相続放棄の申述受理証明書とは?必要な場面や取得方法も詳しく解説

被相続人に多額の借金があって相続放棄を選択したとします。それを知らない債権者が返済を求めてきたら、どうすればよいのでしょうか?

相続放棄は、プラスの財産だけでなく、借金のようなマイナスの財産も引き継がない手続きですから、もちろん返済に応じる必要はありません。これを示す書類が「相続放棄申述受理証明書」です。

相続放棄をした後に要求されるかもしれない申述受理証明書について、必要な場面から取得方法までを詳しく解説していきます。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続放棄申述受理証明書とは相続放棄が受理された事実を証明する書類
  • 債権者に主張するときや相続登記の際などに使用する
  • 家庭裁判所への申請で、何度でも何枚でも発行が可能

相続放棄申述受理証明書とは?

仮に相続放棄をしたとしても、第三者にはその事実が分かりません。相続人を示す書面は被相続人戸籍などですが、相続放棄の事実は戸籍からは読み取れないからです。

そこで、相続放棄の事実を第三者に示す書面が必要になります。これが相続放棄申述受理証明書です。

相続放棄した事実を証明する書類

相続放棄申述受理証明書とは、相続放棄の申立てをして、それが受理された事実を利害関係者に証明するために用いる書類です。

仮に被相続人が多額の借金を負っていたことから相続放棄をしたとしても、債権者にはその事実が分かりません。相続放棄が受理されているにも関わらず、「被相続人の債務を相続した」という認識のもとに弁済を求められるかもしれないのです。

このような場面で、「債務を弁済する義務を放棄した」ことを明らかにする必要が生じます。

相続放棄受理通知書との違い

相続放棄の申立てが受理された段階で、家庭裁判所から送られてくるのが相続放棄受理「通知書」です。

似た書類ではありますが、これは家庭裁判所から申述した本人に対して送られる、申述が受理されたことをお知らせする書類です。

一方の相続放棄申述受理「証明書」は、その事実を第三者に証明するために取得する書類です。

つまり、通知書は何のアクションをせずとも裁判所から送付されるのに対して、証明書は自ら能動的に申請しなければ取得できません

どちらも「相続放棄が認められたこと」を表す書類ですが、「お知らせ」と「証明」という違いがあります。証明書は必要に応じて複数枚でも、何度でも取得できますが、通知書はお知らせであるため1度しか発行されません。

このため原本を求められるケースでは、証明書を取得する方が得策といえるのです。

相続放棄受理通知書相続放棄申述受理証明書
取得方法・裁判所から送付される
・1度きり
・ご自身で申請
・必要に応じて複数枚、何度でも取得可能
内容申述が受理されたことをお知らせ相続放棄した事実を第三者に証明する

相続放棄の受理証明書を使う場面

相続放棄申述受理証明書を使う場面は、ご自身が相続放棄したことを他の相続人やその手続きに関わる人、さらに債権者などの利害関係者に対して明らかにする必要があるときです。

相続関係を証明する書類、つまり戸籍などには、相続放棄の事実はどこにも記載されません

「相続人であること」を明示する場合には、被相続人の出生から死亡に至るまでの戸籍が必要とされます。出生や結婚の記載をもとに被相続人の家族関係を明らかにし、相続順位に従って相続人であることを特定するのです。

被相続人の家族関係を証明する戸籍と、それに対応する相続人の戸籍を照合することによって、第三者が「相続人であること」を把握します。

しかし、戸籍から得られる情報だけでは、相続放棄によって相続人が変わった事実を認識することができません。

法定相続人の1人が相続放棄をしたことで遺産分割の割合が変わった場合も、先順位の法定相続人が相続放棄をしたことで後順位の人が相続人となった場合も、戸籍からは読み取れないのです。

このような場面で、「相続人ではないこと」を示す証しとして機能します。

債権者に相続放棄を証明するとき

具体的な事例をあげれば、債権者に対して「返済の義務がないこと」を証明するときが挙げられます。

被相続人が借金を抱えて亡くなった場合、何もしなければ相続人がその借金を返済する義務を相続します。つまり、返済の義務は相続人に引き継がれるのです。

当然、債権者は相続人に対して債務の弁済を求めるでしょう。法定相続人が相続を放棄をした事実は債権者には分かりませんから、相続放棄をした本人にも返済を求める通知などが来ることも考えられます。

しかし、相続放棄をした人は、すべての権利・義務を放棄した人ですから、被相続人が負っていた債務を弁済する義務はありません。

それを証明する手段が、相続放棄申述受理証明書なのです。

不動産の相続登記をするとき

相続財産に不動産が含まれていた場合には、相続による所有権の移転登記をしなければなりません。その際にも、相続放棄によって遺産分割割合が変わったことの根拠が要求されます。

誰かが相続放棄をすると、他の相続人が取得する遺産の割合や、相続順位にも影響を与えます。このため相続人が取得した財産に関わる手続きをする際にも、「相続放棄をした人がいる」という事実を明らかにしなければなりません。

相続登記は、法定相続分遺産分割協議書の合意内容、遺言などに基づいて、所有者を登記する手続きです。通常の場面では、相続人を証明する戸籍などの書類や、遺産分割協議書などを根拠として申請します。

しかし、相続放棄をした人はすべての遺産の権利・義務を失いますから、遺産に含まれる不動産の権利も手放したという扱いです。遺産分割協議にも参加せず、遺産分割協議書に署名・捺印をする立場でもありません。

戸籍や遺産分割協議書からは読み取れない相続放棄の事実を登記官に示すため、「相続放棄があったことにより、法定相続人や法定相続分と異なる登記を申請することになった」という根拠が必要なのです。

実際には、不動産の相続登記に関しては、相続放棄申述受理通知書でも代用できるケースがほとんどです。しかし原本を提出する必要が生じるため、登記申請の段階で相続放棄申述受理通知書の原本還付請求をしなければなりません

原本還付請求の方法は、相続放棄申述受理通知書のコピーに「原本と相違ありません」と記載して原本とともに提出するという流れです。

ただし、原本はその場で返却されるわけではありません。登記が完了するには2週間程度の期間を要するため、他の手続きなどでも通知書の原本が必要な場合などを考慮すると、相続放棄申述受理証明書を手に入れておいた方が安全ともいえます。

金融機関で手続きをするとき

金融機関で口座の解約や名義変更を行う際にも、相続放棄申述受理証明書が必要になる可能性があります。

この理由は相続登記の場合と同様で、相続放棄によって変更が生じた相続関係を証明するためです。

相続放棄をした本人が被相続人の口座に関する手続きを行うことはありませんが、他の相続人がこれらの手続きをする際に、提出を求められることがあります。

例えば、被相続人の証券口座を、相続人の1人に名義変更する場面を想定してみましょう。

遺産分割協議で決めた特定の相続人が株を取得することになったため、被相続人の口座を自分名義に変更しようと思ったら、その根拠を示す書類として遺産分割協議書や相続関係を示す戸籍などが求められるでしょう。

当然のことながら、遺産分割協議書には相続放棄をした人の名前はありません。その一方で、戸籍から明らかになる情報では、相続放棄をした人も法定相続人に該当しています。

この矛盾を解消するための証拠として、相続放棄申述受理証明書を求められる可能性があるのです。

相続放棄申述受理証明書の取得方法

相続放棄申述受理証明書を取得する場合には、ご自身が相続放棄の申立てをした家庭裁判所に対して発行を申請します。

窓口で請求する以外にも、郵送などでも申請が可能です。

証明書取得までの流れ

相続放棄申述受理証明書を取得するためには、まず前提として相続放棄が認められていなければなりません。相続放棄の熟慮期間は3カ月ですから、その期限までに相続放棄の手続きを完了しなければならないのです。

被相続人が亡くなってから相続放棄の手続きを済ませ、申述受理証明書を取得するまでの大まかな流れは次の通りです。

申請書の取得方法

相続放棄申述受理証明書は、家庭裁判所への申請で取得できます。家庭裁判所の窓口で申請するほか、郵送による申請も可能です。

また、相続放棄をした本人だけでなく、相続人や利害関係者なども請求できます

窓口で手続きをする場合には、申請書に必要書類と発行手数料に相当する印紙を揃えて提出するだけで足りますが、郵送の場合には返信先を記載し切手を貼った返信用封筒などを同封する必要があります。

申請に必要な書類と費用

相続放棄申述受理証明書を取得する際には、申請書に必要書類を添えて提出します。発行手数料は1枚につき150円で、印紙を貼付して支払います。

ただし、申請を受け付ける裁判所によって、申請書の名称や書式、必要書類などが異なるケースもあり得ます。詳しくは申請先の家庭裁判所に問い合わせてみると良いでしょう。

基本的な必要書類は次の通りです。

申請に必要な書類
  • 相続放棄申述受理証明申請書
  • 収入印紙(1枚につき手数料150円分)
  • 相続放棄申述受理通知書(郵送の場合は写し)
  • 申述人本人の身分証明書(郵送の場合は写し)
  • 切手を貼った返信用封筒(郵送の場合)

ただし、本人以外が請求する場合には、これに加えて利害関係者であることを証明する書類が必要です。

具体的には、相続人であることを証明するための戸籍類や、受遺者であることを示す遺言書などがこれに当たります。債権者であれば、被相続人との間に結ばれた金銭消費貸借契約書などが該当するでしょう。

相続放棄申述受理証明書に関する注意点

相続放棄申述受理証明書は、実際に相続放棄をした方以外には、ほとんどなじみのない書類でしょう。仮に相続放棄を経験したとしても、必ずしも本人が必要とする書類ともいえません。

とはいえ相続放棄によって遺産分割割合に影響が生じた方や、順位が繰り上がったことで相続人になった方が、この書類を必要とすることもあるでしょう。

このような場面でのトラブルを避けるため、注意点を確認しておくことが大切です。

申述受理通知書に記載の事件番号が必要

相続放棄申述受理証明書を発行してもらう際には、通知書に記載された「事件番号」が必要です。申述受理通知書をなくさないように注意しましょう。

通知書を紛失してしまい事件番号がわからない場合、家庭裁判所へ「相続放棄・限定承認の有無の照会」をしなければなりません。

通知書は相続放棄をした本人にしか届かない書面です。そのため、相続人や利害関係者が相続放棄申述受理証明書を家庭裁判所に申請する際には、事前に本人に事件番号を確認するか、照会手続きを経なければなりません。

交付までには日数を要する

相続放棄申述受理証明書の発行を窓口で申請しても、即日で発行されるとは限りません。急を要する場合には注意が必要です。

詳しい日数などは申請先の家庭裁判所によって異なるケースがありますから、事前に電話などで確認すると良いでしょう。

相続放棄申述受理証明書に関するよくある質問

さらに相続放棄申述受理証明書に関するよくある質問をチェックして、より理解を深めておきましょう。

相続放棄した本人以外も申請できる?

相続放棄申述受理証明書を手に入れることができるのは、相続放棄をした本人だけに限定されません。その相続で相続人となった方や、被相続人に対してお金を貸していた債権者など、利害関係者であれば請求できます

そもそも証明書を必要とする場面が生じるのは、他の相続人や利害関係者であることがほとんどでしょう。

ただし同じ被相続人の相続に関して、すでに相続放棄をした方は、請求する権利がなくなることには注意しましょう。相続放棄をすると「初めから相続人ではなかった」とみなされるため、利害関係者として証明書を取得する根拠が認められなくなるからです。

つまり、家族全員で相続放棄をしたからといって、1人が代表して全員分の証明書を申請することはできません。

相続放棄申述受理証明書はいつまで取得できる?

相続放棄に関する情報の保管期限は30年です。それを過ぎると証明書の発行や情報の照会ができなくなります。

とはいえ債権の時効は5~10年ですから、現実的には、30年経過後にこれらの手続きが必要になるケースは考えにくいです。あるとすれば、放置していた相続登記を行う場合など、特定のケースに限られるといえるでしょう。

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