会社員や役員であった方が亡くなったときに、会社から遺族に対して「死亡退職金」が支給されることがあります。
死亡退職金は、会社ごとの規定により受取人が定められているのが一般的ですが、果たしてこの死亡退職金は相続財産に該当するのでしょうか?また、相続税は課税されるのでしょうか?
この記事では、相続における死亡退職金の取り扱いについて、相続税や受取人との関係も交えながら、わかりやすく解説します。死亡退職金を受け取ったものの、どう扱えばよいのか迷われている方は、ぜひ最後まで読んで参考にしてみてください。
- 死亡退職金は、基本的には相続財産ではない
- 死亡退職金には、相続税がかかる可能性がある
- 受取人以外の相続人が取得すると、贈与税かかかる可能性がある
死亡退職金は相続財産?
結論から言うと、死亡退職金は基本的に相続財産とはみなされません。ただし、会社の規定によっては相続財産として扱われる場合もあります。
また、受け取った額によっては相続税の課税対象となったり、他の相続人から特別受益であるという指摘がなされたりする可能性もあります。
死亡退職金とは?
「死亡退職金」とは、会社員や役員であった方が亡くなった場合に、会社から遺族に対して支給される金銭のことです。役員の場合は特に「死亡退職慰労金」と呼ばれる場合もありますが、性質は同じものと考えて差し支えありません。
退職金は本来、会社に勤めていた被相続人が退職時に受け取るものですが、退職前に本人が亡くなってしまった場合は、当然受け取ることはできなくなります。
しかし、「受け取るべき本人が亡くなったから支給しない」というのでは、遺族の生活保障の面からも、被相続人の生前の功労に報いるという面からも、あまりに不合理と言えるでしょう。
そこで、退職金規程のある会社では、従業員が退職前に亡くなった場合に、本人の代わりに特定の遺族に対して死亡退職金を支給するのが一般的です。
死亡退職金の受取方法は会社の規定によりますが、一般的には被相続人の除籍謄本や相続人・受取人の戸籍謄本などを添えて「死亡退職届」を提出することで請求します。
なお、従業員の退職時に退職金を支給するか否かは会社の任意であり、そもそも退職金制度のない会社の場合は、当然死亡退職金も支給されません。
また、会社は退職金規程などの就業規則を、在職中の従業員に周知する義務はあるものの、退職者や第三者に閲覧させる義務まではありません。
ただ、あえて死亡退職金に関する規定の開示を拒否する理由も見当たらないため、該当の規定を確認したい場合は、被相続人の会社の人事担当や総務担当に問い合わせてみましょう。
死亡退職金は原則、相続財産ではない
会社の退職金規程などにより受取人が指定されている死亡退職金は、その受取人固有の財産となるため、相続財産には該当しません。
たとえば、死亡退職金の支給規定に「法定相続人に支払う」と定めてあれば、民法の法定相続人の規定に準じて支払われることになります。つまり、第1順位が子や孫、第2順位が親や祖父母、第3順位が兄弟姉妹で、配偶者は常に相続人となります。
また、支給規定に「労働基準法施行規則第42条から第45条の規定に準じて支給する」と定めている会社も多く見られます。
これらの条文は、遺族補償の優先順位について定めた規定です。
具体的には、第1順位が配偶者(事実婚含む)、配偶者がいない場合は同居の子・父母・兄弟姉妹などのように、民法とは異なる順位となるため注意が必要です。
さらに、上記の民法や労働基準法施行規則の規定とは異なる支給規定を定めている会社もあり、最高裁の判例(福岡工大事件:最高裁昭和60年1月31日判決)によれば、このような定めも有効であるとされています。
死亡退職金は相続放棄しても受け取れる
死亡退職金は原則相続財産ではないため、相続放棄を選択した場合でも受け取れます。
通常、相続放棄をした場合は、被相続人の資産及び負債を一切承継しません。しかし、死亡退職金は受取人固有の財産とみなされるため、相続方法の選択とは無関係に受け取れるのです。
また、相続方法を選択する間に死亡退職金を受け取った場合でも、法定単純承認(単純承認とみなされる行為)には該当しないため、相続放棄は可能です。
死亡退職金は特別受益に当たる?
「特別受益」とは、相続人の一部が被相続人から生前贈与などの特別な利益を受け取っていた場合、その受益分を相続財産から差し引くことで他の相続人との公平を図る制度を指します。
死亡退職金が特別受益に該当するか否かについては、判例上も見解が分かれています。相続財産と比較したときの死亡退職金の金額の大きさによって判断するとされていますが、現実に判断することは難しいため、弁護士などに相談するのが無難でしょう。
死亡退職金に相続税はかかる?
民事的な面からは基本的に相続財産に該当しない死亡退職金ですが、税制上の取扱いはまた異なります。つまり、死亡退職金が相続財産と同義であるとみなされた場合は、相続税が課税される可能性があるのです。
みなし相続財産とは?
「みなし相続財産」とは、被相続人が生前に保有していた財産ではないものの、被相続人の死亡に伴い発生し、かつ一定の経済的価値を持つ財産のことです。
死亡退職金は相続財産ではありませんが、被相続人の死亡により相続人が取得する財産という外形は、相続財産と変わりません。そのため、税法上はみなし相続財産として扱われます。
課税対象となる死亡退職金の範囲
すべての死亡退職金が相続税の課税対象となるわけではありません。課税対象となるのは、「被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したもの」に限られます。
なお、被相続人の死亡後3年経過後に支給された死亡退職金は、みなし相続財産ではなく「一時所得」となり、所得税の課税対象となるため、注意しましょう。
死亡退職金の非課税限度額の計算方法
「非課税限度額」とは、税額を計算する際に非課税となる金額の上限のことです。つまり非課税限度額を超える部分のみが課税対象となります。具体的には、以下の計算式により算出します。
死亡退職金の非課税限度額 = 500万円 ✕ 法定相続人(放棄した者も含む)の数
なお、相続人以外の人が受け取った死亡退職金には、非課税の適用はありません。そこで注意すべきなのが、相続放棄したうえで死亡退職金を受け取ったケースです。
先ほど、死亡退職金は相続放棄しても受け取れるとお伝えしましたが、相続放棄をすると最初から相続人でなかったものとみなされます。つまり「相続人以外が受け取った死亡退職金」となるため、非課税の適用を受けられなくなってしまうのです。
弔慰金に相続税がかかるケース
弔慰金は、在職中に亡くなった従業員の遺族に対して、会社が弔意を表す意味で支給する金銭です。この弔慰金や葬祭料などは原則相続税の対象ではありませんが、以下に該当する場合は、課税対象となります。
- 業務上の死亡により受け取る金額が、被相続人死亡時の普通給与(賞与除く)の3年分を超える場合(超過金額が課税対象)
- 業務以外の死亡により受け取る金額が、被相続人死亡時の普通給与(賞与除く)の半年分を超える場合(超過金額が課税対象)
死亡退職金と受取人の関係
ここまでは、会社の規定どおりの受取人が死亡退職金を受け取ったケースを前提として解説してきました。しかし、死亡退職金は受取人によって、原則と異なる取り扱いをする場合があります。
受取人が指定されていない場合
会社の退職金規程などで、死亡退職金の受取人について具体的に定められていなかった場合、「受取人固有の財産」という考え方が成立しないため、相続財産となります。
よって、不動産や株式など他の相続財産とともに遺産分割の対象となり、相続放棄をした相続人は、死亡退職金を受け取れません。
指定された受取人以外が死亡退職金を取得した場合
たとえば、退職金規程において「死亡退職金の受取人の第1順位は配偶者とする」という定めがあるにも関わらず、配偶者と長男の協議により、長男が死亡退職金を取得した場合はどうなるのでしょうか?
この場合、死亡退職金は一旦配偶者に帰属し、その後長男に贈与されたとみなされます。よって、長男に対して贈与税が課せられる可能性があります。
死亡退職金の受取人を遺言で指定することは可能?
退職金規程において具体的に受取人が指定されていた場合、死亡退職金は指定された相続人固有の財産となるため、遺言によってこれを変更することは認められないとされています。
一方で、退職金規程において受取人が指定されていなかった場合は、死亡退職金は相続財産の一部となるため、遺言によって受取人を指定しても問題ありません。
まとめ
本記事では、死亡退職金が相続においてどのように扱われるのかということについて、受取人の指定による違いや相続税との関係などに触れながらお伝えしてきました。
基本的には、「受取人が指定されていれば遺産分割の対象外」「指定されていなければ遺産分割の対象」と考えて差し支えありません。ただし、税法上は相続税がかかったり、非課税限度額があったりなど、注意すべきポイントがいくつかあります。
税に関することは、個人で調べて手続きをすると思わぬ損をするリスクが高いため、税理士に一任するのが無難です。
また、受取人の違いによる細かなルールや特別受益に該当するかどうかなどは、誤った解釈をすると相続トラブルに発展する可能性もあります。不安なときは、本記事の内容を参考にしながら、弁護士などに相談されることをおすすめします。