相続手続きの際、遺産分割協議書と印鑑証明書を求められることは多々あります。
しかし「どの手続きに必要なのかわからない」「そもそもなぜ遺産分割協議書に印鑑証明書が必要なの?」「以前取得した印鑑証明書が出てきたけど使えるの?」など、疑問に思っていることはありませんか?
この記事では遺産分割協議書と印鑑証明書がセットで求められることや、遺産分割協議書と印鑑証明書が必要な相続手続きについて解説します。
遺産分割協議書と印鑑証明書に関する注意点についても解説しているため、ぜひ最後までご覧ください。
- 遺産分割協議書と印鑑証明書はセットで求められる
- 印鑑証明書自体は有効期限のある証明書ではないが、提出先によっては期限が定められている場合がある
- 代理人や特別代理人が遺産分割協議に参加した場合は、印鑑証明書も代理人や特別代理人のものが必要になる
印鑑証明書とは
印鑑証明書とは、市区町村に登録した印鑑が、間違いなく登録者本人の実印であると第三者に証明するための書類です。「印鑑証明書」「印鑑証明」などと略して呼ばれることが多いですが、正式には「印鑑登録証明書」といいます。
印鑑証明書が必要になるのは、たとえば住宅ローンを組む際や自動車を売買するときなど、実印が求められる場面です。遺産分割協議書もそのひとつです。
印鑑証明書は市区町村役場で印鑑登録の手続きをすれば取得できます。
遺産分割協議書と印鑑証明書はセットで提出する
遺産分割協議書と印鑑証明書はセットで提出先に出さなければなりません。遺産分割協議書に押印した印鑑が間違いなく実印であると、提出先に対して証明する必要があるためです。
実印が押印されていても、提出先にはそれが実印であると確かめるすべがありません。そのため、遺産分割協議書に押印した印鑑が実印であるという証拠として、印鑑証明書を添えるのです。
遺産分割協議書と印鑑証明書が必要な手続きと有効期限
遺産分割協議書と印鑑証明書が必要な相続手続きはたくさんあります。注意が必要なのは、手続きによっては印鑑証明書に有効期限が設けられている場合がある点です。
ここでは、遺産分割協議書と印鑑証明書が必要な手続きと、手続き別に設けられた印鑑証明書の有効期限について解説します。
相続登記の申請
遺産分割協議によって不動産の相続人を決定した場合は、相続登記申請時に遺産分割協議書と印鑑証明書を添付します。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本、相続人全員の戸籍謄本などのほかの添付書類とともに提出します。
なお、相続人のうちの1人が単独で相続する場合でも、印鑑証明書は相続人全員分必要です。
相続登記に添付する印鑑証明書の有効期限
意外にも、登記官は印鑑証明書の日付にこだわりません。そのため、相続登記の際に提出する際は住所や氏名、印鑑に変わりがなければ古いものでも使用できます。
ただし、何十年も昔のものであるなど、あまりに古すぎる場合は取り直しを求められる可能性があります。
預貯金の解約や払い戻し
金融機関で預貯金の解約や払い戻しの手続きをする際も、遺産分割協議によって誰が相続するのかを決めた場合は遺産分割協議書と印鑑証明書が必要です。
なお、印鑑証明書については、払い戻しを受ける相続人だけでなく、全員の分を添付する必要があります。
預貯金の解約や払い戻しに使用する印鑑証明書の有効期限
預貯金の解約や払い戻しに使用する印鑑証明書は、いつ取得したものでもよいわけではありません。有効期限は金融機関によって異なり、発行から3か月以内や6か月以内などさまざまです。
印鑑証明書を早めに準備していた場合は、ほかの相続手続きをしているうちに有効期限を過ぎてしまう可能性があります。預貯金の解約や払い戻しの手続きを行う前に、有効期限を確認しておいたほうがよいでしょう。
株式や投資信託の名義変更
遺産分割協議によって株式や投資信託を相続した場合、名義変更の際には証券会社や信託銀行に遺産分割協議書と印鑑証明書を提出しなければなりません。印鑑証明書は相続人全員の分を添付する必要があります。
株式や投資信託の名義変更に使用する印鑑証明書の有効期限
株式や投資信託の名義変更に使用する印鑑証明書は、多くの場合6か月以内に発行したものを求められます。ただし、証券会社や信託銀行によって異なる可能性があるため、手続きに入る前に確認しておくことをおすすめします。
相続税の申告
遺産分割協議によって相続した場合は、相続税の申告の際にも遺産分割協議書と印鑑証明書が必要です。申告書とともに、被相続人の住所地を管轄する税務署に提出します。
なお、印鑑証明書は相続税の申告をする相続人の分だけでなく、全員のものが必要です。
相続税の申告の際に添付する印鑑証明書の有効期限
相続税の申告の際に添付する印鑑証明書には、有効期限がありません。税務署が確認したいのは、遺産分割協議書に押印された印鑑が本当に実印なのかという点であるためです。
そのため、印鑑証明書に記載されている内容や印鑑に変更がなければ、多少古いものでも問題なく手続きできます。
自動車の名義変更
遺産分割協議によって相続した場合、自動車の名義変更の際に遺産分割協議書と印鑑証明書が必要です。ただし、すべての自動車の名義変更に必要なのではなく、自動車によっては不要な場合もあります。
遺産分割協議書と印鑑証明書の要不要については以下のとおりです。
自動車の種類 | 遺産分割協議書 | 印鑑証明書 |
---|---|---|
普通自動車 (査定額100万円超え) |
必要 | 必要 (相続人全員分) |
普通自動車 (査定額100万円以下) |
必要 (遺産分割協議成立申立書を添付する場合は不要) |
必要 (遺産分割協議書を添付する場合は相続人全員分必要。ただし、遺産分割協議成立申立書を添付する場合は相続する人の分だけでよい) |
軽自動車 | 不要 | 必要 (住民票を添付する場合は不要) |
査定額が100万円以下の普通自動車を名義変更する場合は、遺産分割協議書よりも簡易的な書類「遺産分割協議成立申立書」での手続きが可能です。
遺産分割協議成立申立書を添付する場合は自動車を相続する人の実印のみで済み、印鑑証明書も相続する人のものだけで足ります。
また、軽自動車の場合は遺産分割協議書が必要なく、印鑑証明書も住所確認書類としては求められますが、住民票があれば添付する必要はありません。
自動車の名義変更に使用する印鑑証明書の有効期限
自動車の名義変更に使用する印鑑証明書は、発行から3か月以内のものでなければなりません。軽自動車の場合は住民票があれば印鑑証明書は不要ですが、添付するのであれば同じく3か月以内のものを添付する必要があります。
保険金の受け取り
生命保険金の受け取りに遺産分割協議書が必要になるかどうかは、誰が保険金の受取人になっているかによって異なります。保険金の受取人によって、遺産分割の対象になるかどうかが変わってくるためです。
遺産分割の対象になるかどうかについては以下のとおりです。
- 被相続人以外の人が受取人になっている場合…遺産分割の対象にならない
- 被被相続人本人が受取人になっている場合…遺産分割の対象になる
たとえば、被相続人の配偶者や子どもなどの相続人が受取人になっている場合は遺産分割の対象にならず、保険金の受け取りに遺産分割協議書は必要ありません。
しかし、保険金の受取人が被相続人本人である場合は保険金も相続財産に含まれるため、遺産分割の対象になります。そのため、保険金の受け取りの際には遺産分割協議を提出しなければなりません。
なお、印鑑証明書に関しては受取人のものが必要です。受取人の本人確認が目的であるため、ほかの相続人の分は不要です。
保険金の受け取りの際に提出する印鑑証明書の有効期限
保険金の受け取りの際に提出する印鑑証明書は、多くの場合発行から3ヶ月以内のものを求められます。しかし、有効期限は保険会社ごとに設定されているため、手続きの際は事前に確認しておくことをおすすめします。
印鑑証明書の添付が必要な人
遺産分割協議書には、遺産分割協議に参加した人全員の印鑑証明書が必要です。
通常であれば、遺産分割協議書に押印するのは相続人であるため、添付するべき印鑑証明書も相続人全員分です。しかし、相続人の中に未成年者や成年被後見人がいる場合は事情が変わってきます。
相続人の中に未成年者や成年被後見人がいる場合は、本人が押印するのではなく代理人が未成年者や成年被後見人の代わりに押印します。
そのため、印鑑証明書も未成年者や成年被後見人本人のものではなく、代理人のものを添付しなければなりません。
印鑑証明書の取得方法
印鑑登録が完了していれば印鑑証明書を取得できます。印鑑証明書は市区町村役場の窓口で取得するほか、コンビニでも発行できます。
それぞれ取得方法について解説します。
市区町村役場で取得する
市区町村役場の窓口に備え付けられている「印鑑登録証明書交付請求書」に必要事項を記入し、以下の必要書類などとともに窓口に提出します。
- 印鑑登録カード
- 本人確認書類
- 発行手数料
代理人に依頼する場合は、委任状と代理人の本人確認書類が必要です。発行手数料は市町村によって異なりますが、たいてい200〜300円程度で取得できます。
コンビニのコピー機で取得する
コンビニでの証明書発行に対応している市区町村であれば、コンビニのコピー機でも印鑑証明書が取得できます。コンビニでの証明書発行に対応しているかどうかは市区町村によって異なるため、事前に調べておきましょう。
発行できる場合は以下のものが必要です。
- マイナンバーカード
- 発行手数料
コンビニで印鑑証明書を取得する場合、印鑑登録カードは必要ありませんが、マイナンバーカードが必要です。
注意しなければならないのは、マイナンバーカードは本人しか使えないという点です。そのため、コンビニで取得する場合は代理人に委任できません。
また、取得の際にはマイナンバーカードの暗証番号が必要です。暗証番号がわからない場合は、市区町村役場で初期化申請をしなければなりません。
なお、発行手数料は200〜300円程度と市区町村役場で取得する場合とあまり変わりませんが、役場で取得するよりも安い手数料で取得できることが多いです。
印鑑証明書がない場合は印鑑登録が必要
そもそも印鑑登録をしていない状態では印鑑証明書が取得できないため、印鑑登録が必要です。印鑑登録をする場合は、登録する印鑑と顔写真つきの本人確認書類を持って市区町村役場に出向かなくてはなりません。
ただし、例外的に認印でも可能なケースもあります。遺産が不動産のみの場合、その不動産を相続する相続人に関しては認印でも問題なく相続登記ができるとされています。なぜなら、権利を受ける立場であり、不利益を受ける立場ではないためです。
しかし預貯金や自動車など、不動産以外にも遺産がある場合は相続登記以外の相続手続きで実印を求められる可能性が高いため、印鑑登録しておいたほうがよいでしょう。
遺産分割協議書と印鑑証明書に関する注意点
遺産分割協議書と印鑑証明書を提出する際や印鑑証明書を取得する際にはいくつか注意点があります。ここでは、遺産分割協議書と印鑑証明書に関する注意点を紹介します。
遺産分割協議書と印鑑証明書の印影が一致するか確認する
遺産分割協議書と印鑑証明書は、提出前に印影が一致するか確認しましょう。
もっともよい方法は、先に印鑑証明書を取得し、実印であることを確認してから押印することです。自分のものだけでなく、ほかの相続人から印鑑証明書を預かった場合も、念のために確認することをおすすめします。
自分で実印だと思い込んでいた印鑑が、実は印鑑登録されている印鑑と異なっていたということはよくあります。中には、銀行印と勘違いしている方も珍しくありません。
実印ではない印鑑を間違えて押印した場合以外にも、印影が掠れてしまったり、反対に朱肉がつきすぎてにじんでしまったりなど、押印に失敗するケースはよくあります。
その場合は、押し間違えた印影に重なるよう、同じ印鑑で押印し、近くの余白部分に押印し直しましょう。そうすれば、押印の訂正が可能です。印影は二重線では訂正できないため、失敗したからといってとっさに二重線で消してしまわないように注意しましょう。
また、印鑑証明書に記載されている内容もしっかり確認しておく必要があります。遺産分割協議書に相続人それぞれが記載した住所と照合し、相違がないか確認しておきましょう。
原本を返却してもらう場合は原本還付請求が必要
遺産分割協議書と印鑑証明書は、原本還付請求をすれば原本を返却してもらえます。しかし、原本還付の手続きをせずにそのまま提出してしまうと、原本は返してもらえません。そのため、提出する際は原本還付の手続きをすることをおすすめします。
原本還付の手続きは、以下の手順で行います。
- 遺産分割協議書と印鑑証明書のコピーをとる
- コピーに「上記原本に相違ありません」という文言を記載する
- 記載した文言の下に氏名を記載する
- 氏名の近くに押印する
上記の手順で原本還付を受けられます。ただし、原本還付を受けられるタイミングは相続手続きによって異なるため注意が必要です。その場で原本確認をして返却される場合もあれば、一度原本を提出しなければならない場合もあります。
なお、押印する印鑑は、その手続きの申請書に押印した印鑑と同じものでなければなりません。申請書に認印を押印した場合は、コピーにも認印を押印します。
実印を紛失した場合や変更したい場合は手続きが必要
実印を紛失した場合や実印を変更したい場合は手続きが必要です。ここでは、実印を紛失した場合や変更したい場合の手続きについて解説します。
実印を紛失した場合の手続きと必要書類
実印を紛失した場合は、実印を紛失したことを役所に届出たうえで、印鑑の再登録を行う必要があります。手続きを行う際には、以下の書類などが必要です。
- 印鑑登録証亡失届
- 本人確認書類
- 認印
- 印鑑登録証または印鑑登録カード
印鑑登録証亡失届は、市区町村役場に備え付けられています。
また、印鑑の再登録には以下の書類などが必要です。
- 印鑑登録申請書
- 新しい印鑑
- 本人確認書類(顔写真つきのもの)
印鑑登録申請書は、市区町村役場に備え付けられています。
どちらも場合も、本人が自分で手続きできない場合は代理人に依頼できます。代理人に依頼する場合は、委任状と代理人自身の本人確認書類が別途必要です。
注意しなければならないのは、印鑑の再登録を代理人に依頼した場合はその日のうちに印鑑登録が完了しないことです。
代理人が手続きをした数日後、本人の自宅に回答書が届きます。代理人は、本人が必要事項を記入した回答書を持って、再度役所に出向かなければなりません。そのため、遺産分割協議書の作成を急がなければならない場合は、早めの手続きが必要です。
なお、再度役所に出向く際は、回答書のほかに以下のものを持参します。
- 新しい印鑑
- 委任状
- 本人の本人確認書類
- 代理人の本人確認書類
- 代理人の印鑑
代理人の印鑑は認印でも構いません。
実印を変更したい場合の手続きと必要書類
印鑑登録している印鑑を変更したい場合は、一度印鑑登録を廃止し、改めて新しい印鑑を登録する必要があります。印鑑登録を廃止する手続きを行う際は、以下の書類などが必要です。
- 印鑑登録廃止申請書
- 廃止する印鑑
- 本人確認書類
- 印鑑登録証または印鑑登録カード
印鑑登録廃止申請書は、市区町村役場に備え付けられています。その後、新たな印鑑を登録します。印鑑登録の手順や必要書類は、実印を紛失した場合と同様です。
なお、代理人に依頼する場合は、委任状と代理人の本人確認書類が必要です。
特別代理人を選任した場合は特別代理人の印鑑証明書が必要
特別代理人とは、相続人が未成年者や成年被後見人などである場合に、家庭裁判所が特別に選任する代理人のことです。
たとえば、本来であれば未成年者の代理人には親権者や成年後見人がなりますが、ケースによっては親権者と子が共同相続人になることもあります。その場合、親権者と子の利益が相反するため、特別代理人を選任しなければならなくなります。
特別代理人を選任した場合、遺産分割協議書に押印するのは本人ではなく特別代理人です。そのため、印鑑証明書も本人のものではなく特別代理人のものを取得する必要があるのです。
まとめ
遺産分割協議書と印鑑証明書がセットで求められることや、遺産分割協議書と印鑑証明書が必要な相続手続き、遺産分割協議書と印鑑証明書に関する注意点について解説しました。
記事の中でも述べたように、遺産分割協議書と印鑑証明書を求められる相続手続きはたくさんあります。
手続きによっては、印鑑証明書に有効期限が定められているものや注意しなければならないこともあるため、必要な手続きについては事前によく確認しておくとよいでしょう。
ほかにもこちらのメディアでは、遺産分割協議書の提出先はどこ?といったテーマや、代償分割とは?といったテーマについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。