遺産相続手続きを司法書士に依頼すべき理由は?他士業との違いも解説

相続手続きの中でも、不動産の所有権移転登記を扱えるのが司法書士です。

「遺産の中に不動産が含まれている」「相続登記のやり方が分からない」そんな場合には、司法書士に依頼することで相続を円滑に進めることができるでしょう。

1分でわかる!記事の内容
  • 不動産の相続に伴う所有権登記は司法書士の独占業務
  • 司法書士は遺産の中でも分割のハードルが高い不動産の知識に精通している
  • 相続人調査から相続登記までを一貫して依頼できるのが司法書士のメリット

遺産相続の手続きを専門家に依頼すべき理由

相続が発生したら、遺産の分割や相続税の申告などさまざまな手続きを行わなければなりません。

しかし相続手続きには、多くの専門知識が必要です。

たとえば、被相続人が作成した自筆証書遺言が自宅に保管されていた場合、家庭裁判所で内容を確認し保存する「検認」という手続きが必要ですが、これを知らずに開封すると「5万円以下の過料」というペナルティが科されます。

相続人を確定する作業には戸籍を読む力が必要ですし、不動産の評価額を算定するには税法に明るくなければなりません。

さまざまな場面で専門知識を必要とする相続手続きは、専門家の力を借りることで円滑に進められるのです。

遺産相続で司法書士に手続きを依頼すべきケースは

相続手続きを司法書士に依頼するのが適しているケースは、遺産の中に不動産が含まれる場合です。

司法書士は登記を専門的に扱う業務独占資格で、相続に伴う所有権移転登記も当然その業務の中に含まれます。

相続を専門的に扱ういわゆる「士業」といえば司法書士のほか弁護士や税理士、行政書士などが挙げられますが、それぞれ専門分野が異なるため「どの士業に頼めばよいか」はケースバイケースです。

実は弁護士も登記申請を代理できるのですが、弁護士が活躍する主なフィールドは訴訟代理など法律上のトラブルの解決や予防といった分野ですから、登記を専門に扱っている弁護士はほぼ見当たりません。

そのような理由から、依頼する業務に相続登記が含まれる場合には、司法書士が適しているといえるのです。

司法書士ができる相続手続き

司法書士でなければできない相続手続きといえば相続登記ですが、もちろん司法書士ができる相続手続きはこれだけではありません。登記に付随する数多くの業務を委任できます。

逆の言い方をすれば、相続人同士のトラブルの際の調停・審判の代理や、相続税の申告を除けば、ほぼすべての業務を依頼できるのです。

相続登記

司法書士が扱う独占業務といえば、不動産登記や商業登記を始めとする法務局の登記手続きです。

いわゆる相続登記は「相続による不動産の所有権移転登記」ですから、司法書士が専門的に扱う手続きの1つに当てはまります。相続人本人が申請することはできますが、税理士や行政書士などではできない業務です。

これまで相続登記はあくまでも「不動産所有者の権利」という位置付けでしたが、不動産登記法の改正により2024年4月1日から相続登記が義務化されます。3年以内に登記申請をしなければ「10万円以下の過料」という罰則も設けられた規定です。

これによって相続手続きで司法書士が果たす役割が、一段と重要になるともいえるでしょう。

参考:法務局「相続登記の申請の義務化と相続人申告登記について」

法定相続情報一覧図の作成

相続手続きを行ううえでは、相続人を調査し確定する作業が非常に重要です。

被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて集め、配偶者や子どもなど、相続人となり得る立場の人を漏れなく調査したうえで、相続順位に従って相続人を確定します。

相続人全員の戸籍も必要です。これらを揃えることで、相続人である事実を対外的に示せるのです。

この手続きは非常に重要で、これができなければ相続登記はもちろん、銀行の預金もおろせません。

しかし、被相続人が利用していた銀行が複数ある場合などは、それぞれの銀行に戸籍の束を提出するのは非効率的です。

用意した戸籍謄本が足りなくなる可能性もあるでしょうし、郵送で戸籍を取得するような場合には1~2週間程度の時間も掛かります。

このような弊害を解消する施策として生まれたのが「法定相続情報証明制度」です。

法定相続情報証明制度とは、相続人が誰であるかを1枚で端的に証明する書類を発行する仕組みです。戸籍謄本から被相続人の家族関係を家系図の形で一覧にしたうえで、法務局の登記官が「相続関係を証明する書類」としての認証文を付します。

こうして発行されるのが「法定相続情報一覧図」です。法定相続情報一覧図は「相続に関係する人全員のすべての戸籍」と同等の効力を有しますから、手続きごとにすべての戸籍謄本を集める必要がなくなります。

相続手続きを円滑に進めるために、ぜひ利用したい仕組みです。

司法書士であれば、相続人の調査から法定相続情報一覧図の作成までを一貫して委任することができます。

参考:法務局「法定相続情報証明制度について」

相続財産目録の作成

相続人の確定とともに重要な作業が相続財産の調査です。

相続財産は現金や預金だけでなく、不動産や株、貴金属、自動車など、すべての財産をもれなく抽出して財産目録を作成します。プラスの資産だけでなく、借金や保証債務などの負債についても同様です。

財産調査は銀行口座の取引履歴や郵便物などを手掛かりに、別の資産を関連付けて確定していくという流れで、ある種独特の「慣れ」が必要な作業ともいえます。

司法書士の資格や専門知識というよりもむしろ、相続手続きの経験値がものをいう仕事といえるでしょう。相続を扱う司法書士であれば、多くの財産調査を経験している可能性が高いです。

遺産分割協議書の作成

複数の相続人で遺産を分け合う場合には、民法に定められた法定相続分に従って分割するのが原則です。ただし相続人全員の合意があれば、これ以外の割合で分割することも可能とされています。

相続人の話し合いで遺産の分け方を決める合意形成の場が遺産分割協議で、ここで決定した内容を記載する書面が遺産分割協議書です。

遺産分割協議書には決まった書式はなく、そもそも法律上で作成が義務付けられた書類でもありません。

しかし、相続登記などの際には第三者に自分自身に所有権を移すことの正当性を示す必要が生じますから、法定相続分以外で遺産を分割する場合には必須の書面といっていいでしょう。

そもそも遺産は現金や預金のように、容易に分割できる財産だけとは限りません。「兄が不動産、弟が預金を取得する」などの方法で、相続の公平性を保つケースも珍しくないでしょう。

このように、特定の財産を特定の相続人が取得する場合にも、遺産分割協議書を作成して第三者に示すことが必要なのです。

裁判所提出書類の作成

司法書士は登記だけでなく、家庭裁判所へ提出する書類の作成も依頼できます。

相続で裁判所が関係するのは、なにも訴訟の場だけとは限りません。自宅で自筆証書遺言が見つかれば家庭裁判所での検認が必要ですし、相続放棄限定承認を選択する場合にも家庭裁判所に申述する必要があります。

このような場面で、申立書などを作成することも司法書士の業務の1つです。

ただし、司法書士ができるのはあくまでも書類の作成までです。代理申請は認められていないことには注意しましょう。

司法書士ができない相続手続き

司法書士は相続の専門家の1人であるとはいえ、すべての業務ができるわけではありません。

司法書士ができない相続手続きに関しても知っておきましょう。

相続税の申告

遺産の総額が基礎控除額を超える場合には、10か月以内に相続税の申告と納付が必要です。

この相続税の申告は、税理士でなければできない業務です。司法書士に依頼することはできません。

基礎控除額の計算式
  • 3,000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除額

  • 仮に妻と子ども2人の相続の場合、4,800万円が基礎控除額です。

  • 3,000万円+600万円×3=4,800万円

  • 基礎控除額を超えなければ申告自体が必要ありません。しかし、不動産の価格評価が必要な場合には、税理士の専門知識を活用すべきともいえます。

    土地の相続税評価額の算出を例に挙げてみてみましょう。

    遺産として相続税の対象となる土地の価格は、国税庁が定める財産評価基準書に基づいて評価される金額です。一般の不動産会社が行う査定とはまったく異なります。

    路線価をベースに面積を掛け合わせて金額を算出するなどの手法で評価額を求めますが、その際、間口や奥行き、傾斜など敷地形状に応じて価格を補正する措置が取られるのです。

    つまり、路線価に面積を掛けた金額は評価の最大値です。価格の補正を考慮せずに金額を求めることは、必要以上に評価額が高く計上されることを意味しています。

    「相続人自身が算出した評価額では基礎控除額を超えてしまったものの、税理士に依頼したことでそれ以下に収めることができた」などの事例も珍しくはありません。

    遺産分割調停や審判の代理

    相続人の間で遺産分割の話し合いがまとまらない場合や、遺産分割協議に応じない相続人がいる場合などには、家庭裁判所の遺産分割調停や審判を利用できます。

    これらの手続きで依頼者の代理人になれるのは、弁護士に限られているのです。

    申立書の作成だけであれば司法書士に依頼できますが、この場合は相続人本人が調停や審判の場で自ら主張をしなければなりません。

    農地転用、自動車の名義変更などの行政手続き

    登記手続きの専門家は司法書士ですが、農地転用や自動車の名義変更などの行政手続きを扱えるのは司法書士ではありません。

    たとえば農地を相続した場合には、10か月以内に農業委員会に対して農地法3条の3第1項に基づく届け出が必要ですが、これを扱えるのは行政書士です。

    自動車を相続した場合には取得から15日以内に名義変更の手続きを行わなければなりませんが、こちらも行政書士の独占業務とされています。

    いずれも重い罰則規定が設けられた手続きで、農地の届け出を怠ると「10万円以下の過料」、自動車の名義変更は「普通自動車は50万円以下の罰金」、「軽自動車は30万円以下の罰金」とされています。

    遺産相続の手続きを司法書士に依頼するメリット

    相続を扱う専門家の中でも、とりわけ司法書士に依頼するメリットして挙げられるのは「相続登記を委任できること」といえるでしょう。

    このほかにも、さまざまなメリットがあります。

    不動産の実務に詳しい

    司法書士が主に取り扱う業務は、不動産登記と商業登記です。

    売買などで取得した不動産の所有権を登記するのも、住宅ローンを組んで不動産に抵当権を設定するのも司法書士の仕事です。

    日ごろから不動産売買などにも携わっている司法書士が多く、商業登記だけを扱っているのでなければ、不動産の実務にも精通している先生が多いことがメリットの1つといえるでしょう。

    登記手続きの方法についてはウェブサイトなどで情報を得ることができますから、単に一筆の土地の名義を書き換えるだけなら相続人本人がやるにしてもそれほど難しくはないかもしれません。

    しかし不動産登記は、往々にして思わぬ落とし穴が潜んでいます。私道持ち分やゴミ置き場の共有持ち分など、主要な不動産以外にも所有権を持っている場合があるからです。専門的な知識がないことで、これらの登記漏れが生じる事例は決して少なくありません。

    不動産の実務に詳しいことは、相続手続きにおいて明確なアドバンテージとなるのです。

    手続き費用の算定が明瞭になる

    一連の相続手続きの中でも、司法書士の主要業務は登記です。

    登記費用は司法書士が受け取る報酬に登録免許税を加えた金額で算出されますから、見積りが明確に出るというメリットがあります。

    相続手続きを司法書士に依頼した場合の費用は、相続人調査や法定相続情報一覧図の作成、相続財産目録の作成など、相続人が依頼した業務の報酬を登記費用に加算して見積もられるのが一般的です。

    「相続財産の何%」といった報酬形態をとる他士業に比べて、費用の算定が明瞭という傾向がみられます。

    遺産相続の手続きを司法書士に依頼するデメリット

    相続手続きを司法書士に依頼するメリットは多いとはいえ、デメリットが存在しないわけではありません。

    依頼する際に注意すべき点を押さえておきましょう。

    相続に強くない司法書士もいる

    司法書士だからといって、必ずしも遺産相続手続きに精通しているとは限りません。

    相続登記自体は司法書士の業務の中でも基本的な手続きとはいえ、相続手続きの中でも重要性の高い「相続財産の調査」などは、資格の有無よりも相続業務の経験によってスキルが蓄積されるためです。

    商業登記を中心に扱っている司法書士などでは、登記以外の相続手続きに関する知識が乏しい可能性もあるのです。

    司法書士ではできない業務がある

    遺産分割調停での代弁や相続税の申告などは、司法書士が担う業務の範疇外です。

    相続手続きの中でも、これらの委任を中心に考えているのであれば、弁護士や税理士など「その業務を中心に扱う士業」に依頼するほうが得策といえます。

    相続人自身が「どのような目的で専門家の力を借りたいか」という点を考慮して、依頼先を考えるとよいでしょう。

    遺産相続に強い司法書士を探すポイント

    多くの方にとって、司法書士という専門職は常日頃から接している身近な存在ではないでしょう。相続の発生によって、初めて司法書士との関りを持つ方もいると思います。

    それを踏まえて、遺産相続に強い司法書士を探すポイントをみていきましょう。

    他士業とのネットワークが重要になる

    相続手続きを依頼する専門家としていずれの士業を選択したとしても、すべての手続きを1人の専門家ができるというわけではありません。

    税理士・行政書士などの資格を併せ持つ司法書士は決して多くはなく、専門の他士業と連携して業務を進めていくのが一般的だからです。

    このため相続を扱う士業は、自分自身の専門分野以外の手続きを補完するために他士業との連携体制を構築しています。

    資格の種類よりもむしろ、「相続を専門的に扱っているか」が重要になるといっても過言ではないでしょう。

    不動産会社に相談するという選択肢もある

    ウェブサイトなどの限られた情報の中から司法書士を選ぶのが難しければ、不動産会社に相談するのも有効な選択肢といえるでしょう。

    不動産会社は登記とは切っても切れない関係ですから、不動産登記に精通した司法書士と提携関係を結んでいるのが一般的だからです。

    相続に伴って不動産の売却を検討するケースも多く、相続に関する知識が豊富なスタッフが在籍している不動産会社も少なくありません。

    また遺産分割協議に際しては、不動産の市場価格を知る必要が生じることもあるでしょう。

    相続税評価額を算出するのは税理士が適任ですが、市場価格を知るには不動産会社の査定が参考になるのです。

    相続手続きを司法書士に依頼する際のよくある質問

    相続手続きをトラブルなく円滑に進めるために、司法書士に依頼する際のよくある質問もチェックしておきましょう。

    司法書士に依頼した際の費用の相場は?

    司法書士が相続手続きを受任する際の費用は、登記する不動産の価格や物件数に応じて異なります。

    不動産登記には登録免許税という税金が必要で、司法書士に支払う費用の中でもこの金額は決して小さくないからです。

    司法書士に支払う費用の目安
    • 司法書士報酬:7万円~
    • 登録免許税:固定資産評価額の0.4%

    これに加え、相続関係者の戸籍や住民票の取得、財産目録の作成、遺産分割協議書作成など、依頼する業務を追加するごとに1~3万円程度の費用が加算されていくのが一般的です。

    司法書士は比較的分かりやすい報酬体系を取っているケースが多いですから、相見積もりを取って比較するのも1つの方法といえるでしょう。

    相続手続きができる他の士業は?

    相続を扱ういわゆる士業には、司法書士のほかに弁護士や税理士、行政書士などが挙げられます。

    それぞれの専門分野が異なりますから、「ご自身が何を中心に相続手続きの代行を依頼したいか」という視点で選びましょう。

    司法書士と行政書士、どっちに依頼すべき?

    司法書士と行政書士でどちらに相続手続きを依頼すべきか悩んだら、「相続登記を依頼するか否か」で決めるのが良いでしょう。

    相続を専門的に扱っている士業であれば、誰を選んでも一連の手続きはおおむね滞りなく進みます。

    しかし、所有する不動産の登記を依頼することが決まっているのであれば、必ず司法書士の力を借りなければならないからです。

    相続に強い司法書士に依頼しよう

    「相続財産目録の作成」の項でも触れたように、資格や法律上の知識以上に相続手続き自体の経験値が必要とされる業務も少なくありません。

    特に近年では財産調査の手掛かりになる郵便物が少なくなっていることなどから、それぞれの場面に最適な手法を選択する力のほうが重要であるともいえるでしょう。

    相続自体に関する知識や他士業とのネットワークを重視して、相続に強い司法書士を探すのがポイントです。

    ほかにもこちらのメディアでは、相続登記とは何か遺産分割協議書の提出先についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。

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