遺産分割協議書の提出先はどこ?提出不要なケースや添付書類についても紹介

遺産分割協議書の提出先は遺産の種類によってさまざまです。遺産分割協議が終わったものの、どこに遺産分割協議書を提出したらよいのかわからない人や、そもそも提出が必要なのかどうかすらわからないという人もいるのではないでしょうか。

この記事では、遺産分割協議書の提出先や提出不要なケース、添付書類について紹介します。

遺産分割協議書を提出する際の注意点や、遺産分割協議書の原本を返却してもらう方法についても解説しているため、ぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺産分割協議書の提出先は遺産の種類によって異なる
  • ケースによっては遺産分割協議書の提出が不要な場合もある
  • 遺産分割協議書は原本を提出しなければならないが、原本還付の方法がある

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは、相続人全員が話し合って決めた、遺産の分割方法や相続する割合をまとめた書類です。

必ず作成しなければならないものではありませんが、以下のような場合に必要です。

遺産分割協議書が必要なケース
  • 有効な遺言書が存在しない
  • 法定持分と異なる割合で相続する
  • 名義変更手続きをする

そのほか、遺産はいらないと言っていた相続人があとから権利を主張してきた場合など、相続人間のトラブルを防ぐ役目もあります。

遺産分割協議書の提出先は遺産の種類によって異なる

遺産分割協議書の提出先はさまざまで、遺産の種類によって異なります。

ここでは、遺産の種類別に遺産分割協議書の提出先について解説します。

【法務局】登記された不動産があるケース

遺産の中に登記された不動産がある場合は、法務局に遺産分割協議書を提出します。

相続登記を申請し、登記上の所有者を亡くなった人から相続人に変更する必要があるためです。その際、相続人のうち誰が不動産の新たな所有者となるのかを確認するための証明として、遺産分割協議書が求められます。

ただし、不動産が未登記の場合はそもそも移転する所有権がついていないため、相続登記は必要ありません。

なお、現在相続登記には期限がありません。ただし、法改正により義務化されることが決まっており、2024年4月1日以降は「相続による不動産の取得を知った日から3年以内」に相続登記をしなければなりません。

違反した場合は過料に課される可能性があるため注意しましょう。

【金融機関】預貯金があるケース

遺産の中に預貯金が含まれている場合は、口座のある金融機関に遺産分割協議書を提出します。

口座の解約や名義変更をする際に、金融機関から提出を求められるためです。

金融機関によっては、金融機関所定の用紙に相続人全員が署名と実印での押印をすれば、遺産分割協議書がなくても手続きを行えるところもあります。しかし、金融機関ごとに相続人全員の署名と押印が必要となると、時間も手間もかかります。

遺産分割協議書があれば、預貯金を引き継ぐ人の署名と実印での押印のみで相続した預金を引き出しできるケースが多いため、口座が複数存在する場合は遺産分割協議書を提出して手続きを進めたほうがスムーズです。

なお、預貯金は5〜10年で消滅時効にかかります。消滅時効になった場合、金融機関によっては預貯金を下ろせなくなる可能性があるため、早めの手続きをおすすめします。

【証券会社・株式の発行会社】株式や投資信託があるケース

遺産の中に株式や投資信託が含まれている場合は、証券会社や株式の発行会社に遺産分割協議書を提出します。

株式や投資信託の売却、配当金の受け取りには相続手続きが必要であり、相続手続きの際に遺産分割協議書の提出を求められるためです。

株式については、上場株式か非上場株式かによってそれぞれ提出先が異なります。提出先は以下のとおりです。

遺産分割協議書の提出先
上場株式株式を預けている証券会社
非上場株式株式を発行している会社
投資信託証券会社や銀行

株の相続手続きの際には、株式などを引き継ぐ相続人自身もその証券会社で株式口座を所有していなければなりません。そのため、株式口座を所有していない場合は新規口座開設手続きも必要です。

相続手続きにはとくに期限は設けられていませんが、口座開設から相続した株式を移管するまでに3週間程度かかります。

また、金融機関によっては配当金の受け取りに期限が設けられていることがあるため、未受領配当金がある場合は要注意です。早めに手続きしたほうがよいでしょう。

【運輸支局】自動車があるケース

遺産の中に自動車がある場合は、運輸支局に遺産分割協議書を提出します。

亡くなった人の自動車を相続する場合は、亡くなった人から相続人に名義変更手続きする必要があります。自動車の種類や査定額によっては、名義変更の際に遺産分割協議書の提出を求められるためです。

遺産分割協議書が必要なケースと、不要なケースは以下のとおりです。

遺産分割協議書が必要なケース 査定額が100万円を超える普通自動車
遺産分割協議書が不要なケース 査定額が100万円以下の普通自動車で、遺産分割協議成立申立書を提出する場合

相続する自動車が軽自動車の場合は、遺産分割協議書が不要です。

また、普通自動車でも査定額が100万円以下である場合は、遺産分割協議書よりも簡易的な「遺産分割協議成立申出書」での手続きも可能です。

遺産分割協議書は相続人全員の署名と実印での押印が必要ですが、遺産分割協議成立申出書は自動車を相続する人の署名と実印での押印だけで事足ります。

【税務署】相続税の申告が必要なケース

相続税の申告が必要な場合は、税務署に遺産分割協議書を提出します。

遺産分割協議書の提出は必須ではありませんが、遺産分割協議書を作成してある場合は、相続税の申告の際に税務署から求められます。

相続税の申告期限は、亡くなった人の死亡を知った日の翌日から10か月以内です。そのため、遺産分割協議書の作成も申告期限内に行う必要があります。

なお、相続税の申告が必要な場合とは「遺産の総額が基礎控除額を上回る場合」です。また、相続税の申告が必要かどうかは、亡くなった人の遺産の総額によって決まります。

相続税課税額については、以下の公式を用いて計算します。

相続税課税額の計算方法
  • 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
  • 相続税課税額=遺産の総額ー基礎控除額

事例にあてはめてみましょう。

たとえば、相続財産の総額が4,200万円、法定相続人が2名だった場合、相続税課税額は以下のとおりです。

4,200万円ー(3,000万円+600万円×2人)=0

上記の場合、相続税はかかりません。ただし、遺産の総額が基礎控除額を上回るため、相続税の申告は必要です。

遺産分割協議書が提出不要なケース

ケースによっては、遺産分割協議書の提出が不要な場合もあります。ここでは、遺産分割協議書が提出不要なケースを紹介します。

  • 有効な遺言書が存在する場合
  • 相続人がひとりしかいない場合
  • ひとりの相続人を除く全員が相続放棄した場合
  • 不動産を法定持分どおりに相続する場合

有効な遺言書が存在する場合

有効な遺言書が存在する場合、遺産分割協議書の提出は不要ですが、その代わりに遺言書の提出が必要です。

遺言書が自筆証書遺言の場合は、家庭裁判所の検認後、検認済証明書を発行してもらいます。法務局で保管してもらっている場合や公正証書遺言の場合、検認は必要ありません。

ただし、有効な遺言書が存在したとしても、相続人同士の話し合いで遺言書どおりに遺産分割しない結論に至った場合は遺産分割協議書が必要です。

相続人がひとりしかいない場合

相続人がひとりしかいない場合、遺産分割協議書は作成自体する必要がありません。

なぜなら、遺産分割協議書を作成する必要があるのは、相続人が複数名いる場合であるためです。

ただし、相続人がひとりだとわかっていても、亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本や相続人の戸籍謄本など、本当に相続人がひとりであるという証明は必要です。

ひとりの相続人を除く全員が相続放棄した場合

ひとりの相続人を除く全員が相続放棄した場合も、遺産分割協議書は不要です。

相続放棄するとその相続人ははじめから相続人でなかったことになり、結局相続人がひとりだけの状態になるためです。

ただし、この場合はほかの相続人が相続放棄したことを証明する書類「相続放棄受理証明書」を提出する必要があります。

不動産を法定持分どおりに相続する場合

不動産を法定持分どおりの割合で相続登記する場合も、遺産分割協議書の提出は必要ありません。

法定持分とは、遺産をどのように分けるかを決めるうえで目安になる、民法で定められた割合のことをいいます。

たとえば、相続人が配偶者と子の2人だけであれば、法定持分はそれぞれ2分の1ずつです。

つまり、上記のケースで不動産を相続する際、2分の1ずつで登記するのであれば遺産分割協議書は不要ということです。

ただし、不動産などの物理的に分けられない遺産を共有で登記することは将来的にトラブルにつながる可能性があるため、あまりおすすめできません。

遺産分割協議書を提出する際の添付書類とは

遺産分割協議書を提出する際は、遺産分割協議書だけでなくほかの書類も同時に求められることがほとんどです。

多くの場合、以下の書類を求められます。

  • 亡くなった人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 相続人全員の戸籍謄本
  • 相続人全員の印鑑証明書

戸籍謄本は、被相続人である亡くなった人の死亡事項や、遺産分割協議書に署名押印した人が相続人であること、ほかに相続人がいないかなどを確認するための資料として添付します。

ただし戸籍関係は、法務局の登記官が法定相続人を証明する書類「法定相続情報一覧図」があれば省略が可能です。

印鑑証明書は、遺産分割協議書に押印された印鑑が実印であることを証明するために必要です。

提出先によってはさらにほかの書類も求められる場合があるため、念のため各提出先に確認したほうがよいでしょう。

遺産分割協議書を提出する際の注意点

ここでは、遺産分割協議書を提出する際の注意点について紹介します。事前に頭に入れておくことで手続きがスムーズになるでしょう。

提出する遺産分割協議書はコピーではなく原本が必要

それぞれの提出先に提出する遺産分割協議書は、コピーではなく原本でなくてはなりません。

そのため、遺産を引き継ぐ相続人が複数存在する場合は、遺産分割協議書をその人数分作成することをおすすめします。

1通しか作成しなかった場合、1通の遺産分割協議書を順番に使用しなければならず、なかなか手続きが進みません。また、無用なトラブルを避けるためにも人数分用意するのが望ましいでしょう。

ただし、相続手続きが必要ない相続人は、内容がわかっていればよいためコピーでも問題ありません。

遺産分割協議書は原本還付できる

提出した遺産分割協議書は、原本還付を請求すれば返却してもらえます。

そのため、1人の相続人が提出先の異なる遺産を複数相続する場合でも、遺産分割協議書の原本をたくさん用意する必要はありません。

しかし、提出先によっては原本還付請求をしてもすぐに返却してもらえない場合があります。手続きを急ぐのであれば、遺産分割協議書をあらかじめ多めに用意しておいたほうがよいでしょう。

原本還付の請求方法は提出先によって異なりますが、たとえば法務局では、以下の方法で原本還付を請求します。

  1. 遺産分割協議書をコピーする
  2. 遺産分割協議書のコピーに「原本還付請求」「上記は原本に相違ありません」と記載する
  3. 「上記原本に相違ありません」と記載したその下に署名・押印する
  4. 遺産分割協議書のコピーと登記申請書をホチキスでとめる
  5. 原本還付請求したい書類(原本)をホチキスやクリップなどでまとめる
  6. 登記申請窓口に提出する

「原本還付請求」「上記は原本に相違ありません」といった文言は、手書きで記載してもよいですが、法務局の補正コーナーにゴム印が置かれているため、借りて使用することも可能です。

また、コピーに押印する印鑑は、登記申請書に押印したものと同じ印鑑を使用する必要があります。

コピーしたものが2枚以上にわたる場合は契印をし、それぞれがつながっていることを証明する必要があることも覚えておきましょう。

まとめ

遺産分割協議書の提出先や提出が不要なケース、添付書類について解説しました。

記事の中で解説したとおり、遺産分割協議書は相続手続きの際に各方面から求められる書類です。

そのため、遺産分割協議書の提出が不要なケースでないかぎり、相続が開始した場合はきちんと作成することをおすすめします。

遺産分割協議書は自分でも作成が可能でフォーマットもネット上に多く出回っていますが、もし内容に不備があった場合は無効になる可能性があるため注意が必要です。

相続人の見落としも考えられるため、無理せず専門家に頼ることも検討してみてください。

ほかにもこちらのメディアでは、遺産分割協議書で公正証書を作成するメリット遺産相続手続きの期限についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。