【保存版】代償分割の遺産分割協議書の書き方を徹底解説!

相続財産が土地や不動産など相続人同士での分割が難しい場合、「代償分割」という遺産分割の方法を用いることがあります。

ここでは、代償分割にした場合の遺産分割協議書の書き方についてご紹介します。 

遺産の分割方法で悩んでいる方、「代償分割」での遺産分割方法について詳しく知りたい方、そして代償分割の遺産分割協議書の書き方について知りたい方はぜひご覧ください。

1分でわかる!記事の内容
  • 代償分割は不動産や土地など分割が難しい遺産を、相続人に平等に分割できる方法である
  • 代償分割で遺産分割協議書を作成する際にはその旨を必ず記載すること
  • 代償分割で遺産分割することが遺産分割協議書に明記されていない場合は、代償金を受け取る側の相続人に贈与税支払いの義務が発生する

この記事の監修者

吉野よしと行政書士事務所


代表


吉野 禎人/行政書士

相続に関する相談を年間100件以上受ける。 相続手続きや遺言書の作成業務を数多く受任。 白鷗大学法科大学院法務研究科(修了)にて法律実務を学ぶ。 外資系生命保険会社に約6年半勤務後、行政書士として独立。 コロナ前まで約5年間、対面での相続セミナーを実施。

代償分割とは

代償分割とは土地や不動産など公平に分割するのが難しい遺産に用いられる遺産分割方法です。

ある特定の相続人が不動産や土地などの遺産を相続し、他の相続人に代償金を支払って公平な遺産分割を実現させます。

たとえば、3,000万円の価値がある不動産を3人の姉妹が相続するとしましょう。その場合、姉が不動産を相続し、それぞれの妹に1,000万円を支払うのが代償分割です。

例)3,000万円の不動産を3人の姉妹で代償分割
  • 姉が不動産を相続
  • 妹2人に1,000万円ずつ支払う

代償金の金額は、遺産分割協議によって決定します。法定相続分をもとに代償金を決めるのが一般的ですが、相続人の合意があればいくらに決定しても問題ありません

また、割合についても、9対1や7対3というような偏った割合でも構いません。

代償分割のメリット3つ

代償分割にはメリットが3つあります。

  • 相続人の間で平等に遺産を分けやすい
  • 財産を残せる
  • 相続税の負担の軽減につながる

それぞれのメリットについて解説します。

相続人の間で平等に遺産を分けやすい

代償分割を通じて、不動産や土地のような平等な分割が難しい遺産であっても、相続人の間で平等に遺産を分けることが可能です。つまり、相続人同士の人間関係のトラブルも防げるでしょう。

また、事業や農業などを被相続人から引き継ぐ際にもスムーズに進められます。

財産を残せる

詳細は後述しますが、遺産分割の方法は代償分割以外にも3つあります。 

他の方法で遺産分割をした場合、土地や不動産などの遺産を売却することもあります。しかし、そのような方法を取ると、遺産が手元に残らなくなるため、寂しい思いをしてしまうかもしれません。

また、将来の値上がりによって利益を得る機会を損失することにもつながりかねないでしょう。

代償分割であれば、土地や不動産などの財産を手元に現物のまま残せるため、次世代に残すことも可能です。 

相続税の負担の軽減につながる

遺産分割で「代償分割」を選択した場合、小規模宅地等の特例」の適用により相続税の節税に繋がる可能性があります。

「小規模宅地等の特例」の要件には、対象となる土地の利用状況や、相続によって誰が取得したか、相続税の申告期限まで所有や居住を継続していたかなどがあります。

たとえば、被相続人と同居していた相続人が、代償分割を通じて自宅を相続したとします。この場合、条件を満たせば自宅敷地の評価が50〜80%減額されて、その分相続税も減ることになります。

他の遺産分割方法を選択し、早々に土地や不動産を売却してしまうと、この特例を受けられません。

代償分割のデメリット3つ

代償分割にはデメリットもあります。

  • 遺産評価が原因でトラブルに発展する恐れがある
  • 代償金を支払う相続人の経済的な負担が大きい
  • 贈与税や所得税などが発生する恐れがある

それぞれのデメリットについて解説します。

遺産評価が原因でトラブルに発展する恐れがある

代償分割をする場合、遺産となっている土地や不動産の評価をする必要があります。

相続税評価額や時価などさまざまな評価方法がありますが、それぞれ一律ではありません。つまり、評価方法によって金額が異なるのです。代償金を支払う立場の相続人は評価を低く見積もり、代償金を受け取る相続人は評価を高く見積もるでしょう。

最終的には相続人同士で公平に遺産分割をできるのが、代償分割のメリットです。しかし、立場による見積もりの違いで協議が決裂し、代償金の金額が決められなかったり、相続人間のトラブルに発展したりする恐れがあるためご注意ください。

代償金を支払う相続人の経済的な負担が大きい

代償分割で遺産分割をするためには、代償金を支払う側の相続人に、他の相続人に代償金を支払えるだけの財力が求められます。言い換えると、代償金を支払う相続人に財力がない場合は、代償分割での遺産分割をする選択肢がないということです。

代償金の支払いは、相続人同士で合意すれば、必ずしも一括払いである必要はありません。分割での支払いも可能です。しかし、のちに支払いが滞ると、相続人同士の人間関係に悪影響を及ぼすでしょう。

分割払いにする場合は、支払い回数や支払日についてよく話し合っておく必要があります。

贈与税や所得税などが発生する恐れがある

代償分割で遺産分割をした際に代償金の金額が大きすぎると、代償金を受け取った側の相続人は贈与税や所得税を支払う可能性があるためご注意ください。

贈与税

遺産分割協議書に「代償分割により代償金を支払う」という旨を記載すると、贈与税の支払いが免除になります。記載を忘れると「贈与」と見なされ、贈与税がかかる可能性があるため気をつけましょう。

また、代償金額を必要額以上に支払った場合も、贈与税の支払いが発生する可能性があります。

例えば、1,000万円の不動産の代償金として、500万円の代償金を他の相続人に払うべきところ、1,300万円支払ったとしましょう。この場合、代償金額が不動産の価値を超えているため、払い過ぎた300万円に対して贈与税が発生することがあります。

所得税

代償分割は現金で代償金を支払うのが一般的ですが、不動産などの資産を代償財産として譲渡することもできます。しかし、不動産譲渡の場合、代償金を支払う相続人に所得税支払いの義務が発生するため注意が必要です。

姉と妹の2人の相続人がおり、姉が土地を相続し、妹に姉が所有していた土地を譲渡したとしましょう。姉が土地を取得した際の価格が2,000万円で、時価が2,500万円だった場合、姉の譲渡所得である500万円に所得税が課せられます。

代償分割にて代償金を現金で支払う場合、所得税は発生しません現金以外の形で代償金を支払う際には、所得税の支払いが発生する可能性があるため気をつけましょう。

その他の遺産分割方法3つ

遺産分割の方法については、代償分割以外にも3つあります。

  • 現物分割
  • 換価分割
  • 共有分割

ここでは、それぞれの分割方法の特徴とメリット・デメリットについて解説します。

現物分割

現物分割は最もポピュラーな遺産分割方法で、相続財産が現金しかない場合に用いられることが多いです。遺産を現物のままで分割できます。

現物分割のメリット
  • 手続きが簡単で分かりやすい
  • 不動産など形がある財産を子孫に残せる
  • 不動産の評価が必要ない

現物分割のデメリット
  • 現金や預金に適した遺産分割方法ではあるが、不動産や土地などの場合は、現物の価値が異なるためそれぞれの相続人に公平に分割するのが難しい
  • 特定の相続人だけが不動産を相続した場合、他の相続人が不満に感じて人間関係のトラブルに発展する可能性がある
  • 土地をいくつかに分割することで、不動産の価値が下がる恐れがある

換価分割

換価分割は、相続した遺産を売却し、売却で得られた代金を相続人の間で分割する方法です。相続財産の中に自宅不動産があるものの、誰も相続する予定がない場合に用いられます。

換価分割のメリット
  • 現物分割よりも平等に分割できる
  • 相続税のための納税資金を用意できる
  • 場合によっては相続税の節税になる 

換価分割のデメリット
  • 土地を売却すると譲渡所得や相続税がかかる
  • 売却をするための手続きに時間がかかってしまう
  • 相続財産が手元に残らない

共有分割

共有分割は、複数の相続人で遺産を共有して相続する方法です。しかし、この方法で土地などを共有にして相続した場合、売却や土地の利用方法について相続人同士で揉めてトラブルに発展する可能性があります。

そのため、共有分割は最終手段として選ばれることが多い遺産分割方法です。

共有分割のメリット
  • 相続人がそれぞれ公平に感じられる
  • 収益不動産の場合、収入も平等に分割される

共有分割のデメリット
  • 土地の管理や売却、利用方法などについて相続人の中で意見が割れてしまった場合、膠着状態になるリスクがある
  • 他の相続人と定期的に連絡を取り合う必要がある

代償分割での代償金の決め方と支払いの流れ

代償分割での代償金の決め方と支払いの流れは下記の通りです。

  1. 遺産の分割方法を代償分割に決定する
  2. 代償金額を決定する
  3. 遺産分割協議書を作成する
  4. その他の相続人へ代償金を支払う

それぞれのステップについて詳しく解説します。

Step1: 遺産の分割方法を代償分割に決定する

故人が遺言書を残している場合、法的拘束力がある遺言書の指示通りに遺産分割をしてください。

遺言書が見つかった場合、公正証書遺言以外は開封してはいけません。家庭裁判所の検認よりも前に自筆証書遺言秘密証書遺言を開封した場合、最大5万円の過料が課せられる可能性があります。

遺言書が見つからない場合、または遺言書に記載されている遺産分割方法に相続人全員及び受遺者が納得できない場合は、相続権を持つ相続人及び受遺者が集まって遺産分割の方法について協議をします。

遺産分割協議は必ずしも直接対面で行う必要はありません。Web会議やLINE、メールなどの方法でも構いません。しかし、いずれの方法であっても、相続人「全員」が必ず参加するようにしてください。

遺産分割の方法については下記の4つのいずれかを選びます。

遺産分割の方法
  • 現物分割
  • 代償分割
  • 換価分割
  • 共有分割

それぞれの遺産分割方法の特徴、メリット・デメリットについての詳細は前述の通りです。遺産分割方法を選択する際に参考にしてください。

ここでは、遺産分割方法を「代償分割」にしたと仮定して、次のステップに進みます。

Step2: 代償金額を決定する

遺産分割方法を代償分割にすることが決定したら、代償金の支払い方法や金額について相続人同士で話し合います。

代償金額の決め方については特にルールはありません

そのため受け取る代償金の金額が法定相続分以下であっても、受け取る側の相続人が同意していれば問題ないでしょう。

不動産に対する代償金の金額を決定する場合は、下記の価格を参考にしてください。

代償金の金額を決定する際の参考価格
  • 固定資産税評価格:公示価格の70%
  • 路線価:公示価格の80%
  • 公示価格:国土交通省が発表している価格で、概ね実勢価格が反映される
  • 実勢価格(時価):実際に不動産が売買される際の取引価格

一般的には実勢価格で代償金額を決定します。

Step3: 遺産分割協議書を作成する

次に遺産分割協議書の作成を始めます。遺産分割協議書は、遺産分割協議で決定した内容を記載する文書のことです。

代償分割を選択した場合は、必ず遺産分割協議書に代償金を支払う旨を記載してください。この記載がないと、代償金を受け取る相続人に贈与税の支払いが課せられるからです。

他にも記載内容に不備がないかよく確認しましょう。詳細は後述しますが、代償分割の場合の遺産分割協議書の書き方を紹介しています。これを参考にしながら文書を完成させてください。

遺産分割協議書には下記の内容が記載されます。

遺産分割協議書に記載される内容
  • 表題を「遺産分割協議書」とする
  • 被相続人と相続人の氏名を正確に記載
  • 被相続人の氏名と死亡日、最後の住所
  • 相続人が遺産分割協議書に合意している旨
  • 相続財産に関する具体的な内容
  • 代償金の金額・支払い方法・支払い期日
  • 相続人全員分の氏名・住所を手書きで書き、実印による押印
  • 住所は住民票の通りに記載
  • 不動産が相続財産に含まれている場合は地番、構造、床面積など詳細を記載

遺産分割協議書の作成は、手書きでもパソコンでもどちらでも構いません。いずれにしても、相続人全員が遺産分割協議書を1通ずつ保有できるように、人数分の遺産分割協議書を用意しましょう。

遺産分割協議が決裂したり難航したりする場合は、家庭裁判所への調停を申し立ててください。

Step4: その他の相続人への代償金の支払いをする

遺産分割協議書の作成後は、遺産分割協議で話し合われた通りに遺産を分割します。代償金を支払う側の相続人は支払い期日までに、その他の相続人に代償金を支払いましょう。

代償金の支払いは必ずしも現金でなくても構いません。相続人同士で合意していれば、土地や不動産、権利でも問題はありません

しかし、その場合は不動産取得税や登録免許税、所得税など税金が課されるケースがあるため、税理士など専門家を交えて話を進めることがおすすめです。

遺産分割協議書とは

遺産分割協議書とは遺産分割協議をしたときに作成する書類のことです。

遺産分割協議は下記のケースで実施します。

遺産分割協議を実施するケース
  • 故人が遺言書を残しておらず、相続人が複数名いる
  • 故人が遺言書を残しているものの、全ての相続人及び受遺者がその内容に納得できなかった
  • 相続登記(不動産などの名義変更)や相続税申告の手続きが必要

遺産分割協議では、「誰が」「どの財産を」「どのくらい」相続するのか遺産の分配方法について話し合い、その協議を通じて決定した内容が遺産分割協議書に記載されます。

遺産分割協議書には、全ての相続人の同意と捺印が必要です。そのため、遺産分割協議には全ての相続人が参加することが原則となっています。

遺産分割協議を実施して、遺産分割協議書の作成が完了しないと、預金の解約や相続税の申告など相続に係る手続きを始められない場合があります。

相続税の申告は被相続人の死後10カ月以内に済ませる必要があることから、早めに遺産分割協議を実施しましょう。

遺産分割協議書は自分で作成できます。不安な場合は専門家に依頼しましょう。

遺産分割協議書に代償分割について明記する意味

遺産分割協議書に代償分割であることを明記するべき理由は、贈与税がかかることを未然に防ぐためです。

代償分割では、特定の相続人が土地や不動産などの遺産を相続する代わりに、他の相続人に代償金を支払います。その際に、遺産分割協議書に代償金に関する記載がないと、代償金を受け取る側に贈与税の支払いが発生してしまうのです。

代償分割を選択した場合は、遺産分割協議書に必ずその旨を記載してください。

代償分割の遺産分割協議書の書き方

つづいて代償分割の遺産分割協議書の書き方を見ていきましょう。

下記の4つのパターンに分けて説明します。

  • 代償分割で金銭を支払う場合
  • 代償分割で不動産を譲渡する場合
  • 代償分割で複数名の相続人に支払いをする場合
  • 代償分割を分割払いにする場合

代償分割で金銭を支払う場合

代償分割の場合は、代償金を金銭で支払うケースが最も一般的です。

相続人のAさんが不動産や土地などの遺産を相続し、Bさんに代償金を支払う場合の遺産分割協議書の書き方は下記のようになります。

代償金の支払いは振り込みで支払うことが多いため、振り込み口座や振り込み手数料の負担者についても記載しておくとトラブルを防げるでしょう。

代償分割で不動産を譲渡する場合

代償分割では、必ずしも代償金が「現金」である必要はありません。土地や不動産、権利でも問題ありません。

下記は相続人Aが遺産を取得する代償として、相続人BにAが所有している不動産を譲渡する場合の遺産分割協議書の書き方を例示したものです。

不動産を譲渡する場合は、所有権移転登記の時期も記載しておくと良いでしょう。

代償分割で複数名の相続人に支払いをする場合

記載方法は特に決まっていませんが、誰に対していつまでにいくらを支払うのかを明記するように心がけてください。

下記は相続人Aが遺産を相続する代償として、相続人BとCに代償金を支払う場合の遺産分割協議書の書き方の例です。

もし、それぞれの相続人で支払いの期限が異なる際は、それぞれの相続人で分けて記載した方がわかりやすいでしょう。

代償分割を分割払いにする場合

代償分割は、代償金を一括で払わなければならないというルールはありません。相続人同士で合意があれば分割での支払いも可能です。

分割払いにする場合は、遺産分割協議書に分割払いの期間と支払日を明記しておきましょう。

下記は、相続人Aが相続人Bに代償金を分割払いで支払う場合の、遺産分割協議書の書き方の例です。

代償分割をおすすめする方の特徴

下記のような特徴を持つ方は代償分割での遺産分割をおすすめします。

代償分割をおすすめする方の特徴
  • 相続した遺産を相続人同士で公平に分割したい
  • 不動産や土地など現金以外の遺産しかない
  • 不動産や土地を相続したい人に代償金を支払えるだけの財力がある
  • 親の財産や遺産を形として残し続けたい
  • 故人の自宅・土地・建物に同居していた相続人が相続後も住み続けたい
  • 事業や農業を引き継ぐ予定の相続人が農地や事業に使うための不動産を相続する
  • 家族経営の会社を引き継ぐ相続人が自社の株式を相続する

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