相続で住民税は増える?納税義務が発生する場合の手続きを解説

「相続をすると住民税は増えるの?「故人に未納の住民税があった場合の扱いは?」相続と住民税の関係について、このようにお悩みの方はいませんか?

結論からいうと、基本的に相続によって住民税が増えることはありません。ただし、故人に未納住民税があった場合や、収益財産を相続した場合には、住民税が増える可能性があります。

今回は、相続と住民税の関係について基礎から分かりやすく解説します。また、未納住民税の支払い方や、住民税の負担を軽減するための特例も解説します。

この記事を読めば、相続と住民税に関する基本的な知識を理解できますよ。

1分でわかる!記事の内容
  • 基本的に、相続によって住民税が増えることはない
  • 故人に未納住民税がある場合、相続人が納税する義務を負う
  • 収益不動産を相続した場合には、収益に対して住民税が課税される

この記事の監修者

内山会計事務所


代表


内山 智絵/税理士・公認会計士

公認会計士・税理士・AFP。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事した後、出産・育児をきっかけに退職。現在は、個人で会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務を継続しつつ、起業女性の会計・税務サポートなどを中心に行っている。

基本的に相続で住民税は増えない

結論からいうと、基本的に相続によって住民税が増えることはありません。

そもそも住民税とは、前年度の「所得」に対して課税されるものであり、いわば利益に対する課税です。

一方で、相続は既に存在する財産を相続人に移転させるものであり、新たな「所得」を生むものではありません。

そのため、相続によって多額の現金や不動産を手に入れた場合であっても、相続人の住民税は増額されません。

ただし例外的に、相続人に納税義務が生じる場合と、相続人の住民税が増える場合があるため、注意が必要です。

以下からは、それぞれの内容について詳しく解説します。

未納住民税は相続人に納税義務が生じる

故人が住民税を滞納していた場合には、その未納住民税について相続人に納税義務が生じます。

相続ではプラスの財産(現金や不動産など)だけではなく、マイナスの財産(借金や保証債務など)も相続財産の対象です。

住民税の支払い義務も債務の一種であるため、相続の対象となります。そのため、未納住民税を相続した相続人は相続放棄をしない限り、未納住民税を支払う義務を負うこととなるのです。

未納住民税を支払う際の手続き

続いて、故人の未納住民税を支払うための具体的な手続きを解説します。

基本的には、納税通知書に記載されている通りに納税手続きを行えば問題ありません。

住民税の支払いを滞納すると、延滞税の加算や財産の差押えなどを受けてしまうため、しっかりと手続き方法を確認しておきましょう。

未納住民税は相続の翌年に支払う

住民税は、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対し、その翌年に納税額が決まります。

故人が企業に勤めていた場合や、年金を受給していた場合などには、差引かれていない分の住民税が普通徴収に切り替わり、納税通知書が送られてきます。

自治体にもよりますが、だいたい翌年の5月から6月にかけて納税通知書と納付書が送付されてくるので、破棄しないように保管するようにしましょう。

未納住民税は相続人全員の連帯債務となる

未納住民税は、特定の相続人がこれを引き受けている場合を除き、相続分に応じて相続人全員の連帯債務となります。

例えば未納住民税が10万円であり、相続人が2人(相続分は同じ)であるなら、各相続人が5万円ずつ負担する必要があります。

未納住民税は相続人代表者が支払う

未納住民税は相続人同士で負担することを説明しましたが、各相続人がそれぞれの負担分を納税することはできません。必ず代表者一人の責任で支払わなければならないのです。

そこで、相続人同士で話合って誰が納税の代表者となるのかを決め、管轄する役所に「相続人代表者届出」を提出します。

ここにいう「代表者」は、あくまで住民税の納付に関する「代表者」です。それ以外の相続関係の手続きでも代表者となるわけではありませんから、安心してください。

なお、一定期間届出がない場合には、役所の側で任意に代表者を定め、当該代表者に納付書を送付する場合もあります。

未納住民税は分割での支払いも可能

住民税は、一括での支払いと分割での支払いの両方が可能です。

一括払いの場合には6月末に、分割での支払いの場合には4回に分けで支払うことができます(6月末・8月末・10月末・翌年1月末など)。

分割払いの時期は各自治体によって若干異なるため、納税通知書に記載された情報をチェックするようにしてください。

未納住民税は控除の対象になる

未納住民税がある場合には、その金額分を相続財産から控除できます。

例えば未納住民税が10万円あり、相続財産の合計金額が100万円だとします。その場合には、100万円から10万円を差引いた90万円が相続財産ということになり、この金額をもとに相続税などの計算を行います。

住民税のほかにも故人の所得税や葬式費用も控除の対象となりますが、延滞税や加算税は控除の対象とならないため、注意が必要です。

参照:相続財産から控除できる債務- 国税庁

相続財産からの所得発生で住民税が増える

相続によって住民税が増えることはありませんが、相続財産から所得を得た場合には、その所得に対して住民税が課されます。

例えば、相続した不動産を売却・贈与したり、賃貸アパートとして貸し出して賃料を得たような場合です。

また、株式を取得して配当金を得たり、株式を売却して譲渡益が出た場合なども「所得」があったものとして住民税の課税対象となります。

さらに「所得」の増加に伴い国民健康保険料の金額なども影響を受けるため、こうした住民税以外のコストにも気を付けるようにしましょう。

住民税を増やさないための対策

相続により取得した不動産や株式などを譲渡した場合に、その利益に対して課される住民税や所得税を軽減できる特例があります。これを活用することで、税金の負担を減らすことが可能です。

この特例は売却益の計算にあたり、不動産等の取得費用に相続税の一部を加算するものであり、結果的に住民税および所得税の負担を軽減できます。

参照:相続財産を譲渡した場合の取得費の特例- 国税庁

また、空き家を譲渡した場合に最大3,000万円の控除を受けられる特例や、寄付した財産について非課税とできる特例などもあります。

このように、相続財産から所得を得た場合の住民税等に対しては複数の特例がありますが、特例を適用するためには複雑な要件を満たす必要があります。

そのため、相続財産のなかに収益物件が含まれている場合には、あらかじめ専門家や各役所に相談し、どの程度控除を受けられるのか確かめておきましょう。

参照:被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例 – 国税庁

参照:相続財産を公益法人などに寄附したとき- 国税庁

相続放棄した場合には納税義務がなくなる

故人に未納住民税がある場合や、相続財産のなかに収益物件が含まれている場合であっても、相続放棄をすれば住民税が増えることはありません。

相続放棄をすると最初から相続人ではなかったことになるため、プラスの財産もマイナスの財産も一切承継しないことになるためです。

ただし、相続放棄は原則として3カ月以内に家庭裁判所に対して申し出なければならないため、相続放棄を考えている場合には早急な対応が求められます。

不動産は相続したいが、借金などのマイナスの財産は放棄したい、という場合には、プラスの範囲内でマイナスの財産を承継する限定承認という手続きもおすすめです。

住民税以外の税金の扱い

ここまでは、相続と住民税の関係について解説しました。

相続では、住民税のほかにも相続税や固定資産税なども問題となりやすいため、以下に簡単に概要を解説します。

所得税

故人が給与所得者または年金受給者であった場合には、所得税は源泉徴収されているため、相続人が支払う必要はありません。

一方、故人が個人事業主等であり所得があった場合には、最後の確定申告を相続人が代わりに行う必要があります。この確定申告を、特別に「準確定申告」といいます。

通常の確定申告は3月15日が期限であるのに対し、準確定申告は故人が亡くなった日から4カ月以内に行う必要があるため、早急な対応が必要です。

固定資産税

故人に未納固定資産税がある場合には、住民税の場合と同様に、相続人全員の連帯債務となります。

また、住民税同様に各相続人が各自の負担分のみを支払うことはできず、代表相続人が単独で支払う必要があります。

相続税

相続により財産を取得した相続人は、相続財産の額に応じて相続税を支払う必要があります。

さらに、故人自身が相続人として相続税の支払い義務を負っており、これを納付する前に亡くなった場合には、最終的な相続人が引き継いで納付します。

例えば祖父が亡くなり、父がこれを相続したものの相続税を支払う前に死亡し、息子が父の財産を相続するような場合です。

こうしたケースでは、原則として一次相続の相続税を二次相続の相続税から控除することが可能です。

手続きが複雑なときは専門家に相談を

今回は相続と住民税の関係について解説しました。

基本的に相続によって住民税が加算されることはありませんが、故人に未納住民税がある場合には、逝去の翌年に納税する義務を負います。

未納住民税は相続人全員の連帯債務となりますが、各相続人が負担部分を個別に支払うことはできず、代表相続人を役所に届け出て相続人を代表して支払います。

住民税は一括払い・分割払いのいずれも可能ですが、分割払いの支払い時期は自治体によって異なるため、納税通知書の記載に従いましょう。

また、不動産や株式などの収益財産を相続した場合には、収益部分について住民税が加算されます。

不動産や株式などを譲渡する場合には、特例によって控除・非課税にすることもできますが、要件が複雑なため、弁護士など専門家に相談するようにしましょう。

いずれの場合においても、相続放棄をすれば相続財産に関する住民税を支払う必要はありません。しかし、相続放棄には原則3カ月の期間制限がある点、および一切の財産を相続できない点に注意が必要です。

ほかにもこちらのメディアでは、空き家がある場合の相続についてや相続した預金はいくらまで引き出しできるのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。

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