遺言書がない場合の相続方法は?手続きや注意点を解説

遺言書がなくて、遺産をどう分割したらよいか悩んでいませんか。

親が亡くなると葬儀に忙殺されますが、しばらくすると財産をどのように分けたらよいか心配になりますよね。遺言書があれば、それにしたがって遺産を分けますが、ない場合には相続人の話し合いで分割しなければなりません。

そこでこの記事では、遺言書がない場合の遺産分割の方法や手続き・注意すべき点について解説します。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺言書の有無を確認し、あれば遺言書に従い相続する
  • 遺言書がない場合は、法定相続人を確定し遺産分割協議する
  • 遺言書がない場合は、慎重にお互いの事情を考え協議する

この記事の監修者

司法書士法人スターディオ


代表


保坂 真世/司法書士

司法書士法人スターディオ代表 神奈川県司法書士会所属 中央大学法学部卒業。横浜市内の司法書士事務所勤務を経て、2014年に横浜で独立開業。2018年に法人化し平塚支店を設置。個人向けに終活サポート・相続手続・障がい者の法的支援を行い、相続案件は年間100件以上受任している。

遺言書の有無を確認する

遺言書が有効であれば、原則としてその内容通りに相続手続きが行われます。

相続について話し合う「遺産分割協議」や、民法によって相続割合を定めた「法定相続分」より優先されるため、まずは遺言書の有無を確認しましょう。

しかし、遺言書の種類によって保管場所が異なるため、必ずしも自宅にあるとは限りません

自筆証書遺言でも保管制度を利用している場合には法務局で、公正証書遺言は公証役場で原本が保管されています。

3種類の遺言書と、それぞれの保管場所について解説します。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、自分で書いた遺言書のことで、通常被相続人自宅で保管しています。

しかし、自宅で保管する場合、紛失や隠蔽・破棄・変造などのリスクがあります。それらを避けるためには、「遺言書保管制度」の利用が効果的です。

遺言書保管制度は2020年7月から始まった制度で、原本に加え、画像データに変換した自筆証書遺言を法務局で保管してもらえます。

また、被相続人が亡くなった後、相続人は遺言書が保管されているかどうかを証明するための「遺言書情報証明書」を取得できます。これにより、遺言書の有無や場所が分からなくなるリスクを下げられるでしょう。

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証役場で作成し保管する遺言書をいいます。

公正証書遺言を管理している「遺言書検索システム」を使うことにより、全国の公証役場にある遺言書の有無を確認できます。遺言書の存在がわかれば、保管している公証役場に謄本の請求が可能です。

自筆証書遺言を発見したあとに別の遺言書が見つかることもあるため、公証役場に保管されていないか確認しましょう。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言書の内容を明らかにすることなく公証役場で作成することができる遺言書です。

秘密証書遺言は公証役場で作成しますが、公正証書遺言とは異なり、自宅等で保管します。

遺言書にしたがって遺産を分ける

遺言書が見つかった場合、遺言が有効であれば、遺言書にしたがって遺産を分けます。

自筆証書遺言であっても法務局の保管制度を利用していない場合や、秘密証書遺言が残されていた場合は、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。

検認とは、家庭裁判所に遺言書の存在や内容を確認してもらい、偽造や変造を防止するための手続きです。勝手に開封すると法律違反に問われ、過料を科せられる場合もあります。

また隠蔽したり改ざんしたりすると、相続人の地位を失うこともあるので気を付けなければなりません。

遺言書がない場合はどうする?

遺言書がある場合、法定相続人以外でも遺産を取得できます。しかし、遺言書がないとなると、遺産を相続する法定相続人を確定しなければなりません。

配偶者は常に法定相続人になれますが、配偶者以外は以下の順で相続する権利を得られます。第1順位は子ども、第2順位は父母などの直系尊属、第3順位は兄弟姉妹です。子どもが健在の場合には、直系尊属と兄弟姉妹は法定相続人になれません。

なお被相続人の子どもが亡くなっている場合は、その人の子ども(被相続人の孫)が代襲相続人として相続人になれます。

それでは遺言書がない場合の遺産相続の流れをみていきましょう。

(1)法定相続人を確定する

法定相続人を確定するためには、まず被相続人の戸籍を過去にさかのぼって調べなければなりません。

これにより今まで知らなかった子どもの存在がわかる場合もあります。

生まれてから亡くなるまでの間に住所が変わらなかった場合、戸籍謄本は1通だけです。しかし、結婚したり転居したりすると戸籍謄本は何通も存在するため、各戸籍謄本が必要になります。

(2)相続財産を調べる

次に相続財産を調べます。

見落としている財産がないか、大きな債務がないか確認する必要があります。

相続財産はプラスの財産だけではなく、債務も含めてすべての遺産を引き継がねばなりません。そのため、相続財産の調査は重要なことです。

プラスの財産には、株式や債券などの有価証券・生命保険・ゴルフ会員権などがあり、マイナスの財産には、住宅や車のローン・連帯債務・未払い金・税金などがあります。

(3)相続するか放棄するか決める

プラスの財産より債務が多い場合、相続人は重い負担を強いられます。

債務が多い場合は、相続放棄あるいは限定承認という制度を利用できます。

相続放棄

相続放棄とは、被相続人が遺した財産についての相続権を一切放棄することです。

これにより相続人は、債務が多いときの損害を被らずに済みます。相続放棄は負債が多いときだけでなく、相続人間のトラブルに巻き込まれたくない場合にも有効な選択肢です。

相続放棄は、相続人になったことを知った日から3カ月以内に申し立てる必要があり、他の相続人の同意は要りません。

なお負債が多そうなときは財産や負債に手を付けてはいけません。手を付けると単純承認したこととなり、相続放棄できなくなる場合があります。

限定承認

限定承認とは、相続財産の範囲内で債務を弁済し、残った財産があった場合に相続をするという方法です。財産がプラスなのかマイナスなのか不明な場合、限定承認は有効な方法といえるでしょう。

なお、家庭裁判所に限定承認を申し立てられる期間は、相続人になったことを知った日から3カ月以内相続人全員の合意が必要です。

(4)遺産分割協議を行う

遺言書がない場合は、法定相続人が集まり遺産協議を行う必要があります。

遺産分割協議には法定相続人全員の合意が必要

遺書書がない場合は被相続人の意思に拘束されませんので、法定相続人間で遺産分割協議を行い、自由に財産を分配できます。その結果特定の法定相続人に著しく有利になっても、法定相続人全員の合意が形成されていれば有効です。

なお遺産分割協議は相続人全員の合意が必要なため、事前に調査し法定相続人全員の所在を確認しておかねばなりません。遺産の分割協議に全員が揃わないときには、電話等でも参加できます。

遺産分割の合意ができたら、遺産分割協議書を作成し全員が署名押印します。

法定相続人の所在が分からない場合

手立てを尽くしても、所在が不明な法定相続人がいる場合はどうしたらよいのでしょうか?

行方が分からない法定相続人がいる場合は、「不在者財産管理人」を選ぶ必要があります。不在者財産管理人は、所在が分からない法定相続人の財産を管理する役割があります。家庭裁判所で権限外行為の許可を貰えば遺産分割協議に出席できるため、不在者を待つことなく相続手続きが進められるのです。

不在者財産管理人は相続人に代わって遺産分割協議書に署名押印できるものの、誰を選んでもいいというわけではありません。不在者の財産を守る役割があるため、利害関係のない人や弁護士・司法書士などが選ばれます。

遺産分割の方法は4つある

遺産分割の方法には次の4つの方法があります。

現物分割

現物分割は現金や不動産・株券などの遺産を、そのままの形で各相続人へ配分する方法です。簡単な手続きで遺産を今の形のまま残せるのが、現物分割のメリットです。一方、公平に分割するのは難しいといえるでしょう。

換価分割

換価分割は不動産などの遺産を売却して現金に換え、分割する方法です。公平に分割できますが、売却するための費用が必要になります。また、相続した不動産などを手元に残せず、売却益には所得税や住民税がかかるというデメリットもあります。

代償分割

代償分割は1人が遺産の全部または大部分を取得し、他の相続人に現金などを支払う方法です。故人が遺した家に住み続けたい相続人がいる場合などに利用されますが、他の相続人に支払うための資金を用意しなければなりません。

共有分割

共有分割は相続人全員が不動産などの遺産の持ち分を決め、共有名義にして所有する方法です。公平に分割できますが、長期間保有していると相続人間でトラブルが発生することもあります。そのため、できるだけ早く共有名義を解消したほうがよいでしょう。

遺産分割協議がまとまらない場合

遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てられます。裁判官および調停委員が相続人の間に入って話し合いを行い、全員が合意すれば調停は成立します。

なおそれでも協議が整わない場合は、家庭裁判所の遺産分割審判の判断が必要です。

(5)相続する

遺産分割協議で合意に達したら、遺産分割協議書を作成し、決定した内容に従って相続手続きを行います。

不動産や預貯金・株式・保険などについては名義を変更しなければなりません。名義変更するためには、遺産分割協議書や戸籍謄本などの書類が必要になりますので、関連機関に問い合わせて用意しましょう。

(6)相続税の申告と納付を行う

相続税は遺産の価額が一定の範囲内なら非課税ですが、基礎控除額を超える場合は申告し税金を納めなければなりません。相続税の納付期限は、相続開始後10カ月以内と決められているため、早急に準備する必要があります。

遺言書がない相続の注意すべき点

遺言書がない場合、相続人同士のトラブルに気を付けなければなりません。遺言書があると被相続人は自分の意思や相続人の状況を考えて書面を残しているため、一般的にスムーズに相続が行われます。

しかし、遺言書がないと、親しくしていた家族でも自分の利益を主張しがちです。遺産分割協議が長引いたり、家族の関係が悪化したりすることもあるため、慎重に相続を進めましょう。

遺言書がない場合は専門家に相談を

遺言書がない場合には、まず相続人と相続財産を確認し、遺産分割協議により遺産を分配します。しかし相続放棄できる期間は被相続人の死亡を知ったときから3ケ月以内、相続税の納付期限は相続開始後10カ月以内と短期間です。そのためスムーズに遺産分割協議を進めなければなりません。

遺産分割協議は、相続人同士の利害が相反することが多いため、話し合いが長引きトラブルになりがちです。遺言書がない場合には、相手の気持ちや事情を考え、遺産分割協議が円滑にまとまるよう進める必要があります。

相続人だけでは話がまとまらない場合は、関係が悪化する前に弁護士や司法書士へと相談しましょう。

ほかにもこちらのメディアでは、遺言書の種類について遺言書の相続放棄はできるのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。