死亡退職金とは?非課税枠や相続税の計算方法について解説

「死亡退職金ってどれくらいもらえるの?」「死亡退職金を受け取れば相続税がかかるのでは?」死亡退職金について、このようなお悩みはありませんか?

死亡退職金は、企業などで現役で働いている方が亡くなったときに、遺族が受け取る退職金のことです。死亡退職金は「みなし相続財産」にあたるため、金額によっては相続税を支払わなければなりません。

この記事では、そもそも死亡退職金とは何かを明らかにしたうえで、非課税枠や相続税の計算方法について解説します。

1分でわかる!記事の内容
  • 死亡退職金は法定相続人が受取人になる
  • 死亡退職金はみなし相続財産なので、相続税がかかる
  • 死亡退職金には、法定相続人1人につき500万円の非課税枠がある

死亡退職金とは

死亡退職金とは、本来であれば働いていた方に支払われた退職金を、本人の遺族等が代わりに受領する金銭をいいます。故人が勤めていた企業に退職金制度がある場合に支給されます。

なお、厚生労働省が実施した平成30年の「就労条件総合調査」によると退職金制度を導入しているのは、約80.5%の企業です。

相場は勤続年数で変わる

死亡退職金の相場は勤続年数により異なります。管理、事務、技術職の勤続年数別の退職金支給額は、平成30年の「就労条件総合調査」によれば、次のとおりです。

勤続年数 大学卒 高校卒
20~24年 1,267万円 525万円
25~29年 1,395万円 745万円
30~34年 1,794万円 928万円
35年以上 2,173万円 1,954万円

勤続年数が長いほど退職金は多くなり、勤続年数が35年以上だと2,000万円前後になります。また、企業や会社規模によっても大きく異なります。

 請求日から7日以内に支払われる

労働基準法では、労働者の死亡による退職の場合、請求から7日以内に賃金を支払わなければならない(第23条)としています。

これにより、退職金に関する規定を定めている企業では、相続人から請求があれば7日以内に死亡退職金が支払われるのです。

ただし、会社の就業規則で退職金の支払い期日が明確に決定されている場合には、支払日は定められた期日になります。

法定相続人が受け取る

死亡退職金は原則として、法定相続人が受け取ります。保険金のように具体的に受取人が指名されているわけではないので、遺産分割協議により分割方法を決定します。

法定相続人とは、民法で定められた相続人です。被相続人(故人)の配偶者は必ず法定相続人となりますが、それ以外の相続人は相続順位によって決まります。相続順位上位の方が法定相続人です。相続順位は、次のとおりです。

順位 被相続人との関係
第1順位 子ども(亡くなっている場合は孫)
第2順位 親(亡くなっている場合は祖父母)
第3順位 兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥姪)

同順位の方が複数人いる場合は、それぞれ対等な法定相続人となりますから、基本的には平等に分割します。

たとえば、被相続人に子どもが2人いれば、配偶者と子ども2人が法定相続人であり、それより下位である親や兄弟は法定相続人ではありません。この場合、配偶者と子どもが死亡退職金を受け取ります。

死亡退職金の受取人は法定相続人だと説明しましたが、規定により受取人が定められていることがあります。その場合、配偶者が受け取ることが多いです。受取人の指定については次の項目で解説します。

規定で定めている例外がある

死亡退職金の受取人は法定相続人となるのが原則ですが、退職給与規定により具体的に受取人が指定されていれば、その方が受取人です。

また退職給与規定で、遺言による受取人の指定を可能としている場合には、遺言で指定された方が受取人になります。

遺言書が存在し受取人の指定があった場合には、会社に退職給与規定を確認したうえで、法的に適正な受取人が会社に支払いを請求します。

相続放棄をしても受け取れる

相続放棄とは、被相続人の権利義務の承継を拒否する意思表示のことです。相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったものとみなされますので、相続財産を受け取れません。

しかし、死亡退職金は被相続人から受取ったものではなく、相続財産には該当しません。受け取りは、受取人個人が持つ権利によるものなので、相続放棄をした相続人でも受け取れます。

死亡退職金はみなし相続財産

死亡退職金は民法で定める相続財産ではありませんが、相続税法上は相続財産とみなされ相続税がかかります。

みなし相続財産は相続で取得したとみなされる財産

みなし相続財産とは、被相続人が生前から所有していた財産ではなく、被相続人の死亡をきっかけとして受け取る財産をいいます。

相続財産ではないので、遺産分割協議の対象にはなりませんが、相続税法上は相続財産にみなされるため、相続税の計算に含めなければなりません。

死亡退職金は、被相続人の死亡をきっかけとして受け取る財産ですから、正当な権利として受け取った相続人は、ご自身の財産にできます。しかし、相続税の申告においては、相続財産に含めて計算しなければなりません。

相続税の課税対象になる分岐点は3年

相続税がかかるのは、故人が亡くなった後3年以内に支給されることが決まった死亡退職金です。

亡くなってから3年を過ぎて受け取った場合は、相続税はかかりません。しかし、所得税がかかるため注意が必要です。

死亡退職金には非課税枠がある

死亡退職金は相続税の課税対象になりますが、非課税枠が設けられています。非課税額内であれば相続税はかかりません

非課税限度額は次のように算出します。

  • 法定相続人の数×500万円=非課税限度額

たとえば、法定相続人が妻、長女、次女の3人である場合、非課税額は3人×500万円の計算により1,500万円になります。

この場合に死亡退職金が1,000万円だとすれば、非課税額内であるため相続税はかかりません。しかし、2,000万円であれば、非課税額を超えるため、オーバーした500万円が相続税の課税対象になります。

死亡退職金にかかる相続税の計算方法

死亡退職金はみなし相続財産に該当しますので、相続税の申告に際しては計算に含める必要があります、ここでは、相続税の計算方法をご説明しましょう。 

相続税は、各相続人の相続財産に対して直接課税されるわけではないので、計算がやや複雑です。

各相続人の課税価格を合計し、そこから基礎控除額を差し引いて課税される遺産総額を算出します。この遺産総額から各相続人の仮の相続税額を計算しましょう。

仮の相続税額を相続した実際の額に応じた割合で分け、本来の納税額を算出します。

このような流れを経て算出するので、受け取った死亡退職金だけを抜き出して相続税の額を算出できないのです。

遺産分割協議で次のような相続をしたケースから、相続税を算出する方法をご紹介していきましょう。次男は相続放棄をしたものの、死亡退職金は受け取っています。

相続人 長男 次男 合計
相続財産 4,000万円 2,000万円 (相続放棄) 6,000万円
死亡退職金 2,000万円 1,000万円 500万円 3,500万円

死亡退職金の非課税額を求める

非課税額は、法定相続人の人数で決まります。相続放棄の有無は配慮しませんから、法定相続人の数に変更はありません。

したがって、非課税額は「3人×500万円」で1,500万円です。それぞれの非課税額は、次の計算式によって求めます。

  • 非課税額×各相続人が受領した死亡退職金額/相続人全員の受領した死亡退職金の額

つまり、実際に受領した死亡退職金の額に応じた割合で分けたものです。ただし「相続人全員の受領した死亡退職金の額」に次男の受領額は含めません。

  • 妻:1,500万円×2,000万円/3,000万円=1,000万円
  • 長男:1,500万円×1,000万円/3,000万円=500万円
  • 次男:相続放棄したため非課税額の適用なし

課税価格を調べる

非課税額が分かれば、各相続人の課税価格を算出し合計します。

相続人 長男 次男 合計
相続財産 4,000万円 2,000万円 (相続放棄) 6,000万円
死亡退職金 2,000万円 1,000万円 500万円 3,500万円
非課税額 △1,000万円 △500万円 (適用なし) △1,500万円
課税価格 5,000万円 2,500万円 500万円 8,000万円

基礎控除額を差し引く

課税価格から基礎控除額を除いて、課税遺産総額を算出します。法定相続人が3人の場合、次のように算出します。相続放棄をしていても相続法定人の人数は変わりません。

  • 8,000万円(課税価格)-3,000万円+600万円×3人(法定相続人)=3,200万円

この計算により、課税遺産総額は3,200万円になります。 

相続税の総額を算出する

法定相続分に応じた仮定の取得金額を算出します。法定相続分は配偶者が1/2、子どもが1/2を人数で分配します。したがって、長男と次男がそれぞれ1/4ずつです。

次男は相続放棄をしていますが、相続税を算出するための仮想額なので、すべての相続人を対象にします。

これを具体的に配分すると次のとおりです。

  • 妻…1,800万円
  • 長男…900万円
  • 次男…900万円

 相続税の税率と控除額は、次の「相続税の税額速算表」によります。

法定相続分に応ずる取得金額 税率 控除額
1,000万円以下 10% 0円
3,000万円以下 15% 50万円
5,000万円以下 20% 200万円
1億円以下 30% 700万円
2億円以下 40% 1,700万円
3億円以下 45% 2,700万円
6億円以下 50% 4,200万円
6億円超 55% 7,200万円

各相続人の仮の相続税額を次のとおり算出します。

  • 妻…1,800万円×15%-50万円=220万円
  • 長男…900万円×10%-0万円=90万円
  • 次男…900万円×10%-0万円=90万円

各相続人の仮の相続税額を合計した400万円が相続税の総額です。

各人の相続税額を算出する

相続税の総額を実際に相続した価格に応じた割合で分けて、各人が納付すべき相続税を算出します。

  • 妻…400万円×5,000万円/8,000万円=250万円
  • 長男…400万円×2,500万円/8,000万円=125万円
  • 次男…480万円×500万円/8,000万円=25万円

次男は相続放棄をしていますが、死亡退職金の一部を取得したので相続税がかかります。

配偶者の税額軽減制度を適用する

相続税では、配偶者の税額軽減制度があります。

被相続人の配偶者が遺産分割や遺贈により実際に取得した遺産額が、次の金額のどちらか多い金額までは配偶者に相続税はかからないという制度です。

  • 1億6,000万円
  • 配偶者の法定相続分相当額

配偶者の相続税は1億6,000万円までは実質的に非課税であり、超えていたとしても法定相続分までは非課税です。

これにより、それぞれの相続税の納付額は次のようになります。

  • 妻…0円
  • 長男…125万円
  • 次男…25万円

ただし、相続税の配偶者控除を使うためには、次の3つの要件を満たす必要があります。 

相続税の配偶者控除を使うために満たさなければならない要件
  • 法律上の配偶者である
  • 相続税の申告書を提出する
  • 遺産分割が確定している

配偶者は被相続人と法律上の夫婦であることが条件になります。つまり婚姻届を提出している戸籍上の配偶者であることを指します。事実婚や内縁関係には適用されません。

相続税が基礎控除の範囲内であれば申告も不要であることから、「納める相続税が0円だから申告も不要」と考えている方もいるでしょう。しかし、相続税の申告をしなければ、配偶者控除の適用を受けられません。

相続税は被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内が申告期限です。それまでに申告手続きをしないと、配偶者控除の適用が受けられないことがあるのです。

遺産分割協議がまとまり、相続人全員で相続する財産の分け方が確定していることも条件になります。そのため、申告に際しては、遺産分割協議書の写しまたは遺言書の写しの提出が求められるのです。

未成年者に適用される控除がある

相続税では、民法上の未成年とされる18歳未満の方に適用される未成年者控除があります。

未成年者控除が受けられるのは、未成年かつ相続財産を取得した時点で日本国内に住所を有する方です。

相続をしたときに日本国内に住所がない方でも、次のいずれかに該当すれば未成年者控除がうけられます。

日本国内に住所がなくても未成年者控除が受けられる要件
  • 日本国籍を有し、相続開始前10年以内に日本国内に住所を有していたことがある方
  • 日本国籍を有し、相続開始前10年以内に日本国内に住所がなかった方(※)
  • 日本国籍を有していない方(※)
※被相続人が外国人または非居住である場合は適用されません

未成年者控除の額は、対象の未成年者が満18歳になるまでの年数に10万円をかけた額です。年数の計算では、1年未満の期間は切り上げて1年として計算します。

例)未成年者の年齢が13歳5カ月
  • 成人するまで:4年7カ月
  • 7カ月を切り上げて1年とするので年数は5年
  • 未成年者控除:10万円×5年=50万円

未成年者控除額が未成年者本人の相続税額より大きい場合、引き切れない部分の金額は、未成年者の扶養義務者の相続税額から差し引けます。

死亡退職金に関する注意点

死亡退職金については、取り扱い上いくつかの注意点があります。 

民法上の相続財産になることがある

死亡退職金の受取人を「被相続人」や「特に受取人の指定なし」にしている場合には注意が必要です。

この場合、死亡退職金は形式上故人の財産と解釈され、民法上の相続財産として扱われます。相続放棄した相続人は、受け取る権利も放棄したことになり、死亡退職金を受け取れません。 

特に注意が必要なのは、受け取ったあとに相続放棄を希望しているケースです。相続人が死亡退職金を受領すると、財産を相続したことになるので、相続放棄ができません。

弔慰金に税金がかかることがある

弔慰金には相続税が非課税になる金額が定められています。

弔慰金とは、故人が勤めていた会社から、一般的な香典などとは別に遺族を慰めるために支給される金銭のことです。あるいは、企業活動に関連する公害により亡くなられた方に支給されることもあります。

弔慰金の意味は多様であり、基本的に弔慰金は非課税です。次の金額を超えると、超過分は退職金などとして扱われ、相続税がかかります。 

  • 業務上の死亡の場合…給与月額の3年分相当額
  • 業務上の死亡以外の場合…給与月額の6カ月相当額

年金での受け取りは非課税枠の対象にならない

死亡退職金を年金で受け取る場合、非課税制度の対象外となるので注意が必要です。

死亡退職金は、一般的には一時金として受け取りますが、企業によっては年金として受け取ることがあります。 

受給者が死亡した場合、遺族は「年金受給権」を承継し、残りの期間の「年金」を受け取れるのです。

「年金受給権」は民法上の相続財産ではありませんが、相続税上はみなし相続財産として相続税がかかります。

しかし、年金受給権は、死亡退職金の一時金とは異なり非課税限度額(500万円×法定相続人の数)の対象にはなりません。

請求は期限内に行う

死亡退職金の請求には期限があります。期限を過ぎると支払われないことがありますから、期限を確認したうえで死後手続きを進めてください。

請求に際しては、次の書類を会社に提出します。

死亡退職金の請求に必要な書類
  • 退職金請求書
  • 亡くなった方の死亡の事実がわかる書類(戸籍謄抄本や住民票の除票等)
  •  請求者と亡くなった方との関係性がわかる書類(戸籍謄本等)

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