推定相続人とは?法定相続人との違いや相続廃除・欠格について解説

「推定相続人」という言葉を聞くと「法定相続人とどう違うのかな?」と思う方もいるのではないでしょうか?

実は、推定相続人と法定相続人はほぼ同じ意味です。ただ、推定相続人は推定被相続人(財産を遺すはずの人)が亡くなる前に、今、相続が発生したら相続人になるはずの人のことです。

それに対して、法定相続人はすでに相続が発生している状態で、相続人になるはずの人のことをいいます。つまり、被相続人の生前と死亡後で呼び名が変わるのです。

1分でわかる!記事の内容
  • 推定相続人は被相続人が亡くなったら法定相続人となるはずの人
  • 相続欠格や廃除、相続放棄があるので、すべての推定相続人が相続人になるわけではない
  • すべての推定相続人を把握するには、被相続人のすべての戸籍の確認が必要

この記事の監修者

田中・大村法律事務所


田中 陽平/弁護士

京都大学法学部卒業。平成25年1月に弁護士登録。姫路市内の法律事務所で3年間勤務し、平成28年に同市内で独立開業。交通事故・家事事件のほか、個人事業主・中小企業・損保会社等の顧問業務を行っております。

推定相続人とは

推定相続人とはどういう意味なのか、推定相続人になれるのは誰なのか、法定相続人との違いについて解説します。

推定相続人の範囲

推定相続人とは、もし現在、相続が発生したら(推定被相続人が亡くなったら)法定相続人になるはずの人です。相続が発生する前なので、「推定」という言葉が付きます。

推定相続人と法定相続人・相続人の違い

推定相続人と似たような言葉で「法定相続人」や「相続人」という用語もあります。それぞれどのような違いがあるのか見てみましょう。

推定相続人と法定相続人はほとんど同じ意味で、相続が発生する前は推定相続人、相続が発生した後は法定相続人といいます。法定相続人は民法が決めた相続人で、法で定められているので「法定」といいます。

相続人は実際に相続することが決まった人のことです。つまり、すべての法定相続人(推定相続人)が相続できるわけではないのです。

相続人みずから相続を放棄することもありますし、相続欠格(特定の事由が必要)によって相続から外されたり、遺言で相続から廃除されたりといった場合もあります。

推定相続人の範囲と順位

では、どういった関係者が推定相続人になれるのかを見てみましょう。

配偶者相続人と血族相続人

まず、被相続人の配偶者は常に推定相続人(配偶者相続人)になります。

つまり、夫や妻は離婚しない限り、常にお互いの推定相続人です。そして、配偶者と共に推定相続人になるのは血縁者(血族相続人)に限られます。

推定相続人
血縁者の順位
  • 第1位:子ども
  • 第2位:両親・直系尊属
  • 第3位:兄弟姉妹

2位・3位の血縁者は上位の血縁者が存在しない場合に限り、推定相続人になります。配偶者がいない場合は血族相続人のみになります。

血族相続人の順位

相続順位1位は子どもです。「子ども」には以下のようなケースも含まれます。

  • 非嫡出子(結婚していない男女の間に生まれた子ども)
  • 離婚した相手が養育している子ども
  • 普通養子縁組で養子に出した子ども
  • 配偶者の連れ子で、推定被相続人と養子縁組をしている子ども
  • 特別養子縁組で推定被相続人と養子縁組をしている子ども

代襲相続

すでに推定相続人が亡くなっている場合は代襲相続が認められ、その子どもや孫(直系卑属)が推定相続人になります。

推定被相続人には第1順位の子どもがいても、すでに亡くなっていて孫(子どもの子ども)がいる場合は、その孫が推定相続人となります(代襲相続)。さらに孫も亡くなっていて、ひ孫がいる場合は、ひ孫が推定相続人です(再代襲相続)。

子どもがいない場合は、第2順位の両親・直系尊属が推定相続人になります。その際に、両親がすでに亡くなっていて、祖父母・曽祖父母が存命の場合は祖父母・曽祖父母が推定相続人となります。

代襲相続とは異なりますが、推定被相続人に親等が近い順に推定相続人になります。

第3順位の兄弟姉妹が推定相続人であるケースで、すでに兄弟姉妹が亡くなっている場合は、その子である甥・姪が推定相続人になります。兄弟姉妹には再代襲相続は認められません。

連れ子・非嫡出子の手続き

配偶者の連れ子や、結婚していない男女の子ども(非嫡出子)も推定相続人となりますが、以下の点に注意する必要があります。

配偶者の連れ子が推定相続人になるためには、推定被相続人との間で養子縁組を交わしている必要があります。

非嫡出子は「認知」されていなければ、父の推定相続人になれません。認知とは結婚していない男女間に生まれた子どもの、父を特定するための手続きです。母は出産という事実があるため、認知する必要はありません。

推定相続人が相続できないケース

推定相続人であっても、以下のようなケースでは相続ができません

遺言書がある

推定被相続人が亡くなり、遺言書で相続人を指定している場合です。推定相続人の中の誰か1人にすべて相続させる、または、推定相続人以外の人に遺贈するといったことが考えられます。

配偶者・子ども・直系尊属には遺留分といって、遺産の一部を請求する権利が認められていますが、兄弟姉妹には遺留分請求権はありません。遺留分は相続人が誰かによって割合が変わります。

たとえば、推定相続人が配偶者と子ども2人で、遺産が4,000万円の法定相続分は以下のようになります。

遺留分の配分
配偶者の遺留分
  • 法定相続分(遺産の1/2)×1/2=1/4
  • 4,000万円×1/2×1/2=1,000万円

子どもの遺留分(1人分)
  • 法定相続分(遺産の1/2÷2人)×1/2=1/8
  • 4,000万円×1/2÷2×1/2=500万円

相続廃除された

相続廃除された場合も相続できません。廃除とは推定被相続人が自分の意思で、推定相続人の誰かを相続から廃除することです。

推定被相続人の意思が必要な点で相続欠格とは異なります。廃除するには民法に定められた事由がある場合に限られます。

相続廃除の方法

相続廃除の方法は、被相続人が生前に廃除請求をする「生前廃除」と、遺言書で廃除の意思を明記する「遺言廃除」があります。廃除される推定相続人は遺留分を請求する権利のある者のみです。

遺留分がない推定相続人(兄弟姉妹)は遺言書で「相続させない」ことを書いておけば、相続できなくなるため、廃除する必要がないからです。廃除された推定相続人に子どもや孫がいる場合は、代襲相続・再代襲相続が認められます。

相続廃除の理由

相続廃除するには民法892条で定められた事由に該当していなくてはなりません。

民法892条では「前略~被相続人に対して虐待し、若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき、又は推定相続人にその他の著しい非行があったとき~後略」と規定しています。

具体的には以下のような事情があれば、廃除の理由になると考えられます。

  • 激しい暴力やモラハラがある
  • 莫大な借金を肩代わりさせた
  • 犯罪を犯して、家族に迷惑をかけた
  • 配偶者がいるのに、長期間または何度も浮気をした
  • 家族の預金を勝手に使った

相続廃除の手続き

被相続人が生前に廃除を決める場合は、その旨を家庭裁判所に申立てしなくてはなりません。推定被相続人と推定相続人の関係性が改善した場合などは、被相続人が家庭裁判所に廃除の取消しを求めれば、取り消せます。

遺言書で廃除する場合は、遺言執行者が家庭裁判所に相続排除の申立てをしなくてはなりません。その場合、被相続人の死亡時に遡って、廃除の効力が生じます。

廃除については申立てしたからといって簡単には認められるものではなく、相続権という重大な権利を否定するだけの根拠が必要です。

相続欠格者である

以下のような事由があるときは相続欠格が認められ、ただちに相続権を失います。

相続欠格は相続人だけではなく、受贈者(遺言で遺産を譲られた者)にも当てはまります。また、相続廃除と異なり、被相続人の意思や家庭裁判所への申立ては必要ありません

  • 被相続人などを殺害した・殺害しようとしたことで、実刑に処せられた
  • 被相続人が殺害されたのを知りながら告発しなかった
  • 被相続人を脅迫したりして、遺言書を書き換えさせた
  • 被相続人が遺言書を書き換えようとしているのを妨害した
  • 遺言書を偽造したり、勝手に書き換えたりした

相続欠格になると、遺留分は認められません。しかし、子どもがいる場合は代襲相続が認められます。

相続欠格の手続き

相続欠格には家庭裁判所への申立ては必要ありませんが、相続登記には相続欠格を証明するものが必要です。相続欠格に該当する本人が署名した「相続欠格証明書」および印鑑証明書を提出しなくてはなりません。

さらに、被相続人を殺害しようとしたなど犯罪を犯した場合は、確定判決の謄本を添付するなどします。

相続欠格者が相続の権利を主張してトラブルになることも考えられます。そのような場合は、訴訟になることも覚悟しておきましょう。

推定相続人を調査するには

およその相続財産を把握するためには、誰と誰が推定相続人になるのか、または他に推定相続人がいないか、すべての推定相続人を把握しておく必要があります。

推定相続人を調査する方法は、推定被相続人の戸籍謄本・除籍謄本を見て確認します。

被相続人の戸籍謄本を確認

推定被相続人が生まれてから現在に至るまでの、戸籍謄本を確認します。結婚や転籍すると現在の戸籍謄本には過去の情報は載っていないからです。順序としては最新の戸籍から過去へ遡っていくのがよいでしょう。

本籍地の市区町村役場の窓口で「●●(推定被相続人)の推定相続人を調べている」、あるいは「●●(推定被相続人)の戸籍謄本や除籍謄本を出生まで遡って確認したい」といえば、まとめて出してもらえます。

転籍でその市区町村役場だけでは交付できない場合は、どこに転出したのかを聞くとよいでしょう。遠隔地の場合は郵送で請求することも可能です。

亡くなった推定相続人の戸籍を確認

戸籍の調査で注意しなくてはならないのは、推定相続人が亡くなっている場合は、その推定相続人の戸籍も調査しなくてはならないことです。

推定被相続人の戸籍と同様に、出生から亡くなるまでの戸籍を確認する必要があります。推定相続人の子や孫がいる場合は代襲相続が発生するためです。

法律事務所など専門家に相談

戸籍の調査は一般の方にとっては意外と大変なものです。人生100年といわれる現代では長寿をまっとうする人も多く、出生まで遡ると100年分に近い戸籍を調べることになります。戸籍は古くなるほど読みづらく、手書きのものもあります。

また、家制度の時代の戸籍は親等の数え方も異なるなど、専門知識が必要な場合もあります。時間と費用を掛けて調査しても、どこかの段階で間違える可能性もあるでしょう。

推定相続人の確定調査は、法律事務所など専門家に依頼することを考えてもいいのではないでしょうか。

まとめ

推定相続人とは現在の状態で相続が発生したら、相続人になるはずの人です。つまり、相続発生後は法定相続人と呼ばれるのですが、被相続人が亡くなる前なので「推定」という言葉が付きます。

誰と誰が推定相続人なのか、他にも知らない推定相続人がいるのではないか、といった問題を解消するためには、被相続人の戸籍をすべて確認しなくてはなりません。

戸籍の確認は現在の戸籍から出生まで遡らなくてはならないため、一般の方には荷が重い場合が多いようです。専門知識が必要な場面も多いため、法律事務所や専門家に依頼するのがおすすめです。

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