借地権に相続税はかかる?評価額の計算方法や注意点をわかりやすく解説

借地に家を建てている場合、そこには借地権という権利が発生します。この借地権も財産として価値のある権利であるため、相続の対象となります。

そして、相続財産に該当するため、相続税の課税対象にもなります。では、具体的に借地権はどのように評価計算し、手続きはどう進めれば良いのでしょうか?

この記事では、2種類の借地権について、それぞれの特徴や借地権にかかる相続税の計算方法、手続きの際の注意点などをわかりやすく解説します。借地権の相続手続きについて不安のある方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 借地権には普通借地権と定期借地権の2種類がある
  • 借地権そのものは名義変更手続き不要
  • 借地の相続について地主の承諾が必要なケースがある

借地権とは

借地権とは、建物の所有を目的とした地上権または土地の賃借権のことをいいます。もう少し簡単にいうと、建物を建てるために、賃料(「地代」といいます)を支払って土地を借りる権利のことです。

なお、相続税法上の借地権の定義は、借地借家法上の借地権とほぼ同じですが、民法上の借地権とは若干異なります。民法上の借地権は、もう少し広い意味で「使用貸借(無償による貸借関係)」も含まれ、目的も建物所有に限定されません。

具体的には、地代を支払わない借地、駐車場や資材置き場など建物を建てない借地も、民法上は借地権の対象になります。

借地権は普通借地権と定期借地権の2種類

借地権には、大きく分けて「普通借地権」と「定期借地権」の2種類があります。両者の違いを比較表にまとめましたので、ご覧ください。

普通借地権定期借地権
契約の更新ありなし
存続期間30年以上原則50年以上
建物買取請求権あり特約で排除可能
権利金ありなし

最も大きな違いは、契約更新の有無です。普通借地権が契約更新を繰り返して半永久的に土地を借りられるのに対して、定期借地権は契約期間の満了により土地を借りる権利は失われます。

普通借地権

普通借地権は、契約の更新が可能な借地権を指します。存続期間は最初の契約時は30年以上で定めることができ、更新時は初回更新20年、2回目以降は10年となります。

なお、最初の契約時に存続期間を定めなかった場合は、存続期間を30年に設定したものとみなされます。

地主が契約更新を拒絶するには「退去させる正当な理由」と立ち退き料の支払いが必要です。さらに借地人には、立ち退き時に建物を時価で地主に買い取ってもらう「建物買取請求権」という強力な権利があります。

そのため、現実的に地主が契約更新を拒絶することは難しく、普通借地権は実質的には半永久的に土地を借り続けられる権利とされています。

定期借地権

定期借地権は、さらに細かく以下の3つに分類されます。

定期借地権
  • 一般定期借地権
  • 建物譲渡特約付借地権
  • 事業用定期借地権

「一般定期借地権」は、建物譲渡特約付借地権と事業用定期借地権以外の借地権を指します。最初に定めた50年以上の存続期間満了とともに借地契約は終了し、延長はできません。

また、借地人には建物買取請求権がありますが、特約でこれを排除でき、契約終了時の立ち退き料も不要です。そのため、普通借地権よりも地主の権利が強い借地権といえます。

「建物譲渡特約付借地権」は、30年以上の存続期間満了時に地主が建物を買い取ることで契約が終了する借地権です。しかし、確実に築30年以上となる建物を買い取るメリットが地主側に無いことから、実際にはほとんど利用されていません。

「事業用定期借地権」は、借地上の建物の用途が店舗や事務所などの事業用に限定されている定期借地権です。よって、戸建住宅やマンションには事業用定期借地権は使えません。

借地期間が10年以上50年未満と、一般定期借地権よりも短く、契約締結は公正証書で行わなければならないという特徴もあります。

借地権は相続税の課税対象となる

借地権は経済的価値の高い権利であり、相続財産とみなされます。それと同時に相続税の課税対象にもなります。

ただし、先にご紹介したように、民法上の借地権と相続税法上の借地権は、定義が若干異なります。そのため、以下の借地権については、相続税の評価・課税対象にはなりません

相続税の評価・課税対象にならない借地権
  • 使用貸借に基づく借地権
  • 更地のままの借地権

使用貸借つまり地代を支払っていない借地の場合は、相続税の評価対象になりません。親族に無償で借りていて固定資産税のみ負担している場合も、同様に評価対象外です。

また、借地権は設定されているものの、土地の上に建物がなく更地のままの場合も、相続税の評価対象になりません。

借地権の相続税評価額の計算方法

借地権の相続税評価額の計算は、普通借地権か定期借地権かによって大きく異なります。また、両者とは別に「一時使用目的の借地権」という特殊な借地権もあるので、それぞれの計算方法を解説していきます。

普通借地権の評価方法

普通借地権の評価額計算には、以下の式を用います。

  • 自用地の評価額✕借地権割合

ただ、これだけでは何のことだかわからないという方も多いと思われますので、一つずつみていきましょう。

まず、「自用地」というのは、他人の権利の目的となっていない土地のことです。つまり自用地の評価額とは、その借地が建物が建っていない更地であるとした場合の評価額ということになります。

自用地の評価額は、その土地が路線価地域にあるのか、倍率地域にあるのかによって、以下のとおり異なります。

路線価地域の場合路線価✕地積(登記簿上の土地の面積)
倍率地域の場合固定資産税評価額✕倍率

対象の借地が「路線価地域」と「倍率地域」のどちらに該当するのかは、国税庁HPの「路線価図・評価倍率表」より確認できます。

参考:国税庁-路線価図・評価倍率表(令和5年分)

また、「借地権割合」というのは、土地の権利全体に対して借地権がその程度の割合を占めるのかを示した数字です。国税庁が地域ごとに設定し、住宅地では一般的に60~70%程度となっています。

なお、借地権割合は上記の「路線価図・評価倍率表」において、路線価の末尾にアルファベットで記載されています。たとえば「300A」であれば路線価は1㎡あたり300,000円で借地権割合は90%、「200D」であれば路線価は1㎡あたり200,000円で借地権割合は60%です。

では、実際に一つ例を挙げて計算してみましょう。以下のような条件の土地で考えてみます。

  • 借地が属する地域:路線価地域
  • 借地の地積:150㎡
  • 路線価:200
  • 借地権割合:C(70%)

まず自用地の評価額は、「200(千円)✕150㎡」で3,000万円になります。これに借地権割合を乗じて「3,000万円✕0.7=2,100万円」がこの借地の相続税評価額になります。

定期借地権の相続税評価額

定期借地権の評価額計算には、以下の式を用います。

  • 課税時期における自用地の価格✕(A÷B)✕(C÷D)
    • A:定期借地権等の設定時における借地権者に帰属する経済的利益の総額
    • B:定期借地権等の設定時におけるその宅地の通常の取引価額
    • C:課税時期におけるその定期借地権等の残存期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率
    • D:定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率

普通借地権にも増して非常に複雑な計算式であるため、実際の計算は税理士に依頼することになりますが、重要な用語に絞って解説していきます。

「課税時期」というのは、相続の場合は相続開始日つまり被相続人が亡くなった日を指します。

Aの「借地権者に帰属する経済的利益」というのは、実際に支払っている地代と一般的な適正地代との差額などが該当します。

Cの「残存期間年数」は、相続回時点における定期借地権の残り契約年数のことです。また、C、Dの「基準年利率」「複利年金現価率」は、それぞれ国税庁HPより確認できます。

一時使用目的の借地権の評価方法

一時使用目的の借地権とは、臨時設備の設置など一時使用のために土地を借りたことが明らかな借地権を指します。一時使用目的の借地権には、契約更新や建物買取請求権などが認められていません。

よって、普通借地権などと同様の評価をすることは適当でないため、雑種地の賃借権の評価方法に準じて、以下のように評価します。

地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権雑種地の自用地評価額✕法定地上権割合と借地権割合とのいずれか低い割合
上記以外の賃借権雑種地の自用地評価額✕法定地上権割合✕1/2

「地上権に準ずる賃借権」とは、賃借権の登記がされているものや、権利金や一時金を対価として支払っているものなどが該当します。また、「法定地上権割合」は相続税法第23条に定められている、残存期間に応じた割合を指します。

借地権を相続するときの注意ポイント

借地権を相続するに当たっては、具体的な税額の計算の他にも注意すべきポイントがいくつかあります。

借地権付きの土地にも小規模宅地等の特例が使える

「小規模宅地等の特例」とは、被相続人が自宅に使用していた土地が一定の要件を満たす場合、相続税計算の際の土地の評価額を最大80%減額できるという特例です。

借地権を相続した場合でも、要件を満たしていればこの「小規模宅地等の特例」の適用を受けられます。

この特例の減額率は、最大で評価額の80%と非常に大きいため、結果的に相続税が0円になる可能性もあります。ただし、この場合は申告額が0円でも相続税の申告手続きは必要なので、忘れないように注意しましょう。

借地権の名義変更手続きをする必要はない

借地権を相続しても、特に借地権の名義変更手続きなどは必要なく、地代や契約期間などはそのまま引き継がれます。地主の承諾も不要で、承諾料や土地の返還請求にも応じる義務はありません。

ただし、地主にとっては地代を受け取る相手が変わることになります。また、今後も地主と良好な関係を維持するためにも、「借り主であった被相続人が亡くなったこと」「借地権を相続したこと」は連絡しておいたほうが良いでしょう。

借地上の建物は名義変更手続きが必要になる

借地権そのものは名義変更手続き不要ですが、借地上の建物は名義変更つまり相続登記が必要です。これは、借地権者となる相続人と建物の名義人が異なっていると、第三者に借地権を主張できなくなるためです。

借地権の相続で地主の承諾が必要になるケース

借地権の相続では、基本的に地主の承諾は必要ないとお伝えしましたが、以下のようなケースでは、例外的に地主の承諾が必要です。

  • 借地権の遺贈を受けた場合
  • 借地権を譲渡・売却する場合
  • 借地上に子供名義の家を建てる場合
  • 借地上の建物を建て替える場合

なお、上記のケースにおいて地主の承諾が得られない場合は、裁判によって地主の承諾に代わる許可を求めることもでき、これを「借地非訟」と呼びます。裁判所がこの許可を出す際には、同時に承諾料の決定も行われます。

借地権の遺贈を受けた場合

遺贈とは、遺言により法定相続人以外に財産を贈与することです。地主にとっては、相続と違ってまったく想定外の人が借地権を承継することになります。

そのため、借地権を遺贈で譲り受けた場合は、地主の承諾と承諾料の支払いが必要です。遺贈の場合の承諾料は、借地権価格の10%程度が相場となっています。

借地権を譲渡・売却する場合

借地権は、地主に無断で譲渡・売却できません。よって、この場合も地主の承諾と承諾料の支払いが必要となります。承諾料は、遺贈の場合と同じく借地権価格の10%程度が相場とされています。

借地上に子供名義の家を建てる場合

借地上に親が子供名義で家を建てるというのは、よくある話です。しかし実は、借地に借地権者以外の建物を建てた場合、無断転貸として借地契約を解除される可能性があります。

たとえ子供名義であっても、事前に「子供名義の建物を建てること」および「借地権を譲渡あるいは転貸すること」について、地主の承諾を得ておきましょう。

借地上の建物を建て替える場合

建物の名義人が変わらなくても、借地上の建物を建て替えたり増改築したりする場合は、地主の承諾と承諾料の支払いが必要です。

建て替えまたは増改築の場合の承諾料は、借地権価格の3~5%程度が相場とされています。

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