人も証人にはなれません。

依頼する証人が見つからない場合は、公証役場に紹介してもらうことも可能です。公証役場でお願いする場合は、1人につき約6,000円〜1万円程度の費用が必要になります。

4.公証役場で遺言を作成する

遺言書作成日には、遺言者と証人2人で公証役場へ出向きます。健康上の理由等で公証役場に行けない場合は、公証人に出張してもらうことも可能です。

遺言者本人が公証人に対し、証人2名の前で遺言内容を口頭で伝え、遺言の内容に間違いがないかを確認します。問題がなければ遺言者と証人2名、公証人が原本に署名し、押印することで遺言書が完成します。

遺言書が完成したら、公証人と証人への手数料を支払えば手続きは完了です。作成された遺言書の原本は、公正証書として公証役場で保管され、正本と謄本が遺言者に渡されます。正本とは原本と同じ効力をもつもの、謄本は原本と同じ効力は持たない控えになります。

公正証書遺言の作成に必要な書類

公正証書遺言を作成するためには、遺言者と財産を受け取る人を確認する書類や、財産を確認する書類などが必要です。

基本的には役所で発行してもらえるので、必要な書類を確認しておきましょう。

公正証書遺言の作成に必要な書類
  • 遺言者の本人確認資料(印鑑証明書または運転免許証などの証明書)
  • 遺言者と相続人との続柄が分かる戸籍謄本
  • 相続人以外の人に遺贈する場合は受遺者の住民票、手紙その他住所の記載のあるもの
  • 固定資産税納税通知書または固定資産評価証明書
  • 不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)
  • 預貯金等の通帳またはそのコピー
  • 証人の確認資料(運転免許証のコピーなど)
  • 遺言執行者を指定する場合は遺言執行者の特定資料(住民票や運転免許証のコピーなど)

公正証書遺言の作成には、遺言者の実印と証人それぞれの認印が必要になります。

また、遺言内容によっては必要書類が追加になる場合があるので、公証人の指示にしたがって準備してください。

公正証書遺言作成にかかる費用

公正証書遺言を作成する際には費用が必要です。公証人手数料令の政令で定められており、遺言書に記載されている財産の価額により決められています。

目的の価額手数料
100万円以下5,000円
100万円を超え200万円以下7,000円
200万円を超え500万円以下11,000円
500万円を超え1,000万円以下1,7000円
1,000万円を超え3,000万円以下23,000円
3,000万円を超え5,000万円以下29,000円
5,000万円を超え1億円以下43,000円
1億円を超え3億円以下43,000円に5,000万円ごとに13,000円を加算した額
3億円を超え10億円以下95,000円に​​5,000万円ごとに11,000円を加算した額
10億円を超える場合249,000円に5,000万円ごとに8,000円を加算した額

参考:e-GOV法令検索- 公証人手数料令別表

財産の総合計を表に当てはめるのでなく、相続または遺贈を受ける人ごとの財産の価格に応じて手数料がかかります。上記の表で相続または遺贈を受ける人ごとの手数料額を求め、その手数料額を合算したものが全体の手数料です。

他に追加される加算には以下のようなものがあります。

他に追加される加算
  • 全体の財産が1億円以下の時は1万1,000円加算
  • 4枚(※)を超えるときは、超える1枚ごとに250円加算
    (※法務省令で定める横書きの証書では3枚)
  • 公証役場外で作成する際は手数料額に50%加算、公証人の日当、現地までの交通費

公正証書遺言を作成する際の注意点

公正証書遺言はメリットが多いと説明しましたが、作成には注意点があります。ルールが守られていない遺言書は効力を持たず、無効になってしまう可能性があるため注意が必要です。

「遺留分」は遺言よりも権利が優先される

遺留分とは、法定相続人に最低限保証されている遺産取得分をいいます。

遺留分が配慮されていない遺言が遺されていた場合でも、相続人には一定の割合の遺産をもらう権利があります。たとえ、遺言書に遺されていても財産を自由に処分できません。

遺留分は、亡くなった人の兄弟姉妹以外の法定相続人に認められます。配偶者と、子ども・孫などの直系卑属、親・祖父母などの直系尊属が対象です。

具体的な遺留分の割合は以下の通りです。

遺留分の配分
相続人配偶者子ども父母全体の遺留分
配偶者のみ1/21/2
配偶者と子ども1人1/41/41/2
配偶者と父母どちらか1人1/31/61/2
子どものみ1/21/2
父母どちらか1人1/31/3

子どもが複数いる場合や、親が2人ともいる場合は人数で等分します。

ただし、公正証書遺言の内容が遺留分を無視している場合でも、相続人が内容を承知・納得していれば、遺言書の内容通りに相続を行うことが可能です。納得できない場合には権利を侵害された分の請求ができます。

​​公正証書遺言よりも遺留分の権利が優先されるため、遺留分に配慮したうえで遺言書を作成することが重要です。

「法定遺言事項」以外の事柄は法的効力がない

遺言書に法定遺言事項以外の事柄が記載されていた場合、その事柄については法的効力を持ちません。

法定遺言事項とは遺言書に記載することで法的な効力を有する事項を言い、法律に定められています。

法定遺言事項の主な事項は以下の通りです。

相続・財産に関する事項相続分の指定
遺産分割方法の指定・遺産分割の禁止
特別受益の持戻し免除
遺贈相続させる旨の遺言
信託の設定
身分に関する事項子の認知
未成年後見人、未成年後見監督人の指定
推定相続人の廃除・廃除の取消し
遺言の執行に関する事項遺言執行者の指定または指定の委託
その他の事項祖先の祭祀主催者の指定
生命保険金の受取人の指定・変更

遺言書に法定遺言事項以外のことを記載した場合、無効になるわけではありませんが「希望」や「付言」として扱われます。

遺言は相続人全員の合意で変更できる

公正証書遺言を作成していても、相続人全員の合意があれば遺産分割協議をして、遺言の内容と異なる遺産分割を行うことが可能です。

しかし、相続人・受遺者のうち1人でも合意しなければ遺言が優先になります。

作成した遺言が法的に有効なものであっても、必ずしも遺言通りに相続できるわけではないので注意が必要です。

欠格事由に該当する場合は相続権を失う

相続人の行動によっては、遺産を相続する権利を剥奪されることがあります。被相続人などを殺害しようとしたり、遺言に対して不正を働いたりした場合には遺産を相続できません。

このことを「相続欠格」と言い、民法第891条にも定められています。

相続人の欠格事由
  • 被相続人・他の相続人を死亡させるか、死亡させようとした人
  • 被相続人が殺害されたことを知りながら告発なかった人
  • 詐欺や強迫により、遺言を妨害した人
  • 詐欺や強迫により、遺言変更をさせた人
  • 遺言書を偽造・変造・破棄・隠蔽した人

参考:e-GOV法令検索- 民法第891(相続人の欠格事由)

要件を満たしていない遺言は無効になる

公正証書遺言は専門家のチェックが入るため、無効になるケースはほとんど考えられません。しかし、必ず無効にならないわけではないため、条件を把握しておきましょう。

無効になるケースには以下のような場合があります。

無効になるケース
  • 遺言者に遺言能力がなかった
  • 遺言者が遺言内容を公証人に口頭で伝えていなかった
  • 欠格事由に該当する証人が立ち会っていた
  • 遺言内容が遺言者の意思に反していた
  • 公序良俗に違反していた

公正証書遺言が無効であると感じた場合、まずは他の相続人にも相談してみましょう。前述の通り、遺言は相続人全員の合意で変更できます。相続人・受遺者全員が無効だと感じた場合は遺産分割協議に進むことが可能です。

相続人全員の合意が得られなかった場合は、家庭裁判所に家事調停を申し立てられます。それでも、話がまとまらなければ最終手段は遺言無効確認訴訟の裁判になります。

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