遺産分割協議証明書とは?使われ方や遺産分割協議書との違いを解説

「遺産分割協議証明書はどのようなシーンで必要になるんだろう」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?

相続が発生し、被相続人が遺言書を作成していない場合、遺産分割協議を行わなければなりません。遺産分割協議書の作成が難しいときは、遺産分割協議証明書を作成して相続手続きを行うことが可能です。

こちらの記事では、遺産分割協議証明書が果たす役割や書式、作成するメリットなどを解説します。相続の方法で悩んでいる方に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺産分割協議証明書は遺産分割協議書と同じ役割を果たす
  • 第三者が見ても遺産分割内容が分かるように記載することが大切
  • 遺産分割協議証明書は相続人全員の署名と押印がいらない

遺産分割協議証明書とは

遺産分割協議証明書とは相続人の全員で決めた遺産の分け方を対外的に証明する書類です。相続手続きを進めるためには、遺産分割協議書または遺産分割協議証明書が必要になります。

遺産分割協議書との違い

遺産分割協議書と遺産分割協議証明書はいずれも「協議が完了したこと」を対外的に証明する書類です。記載されている内容や果たす役割も同じですが、下記のように作成方法が異なります

遺産分割協議証明書と遺産分割協議書の違い
  • 遺産分割協議証明書:各相続人が自分用の書類に署名・押印する
  • 遺産分割協議書:1枚の書類に全相続人が署名・押印する

例えば、相続人が10人いる場合は「10人分の遺産分割協議証明書が用意できれば、遺産分割協議書と同じ役割を果たす」ことになります。

使われ方・必要なシーン

相続人全員の遺産分割協議証明書が集まったら、相続手続きを進められます。不動産の名義を変更する場合は法務局へ、亡くなった方の預貯金を動かす場合は銀行や信用金庫へ、集めた証明書を持って行きましょう。

遺産分割協議証明書でできる手続き
  • 法務局(不動産登記)
  • 銀行・信用金庫(預貯金の移管)
  • 証券会社(株式・債券の移管)
  • 運輸局(自動車の名義変更)
  • 税務署(相続税の申告)

「誰が、どの財産を、どの程度の割合で引き継ぐか」が明確でないと、役所や金融機関は手続きを受け付けてくれません。役所や金融機関からすると、きちんと必要書類がそろっており、なおかつ分割方法が明確でないと、手の打ちようがないためです。

さまざまな場面で遺産分割協議証明書が必要になるため、大切に保管しましょう。1枚でも欠けると、諸々の手続きができなくなってしまう点には注意が必要です。

遺産分割協議証明書のメリット

遺産分割協議証明書は1枚の書類を各相続人でやり取りする必要がないため、「作成しやすい」というメリットがあります。

1枚に全員の署名押印が不要

遺産分割協議証明書は、1枚の書類に相続人全員の署名・押印をもらう必要はありません。遺産分割協議書を作る場合、1人の相続人が署名・押印を済ませて次の相続人に回す(場合によっては郵送する)ことになるため、手間と時間がかかります。

遺産分割協議書が「あっちに行ったりこっちに行ったりする」ため、紛失のリスクも高いと言えるでしょう。遺産分割協議証明書は、各相続人が署名・押印して返送すれば済むため、順番に回す必要がありません

相続人が遠方に住んでいても作成しやすい

遺産分割協議証明書は、相続人が遠方に住んでいるケースでも作成しやすいメリットがあります。相続人が遠方に住んでいると、実際に会うのが難しいため、全員の署名・押印をもらうのは大変です。

例えば、相続人が北海道・東京・沖縄など全国各地に点在している場合、書類の作成で膨大な手間と時間がかかります。相続人の代表者も「今書類はどこにあるんだろう?」という不安を抱えることになるため、不安やストレスを抱えることになります。

しかし、遺産分割協議証明書は各相続人から返送してもらえばいいため、遠方に住んでいる相続人がいても対応しやすいです。

遺産分割の手続きがスムーズに進む

遺産分割協議証明書があれば、遺産分割の手続きがスムーズに進みます。遺産分割協議書を作成する場合、時間がかかるうえに書類に不備がある度に署名・押印を全員でやり直す必要があるため面倒です。

しかし、遺産分割協議証明書は、もし不備があっても当該相続人が書き直すだけで済みます。

相続の手続きは煩雑なので、「できるだけ早く終わらせたい」と思うのが一般的です。そのため、スムーズに手続きを進めたい場合は遺産分割協議証明書の方が適しています。

遺産分割協議証明書を作るデメリット

遺産分割協議証明書には、作成するにあたってデメリットも存在します。

偽造される可能性がある

遺産分割協議証明書は、他の相続人に見られることなく単独で署名・押印できます。そのため、協議内容について偽造される可能性がゼロではありません。

偽造を防ぐためにも、返送された中身をきちんと確認することが必須です。また、必ず印鑑登録証明書も出してもらい、きちんと実印を押印しているか確認しましょう。

全員の証明書がないと相続財産が移管できない

遺産分割協議証明書は、相続人全員分の証明書がないと効力が生じません。全員分の証明書揃わないと、相続財産の移管ができない点には注意が必要です。

相続人の中で、1人でも遺産分割協議証明書を提出しない人がいると手続きを進められません。非協力的な相続人がいると、さまざまな手続きが進まない点は留意しましょう。

遺産分割協議書よりも遺産分割協議証明書の作成がおすすめのケース

相続人の人数や住んでいる場所次第では、遺産分割協議証明書の作成がスムーズに進みやすいです。状況に応じて、作成しやすい書類を選択して手続きを進めましょう。

相続人が多い

相続人が多い場合は、遺産分割協議証明書の方がスムーズに作成しやすいでしょう。例えば、相続人が10人いる場合は1枚の書面に10人分の署名・押印をする必要があることから、完成までに時間と手間がかかります。

書面を郵送する回数が多ければ、紛失のリスクも高まるでしょう。一度紛失したら最初から作り直しになるため、相続手続きを妨げる要因にもなりかねません。

しかし、遺産分割協議証明書は「代表者と相続人」だけのやり取りで済むため、相続人が多くてもスムーズに手続きが進むでしょう。

連絡が取りにくい相続人がいる

相続人の中に連絡が取りにくい人がいる場合も、遺産分割協議証明書の作成がおすすめです。連絡が取りにくい相続人が遺産分割協議書への署名・押印を渋ると、いつまで経っても仕上がりません。

しかし、遺産分割協議証明書は各自が作成できるため、連絡が取りにくい相続人を「いったん後回し」にできます。遺産分割協議証明書であれば、できる範囲で書類を揃えられるため、相続手続きをスムーズに進めやすいです。

遺産分割協議証明書の書き方

遺産分割協議書の作り方は、下記のいずれかの方法になります。

遺産分割協議書の作り方
  • 直接会って書類を作成し、署名・押印をもらう
  • 郵送で原本を送り、署名・押印して返送してもらう

また、遺産分割協議証明書は、全員の相続財産を記載する場合と各相続人の相続財産のみを記載する2つの方法があります。どちらで作成しても問題ないため、相続人の理解が得やすい方で作成しましょう。

相続人全員の財産を記載する場合

相続人全員分の相続財産を記載するときは、「遺産分割の協議が成立したことを証明する」という文言を入れましょう。書面の上部(タイトル部分)に「遺産分割協議証明書」と明記し、相続人全員の名前を漏らさずに記載します。

本文の書き方としては「相続人Aは下記の財産を取得する」のように記載しましょう。最後に、相続人の署名・押印をもらえば完成です。

各相続人が自分の取得財産のみ記載する場合

相続人全員分の相続財産を記載せず、各相続人が自分の取得財産のみ記載する書き方でも問題ありません。「以下の遺産について、相続人Aが取得したことを証明する」と記載し、相続した財産について、第三者が見ても分かるように明記しましょう。

書面の上部に「遺産分割協議証明書」と記載し、最後に相続人が署名・押印すれば完成です。

遺産分割協議証明書を作成した後に財産が見つかった場合

遺産分割協議証明書の作成が完了した後に、何かの拍子に遺産が新たに発見されることがあります。この場合、新たに発見された遺産についてのみ、新たに遺産分割協議証明書を作成すれば問題ありません

ただし、下記のようなケースでは対応方法が異なるため、注意しましょう。

  • 見つかった財産が遺産分割の結果に影響するとき:遺産分割の全部をやり直す
  • 誰かが財産を隠していたとき:遺産分割の全部をやり直す
  • 借金が見つかったとき:相続人間で負債の負担割合を決める

遺産分割協議をやり直す場合、相続財産は相続人から相続人に対する「贈与・譲渡」があったものとみなされ、贈与税・所得税が課税される点には注意しましょう。

本来であれば、協議が終了した時点で「相続人が被相続人の財産を承継し、所有権を取得する」となるため、このような取り扱いになっています。

なお、各遺産分割協議証明書に「もし、新たに被相続人の財産が発見されたとき」の取り扱いについて記載すれば、さまざまな手間を省略できます。

「遺産分割協議が終了した後、新たに発見された相続財産に関しては〇〇が相続する」のように、帰属先を明記しておくとトラブルを未然に防げるでしょう。

遺産分割協議証明書を作成する時の注意点

遺産分割協議証明書を作成する時の注意点を解説します。スムーズに有効な書類を作成するためにも、以下で解説する注意点を意識してみてください。

印鑑登録証明書が必要になる

遺産分割協議証明書は、印鑑登録証明書とセットでもらう必要があります。金融機関の中には、遺産を移転するにあたって「取得から6カ月以内の印鑑登録証明書」の提出を求めるケースが多いです。

印鑑登録証明書があることで「実印で押印したこと」を証明できるため、忘れずにもらいましょう。

印鑑登録を済ませていない場合

印鑑登録を済ませていない場合は、住所地の役所で印鑑登録の手続きを行いましょう。実印と身分証明書を持参すれば、その日の内に印鑑登録の手続きを完了させされます。

役所から「印鑑登録証(印鑑登録カード)」を発行してもらえば、印鑑登録証明書を発行できます。もし印鑑登録証を紛失した場合は、速やかに廃止と再登録の手続きを役所で行いましょう。

相続放棄する場合は「相続放棄受理証明書」が必要になる

相続人の中に相続放棄をした人がいる場合、「相続放棄受理証明書」をもらいましょう。「相続放棄受理証明書」は、相続放棄の申述をした家庭裁判所から入手できます

相続放棄をした本人は「自分はもう手続きには関係ない」と考えているかもしれませんが、相続手続きを進める際には、相続放棄をしたことの証明が必要となります。

そのため、相続放棄をした人から「相続放棄受理証明書」をもらうことも、忘れずに行いましょう。

遺産分割協議証明書の中で最も日付が遅い日が遺産分割協議成立日になる

遺産分割協議証明書を作成する日付はバラバラでも問題ありませんが、遺産分割協議成立日は遺産分割証明書の中で最も日付が遅い日になります。

  • 相続人Aの証明日:2023年8月1日
  • 相続人Bの証明日:2023年8月10日
  • 相続人Cの証明日:2023年8月15日

上記の日付で遺産分割協議証明書が揃った場合、協議成立日は「2023年8月15日」となります。

遺産分割協議証明書には捨印を押す

遺産分割協議証明書には、捨印を押してもらいましょう。捨印とは、書類の中に誤りが見つかった際に訂正印として扱う印鑑です。捨印は、一般的に書類の上方にある空欄に押します

捨印があることにより、誤字脱字があったときでも、本人に代わって別の人が訂正できます

遺産分割協議証明書は代表者がまとめるケースが一般的です。スムーズに手続きを進めるためにも、各相続人から捨印をもらっておくことをおすすめします。

遺産分割協議証明書には実印を押す

遺産分割協議証明書には相続人の署名・押印が必要ですが、押印は実印で行う必要があります。実印以外で押印した証明書は無効になるため、新しく作成する手間が発生します。

数次相続の場合は手続きが複雑になる

複数回にわたって相続が起こることを「数次相続」と言いますが、数次相続の場合は遺産分割協議証明書の作成手続きが煩雑になります。例えば、父の相続が発生し、遺産相続手続きを進めている途中に母の相続が発生するようなケースです。

数次相続が起こると相続人も変わってくるため、誰から遺産分割協議証明書をもらうべきか判断が難しくなります。例えば、両親がともに高齢で健在のときは、短期間に相続が起こる可能性が考えられるでしょう。

遺産分割協議証明書が送られてきても安易に署名・押印しない

代表者以外の相続人は、遺産分割協議証明書を「証明する側」になります。

遺産分割協議証明書が送られてきても、安易に署名・押印せず内容を確認することが大切です。理解せずに「言われるがまま」署名・押印すると、遺産相続の内容に納得できなかったとしても主張できません

遺産分割でトラブルになると、弁護士などの専門家を挟む事態になりかねません。依頼費用がかかるうえに手続きが膠着するため、きちんと相続人と話し合うことが大切です。

相続人間でコミュニケーションを取る

相続の手続きを進めるためには、相続人全員分の遺産分割協議証明書が欠かせません。書類をすべて揃えるためには、相続人全員でコミュニケーションを取り、納得して署名・押印してもらう必要があります。

コミュニケーションが不足していると、書類が揃う以前の問題として遺産分割でトラブルが起きてしまうリスクも考えられるでしょう。できれば被相続人が亡くなる前に話し合うのが望ましいですが、生前に話し合う機会が設けられないこともあります。

大切な家族が亡くなって精神的に疲弊している中で相続トラブルが起こると、心身への負担が過重になってしまいます。トラブルの火種を最小限にするためにも、丁寧にコミュニケーションを取ることが大切です。

手続きが複雑で、コミュニケーションを取りながら進めることに不安がある場合は、専門家に依頼することも1つの手段です。

遺産分割協議証明書の作成や収集を任せることもできるので、専門家への依頼も検討してみましょう。

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