相続財産目録とは?書式や作り方、作成費用をまとめて解説

相続が発生したら、被相続人の財産を正確に把握する必要があります。全財産を把握するうえで、あると便利なのが相続財産目録です。

目録があれば遺産が一目でわかり、相続手続きが円滑に進みます。相続人同士のトラブルを防ぐためにも、目録を作成しておくと安心です。

この記事では、相続財産目録を作成するメリットや注意点について解説します。相続対策をしたい方は必読です。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続財産目録は被相続人の全財産を一覧化したリスト
  • 相続財産目録を作成すれば相続トラブルを予防できる
  • 作成するときは財産の漏れをなくし、財産を特定できるように記載する

この記事の監修者

内山会計事務所


代表


内山 智絵/税理士・公認会計士

公認会計士・税理士・AFP。大学在学中に公認会計士試験に合格。大手監査法人の地方事務所で上場企業の法定監査などに10年ほど従事した後、出産・育児をきっかけに退職。現在は、個人で会計事務所を開業し、中小監査法人での監査業務を継続しつつ、起業女性の会計・税務サポートなどを中心に行っている。

相続財産目録とは?

相続財産目録とは、被相続人の相続財産を一覧にまとめたリストのことです。現預金や不動産などのプラス財産だけでなく、借金などのマイナス財産を含む全財産をリストアップして、財産の状況を明確にします。

相続財産目録の作成は義務ではありません。しかし、一度作っておけば相続財産の把握が容易になります。

目録を作るべきタイミングとしては、主に以下のようなケースが考えられます。

目録を作るべきタイミング
  • 相続対策をしたい
  • 身内が突然亡くなって財産の詳細が分からない
  • 遺産分割協議が必要
  • 相続税の申告が必要

遺産分割調停の申し立てをする際は、家庭裁判所に目録の提出が必要です。また、遺言執行者(遺言内容を実行する人)が選任された場合も、遺言執行者は目録を作成して相続人に交付する義務があります。

相続税を申告する際は、提出期限までに作成が必要です。相続対策や遺産分割協議をする場合も、対象となる財産がわからなければ話し合いができません。

遺産分割協議でも有益な書類なので、相続開始後の早い段階で作成する方が良いでしょう。

なお、財産目録は一度作って終わりではなく、財産に変動があれば、変更を行ったり定期的に見直しをしたりすることが必要になります。

相続財産目録を作成するメリット

相続財産目録の作成には、主に以下4つのメリットがあります。

  • 相続税対策ができる
  • 相続放棄の判断材料になる
  • 相続トラブルを予防できる
  • 遺産分割がスムーズになる

一度作成すれば役立つ機会は多いため、早めに作成しておくことをおすすめします。

相続税対策ができる

相続財産目録を作成しておくと、相続税申告の際に有効です。相続税の申告は、被相続人の死亡後10カ月以内という期限があります。この期限内にすべての相続財産を把握し、各財産の評価額を確定するのは大変です。

しかし、被相続人が生前に目録を作成しておけば、申告までにかかる時間を削減できます。相続税の申告書には財産の一覧を記載する箇所がありますが、目録を用意しておけば書き写すだけで済むので手間がかかりません。

財産の内訳を事前に確認できるので、現金を生前贈与しておく等の対策も可能です。

相続放棄の判断材料になる

相続財産目録はマイナス財産も記載するため、相続放棄の判断が容易になります。預貯金よりも借金が多いと判明すれば、相続方法の検討がしやすくなり、適切な判断が可能になります。

しかし、相続を放棄する場合は、相続開始後3カ月以内に手続きしなければなりません。生前に被相続人が目録を作成して、相続人もマイナス財産が多いことをわかっていれば余裕をもって判断できるでしょう。

相続トラブルを予防できる

相続財産目録を作成して全財産を把握できれば、相続トラブルを防ぐうえで効果的です。

財産の全容が不明確なままだと、相続人の間で「他にも財産があるのでは?」という疑いや争いが生じてしまい、揉めやすくなります。あらぬ疑いを生み出さないためにも、財産の全容把握が重要です。

被相続人が生前に目録を作成しておけば、協議後に追加で財産が出てきて、相続人間でトラブルが発生するリスクも抑えられます。

遺産分割がスムーズになる

遺産のすべてを表記すれば、各財産の金銭的評価額が一目でわかるので、遺産分割協議を効率よく進められます。

遺言書がない場合は、遺産分割のために相続人全員で話し合う遺産分割協議が必要です。しかし、総財産を相続人全員が把握できていなければ、遺産分割協議を行っても具体的な話が進みません。

一部の相続人しか知らない財産があると、不公平になります。遺産分割協議が終わった後に追加で財産が発覚したら、遺産分割協議を最初からやり直さなくてはなりません。

目録によって全員が遺産の全容を把握していれば、遺産分割協議はスムーズになります。隠し財産などによる無用なトラブルも回避できます。

相続財産目録の作り方

相続財産目録を作るときは、以下2つのポイントを押さえましょう。

  • 相続財産目録の書式
  • 相続財産目録の作成にかかる費用

ポイントを押さえておけば、初めてでも作成しやすくなります。

相続財産目録の書式

相続財産目録に特定の書式はありません。総財産を明らかにできれば問題ないので、パソコンでの作成も可能です。

相続税の申告を税理士に任せる場合は、簡易的なもので十分です。ただし、自分たちで遺産分割協議や相続税申告をする際の資料とする場合は、評価額など詳細まで記載したものを作成した方が良いでしょう。

財産の内容は今後も変わる可能性があるので、手書きよりもエクセルなどを使うことをおすすめします。

裁判所からエクセルのテンプレートを入手する

裁判所のホームページには、財産目録の書式テンプレートが用意されています。

参考:裁判所-財産目録の書式テンプレート

一から作成するよりも、テンプレートを参照して作成した方が効率的です。事前にダウンロードしておくと良いでしょう。

相続財産目録の作成にかかる費用

相続財産目録の作成を税理士や弁護士などの専門家に依頼する場合、5~10万円ほどの費用がかかります。費用には必要書類の収集や財産の調査も含まれているため、お金をかけてでも依頼する価値はあるでしょう。

目録は自分でも作成できますが、財産が多い場合は漏れが出る可能性があります。財産の調査だけでもかなりの時間を要するため、専門家に依頼するのが得策です。

相続財産目録に記載する内容

相続財産目録に記載するのは、以下の財産です。

  • プラスの財産(預貯金・現金・不動産・有価証券)
  • マイナスの財産(借金・葬式費用)

具体的にどのような内容を記載するかについて、解説していきます。

プラスの財産

プラスの財産に該当するのは「預貯金・現金」「不動産」「有価証券」です。

預貯金・現金

預貯金や現金を記載するときは、以下のように詳細まで記入しましょう。

預貯金や現金の記載内容
  • 金融機関の名称
  • 本支店名
  • 口座種別
  • 口座番号
  • 死亡時の残高

預貯金は同一の金融機関で複数の口座を持つ方も多くいます。そのため、同じ金融機関で合算せず、支店 ・種類・口座番号などを口座ごとに記載して特定しやすくしましょう。

定期預金・定額預金・貯蓄預金などの定期性の預金は、死亡時点での経過利息も記載します。普通預金の利息は記載不要ですが、預金額が数億円以上になる場合は遺産分割や相続税の課税に影響が出るので、記載しておきましょう。

通帳のないネット銀行も忘れずに記載します。現金は保管場所と金額を書きましょう

不動産

不動産を書くときは、以下の情報を記載します。

不動産の記載内容
  • 不動産の種類や用途
  • 所在
  • 地番、家屋番号
  • 地積、面積
  • 所有者
  • 評価額
  • 利用状況や権利の状況

上記の情報は、固定資産税の評価証明書や名登記事項証明書などを参考に記載しましょう。不動産は土地と建物それぞれに分けて記載が必要です。

評価額の欄には、実際に評価してもらった不動産の金額を記入します。評価する時期や方法によって評価額が異なるので、評価額を算出した日付と評価方法も記載しましょう。作成時点で評価額が不明な場合は、不明と記載します。

有価証券

株式や投資信託といった有価証券は、以下の内容を記載します。

有価証券の記載内容
  • 有価証券の区分
  • 証券の発行会社
  • 証券会社の名称
  • 本支店名
  • 口座番号
  • 種別
  • 銘柄
  • 保有数
  • 評価額

金額を記入する欄には取引相場を記入します。金融商品は短期間での価格変動があるため、備考欄にどの時点の相場かを記載するのがベストです。

上場株式や上場投資信託の価格は、インターネットで調べられます。非上場株は評価が難しいので、税理士などの専門家に相談したほうが良いでしょう。

マイナスの財産

マイナスの財産には「借金」「葬式費用」が該当します。

借金

借金には以下のようなものが含まれます。

借金に該当するもの
  • カードローンの負債 
  • 消費者金融からの借り入れ 
  • 住宅ローンの残債
  • 事業用ローンの残額
  • 知人や友人からの借金
  • 家賃の滞納
  • 公共料金の滞納
  • 携帯電話代金の滞納

負債を記載する場合は、月々の返済額や完済予定日などを明記しておくと、相続放棄の判断をしやすくなります。負債の種類や借入先の氏名、借入総額や債務残高も記載しましょう。

借金があるかわからない場合は、以下の信用情報機関に問い合わせましょう。

信用情報機関はクレジットや各種ローンの利用状況を管理しており、情報開示を申し込めば詳細な借金の情報がわかります。

過去の振込履歴から借金の存在がわかるケースも多いので、故人の自宅に借金を示す借用書などがないかを探してみましょう。

被相続人が連帯保証人の場合は契約書面が残っていない場合もあるので、慎重な調査が必要です。

故人しか存在を知らなかった借金があとで発覚すると、相続の際に揉めやすくなります。相続では借金も引き継ぐので、財産目録に抜けなく記載しましょう。 

葬儀費用

葬儀費用は相続財産から支払うものなので、忘れずに記載しておきましょう。どの葬儀会社にいくら支払うのかまで、具体的な内容をわかる範囲で負債欄に記載します。

相続財産目録を作成するときの注意点

相続財産目録を作成するときは、以下3点に注意が必要です。

  • 各ページに押印署名をする
  • 財産の漏れをなくす
  • 財産が特定できるようにする

事前に注意点をしっかり把握して、相続時のトラブルを回避しましょう。

各ページに押印署名をする

財産の種類が多くて目録が2ページ以上になる場合は、ページ毎に署名と押印が必要になります。2ページを両面に印刷した場合も、表と裏に1カ所ずつ署名押印が必要です。

財産の漏れをなくす

記載内容に漏れがあると遺産分割協議をやり直す必要があるため、最初の段階で漏れなく記載することが重要です。 

遺産分割協議を行ったあとに追加で相続財産が判明した場合、再度協議を行い、相続人全員の合意が必要になります。財産の記載漏れは相続人全員に負担が生じるので要注意です。

不動産を共同名義で相続する場合など、財産の分け方を決める際に考慮すべき特記事項があれば必ず記載しておきましょう。漏れや不明瞭な点を残したままでは、相続争いになる可能性もあります。

財産内容をしっかり調査し、漏れがないように気をつけながら慎重に目録を作りましょう。相続において財産目録は重要な書類なので、正確な作成が難しい場合は税理士などの専門家への相談をおすすめします。

財産が特定できるようにする

財産が特定しやすいように記載することも重要です。曖昧な表記だと財産内容がよくわからず、遺産分割協議が難航する恐れがあります。

自分以外の相続人が見てもわかりやすいように、預貯金なら金融機関名や支店名、口座番号などを正確に明記しておきましょう。また、車ならナンバープレートや現在の保管場所まで記載し、時計なら製造番号や保管場所まで記載します。

財産一例 記載内容の例
預貯金 金融機関名や支店名、口座番号
ナンバープレートや現在の保管場所
時計 製造番号や保管場所

相続人全員が内容を把握できるように細かく記載すれば、遺産分割協議や相続時の手間を省くだけでなく、トラブル防止にも役立ちます。詳細がわからない財産は、専門家に相談することも検討しましょう。

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