「遺言執行者と相続人は同一人物でもいいの?」「遺言執行者に指定されていたけど、具体的に何をすればいいのかわからない」など、遺言執行者についてお悩みではありませんか?
遺言執行者は、相続人が務めても問題ありません。特定の条件にあてはまらないかぎり、誰でも遺言執行者になることが可能です。ただし、相続人のうち特定の方が遺言執行者になった場合、デメリットや注意しなければならないことがあります。
この記事では、遺言執行者の役割やデメリットについて解説します。遺言執行者になれる方やなれない方、遺言執行者の選任方法についても解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。
- 遺言執行者と相続人は同一人物でも構わない
- 遺言執行者と相続人が同一の場合、他の相続人と揉めるリスクや手続きが遅れる可能性が高くなる
- 費用はかかるが、遺言執行は弁護士や司法書士、行政書士などの専門家に依頼するのがおすすめ
遺言執行者とは?
遺言執行者とは、遺言書の内容を実現させるための手続きを行う方のことです。遺言書に託された遺言者の思いを叶えられるよう、遺言書に書かれた内容どおりに預貯金の払い戻しや各相続人への分配、相続財産の名義変更などを行います。
遺言書で指定されていればその方が遺言執行者に就任しますが、指定されたからといって必ずしも引き受ける必要はありません。また、指定されていない場合や指定されていた方がすでに亡くなっているときなどは、家庭裁判所に申立てることで選任が可能です。
なお、遺言執行者には個人でも法人でも就任できます。1人でなければならないという決まりもないため、複数人で就任しても問題ありません。
遺言執行者の役割
遺言執行者の役割は以下のとおりです。
- 相続人への通知
- 相続人調査
- 相続財産調査
- 財産目録の作成
- 預貯金の払い戻し・分配
- 不動産の相続登記
- 自動車の名義変更
- 株式や債券などの名義変更
- 貸金庫の開扉や解約、中身の受け取り
- 遺贈寄付(遺言による寄付)
- 保険金受取人の変更
- 相続人の廃除・取消し
- 遺言認知(遺言による子どもの認知)
遺言執行者には通知義務があります。遺言執行者への就任時や終了時、相続人から求めがあった際は相続人全員に対して遺言内容や業務の内容、結果について通知する必要があります。
遺言執行者の指定、選任は義務ではありません。しかし、遺言書の内容に「相続人の廃除」や「遺言認知」が含まれているときは、遺言執行者の指定、選任をしなければならないことを覚えておきましょう。
相続人の廃除とは、相続人から虐待や侮辱を受けるなど、被相続人がその相続人に財産を渡したくないと思う事情がある場合に、被相続人の意思でその相続人の相続権を奪う方法です。
廃除の申立ては家庭裁判所、遺言によって子どもを認知する「遺言認知」は、認知届を市区町村役場に提出して手続きします。これらは相続人では代行できないため、遺言執行者の指定、選任が必要です。
ただし、遺言執行者であれば相続に関するすべての業務を行えるというわけではない点には注意しましょう。たとえば相続税の申告は相続人の義務であるため、遺言執行者でも代行できません。
遺言執行者の地位・権限
遺言執行者には、「相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の権利義務」が民法によって認められています。
たとえば、被相続人の預貯金口座の解約や払い戻しには、通常遺産分割協議書や相続人全員の印鑑証明書が必要です。しかし遺言執行者なら、単独で上記の手続きが可能です。
民法では「遺言執行者は相続人の代理人とみなす」とも定められており、遺言執行者が遺言執行者として行った業務の効果は、遺言執行者本人にではなく相続人に帰属します。
遺言執行者と相続人は同一でも問題ない?
遺言執行者と相続人は同一人物でも問題ありません。法律上、相続人が遺言執行者になれないといった定めはないためです。ただし、特定の条件に該当してしまうと遺言執行者になれません。
ここでは、遺言執行者になれる方となれない方をご紹介します。
遺言執行者になれる方
遺言執行者には、特定の条件に該当しないかぎり誰でもなれます。前述のとおり、たとえ遺言執行者と相続人が同一人物でも問題ありません。また、相続とは関係のない第三者や弁護士、司法書士といった専門家への依頼も可能です。
その他、信託銀行やNPO法人などが遺言執行者になることもあります。よくあるのは、遺言書の作成に携わった専門家にそのまま依頼するケースです。その場合、すでに事情を理解しているためスムーズに進めてもらえるでしょう。
遺言執行者の業務は、手間暇のかかる作業ばかりです。専門知識がない方や多忙な方にとっては、大きな負担になる可能性があります。専門家以外の方を遺言執行者に指定するなら、あらかじめ相手方の了承を得ておく必要があるでしょう。
遺言執行者になれない方
遺言執行者になれない方は以下のとおりです。
- 未成年者
- 破産者
上記にあてはまらなければ、法律上は誰でも遺言執行者になれます。ただし破産者であっても、破産申立て後、裁判所から免責許可の決定を受けた場合は遺言執行者になれます。
なお、信託銀行は遺言執行者になれますが、財産に関する業務しか認められていない点には注意が必要です。
たとえば、相続人の廃除や遺言認知などは行えないため、遺言書の内容にそれらの事項が含まれているときは、廃除や認知を行ってもらうための遺言執行者を別途定める必要があります。
遺言執行者と相続人が同一になるデメリット
遺言執行者と相続人が同一人物である場合のデメリットは以下のとおりです。
- 他の相続人と揉めやすい
- 手続きが進みにくい
それぞれ解説します。
他の相続人と揉めやすい
相続人のうち特定の方が遺言執行者になると、他の相続人とトラブルになる可能性があります。相続人の中には、「本当に公正に業務を行っているか」「自分に有利なように進めているのではないか」ということを疑う方もいるためです。
とくに、遺言執行者よりも受け取れる相続財産が少ない方や、もともと遺言執行者と折り合いがよくなかった方がいる場合は要注意です。遺言書の偽造や改ざんを疑われると、「遺言無効確認訴訟」を提起される可能性もあります。
このように、特定の相続人が遺言執行者を務める場合はトラブルが起こらないよう配慮する必要があります。手続きに入る前からトラブルになることが予想できるときは、はじめから専門家に任せたほうがよいでしょう。
手続きが進みにくい
相続人同士のトラブルがなくても、遺言執行者が相続手続きに慣れていない場合はなかなか手続きが進まない可能性があります。相続手続きには専門的な知識が必要であるのに対し、相続人が相続手続きに精通しているケースはまれであるためです。
たとえば遺言執行者の役割には、相続人調査や相続財産調査などがあります。相続人調査では被相続人と相続人全員の戸籍を取得し、相続人を把握しなければなりません。
しかし戸籍は古いものになればなるほど解読が難しく、不慣れな方には戸籍を読み解くだけでもつらい作業になりがちです。
相続財産調査も、どこから調べればよいのかわからないケースや、まずどのようなものが「相続財産」にあたるのかがわからない場合もよくあります。
その他、書類を作成してしかるべき機関に提出したものの、何度も修正を求められたり、手続きのためにわざわざ仕事を休む必要が出てきたりすることもあります。とくに、仕事を持っている方には荷が重いかもしれません。
遺言執行を専門家に依頼するメリット
遺言執行を専門家に依頼するメリットは以下のとおりです。
- 相続人同士のトラブルを軽減できる
- 煩雑な手続きを回避できる
なお、ここでいう「専門家」とは、相続を専門に扱う弁護士や司法書士、行政書士を指します。それぞれのメリットについて解説します。
相続人同士のトラブルを軽減できる
遺言執行を専門家に依頼すれば、相続人同士でトラブルが発生するのを防げます。当事者ではなく第三者である専門家が遺言執行を行うことで、不公平感がなくなるためです。
遺言執行者に就任したのが特定の相続人なら協力してくれそうにない相続人でも、遺言執行を行うのが専門家であればまた対応も異なるでしょう。
ただし、専門家に遺言執行を依頼する場合、当然費用がかかります。費用がいくらかかるかについては事務所によって差があるため、事前に問い合わせておくことをおすすめします。
煩雑な手続きを回避できる
煩雑な手続きを回避できる点もメリットといえるでしょう。
遺言執行者の業務は、相続に関する知識や経験のない方が行うには複雑です。市区町村役場や金融機関などを行ったり来たりしなければならない可能性があるため、体力的にはもちろん、精神的な負担になることも予想されます。
しかし専門家に依頼した場合、遺言執行者に認められている手続きであればすべて行ってもらえます。相続や遺言といった分野に精通している専門家なら、ご自身で行うよりもスムーズに進めてくれるでしょう。
遺言執行者の選任方法
遺言執行者の選任方法には、以下の3パターンがあります。
- 遺言者本人が指定する
- 遺言で遺言執行者を指定する方を指定する
- 裁判所が選任する
それぞれ解説します。
遺言者本人が指定する
1つは遺言者本人が遺言書の中で指定するパターンです。遺言者が「遺言執行者になってほしい」と思う方の氏名や住所を遺言書に記載し、遺言執行者に選任する旨を明記すれば、その方を遺言執行者に指名したことになります。
遺言執行者が亡くなった場合の対策として、複数名指定することも可能です。
遺言で遺言執行者を指定する方を指定する
遺言執行者ではなく、「遺言執行者を指名する方」を遺言によって指名する方法もあります。適任がおらず、なかなか遺言執行者を決められないときや、実際に相続が発生したときの状況に応じて遺言執行者を決めてもらいたい場合などにおすすめの方法です。
家庭裁判所に選任してもらう
家庭裁判所に選任してもらうことも可能です。この場合、家庭裁判所に対して「遺言執行者の選任の申立て」を行います。
遺言執行者が指定されていないときや遺言執行者に指定されていた方がすでに亡くなっているケース、生存しているものの就任を断られた場合などに用いられる方法です。
遺言執行者選任の申立ては、相続人や受遺者、遺言者の債権者が行えます。申立ての際に必要な書類は以下のとおりです。
- 家事審判申立書
- 遺言者の死亡事項が記載された戸籍謄本
- 遺言執行者の候補となる方の住民票
- 遺言書の写し
- 戸籍謄本など、遺言者と申立人の利害関係を証明する資料
家事審判申立書の様式は、裁判所のホームページからダウンロードできます。なお、申立てには遺言執行の対象となる遺言書1通につき、800円分の収入印紙が必要です。
連絡用の郵便切手も用意しなければなりませんが、申立てる家庭裁判所によって金額が異なります。郵便切手の金額については、各裁判所に問い合わせましょう。
遺言執行者を辞任・解任する方法
遺言執行者は辞任・解任が可能です。ただし、一度就任してしまうと勝手に辞任したり解任させたりといったことができず、家庭裁判所の許可を得なければなりません。
ここでは、遺言執行者を辞任・解任する方法について解説します。
遺言執行者の辞任
遺言執行者に指定されていても、引き受けることが難しければ辞退しても構いません。ただし、いったん引き受けたあとで辞任するなら、家庭裁判所に申立てたうえで許可を得る必要があります。
また、辞任が認められるのは、長期にわたる病気療養や長期出張など、業務を続けられない「正当な理由」がある場合のみです。遺言執行者を引き受ける前に、きちんと業務をやり遂げられるのかをしっかり考える必要があるでしょう。
「断りきれなかった」「なんとなく流されて」といった経緯で引き受ける場合は要注意です。
遺言執行者の解任
遺言執行者が業務を怠った場合や正当な理由があるときは、遺言執行者の解任が可能です。ただし勝手に辞めさせることはできず、家庭裁判所への申立てが必要です。
たとえば遺言執行者を解任できるケースには、以下のようなものがあります。
- いつまで経っても業務に着手しない
- 業務を途中で放置している
- 相続人や受遺者から通知の請求があっても通知しない
- 財産目録を公開しない
- 行方不明または長期にわたって不在にしている
- 病気で業務を行えない
- 一部の相続人を有利に扱っている
- 相続財産の不正な使い込みが発覚した
申立ては、相続人や受遺者など、遺言執行者が業務を行わないことによって影響を受ける方です。
解任には時間がかかります。また、解任の申立てをしても、ただちに遺言執行者でなくなるわけではありません。一刻も早く解任したいときは、「遺言執行者の職務執行停止の審判」も同時に申立てることをおすすめします。
遺言執行者の職務執行停止の審判を申立てると、解任の審判が確定するまでの間、遺言執行者の職務を停止できます。その間に代行者を選任することも可能です。
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