「父や母の借金も相続しないといけないのかな?」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?原則として、相続は被相続人のプラスの財産とマイナスの財産をすべて承継するため、借金も相続します。
しかし、被相続人に多額の借金がある場合、相続人の生活に悪影響が出てしまいます。相続人が借金を承継せずに済む方法があるため、相続方法について理解することは大切です。
こちらの記事では、借金を相続しないための方法や注意点などを解説していきます。相続が発生して間もない方や相続が発生しそうな方に役立つ内容となっているので、ぜひ最後までご覧ください。
- 原則として、借金も相続する必要がある
- 限定承認か相続放棄を行えば、借金を相続せずに済む
- 限定承認か相続放棄は、相続の開始を知った日から3カ月以内に手続きする
原則として借金も相続対象になる
原則として、相続が発生すると被相続人(亡くなった人)の財産だけでなく、負債も含めて引き継ぎます。預貯金や株式、不動産などのプラスの財産はもちろんですが、借金などのマイナスの財産も相続の対象となります。
借金などのマイナスの財産に関しては、法定相続人がそれぞれの法定相続分の割合に応じて返済するのが原則です。つまり、被相続人が多額の借金を抱えている場合は、相続人が借金を返済する義務を承継し、自分の財産で返済しなければなりません。
しかし、相続人が被相続人の借金を承継せずに済む方法があるため、もし被相続人に多額の借金があっても安心してください。
被相続人の借金を調べる方法
被相続人の財産がプラスの場合は相続したいと考え、マイナスの場合は相続したくないと考えるのが一般的な感情です。
相続が発生したときは、まず被相続人の財産状況や借金状況を調べることが大切です。以下で、被相続人の借金を調べる方法を解説します。
遺品を調べる
相続財産を把握するためには、被相続人の遺品を調べる必要があります。通帳や金融機関からの郵便物などを通じて口座のある金融機関を特定し、金融機関から残高証明書を発行してもらうことで、預貯金などは把握できます。
他にも、パソコンやスマホのロックが解除できれば、ブックマークから取引がありそうな金融機関を探ることも可能です。
不動産の価値は、市区町村役場から届く固定資産税の納税通知書で確認が可能です。固定資産税の納税通知書が見つからなくても、市区町村役場で固定資産課税台帳の証明書を発行してもらえば、不動産の価値は把握できます。
また、不動産が相続財産に含まれている場合は住宅ローンの残債がある可能性が考えられるため、担保が付いていないかを確認しましょう。もし、抵当権や根抵当権が設定されていれば、被相続人が不動産を担保にして借金をしている可能性があります。
借金の有無を確認する方法として、通帳の履歴から金融機関や消費者金融への返済がないか見ることが挙げられます。また、カード会社や消費者金融からの請求や借金の督促状がある場合、被相続人が借金を抱えている可能性が高いでしょう。
信用情報機関に照会する
被相続人の借金状況に関しては、下記の信用情報機関に照会すれば確認できます。
- 全国銀行個人情報センター(KSC)
- クレジット会社:株式会社シー・アイ・シー(CIC)
- 消費者金融:㈱日本信用情報機構(JICC)
いずれの信用機関も、1,000円程度の手数料を払えば被相続人の借金状況に関する情報を開示してくれます。もし被相続人の経済状況に不安がある場合は、信用情報機関に照会すると安心です。
相続財産に借金があるときの対処法
もし相続財産がマイナスで債務超過であることが判明しても、借金を相続せずに済む方法があります。
相続方法には3つの方法があるため、被相続人の財産状況に応じて、最適な方法を選択することが大切です。
単純承認を行う
単純承認とは、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産をすべて相続する方法です。結論、被相続人に多額の借金があり債務超過の場合は、単純承認をしてはいけません。
被相続人に1億円の借金があり、単純承認をすると相続人は1億円の借金を承継することになるからです。
単純承認の注意点
相続の開始を知った日から3カ月以内に、後述する限定承認と相続放棄の手続きを家庭裁判所に対して行わない場合、単純承認したとみなされます。
つまり、借金を相続したくない場合は、相続の開始を知った日から3カ月以内に、限定承認か相続放棄の手続きをしなければなりません。
また、相続が発生してから被相続人の財産を「処分」した場合、単純承認したものとみなされます。例えば、被相続人の預貯金を引き出す行為や財産を売却する行為が「処分」にあたることから、安易に被相続人の遺産に手を出してはいけません。
なお、最高裁判所は「3カ月以内に限定承認または相続放棄をしなかったのが、相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、かつ、このように信ずるについて相当な理由がある場合には、民法915条1項所定の期間は、相続人が相続財産の全部または一部の存在を認識したとき、または通常これを認識することができるときから起算する」という判決を出しています。(最高裁昭和59年4月27日判決)
つまり、相続人に借金があることを知らず3カ月以内に限定承認や相続放棄の手続きをしなかったとしても、相続放棄ができる余地があります。もし単純承認したあとに相続放棄ができるか知りたい場合は、弁護士に相談することも検討しましょう。
限定承認を行う
限定承認を行うと、借金を相続せずに済みます。限定承認とは、被相続人の財産がプラスのときに限り、相続する方法だからです。
被相続人の財産状況が完全に把握できないときは、限定承認を選択するといいでしょう。財産がプラスであれば相続でき、マイナスの場合は相続せずに済むため、相続人にとって都合のいい仕組みです。
例えば、被相続人の財産の内訳が「プラスの財産が1000万円、マイナスの財産が500万円」の場合、差し引きプラス500万円を相続できます。一方で、「プラスの財産が500万円、マイナスの財産が1000万円」の場合、相続せずに済みます。
なお、限定承認の手続きは、相続の開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所に対して行う必要があります。
限定承認の注意点
限定承認は相続人にとって都合がいい制度ですが、「相続人全員の同意が必要」という注意点もあります。
限定承認の手続きは、相続人全員が共同で行う必要があるため、相続人の中に一人でも限定承認に反対する人がいると選択できません。
相続人のうち、一人でも単純承認や相続放棄を選択すると限定承認を選択できないため、相続人全員の足並みをそろえる必要があります。
また、限定承認をすると、「被相続人がプラスの財産を相続人に対して適正価格で売却した」とみなされるため、譲渡所得税が発生する可能性があります。
遺産の中に不動産や株式があり、被相続人の取得時よりも値上がりしていると、多額の譲渡所得税がかかってしまう点には注意が必要です。
相続放棄を行う
相続放棄を選択すれば、借金を相続することはありません。相続放棄とは、遺産を一切相続しない意思表示で、最初から相続人ではなかったとみなされます。
被相続人の財産が明らかにマイナスの場合、相続放棄を選択すると良いでしょう。相続放棄は、限定承認とは異なり各相続人が単独で行うことができます。
相続の開始があった時から3カ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の手続きを行えば、相続放棄が可能です。
相続放棄の注意点
相続放棄をすると、借金を相続する可能性がなくなりますが、プラスの財産も相続することもできません。「預貯金は相続するけど、不動産は相続放棄する」などのように、財産ごとにピンポイントで相続放棄することも不可能です。
また、相続放棄すると「相続人ではなかった」とみなされ、相続に関する一切の権利がなくなります。相続放棄の撤回もできないため、相続放棄後に「実は財産がプラスだった」ことが発覚しても、遺産は相続できません。
一度相続放棄を選択すると、プラスの財産を相続する権利まで失ってしまうのは注意するべき点と言えるでしょう。
借金を相続したときは相続方法を変更できる?
原則として、一度選択した相続方法の変更はできません。借金を相続した後に「やっぱり相続放棄する」という手続きはできないため、被相続人の財産はきちんと調査することが大切です。
限定承認と相続放棄は、相続の開始を知った日から3カ月以内に家庭裁判所対して行う必要があります。3カ月を経過すると単純承認したものとみなされるため、速やかに相続方法を選択しましょう。
なお、「相続の開始を知った日から3カ月以内」という法定期限はありますが、家庭裁判所が期間の延長を認める「相当の理由がある」と認めたときは、3カ月を経過しても相続方法を選択できます。
また、詐欺や脅迫などで本意ではない相続方法を選択させられたケースでも、相続方法を変更できる可能性はあります。もし借金を相続した後の救済方法などを知りたい場合は、相続に強い弁護士に相談しましょう。
借金を相続しないために意識するべきこと
借金を相続せずに済むためには、きちんと被相続人の財産を調査することや、安易に相続方法を選択しないことが欠かせません。以下で、借金を相続しないために意識するべきことを解説していきます。
きちんと財産調査を行う
まずは、きちんと被相続人の財産調査を行うことです。信用情報機関への照会が面倒でも、自分の生活を守るために行うことをおすすめします。
特に、生前にあまりコミュニケーションを取っていない家族の場合、被相続人の財産状況を正確に把握できていないケースが多いでしょう。不明点があれば詳細に調べて、安易に単純承認を選択しないことが大切です。
相続人同士で話し合う
相続人同士で、相続方法を話し合うことも欠かせません。特に、限定承認は相続人全員で手続きを行う必要があるため、相続人同士での協議は必須です。
また、相続放棄をすると次順位の人に相続権が移ります。もし相続放棄をすると「子→直系尊属(父母・祖父母)→兄弟姉妹」と、借金を相続する義務が移るため、相続放棄をするときは次順位の相続人に連絡することが大切です。
遺産に手を付けない
遺産に手を付けて「処分」すると、単純相続したとみなされます。もし限定承認か相続放棄を検討しているなら、遺産には一切手を付けてはいけません。
相続方法を検討しているときに借金の催促が来て、被相続人の預貯金から返済すると「処分」にあたります。そのため、相続手続きが完了するまでは遺産に手を付けないことを相続人全員で意識しましょう。
なお、被相続人の財産で葬儀費用を支払った場合は「自分のために使った」とはいえず、財産の処分にはあたりません。
相続放棄の流れ
借金を相続することを回避するために確実な方法が、相続放棄です。以下で、相続放棄の手続きを進める際の具体的な流れを解説していきます。
必要書類を用意する
相続放棄手続きでは、下記の書類が必要となります。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票)
- 申述人の戸籍謄本(戸籍全部事項証明書)
- 収入印紙 800円
また、相続放棄する人と被相続人の関係によって、必要となる書類が異なります。
申述人(相続放棄する人)と被相続人との関係 | 必要となる書類 |
---|---|
申述人が被相続人の配偶者の場合 | 被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
申述人が被相続人の子又はその代襲者(孫、ひ孫等)(第一順位相続人)の場合 | ・被相続人の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・申述人が代襲相続人(孫、ひ孫等)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
申述人が、被相続人の父母・祖父母等(直系尊属)(第二順位相続人)の場合 (先順位相続人等から提出済みのものは添付不要) |
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属に死亡している方がいる場合、その直系尊属の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
申述人が、被相続人の兄弟姉妹及びその代襲者(おい、めい)(第三順位相続人)の場合 (先順位相続人等から提出済みのものは添付不要) |
・被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 ・申述人が代襲相続人(おい、めい)の場合、被代襲者(本来の相続人)の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本 |
家庭裁判所に相続放棄を申し立てる
相続放棄を行う意思が決まったら、相続の開始を知った日から3カ月以内に、家庭裁判所へ申述を行います。申述先となる家庭裁判所となるのは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。
直接出向いて申述を行うことも、郵送で申述を行うことも可能です。申述後、家庭裁判所による確認が行われます。
裁判所から照会書が届く
相続放棄の申述を行った後に、手続き先の家庭裁判所から照会書が郵送されます。照会書とは、相続放棄の要件を満たしているか確認するための質問状です。
照会書の質問事項に回答しなければ相続放棄の手続きは進められないため、きちんと質問事項に回答して家庭裁判所へ返送しましょう。
裁判所から相続放棄申述受理通知書が届く
照会書を返送し、家庭裁判所が「照会書への回答に問題がない」と判断すれば、通常1週間~10日ほどで「相続放棄申述受理通知書」が郵送されます。「相続放棄申述受理通知書」が届いたら、相続放棄が認められたと考えて差し支えありません。
相続放棄申述受理書は再発行ができないため、大切に保管しましょう。他の機関や相続人に対して相続放棄を行った旨を証明する資料となります。
借金を相続しないためには限定承認か相続放棄
被相続人の残した借金を相続することを回避するためには、限定承認か相続放棄の手続きを選択しましょう。いずれも借金を相続せずに済むため、相続人の生活に悪影響を及ぼすことはありません。
きちんと被相続人の財産を調査することはもちろん、相続方法の種類や特徴を理解することが大切です。限定承認は相続人全員の同意が必要ですが、相続放棄は相続人が個々に単独で行うことができます。
相続が発生して手続き方法で悩んでいる方や相続が発生しそうな方は、こちらの記事を参考にしながら、最適な方法を選択しましょう。
ほかにもこちらのメディアでは、空き家の相続管理や相続で住民税は増えるのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。