「相続手続きの中で、自分でできることは自分でやりたい」「相続関係説明図ならなんとか作れそうだけど、書き方やルールがよくわからない」そのようなお悩みはありませんか?
相続関係説明図は、書き方のポイントや必要な記載内容さえ押さえれば、ご自身でも作成できる書類です。ただし、ケースによっては作成が難しい場合や注意すべき点もあります。
この記事では、相続関係説明図の書き方や作成のメリット、必要書類などをご紹介します。法定相続情報一覧図とどのような点が異なるかについても解説しているため、ぜひ参考にしてください。
- 相続関係説明図とは、被相続人と相続人の関係性を図式化した書類
- 相続関係説明図を作成しておくと、原本還付の際や相続関係の整理に役立つ
- 相続関係説明図には自分で作成する方法や、テンプレート・作成ソフトを使用して作成する方法などがある
相続関係説明図とは
相続関係説明図とは、被相続人とその相続人の関係性を図で表した書類です。家系図を相続用にしたようなもので、見た目は家系図に似ています。
さまざまな相続手続きに用いられるほか、被相続人から見て相続人が何人いるのかやそれぞれどのポジションにいるのかが一目でわかるため、相続人の整理にも役立ちます。
法定相続情報一覧図との違い
法定相続情報一覧図とは、ひとことでいうと「法務局から認証を受けた相続関係説明図」です。被相続人と法定相続人(法律で定められた相続人)の関係性を図式化した書類であるという点はどちらも同じですが、以下のようにいくつか異なる点もあります。
相続関係説明図 | 法定相続情報一覧図 | |
---|---|---|
法務局の認証 | 受けていない | 受けている |
入手方法 | 作成するだけ | 交付申請をし、法務局に認証してもらう |
入手できるまでの期間 | 完成できしだい | 1週間〜10日程度 |
費用 | 自作すれば無料 | 無料 |
記載に関するルール | 細かく決められていない | 細かく決められている |
相続手続き時の戸籍謄本の提出 | 同時に提出が必要 | 省略できる |
それぞれの特徴については、次の見出し以降で解説します。
相続関係説明図の特徴
相続関係説明図には法務局の認証がないため、公的な書類には該当しません。
様式や記載内容について厳格なルールが定められているわけではないため、最低限必要な項目さえ記載すれば、あとは比較的自由に作成できます。
ただし、相続手続きの際に使用する場合は、同時に戸籍謄本も提出する必要がある点にご注意ください。
戸籍謄本は相続関係説明図を添付すれば原本還付できますが、手続きによってはいったん提出しなければならないこともあります。
その場合は、戸籍謄本の返却を待ってから次の手続きに移らなければなりません。
法定相続情報一覧図の特徴
法定相続情報一覧図は、法務省の法定相続情報証明制度によって公的な認証を受けた書類です。
相続手続きに使用するときは戸籍謄本を省略できるため、何枚か取得しておけば複数の相続手続きを同時に進められます。
ただし、記載内容については細かいルールがあり、記載すべき項目や文言が決められています。また、手間と時間も必要です。
書類の提出先が多いケースであれば有効な手段ですが、相続手続きが預貯金だけであるなど、遺産の種類が少ない場合は取得するメリットがあまりないかもしれません。状況に合わせて、相続関係説明図か法定相続情報一覧図のどちらかを選択するとよいでしょう。
相続関係説明図が必要になるケース
相続関係説明図は、相続が開始したら必ず必要になるわけではありません。しかし、場合によっては相続手続きの際に要求される可能性があります。ここでは、相続関係説明図が必要になるケースをご紹介します。
法務局に相続登記を申請するとき
不動産の所有者が亡くなったときは、相続登記の申請が必要です。相続関係説明図は、相続登記を申請する際の添付書類として法務局に提出します。必ず添付しなければならない書類ではありませんが、添付すれば戸籍謄本などの原本還付請求が簡単に行えます。
ただし、相続関係説明図を添付した場合でも、原本をすぐに返却してもらえない点には注意が必要です。通常であれば、登記完了後に登記完了証や登記識別情報通知、ほかの添付書類とともに返却されます。
ほかの相続手続きも同時に進めたい場合は、法定相続情報証明制度を利用して、法定相続情報一覧図を取得しておくことをおすすめします。
預貯金の名義変更をするとき
被相続人の預貯金口座を名義変更するときに、相続関係説明図が必要になることがあります。人が亡くなると、その方の口座は一時的に凍結されてしまいます。
その状態で口座の名義変更をするには、戸籍謄本や遺産分割協議書など、金融機関が求める書類を提出しなければなりません。金融機関によっては、その際に相続関係説明図も求められる可能性があります。
家庭裁判所に遺産分割調停を申立てるとき
遺産分割協議が整わない場合、ケースによっては遺産分割調停に発展することもあります。その際に、家庭裁判所から相続関係説明図を要求される可能性があります。
遺産分割調停を申立てる必要があるようなケースでは、相続関係説明図を作成する精神的な余裕がないことが多いです。そのため、必要を迫られてからではなく早めの段階で作成しておくとよいでしょう。
相続関係説明図を作成するメリット
「相続関係説明図が必要になるケースがあるのはわかったけど、作成するのは面倒」「相続人が誰かは把握できているから必要ない」そのように感じていませんか?
たしかに、作成に時間がかかる点はデメリットといえるかもしれません。しかしそれ以上に大きなメリットが存在します。ここでは、相続関係説明図を作成することで得られるメリットをご紹介します。
提出した戸籍謄本を原本還付請求できる
相続関係説明図を提出すれば、戸籍謄本や戸籍の附票などの書類を簡単に原本還付請求できます。
たとえば法務局に相続登記を申請する場合、相続関係説明図がなくても原本還付請求は可能です。しかし、原本還付を受けるためには戸籍謄本をすべてコピーし、申請書に添付しなければなりません。
枚数が少なければまだよいですが、相続人が多く書類の枚数が膨大なケースでは、コピーをとるだけでも重労働です。相続関係説明図があればコピーを添付する必要がなくなるため、それだけでもメリットといえるでしょう。
被相続人と相続人の関係が整理できる
相続関係説明図を作成すると、相続関係がご自身の中で整理できます。多少相続関係が複雑でも、相続人が誰で被相続人にとってどのような立場の人物なのかが一目でわかるためです。
相続が開始したら、相続調査を行い相続人を確定する必要があります。すべての相続人を把握しているつもりでも、相続調査によって前婚での子どもや認知した婚外子が判明するケースは少なくありません。
万が一相続人の見落としがあった場合、その状態で行った遺産分割協議は無効です。
相続関係説明図は、相続調査の結果を図式化した書類です。遺産分割協議が無効になったり、相続手続きが進まずあとあと困ったりしないためにも、相続人調査のあとにきちんと作成しておきましょう。
相続人の人数が多く複雑なケースほど作成することをおすすめします。
相続関係説明図の書き方
相続関係説明図の書き方には、以下の方法があります。
- 自分で作成する
- 法務局のテンプレートを使用する
- 作成ソフトを使用する
ここでは、それぞれの書き方について解説します。
自分で作成する場合
相続関係説明図は、ご自身での作成が可能です。特別な様式や記載内容についての定めがないため、ある程度は自由に作成できます。
ただし、記載しておくべき項目もあるため、そのような項目が抜けてしまわないよう注意が必要です。法務局の記載例を参考にするのもよいでしょう。
記載しておくべき項目は以下のとおりです。
- タイトル
- 誰の相続関係説明図か
- 被相続人の情報
- 相続人の情報
それぞれ解説します。
1.タイトル
用紙の上部に「相続関係説明図」とタイトルを記載します。ただし、2の「誰の相続関係説明図か」が記載されていれば省略しても構いません。
2.誰の相続関係説明図か
誰の相続関係説明図であるかが一目でわかるよう「被相続人 ◯◯△△ 相続関係説明図」と記載します。タイトルの下に記載するとよいでしょう。
3.被相続人の情報
被相続人の情報を記載します。最低限必要な情報は以下のとおりです。
- 最後の住所
- 死亡年月日
- 被相続人であること
- 氏名
最後の住所は死亡後に取得した戸籍の附票や住民票の除票、死亡年月日は死亡後に取得した戸籍謄本や住民票の除票に記載されています。間違えないよう手元に準備してから記載しましょう。
また、最後の住所や氏名は戸籍謄本や戸籍の附票、住民票どおりに記載する必要があります。省略しないよう、正式な書き方で記載しましょう。なお、「被相続人であること」については、氏名の上に(被相続人)と記載すれば問題ありません。
4.相続人の情報
相続人の情報も記載します。すでに死亡している相続人や相続放棄した相続人も含め、相続人全員の情報が必要です。最低限必要な情報は以下のとおりです。
- 住所
- 生年月日(すでに死亡している場合は死亡年月日)
- 被相続人から見た続柄
- 氏名
住所は住民票どおりに記載しましょう。氏名は戸籍謄本どおりに記載します。存命の場合は生年月日を記載し、すでに死亡しているときは死亡年月日を記載します。
被相続人から見た続柄とは、たとえば「妻」や「長男」「養子」などです。氏名の上に、それぞれ(妻)や(長男)などと記載しましょう。
必要事項を記載したら情報同士を線でつなぐ
必要項目を記載したら、それぞれの情報を線同士でつなぎます。線の種類は親族関係によって異なります。配偶者なら二重線、そのほかの関係であれば一本線です。なお、離婚している場合は二重線の上にバツをします。
法務局のテンプレートを使用する場合
法務局のホームページには、ケースごとのテンプレートが掲載されています。配偶者と子どもが相続人になるオーソドックスなケースをはじめ、家督相続や代襲相続が生じている場合など、さまざまなパターンが用意されています。
そのため、数あるテンプレートの中からご自身のケースに近いものを選んで使用するとよいでしょう。ただし、法務局に掲載されているテンプレートは、すべて法定相続情報一覧向けに作られている点には注意が必要です。
タイトルを「被相続人〜法定相続情報」となっているところを、「被相続人〜相続関係説明図」と書き換える必要があります。
また、下部に作成日や作成者の情報を記載する欄が設けられていますが、相続関係説明図には不要です。こちらの欄については消してしまったほうがよいでしょう。
作成ソフトを使用する場合
作成ソフトを使用するのもひとつです。エクセルやワードで一から作成するのは大変ですが、作成ソフトで作成すれば短時間で作成できます。代表的な作成ソフトは以下の2つです。
家系図作成システムは月額制のソフトです。月額1,100円(税込)で利用できるため、初月分だけ支払って、作成し終わったら解約するといった使い方もよいでしょう。
一方、そうぞく工房は5万5,000円(税込)かかりますが、買い切り型であるため一度購入してしまえばあとは費用がかかりません。
また、そうぞく工房には無料で利用できるフリー版もあります。相続関係説明図が10個までしか作成できない、全画面からの人物検索ができないなど機能に制限はありますが、専門家が仕事で使用する場合でないかぎりフリー版で十分でしょう。
相続関係説明図を作成するときの必要書類
相続関係説明図は、被相続人や相続人の戸籍謄本、住民票などに記載されている情報を見ながら作成します。そのため、作成する際はまず資料となる書類を集める必要があります。必要書類は以下のとおりです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の戸籍の附票または住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の戸籍の附票または住民票
被相続人の戸籍謄本は、出生から死亡までのものが必要です。そのため、被相続人の親やその前の世代までさかのぼります。被相続人の戸籍の附票または住民票の除票は、被相続人の最後の住所を確認するために必要です。
ここで注意しなければならないのは、相続登記をする際に登記上の所有者の住所が最後の住所と異なる場合は、登記上の住所が記載されている附票も必要になる点です。念のため、登記の状況も確認しておきましょう。
相続人の戸籍謄本、戸籍の附票または住民票については、相続する方のものだけではなく相続人全員のものが必要です。
相続関係説明図を作成する際の注意点
相続関係説明図を作成するときは、どのような点に注意すればよいのでしょうか?ここでは、相続関係説明図を作成する際の注意点について解説します。
手書きでもパソコンでも作成できる
相続関係説明図は手書き、パソコンのどちらでも作成可能です。そのため、たとえば法務局に手書きで作成したものを提出しても問題ありません。ただし、パソコンで作成したほうがきれいで見やすいのはたしかです。
操作に慣れている方は、パソコンでの作成をおすすめします。パソコンの操作に慣れていない場合は、線を引く際に定規を用いるなど、できるだけ見やすくなるよう丁寧に作成しましょう。
住民票や戸籍謄本どおりに記載する
相続関係説明図には、住所や氏名を住民票や戸籍謄本どおりに記載する必要があります。たとえば住所であれば「1-1-2」と略して記載するのではなく、住民票どおりに「1丁目1番2号」というような書き方をします。
氏名についても、略字を使用せず戸籍謄本どおりに記載するようにしましょう。
相続、分割、相続放棄のいずれかを記載する
相続関係説明図を作成するときは、相続人の名前の横に「相続」「分割」「相続放棄」のいずれかを記載しましょう。遺産を相続する方は「相続」、相続しない方は「分割」、相続放棄をした方は「相続放棄」です。
このように、相続人それぞれがどうするかについて記載しておくと、相続人たちにとっても提出先にとってもわかりやすいです。
相続人が多いと相続関係説明図が複雑になる
相続関係がシンプルであればそれほど苦労することなく相続関係説明図を作成できるでしょう。しかし、相続人の数が多いと相続関係が複雑になり、作成の難易度が上がります。
たとえば結婚と離婚を繰り返している場合や子どもがたくさんいるケースなど、相続に関わる人間が増えれば増えるほど相続関係は広がっていきます。
相続関係が複雑だと、どうしても相続人を見落としてしまいがちです。自力では難しいと感じたら、無理をせず弁護士や司法書士などの専門家への相続相談をおすすめします。
専門家にすべて任せるのはもちろん、アドバイスを受けながらご自身で作成するのもよいでしょう。専門家に相談することも検討してみてはいかがでしょうか?
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