相続人不存在とは?相続人がいない遺産の行方・手続きの流れも解説

相続人になり得る方が周囲にいない場合、ご自身の遺産が行き場を失ってしまうのではないかと不安になる方も多いでしょう。

相続する方が1人もいない状態を相続人不存在と呼びます。相続人不存在の遺産は必要な手続きを行ったあと、最終的には国に引き取られます。

この記事では相続人不存在になるケースや遺産の行方、必要な手続きをご紹介します。手続きにかかる期間や不動産の扱いについても解説するため、ぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続人不存在とは相続する方が誰もいない状態のこと
  • 相続人不存在の場合は相続財産清算人を選任する必要がある
  • 相続人や債権者が現れない場合、国が遺産を引き取る

相続人不存在とは?

相続人不存在とはご自身の死後、遺産を受け取る方が誰一人としていない状態を指します。本来であれば被相続人(亡くなった方)の配偶者や子ども、両親などの法定相続人が、被相続人の遺産を受け取ります。

法定相続人になれる方は民法で定められており、優先順位の高い方から順番に相続できる権利を得られる仕組みです。

優先順位 関係性
第1順位 子ども(孫)
第2順位
第3順位 兄弟姉妹(甥姪)
※配偶者は常に相続人になれます

人が亡くなると、優先順位をもとに相続人を決定します。たとえば、亡くなった方に子どもがいた場合は配偶者と子どもが、子どもを持たない夫婦だった場合は亡くなった方の両親と配偶者が相続人になるのです。

しかし、亡くなった方が未婚で両親が他界しており、兄弟姉妹もいなかった場合、法定相続人にあたる人物がいないことになります。このような状況を相続人不存在と呼ぶのです。

相続人不存在になるケース

法定相続人がいないと相続人不存在になることを説明しました。しかし、法定相続人がいたとしても相続人不存在になるケースがあるため、注意が必要です。

相続欠格・相続廃除になった

相続欠格(そうぞくけっかく)・相続廃除により相続人がいなくなった場合、相続人不存在になります。

相続欠格とは重大な非行があった相続人から、相続できる権利を剥奪する制度です。被相続人を脅迫して当人にとって有利な遺言書を書かせたり、前の順位にいる相続人を殺めようとしたりした場合、相続欠格に該当します。

一方で、相続廃除とは相続人の意思により、相続権を奪える制度です。生前から暴力を振るわれていたり、浮気をされたりなどの理由から相続をさせたくない場合、被相続人が手続きを行うことで相続権を剥奪できます。

相続欠格・相続廃除はどちらも相続できる権利を奪う制度であり、該当者は相続人ではなくなります。たとえ法定相続人がいたとしても、その方が相続権を失えば相続人不存在となってしまうのです。

全員が相続放棄をした

全員が相続放棄をしたケースも、相続人不存在に該当します。相続放棄は預貯金などのプラスの財産に加えて、借金などのマイナスの財産も相続しません

最初から相続人ではなかったと扱われ、相続権が次の順位の法定相続人へと移ります。しかし、第3順位の兄弟姉妹が相続放棄を行った場合、相続人がいない状態(相続人不存在)になってしまうのです。

なお、被相続人の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合、その子ども(甥姪)が相続権を得ます。甥姪も相続放棄をすると、相続人不存在になります。

このように、法定相続人が複数いたとしても、借金が多いなどの理由で全員が相続放棄をすると、結果として相続する方が1人もいない状況になってしまうのです。

相続人不存在だと遺産はどうなる?

相続人不存在の場合、手元にある遺産はどうなるのでしょうか?遺産の行方をご紹介します。

遺言書をもとに遺贈する

遺言書がある場合、それをもとに遺贈(いぞう)します。遺贈とは遺言書に記載されている内容に従い、遺産の一部またはすべてを与えることです。

遺贈する相手は、法定相続人である必要はありません。血の繋がりがない相手やボランティア団体など、本来であれば遺産を受け取れない第三者へ譲れます。

ご自身に法定相続人がいないことを把握されている場合、生前に遺言書を作成しておけば遺産を無駄にすることなく活用できるでしょう。

特別縁故者が受け取る

家庭裁判所により特別縁故者の存在が認められた場合、その方が遺産を取得できます。特別縁故者とは相続人不存在の状況において、特別に遺産を取得できる権利を持つ方のことです。

特別縁故者になれる可能性があるのは、以下のいずれかに該当する方です。

特別縁故者になれる可能性がある方
  • 被相続人と生計を共にしていた方
  • 被相続人の介護・療養に尽くした方
  • 被相続人と親密な関係にあった個人・法人・団体

たとえば、内縁の妻は法律上の夫婦とは認められないため、本来であれば法定相続人に該当せず、遺産を受け取れません。

しかし、家庭裁判所に特別縁故者として認められた場合、相続する権利がなくても特別に遺産を受け取れるのです。

国庫に帰属する

遺言書もなく特別縁故者もいない場合、遺産は国庫に帰属され、国の財産となります。ただし、共有持分(きょうゆうもちぶん)となっている遺産に関しては、国庫に帰属することなく共有者のものになります。

共有持分とは父親から相続した土地を、2人の兄弟で共有しているような状態のことです。このケースで兄が亡くなり、弟を含むすべての法定相続人が相続放棄した場合、共有していた土地は国庫に帰属することなく弟の所有物となります。

相続人不存在の手続きの流れ

相続人不存在の場合、どのような手続きが必要なのでしょうか?手順ごとに詳しく解説します。なお、遺言書がある場合はこれらの手続きが不要となります。

1.相続財産清算人(相続財産管理人)を選任する

まずは家庭裁判所に申立てを行い、財産の清算を行うための「相続財産清算人」を選任します。被相続人が遺した遺産は預貯金や不動産などのプラスの財産だけとは限りません。

借金やローンなど、マイナスの財産も遺されているケースが多いため、プラスの財産のなかから債権者に対して返済していく必要があります。これを行うのが相続財産清算人です。

相続財産清算人には被相続人との利害関係を考慮し、適切な方が選ばれます。たとえば、特別縁故者であると主張している方や、被相続人にお金を貸していた債権者、弁護士などが該当します。

相続財産清算人は元々、「相続財産管理人」という名称でした。令和5年に行われた民法改正から、相続財産清算人と呼ばれています。

2.公告する

相続財産清算人が決まれば、必要事項を官報にて公告します。官報とは国が発行する新聞のことです。

相続財産清算人が公告すべき内容は以下の3つです。

公告内容 役割
相続財産清算人選任の公告 相続財産清算人が選任されたことを伝えるため
相続人捜索の公告 相続人を探し出すため
債権申出の公告 債権者・受遺者を探し出すため

1つ目は相続財産清算人選任の公告です。相続財産清算人が選ばれたことを知らせる役割があります。

2つ目は相続人捜索の公告です。官報に被相続人の名前や公告期間を掲載し、相続権があると主張する方を探し出します。

相続財産清算人選任の公告・相続人捜索の公告は同時に行われ、6カ月以上にわたり掲載されます。公告期間を終えても相続人が現れない場合、相続人不存在であることが認められるのです。

3つ目が債権申出の公告です。債権申出とは、特定の財産を請求できる権利を持っていると主張することを意味します。

たとえば、被相続人にお金を貸していた債権者の場合、申出を行うことで「弁済される権利を持っている」と主張できるのです。

被相続人にお金を貸していた方はもちろん、遺言により遺産を受け取れる受遺者も申出の対象となります。

この公告を見たすべての債権者・受遺者は、公告開始から2カ月以内に債権申出を行わなければなりません。

債権申出の公告は、相続財産清算人の公告・相続人捜索の公告が終了する6カ月の期間内に終了するように行う必要があります。つまり、相続財産清算人の公告・相続人捜索の公告を行った4カ月以内に、債権申出の公告を行わなければならないのです。

3.特別縁故者への財産分与を申立てる

相続人不存在が確定したら、特別縁故者への財産分与の申立てが行われます。申立ての期間は相続人不存在が確定してから3カ月以内です。

申立ては特別縁故者に該当するであろう本人が行います。その後、家庭裁判所による審判を経て、分与または申立却下が決まります。

なお、債権申出の公告により債権者・受遺者がいた場合、弁済して残った財産が特別縁故者に対する分与の対象です。

4.国庫へ帰属する

債権者・受遺者への弁済や特別縁故者への分与を行ってもなお遺産が余る場合、余った分が国庫へ帰属されます。

国庫への帰属が完了したあと、相続財産清算人は家庭裁判所に対して管理終了の報告を行います。これにより、相続財産清算人の役割が完了となるのです。

相続人不存在の手続きにかかる期間・費用

相続人不存在の場合、家庭裁判所に相続財産清算人の選任を申立て、各種手続きを行わなければなりません。申立てから国庫に帰属されるまでにかかる期間と費用をご紹介します。

期間

相続人不存在の手続きは、公告期間だけで6カ月以上かかります。相続財産清算人選任の申立てから実際に選任されるまでの期間や、特別縁故者への財産分与に要する期間などを考えると、実際はさらに長くなるでしょう。

本来であれば、相続財産清算人選任の公告・相続人捜索の公告・債権申出の公告の3つは、それぞれを順番に公告する必要がありました。

しかし、令和5年4月1日からは民法改正により、3つをまとめて公告できるようになっています。これにより、手続き全体の時間が大幅に短縮されました。

改正前 改正後
相続財産清算人選任の公告 2カ月 6カ月以上
相続人捜索の公告 6カ月以上
債権申出の公告 2カ月以上

費用

相続人不存在の場合、相続財産清算人を申立てるための費用が必要になります。申立書に貼る800円分の収入印紙のほか、官報公告に掲載するための費用や郵便切手代が必要です。

費用の詳細は以下をご覧ください。

内容 費用
収入印紙代 800円
郵便切手代 各家庭裁判所により異なる
官報公告掲載料金 5,075円
予納金 数十万~100万円

郵便切手代は各家庭裁判所によって異なるものの、1,500円前後であることが多いです。相続財産清算人の選任を申立てるときに郵便切手代を支払うことで、この料金をもとに裁判所が必要な郵送物を送付してくれます。

また、予納金とは相続財産の清算を行うにあたって、発生する費用をまかなうためのお金です。相続財産が多い場合はそのなかから支払えるものの、相続財産が少ないケースでは予納金として事前に支払う必要があります

相続人不存在に関するよくある質問

相続人不存在に関するよくある質問をご紹介します。

相続人不存在の場合、相続税はどうなる?

誰も相続する方がいない場合、遺産は国庫に帰属するため相続税が発生しません。ただし、遺言により遺贈された場合や特別縁故者が受け取った場合は、それぞれが相続税を納める必要があります。

ここで注意したいのが基礎控除の金額です。通常は「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」により基礎控除額を計算し、相続財産の額から差し引けます。

しかし、法定相続人が1人もいない場合「3,000万円+(600万円×0)」という式になるため、基礎控除額は3,000万円にとどまるのです。

法定相続人が相続放棄をしたことにより相続人不存在になった場合、相続放棄をした方を法定相続人の数に含んで計算しましょう。

相続人不存在の不動産はどうなる?

相続人不存在の遺産のなかに不動産が含まれる場合、相続財産清算人が相続登記を行う必要があります。相続登記とは土地や建物に登録されている名義を変更する手続きです。

本来であれば被相続人名義になっている土地・建物を、相続する方へと変更します。しかし、相続人不存在の場合は誰も相続する方がいないため、財産を法人化して相続財産清算人が管理する必要があるのです。

その後、特別縁故者への分与や債権者への弁済がない場合、法人化した不動産は国庫へと帰属されます。

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