相続登記に期限は?義務化の内容や放置するデメリットを解説

相続財産のあぶり出しや分割協議に時間がかかり、相続登記の期限に間に合わないのではと不安を抱いている方もいるでしょう。締め切りをすぎて罰則を受けたり追徴金の支払いを求められたりしては困りますよね。

2023年9月現在、相続に伴う所有権の移転登記には期限がありません。しかし法改正の影響を受け、2024年4月1日から期限付きで所有権移転登記が義務化されます。

今回は相続登記義務化の詳細や、相続登記をしないと被るデメリットなどを解説します。

1分でわかる!記事の内容
  • 2024年4月1日から相続登記は義務化
  • 相続の事実を知った日から3年以内に所有権移転登記が必要
  • 施行以前に取得した土地も義務化の対象であることに注意

現状では相続登記に期限はなく義務でもない

相続登記に期限はなく義務でもありません。怠ったからとはいえ、罰則を受けることはないのが特徴です。

そもそも相続登記とは、相続した不動産の名義を被相続人から相続人へ書き換えるために必要な行為です。手続きを済ませると登記簿に土地や建物の所有者が明記され、第三者に対して所有権を主張できるようになります。

法務局の登録を受けることで、売買や担保権の設定など不動産の利活用が進むため、相続登記の手続きは重要な行為だと考えられています。

今までは費用の負担や手続きの手間を避けるため、登記を行わない人も多数見受けられました。しかし今後は法改正に伴って、扱いに変更が生じるので留意してください。

2024年4月から相続登記が義務化

2024年4月1日から、今まで任意の対応が認められてきた相続登記が義務になります。相続を理由に不動産を取得した人は、相続の事実を知った日から3年以内に名義変更を行わないといけません。

期限に遅れる、または無視して対応しない場合、罰則として10万円以下の過料が科されてしまいます。これから相続に関わるなら知っておきたい相続登記義務化の仕組みや特徴をご紹介します。

背景は所有者不明の土地の増加

相続登記が義務付けられた背景には、所有者が分からない、または名義人は誰か分かるけども対象者と連絡が取れない「所有者不明」の土地の増加が挙げられます。名義人が不明だと売買や公共事業の開発などを行えず、国土の有効活用の観点で好ましくありません。

日本全国におよぶ所有者不明の土地を合わせると、九州以上の広さになるとも言われ、もはや国家レベルの問題の一つと言っても過言ではない状態です。所有者不明の土地の減少および土地の利活用の促進を目的に、相続登記の義務化に踏み切られたのです。

罰則は10万円以下の過料

相続による不動産の取得を知った日から正当な理由なく3年間、名義変更の手続きを行わない場合、10万円以下の過料が課されます。

相続は個々の事案であり、相続人の範囲や関係性、対象の土地などはさまざまです。一概にどのような状況で「正当な理由がない」と言えるか判断が難しいでしょう。

法務局のHPでは次の通り、相続登記をしないことに正当な理由があると判断できる状況を示しているので、参考にしてください。

相続登記をしないことに正当な理由があると判断できる状況
  • 相続関係が複雑かつ多様で、戸籍等の資料収集や他の相続人の把握に時間を要する場合
  • 遺産の範囲や遺言の正当性に争いが生じている場合
  • 申請義務のある相続人が重病等の特別な事情が認められる場合

義務化以前に相続した土地も対象

今回の法改正で注意が必要なのは相続登記義務化の対象となるのは、施行後に相続した土地に限らないことです。施行前に相続で取得した土地も、3年以内には所有権移転登記を行わねばいけません。

期限の起算点は相続の事実を知った日、または施行日のいずれか遅い日でよいとされます。施行後3年以内に一律で登記を間に合わせる必要はありません。

相続登記義務化のポイント

相続登記の義務化では3年以内の所有権移転登記だけでなく、住所変更登記や名義変更時の所有者情報提供の義務化も行われます。変更点を漏れなく正しく理解するために、新たに義務が設けられた手続きの具体的な内容を解説します。

3年以内の相続登記の義務化

相続(遺言による取得を含む)によって土地や建物を取得した方は、相続の事実を知った日から3年以内に登記申請を行う必要があります。遺産分割協議を伴う場合、3年の起算点は協議が成立した日なので注意してください。

相続の事実を知らない期間は、3年以内に含まれません。相続人が複数名におよぶ場合、相続人ごとに判断するのではなく、最も遅く認知した日からカウントが開始されます。

住所変更登記の義務化

今回の制度改正では、相続に伴う名義変更以外にも、所有者の住所や氏名に変更があった場合も義務化の対象です。名義人が現在どこに住んでいるか分からず、所有者に接触できないことも所有者不明土地の一因と考えられるためです。

売買や転居、婚姻などの事情で住所・氏名に変更が生じた時は変更日から2年以内に登記簿情報の変更登記が必要です。正当な理由なく期限までに手続きをしない場合、5万円以下の過料が科されます。

施行日前に事実が生じていた場合の扱いは相続登記と同様です。施行日から2年以内であれば氏名や住所の変更日から2年が経過していても、罰則の対象にはなりません。

住所変更登記の義務化が始まるのは令和8年4月からとされ、相続登記の義務化と開始時期が異なることに注意しましょう。法務局の職権による住所変更登記も改正事項の一つです。

住民基本台帳ネットワークシステムや、会社情報を管理する法人専用登記システムで変更の事実を確認できたときは、登記官の判断で変更登記を行えます。なお、変更にあたり名義人への意向確認と本人からの申し出が必要です。

名義変更時の所有者情報提供の義務化

3つ目の改正点は新たに不動産の所有権を取得した場合、名義変更の登記の際に申請者の氏名や住所、生年月日等の情報提供が義務付けられることに注意が必要です。生年月日は登記簿に記載される情報の一種ではありませんが、法務局の内部確認用の資料として、登記官が住基ネットで名義人等を検索する際に活用されます。

不動産の取得者が海外に居住する者の場合、名義人の情報に加えて、国内の連絡先の氏名や住所等の提供が必要です。

なお施行日前に自己が所有している土地の場合、名義人の任意で「不動産の特定に必要な情報」「自己が登記名義人だと証明する情報」「検索用の情報」を提供することも可能です。

相続登記をしないデメリット・リスク

義務化が始まる2024年4月1日までに、登記を済ませればよいと考えている方もいるかもしれません。しかし公的に土地や建物の所有者が明らかではない状態が続くのは好ましいことではなく、できる限り早急に手続きを済ませるべきだといえます。

相続登記をしないとどうなるか詳しく解説します。

不動産の売却や利活用ができない

名義人が被相続人のままの不動産は、売却やローンの担保にできません。売買で他人に土地を売り渡す際には、代金の決済とともに所有権の移転登記が行われるのが通常です。

売主と登記名義人が一致しないと、買い手側では本当に自分のものになるか分からないため、取引は成立しないでしょう。相続登記が未了のままでは、不動産を担保とした金融機関からの借り入れも認められません。

返済が滞った時の代金回収の手段として抵当権を設定して、万一の場合に備えられないためです。相続人は自分名義の不動産がないと、担保に入れて金融機関から融資を受けられないといえます。

以上の通り、相続登記が未了では思うように相続した財産を利活用できません。将来的に売買等を考えているなら、すぐに登記手続きを行い、自分が名義人だと対外的に証明しましょう。

遺産分割が困難になる

相続登記が未了の土地を放置すると、所有権がある関係人の数が増えていきます。遺産分割協議は相続人全員の同意が必要なので、時が経つほど協議を完了させるのが困難になります。関係者の数が多いほど、話し合いがまとまる時間は長期化する傾向にあるでしょう。

放置している間に相続人が認知症等を発症し、認知能力が低下する可能性もあります。遺産分割協議は法律行為の一種のため、参加には意思能力が必要です。

病気や障害を理由に判断に必要な能力を失ってしまうと、協議を前に進めるには後見人を選定する必要があり、その手続きでさらに時間を要します。放置によって行方不明者の発生リスクが高まることにも注意しましょう。

連絡先が分からない、住民票上の住所に住んでいないなどの事情があっても、遺産分割協議の対象からは除外できません。行方不明者がいると代理人として不在者財産管理人を選任する必要があり、スムーズに協議を進めることが難しくなります。

時が経つほど権利関係が複雑になる

相続登記をしない状態で放置されると、相続人が死亡して新たに相続が発生する可能性があります。当初は子ども3人の共有で所有していたのに1人が死亡して妻や子どもへの代襲相続が生じ、所有者が増える場合があります。

相続人が増えるほど権利関係が複雑になり、相続人同士で面識がない連絡先も分からない等の問題が生じます。

登記に必要な書類の取得が難しくなる

相続登記に必要な被相続人の住民票や戸籍等の書類は、役所での保存期間が定められています。すでに役所側で必要な書類が廃棄されてしまい、手続きを進めるのが難しくなる恐れもあります。

ただし令和元年に施行された住民基本台帳法の一部改正によって、住民票の除票や戸籍の附票の保存期間が150年に延長になりました。従前の5年と比べて著しく期間が伸びたため、登記の必要書類が取得できない危険性は減ったといえます。

とはいえ放置を続けると火災や地震等の天災に伴う庁舎の消失・破壊などのリスクが高まります。

債権者による差し押さえリスクがある

他の相続人に借金がある方がいると、相続した土地や建物が債権者から差し押さえを受ける可能性があります。債権者は債務者が保有する財産の法定相続分を差押登記することで、権利を取得できます。

例えば競売に出して換価した代金を弁済に充てることが可能です。遺産分割協議で特定の相続人が単独、または法定相続分を超える権利を取得すると決まっても、相続登記が完了していないと対外的にその事実を主張できなくなります。

債権者による差し押さえを受けた場合、債務者の法定相続分の権利を証明できず、所有権を失いかねません。

相続登記の手順

相続登記を自ら行う際の手順は次の通りです。

  1. 必要な書類を収集する
  2. (遺言がない場合)誰がどの遺産を相続するか決める
  3. 法務局に登記申請書を提出する

それぞれ必要書類や手続きのポイントなどを解説します。

1.必要な書類を収集する

相続登記で必要な書類は次の通りです。

相続登記で必要な書類
  • 被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票
  • 不動産の登記事項証明書
  • 固定資産税評価証明書
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 相続関係説明図
  • 登記申請書
  • 遺産分割協議書

被相続人が実際に亡くなったと証明する書類として、戸籍謄本や住民票の除票が必要です。合わせて相続人全員の戸籍謄本や相続関係説明図などの、相続人と被相続人が関係を有していたと確認できる書類の収集も求められます。

2.誰がどの遺産を相続するか決める

次に不動産を譲り受ける相続人や持分などを決めましょう。遺言書があれば遺言に沿って、被相続人の意向が尊重されますが、実際には遺言を残さずに亡くなってしまう状況は珍しくありません。一般的には相続人全員の話し合いによる遺産分割協議が行われます。

当事者間で合意に至りさえすれば、法定相続分に関わらず任意で誰がどの財産を取得するか決められます。遺産分割協議には期限がなく、話し合いがまとまらないことでペナルティが生じる危険はありません。

しかし相続税の申告・納付期限や上述した相続登記義務化の改正を考慮すると、早めの対応が求められます。

3.法務局に登記申請書を提出する

法務局に対して遺産分割協議の内容を反映した登記申請書を提出します。相続登記の申請書に特定のフォーマットはなく、以下に示す必要事項の記載があれば問題はありません

相続登記の申請書に記載する必要事項
  • 登記の目的
  • 原因
  • 相続人
  • 添付情報
  • 申請日および申請先の法務局名
  • 課税価格および登録免許税
  • 不動産の表示

書式が何でもよいと言われるとかえって迷いが生じ、作成に時間がかかる方もいるかもしれません。法務局のHPで書式をダウンロードできるので、不安な方は利用をおすすめします。

記載例もあるため、サイトを見ながら作成すればミスを防げるでしょう。


相続登記で使用する書式は「所有権移転登記申請書(相続・公正証書遺言)」「所有権移転登記申請書(相続・自筆証書遺言)」「所有権移転登記申請書(相続・法定相続)」「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」です。

相続登記は遺産分割協議による相続、法定相続分による相続、遺言書による相続の3パターンに分かれ、それぞれフォーマットや添付書類が異なることに注意が必要です。

登記申請書の添付書類(添付情報)は原本の提出が原則的な扱いとなります。住民票の写し等でも役所から受け取った書類をそのまま提出してください。

相続登記はいくらかかる?費用一覧

相続登記でよくある疑問の一つが、いくら費用がかかるのかという点です。端的に費用の項目と相場をまとめたのでぜひご覧ください。

相続財産の調査費用 2,000円~3,000円
登記に必要な書類の収集費用 1万円~3万円
登録免許税 対象不動産の固定資産税評価額×0.4%

相続財産の調査費用とは故人の保有不動産の一覧が分かる名寄帳や、不動産の評価額の確認に必要な固定資産評価証明書の取り寄せなどに伴う費用です。

さらに戸籍や住民票等、登記申請書に添付する書類の取得も必要です。相続人の数が多くなるほど取得費用はかさむでしょう。

登録免許税は相続に限らず、土地や建物の名義を移転する際に必要な手数料です。対象不動産の固定資産税評価額に所定の税率を乗じて算出するため、納税額は評価額に応じて変化します。司法書士に相続登記の手続きを任せる場合、別途で報酬の支払いが必要です。

法律等で報酬の基準が決められているわけではなく、事務所ごとに料金に違いがあります。一般的に相続調査や登記に必要な書類の収集と比較して、司法書士に対する報酬のほうが高い傾向にあります。

時間や手間の節約が期待できる反面、費用の負担は大きなデメリットです。

相続登記ができないよくある理由

相続登記を行う意思があるのに何らかの障害や問題が生じていて、手続きが進まないこともあります。遺産分割協議がまとまらない、不動産の所在が把握できない、相続人が行方知らずなどが代表的な理由です。

遺産分割協議がまとまらない

遺産分割協議は当事者の話し合いに委ねられるのが原則なので、相続人同士で口論が生じて、議論が前に進まないことが多々あります。高価な不動産や貴金属が相続財産に含まれていると、所有権や分割方法を巡って口論が生じるケースも見受けられます。

また被相続人に再婚歴がある場合、前妻と後妻の間をはじめ、相続にかかる争いが勃発する可能性もあるでしょう。遺産分割協議がまとまらない状態が続くと、二次相続が発生し、さらに事態が混沌を極める恐れもあります。

被相続人所有の不動産が把握できない

被相続人が自分ひとりで土地を管理していた場合、家族すらも知りえない隠し財産があり、相続人がすべての不動産を把握し切れていない状況が起りえます。

ほかにも被相続人が地方の大地主等で、自己所有の土地が至るところに点在し、相続人の自力の調査では所在を掴み切れない場合もあるでしょう。自宅に送られる固定資産税納税通知書だけでは共有物件が一覧から漏れている可能性があります。

被相続人所有の不動産が把握できていない場合、一か八かで相続登記を進めるのは避けましょう。以後新たに被相続人名義の土地が出てきた時、固定資産税の延滞金を支払う必要があるためです。司法書士等の専門家に相続調査を依頼すべき事案といえます。

相続人の行方が分からない

とくに相続登記未了の状態が何代にもわたり続く場合、相続人の行方が分からず、遺産分割を進めようにも進められない時があります。相続調査の結果、行方知らずの人がいると分かったら、まず行方不明者の住所の特定に努めましょう。

相続人の戸籍謄本や戸籍の附表を取得すれば、公的な記録上の住所を把握できます。連絡先が分からなくても居場所を突き止めることは可能です。次に手紙を送付し、相続が発生したことおよび遺産分割協議が必要な旨を伝え、接触をはかりましょう。

相続人申告登記制度の利用もおすすめ

相続登記の義務化によって今まで放置してきた土地の相続手続きを余儀なくされ、頭を抱えている方もいるでしょう。遺産分割協議がまとまらない、相続人の行方が分からない等で手続きを進められない方に、ぜひ検討してほしいのが相続人申告登記制度です。

相続人申告登記制度はある不動産の登記簿上の所有者について、相続が開始した旨および自らが所有権を有する旨を申し出ることで、相続登記の義務を果たしたとみなされる制度です。所有権移転を対外的に証明するための簡易的な仕組みで、共有不動産でも相続人が単独で行えます

最終的には遺産分割協議をとりまとめ、正式な相続登記が必要となりますが、時間がない方にはおすすめです。

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