相続税の延納とは?条件や申請手続きについてわかりやすく解説

「親が亡くなり相続税を納める必要があるものの、現金をあまり持っていないので払えない」と悩む方もいるのではないでしょうか?

遺産のうち、不動産の比率が高く現金が少ないような場合には、相続税を支払うのが難しいこともあるでしょう。相続税の納付は一括現金が原則ですが、条件を満たせば相続税を分割払いする(延納)ことも可能です。

この記事では相続税を延納する条件や延納の手続き・申請書類などについて解説します。延納できる金額の計算方法や、延納の注意点なども解説するので、ぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続税は条件に合致すれば、分割して支払える
  • 延納を申請するには、担保を差し出す必要がある
  • 相続税を延納した場合には、利子税がかかる

この記事の監修者

公認会計士・税理士 大橋誠一事務所


代表


大橋 誠一/税理士

有限責任監査法人トーマツ・デロイトトーマツ税理士法人を経て、国税の裁判官ともいうべき国税不服審判所の国税審判官として民間登用され、法人税・所得税・相続税・消費税・加算税の審査請求事件の調査・審理に従事することにより、税務署長・国税局長による課税処分を取り消すか否かの判断を行った経験を有する。

相続税の延納・物納とは

相続税は、原則的には申告期限までに一括現金で納めなければなりません。しかし不可能な場合には分割払いや物納という方法もあります。

延納は相続税を分割して支払う制度

分割して相続税を支払う制度を延納といい、現金で支払いができない場合に利用できます。

相続税は、被相続人が亡くなったことを知った翌日から10カ月以内に、現金で一括完納しなければなりません。期日までに完納しないと、延滞税のペナルティを課されます。

しかし遺産の大部分が不動産であるようなケースでは、一括現金での完納が難しいこともあるでしょう。相続税を一括現金で納められない場合には、納付できない金額を分割で支払う「分納」が可能です。

延納の制度を受けるためには、いくつかの条件をクリアしなければなりません。

延納が難しい場合は物納もある

延納によっても相続税を支払えない場合は、物納という制度があります。物納を利用すると、支払いが難しい税額を上限として、相続する株式や不動産などの財産をもって納税できます。

なお物納が許可されるためには、物納する財産が要件に合致していなければなりません。特に土地を物納するには、境界線の確定などを行って条件を整える必要があります。

まずは申告期限までに物納申請をする必要がありますが、物納手続関係書類の提出については、3ケ月単位で最長1年間の延長が認められますので、税務署の担当者と緊密に連絡を取って物納が許可される条件を整えることになります。

相続税延納の適用条件

相続税の支払い方法は一括現金が原則なため、簡単には延納を選べません。延納が認められるためには次の4つの条件を満たす必要があります。

  • 相続税額が10万円超である
  • 現金での一括納付が難しい
  • 担保を差しだせる
  • .必要書類を期日までに提出する

1.相続税額が10万円超である

相続税が10万円以下のケースでは、延納制度を使えません。

相続人が何名もいる場合、10万円超か否かの判断は相続人ごとに行われます。したがって、延納を希望する方の納税額が10万円超ならば、この制度を利用できます。しかし相続税が10万円以下の他の相続人は、延納制度を利用できません。

2.現金での一括納付が難しい

相続税は相続した遺産から納税しますが、不足している場合は相続人の資金から税金を納めなければなりません。しかし相続した財産がほとんど不動産であったような場合には、一括現金で納めるのが難しいこともあるでしょう。

このように、相続人の固有の財産を投入しても納税が難しい場合には、延納制度の要件に当てはまります。

3.担保を差しだせる

延納を申請する際は、延納税額に対応する担保や延納で発生する利子税分の担保を差しだす必要があります。しかし納税金額が100万円以下で、かつ、延納する期間が3年以下の場合は、担保を差し出す必要はありません。

担保になる財産は被相続人の財産でなくとも可能で、相続人が以前から保有していた財産や他の相続人・第三者の財産でも構いません。しかし、差し出された担保が適切でないと税務署により判断された場合は、ほかの担保への変更を求められます。

延納できる担保の要件は、以下の3つです。

  • 担保として認められる財産であること
  • 不適格な担保ではないこと
  • 必要な担保金額に足りること

それぞれ詳しく解説します。

担保として認められる財産であること

担保財産としては大きく価格が変動しないこと、処分がしやすいことが求められます。延納の担保として認められる具体的な財産には、次のようなものがあります。

延納の担保として認められる財産の例
  • 社債その他の有価証券などで税務署が許可したもの
  • 建物や立木・登記された船舶などで保険を付けたもの
  • 国債や地方債
  • 鉄道財団、工場財団など
  • 土地
  • 税務署が確実と認める保証人

不適格な担保ではないこと

次にあげるものは担保として不適格であり認められません。

延納の担保として認められない財産の例
  • 売却が難しいもの
  • 相続人間で誰が相続するか決まっていない財産
  • 法律で担保の設定が認められていないもの
  • 違法建築などで建物の除却命令を受けている家屋
  • 共有財産の持分を担保にする場合、共有者から同意を得られないもの
  • 第三者などの同意を要するのに、同意されていないもの
  • 延納を希望する期間より担保の存続する期間が短い財産

必要な担保金額に足りること

担保として差し出す財産は、必要な担保金額を満たしていることが必要です。

担保に差し出す財産は、延納する税額と初回の利子税を3倍したものの合計額よりも多くなければなりません。数式で表すと次のようになります。

  • 担保として差し出す財産の価格>延納する税額+初回の利子税×3

4.必要書類を期日までに提出する

延納は、あらかじめ決められた期限までに申請をする必要があります。

延納の申請期限は、相続税の申告期限と同じで「被相続人の死去を知った翌日から10カ月以内」です。必要書類を添付して、税務署長宛てに「延納申請書」などを提出しなければなりません。

なお申告期限が土日や祭日などの休日であった場合には、翌営業日が申請期限となります。

相続税の延納手続き・申請書類

次に延納の手続きや申請に必要な書類などについて説明します。

延納手続き

延納の申請手続きは、申請書に担保として差し出す財産内容についての書類を添えて、相続税の申告期限までに税務署長に提出する必要があります。

申告期限までに必要書類(担保提供関係書類)を提出できない場合は、担保提供関係書類提出期限延長届出書を提出しなければなりません。延長できる期間は、3カ月単位で最大で6カ月です。

延納申請書を提出すると、申請期限から3カ月以内に税務署から連絡があります。延納が認められた場合には「相続税延納許可通知書」が送付され、認められなかったケースでは「延納申請却下通知書」が送られてきます。

不動産の延納許可が下りた場合は、法務局において抵当権設定登記を行わなければなりません。

申請書類

相続税の延納を申請する場合には、申告期限までに次のような書類を提出する必要があります。各書類は国税庁のホームページからダウンロードできます。

  • 相続税延納の申請書
  • 相続税延納申請書別紙
  • 金銭納付を困難とする理由書
  • 担保提供関係書類
  • 不動産等の財産の明細書
  • 各種確約書

それぞれの書類について説明しましょう。

相続税延納の申請書

相続税の延納を申請する書類です。相続税延納申請書には、延納申請税額の内訳・延納申請年数・支払期限・分納の計算に関する明細などを記載します。

延納申請書別紙

担保として差し出す財産の明細を記載するもので、差し出す財産により書類は異なります。

金銭納付を困難とする理由書

上記の延納申請書に「金銭納付を困難とする理由書」も添付して、延納申請をする理由を明らかにしなければなりません。この理由書は、現金一括納付の困難さを具体的な数字で示す必要があります。

担保提供関係書類

担保として差し出す書類は、担保提供関係書類のチェックリストで確認して提出します。差し出す財産によって提出すべき書類は変わってくるため、チェックリストに基づき作成する必要があります。

不動産等の財産の明細書

担保として差し出す不動産等の明細書も必要です。不動産等の割合が75%未満ならば提出する必要はありません

各種確約書

上に記した5つの書類に加えて、税務署長からの求めに速やかに応じる旨の各種確約書を添えて提出しなければなりません。

延納できる金額の計算方法

延納限度額は、次の計算式により算出できます。

  • 延納許可限度額=納付すべき相続税額-(相続した現預金(注1)+申請者が保有する現預金-3カ月分の生活費(注2)-申請者の事業に当面必要な運転資金額)
※注1 現預金以外に換価が簡単にできる遺産も含まれます ※注2 申請者および生活を共にしている配偶者その他の親族の3カ月分の生活費

対象となる財産は申請した方が保有する財産であり、配偶者の財産まで求められることはありません。しかし故意に資金を移動した場合は、虚偽申告となり延納は取り消され、延滞税を支払わなければならないこともあります。

延納できる期間と利子税

延納できる期間は担保物件により異なり、延納期間によって利子税も変わってきます。

延納できる期間

延納できる期間は、相続した財産の種類と不動産の割合により異なり、5年~20年です。返済期間が長くなると、1度に納める相続税額は低くなりますが、多額の利子税を納めなければなりません。延納できる期間は、下表を参照してください。

利子税については、国税庁が毎年公表する税率に基づき決められます。延納の期間中は申請時の利子税率で支払っていくため、将来の金利水準によっては金融機関の借入利率のほうが低くなることもあります。

利子税

利子税は、相続財産における不動産の比率により下記の10種類に分類され、それにより延納期間も定められています。利子率は延納特例基準割合というレートにより、延納利子の割合が決まっています。

日本は超低金利状態であり、延納利子税割合では市場の実勢金利と大きく乖離してしまうため、低い特例割合に抑えているのです。したがって相続税の延納で適用される利率は、表の右端の特例割合が適用されます。

【相続税の延納期間および延納に係る利子税率(令和5年分)】

区分 延納期間(最高) 延納利子税割合(年割合) 特例割合
不動産等の割合が75%以上の場合 ①動産等に係る延納相続税額 10年 5.4% 0.6%
②不動産等に係る延納相続税額(③を除く) 20年 3.6% 0.4%
③森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 20年 1.2% 0.1%
不動産等の割合が50%以上75%未満の場合 ④動産等に係る延納相続税額 10年 5.4% 0.6%
⑤不動産等に係る延納相続税額(⑥を除く) 15年 3.6% 0.4%
⑥森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 20年 1.2% 0.1%
不動産等の割合が50%未満の場合 ⑦一般の延納相続税額(⑧、⑨および⑩を除く) 5年 6.0% 0.7%
⑧立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額(⑩を除く) 5年 4.8% 0.5%
⑨特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 5年 4.2% 0.5%
⑩森林計画立木の割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税額 5年 1.2% 0.1%

参考:国税庁-相続税の延納期間および延納に係る利子

相続税延納のメリット・デメリット

相続税の延納は、よい点だけではありません。相続税延納のメリットとデメリットについて確認しておきましょう。

メリット

メリットは不動産を売却するなどして多額の金銭を用意しなくて済むことです。

多額の現金を用意する必要はない

延納を利用すれば、現金で一括して税金を支払う必要がありません。毎年分割して税金を納めればよいので財政的な余裕が生まれます。

不動産などを売却しないで済む

土地や家屋を担保にして分納できるため、大事な資産を売却せずに済みます。特に住んでいる住宅の売却を避けられるのは、大きなメリットになるでしょう。

デメリット

デメリットは利子を支払わなければならないことです。支払総額が増えてしまうことも考えておく必要があります。

利子が発生する

延納すれば、利子を支払わなければなりません。長期になればなるほど、累積の利子負担が発生することになります。

利子税の税率が上がる恐れがある

日本は超低金利時代のため、今後金利が上昇するかもしれません。実際に延納申請をしようとする時期に金利が上昇した場合は、将来の支払額に影響を与える可能性があります。

相続税延納の注意点

相続税を延納する際には、いくつか注意すべき点があります。

延納税額に利子税がかかる

相続税を延納すると、一度に高額の相続税を支払わなくてもよいですが、延納額に対しては利子を支払う必要があります。そのため一括現金納付とくらべて、余分な税金を納めなければなりません。

延納は申請した年の利率が延納期間中継続しますが、市場金利の変動により金融機関から借り入れた利率のほうが低いこともあります。したがって市場金利の動向を把握して、金融機関の利率が低い場合には、金融機関から借り入れて完済したほうが得になるケースもあるでしょう。

担保として認められない財産がある

延納金額が100万円を超える場合は、担保を差し出す必要があります。担保の対象にできる遺産でも、次のようなケースは認められないため注意しなければなりません。

法律上担保設定や処分が禁止されているもの

登記簿に記載されておらず抵当権の設定ができない不動産や、所有権を争っていて処分を禁止されている遺産、戦没者等の遺族に支給される遺族国庫債券等の担保制限があるものは担保として認められません。

除去命令が出されている建物

違法建築や増築などにより、法律に触れている建物は担保として差し出せません。また法律に触れていなくても、築年数が経ち劣化している建物も担保にできません。

相続人の間で争いのある遺産

誰のものか遺産分割が決まっていない遺産は、担保物件として認められません。また他の相続人から権利を主張されている財産や、勝手に占有されている財産も担保にできません。

共有不動産のうち持分だけの担保設定

共有不動産のうちご自身の持分だけの担保設定は可能ですが、他の共有者の承諾を得られなければ担保設定できません。

売却見込みのない財産

延納の支払いができなくなった場合、国は担保を売却して納税額にあてなければなりません。そのため売却できない財産は不適格として担保にできない可能性があります。

存続期間が短い財産

担保の存続期間が相続税の延納期間よりも短いと、完済しないうちに担保がなくなる恐れがあります。そのような物件は担保として認められません。

金融機関から借り入れたほうが有利なこともある

既に述べたように、不動産を担保にして20年で延納した場合の利子税率は令和5年分で0.4%と低利です。

また抵当権設定登記は、すべて税務署が行ってくれるため登記費用は掛かりません。一方、金融機関から借り入れる場合には、最近の金利情勢でも上記よりも高い金利が設定されるでしょう。くわえて、抵当権設定費用及び司法書士費用を支払わなければなりません。

返済を終えたときにも、抵当権抹消費用と司法書士費用が必要になります。したがって、延納を選択したほうが、費用的にはメリットが高い場合もあるでしょう。

しかし延納が認められた期間が短期間であり、市中金利が低くなる場合には、金融機関から借り入れたほうがよいケースもあります。長い取引のある金融機関で、利息の交渉ができるならば、どちらが得かシミュレーションする価値はあるでしょう。

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