相続の際に確定申告は必要?申告方法や注意点について詳しく解説

「確定申告が必要なケースに該当するかどうかわからない」「そもそも、相続のときに確定申告は必要なの?」「申告方法や期限がよくわからない」など、相続の際の確定申告についてお悩みではありませんか?

相続の際、ケースによっては被相続人のものと相続人自身のものと、両方の申告が必要になることがあります。

この記事では、相続の際に確定申告が必要なケースや申告方法、注意点について解説します。必要書類や申告期限も紹介しているため、ぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続人自身の確定申告は原則不要だが、ケースによっては必要になる
  • 被相続人の確定申告は、死亡の翌日から4カ月以内にしなくてはならない
  • 申告しなかった場合や期限後に申告したときは、無申告加算税や延滞税が課される可能性がある

相続の際の確定申告とは?

確定申告とは、1年間に生じた所得を税務署に申告する手続きです。相続人自身の確定申告は原則不要です。ただし、ケースによっては申告しなければならず、被相続人と相続人自身の申告が両方必要な場合もあります。

また、相続人の申告期間は翌年の2月16日〜3月15日ですが、被相続人の申告に関しては、「相続人が被相続人の死亡を知った日の翌日から4カ月」と、通常よりも期間が短いため注意が必要です。

被相続人の確定申告が必要になるケース

通常、確定申告は収入のあった翌年2月16日〜3月15日までに行う必要があります。しかし、亡くなってしまうと自分で申告できないため、相続人が代わりに申告しなければなりません。

相続人が被相続人の代わりに行う確定申告を「準確定申告」といいます。ここでは、準確定申告が必要になるケースをご紹介します。

不動産所得や事業所得があった場合

被相続人が賃貸マンションや貸駐車場などで不動産収入を得ていたり、個人事業主やフリーランスとして事業所得があったりした場合は、準確定申告が必要です。ただし、売上から経費を差し引いた金額が48万円未満であれば申告は不要です。

給与所得が2カ所以上からあった場合

会社員として勤務しながら副業をしていた場合など、2カ所以上の勤務先から給与を得ていたときは、準確定申告が必要です。

会社からの給与は年末調整されますが、副業での収入が年間で20万円を超える場合、会社での給与所得とあわせて副業で得た所得も申告しなければならないためです。ただし、副業での所得が年間20万円以下であれば申告は必要ありません。

給与所得が2,000万円を超えている場合

給与所得が2,000万円を超えている場合も、準確定申告が必要です。

給与所得を得ている方は、通常であれば会社で年末調整を行うため申告は必要ありません。しかし、給与が2,000万円を超えるケースは年末調整の対象外であるため、申告が義務づけられています。

不動産や株式を売却して利益を得ていた場合

被相続人が不動産や株式の売却によって利益を得ていた場合は、準確定申告が必要です。利益が得ていたかどうかは、以下の計算方法で確認できます。

譲渡所得金額=売却金額-(取得にかかった費用+売却時にかかった費用)-特別控除額

計算した結果、譲渡所得金額がマイナスであれば申告は不要ですが、プラスになる場合は利益があったということであるため、申告しなければなりません。

公的年金などが年間400万円より多い場合

公的年金などの受給額が年間400万円より多い場合は準確定申告が必要です。400万円以下であれば不要です。ただし、公的年金などの受給額が400万円以下でも、年金以外に20万円を超える所得があれば申告の対象になるため注意しましょう。

被相続人の確定申告をしたほうがよいケース

準確定申告の義務はなくても、申告したほうがよいケースもあります。たとえば、以下のようなケースが挙げられます。

被相続人の確定申告をしたほうがよいケース
  • 公的年金を受給していて源泉徴収されていた
  • 高額の医療費を支払っていた

以上のケースでは、還付を受けられる可能性があります。

なお、準確定申告をしなければならないときとは違い、申告したほうがよいケースには申告期限がありません。還付申告に関しては5年という期限がありますが、ほかの相続手続きが終わってからでも遅くはありません。状況が落ち着いたら申告するとよいでしょう。

被相続人の確定申告をする際の方法と流れ

準確定申告では、以下のように被相続人がどのタイミングで亡くなったかによって「いつの所得が対象になるのか」が変わります。

1月1日〜3月15日に亡くなった場合は、前年分とその年の1月1日〜亡くなった日までの所得が対象です。3月16日〜12月31日に亡くなった場合は、その年の1月1日〜亡くなった日までの所得が対象となります。

ここでは、準確定申告の方法と流れについて解説します。

相続人の中から代表を決める

相続人が複数名いる場合は、相続人の中から代表者を決めましょう。

準確定申告は相続人それぞれが別々に行っても問題ありませんが、その場合は相続人同士で申告内容を通知し合わなくてはならないため手間がかかり、相続人によっては日中の対応が難しい可能性があることなども考えられます。

そのため、確実に動ける方が代表者になり、相続人全員が連署した1つの申告書で申告したほうがスムーズです。

納税と還付については、相続人全員で納税し還付を受けるのが原則ですが、代表者がひとりで納税し、ひとりで還付を受けても構いません。

申告に必要な書類を用意する

代表者が決まったら、準確定申告に必要な書類を用意します。必要書類は以下のとおりです。

準確定申告に必要な書類
  • 確定申告書AまたはB
  • 確定申告書の付表
  • 準確定申告の確認書(e-Taxで申告する場合)
  • 被相続人の源泉徴収票
  • 収支内訳書または青色申告決算書(事業を営んでいた場合)
  • 被相続人の控除証明書
  • 被相続人の医療費の領収書
  • 準確定申告用の委任状(代表者が還付金を受領する場合)

準確定申告専用の申告書はありません。そのため、通常の確定申告用の申告書を使用します。準確定申告であることが一目でわかるように、タイトルの「申告書」の前に「準確定」と書き加えましょう。

氏名欄には被相続人の氏名と、相続人の氏名も記載します。それぞれの氏名の前に「被相続人」「相続人」と記載します。そのほか、死亡日の記載も必要です。記入欄がないため、タイトル横の余白部分に記載するとよいでしょう。

代表者がひとりで還付金を受領する場合は、準確定申告用の委任状を代表者以外の相続人全員からもらって添付します。

税務署に書類を提出する

書類が揃ったら、税務署に申告書と添付書類を提出します。提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。以下のうち、いずれかの方法で申告します。

税務署への書類提出方法
  • 税務署に直接持ち込む
  • 税務署に郵送する
  • e-Taxで電子申告する

郵送やe-Taxで申告する場合はわざわざ税務署に出向かなくても済むため、仕事などで日中なかなか動けない方でも対応しやすいでしょう。ただし、e-Taxで申告できるのは代表相続人のみであり、それ以外の相続人には対応していません。

税務署の職員に教えてもらいながら書類を作成したいのであれば、直接持ち込むことをおすすめします。

被相続人の確定申告期限は4カ月以内

準確定申告は、被相続人が亡くなったことを相続人が知った日の翌日から4カ月以内に行わなければなりません。

また、被相続人の死亡日が1月1日〜3月15日で前年の確定申告をしていなかったときも同様に、被相続人が亡くなったことを相続人が知った日の翌日から4カ月以内に前年分の準確定申告をしなければなりません。

葬儀などで慌ただしくしていたら、4カ月などあっという間です。4カ月以内に申告しなかった場合は、延滞税や無申告加算税が課される可能性があるため注意が必要です。期限直前に慌てなくても済むように、早めに準備し始めることをおすすめします。

相続人自身の確定申告が必要になるケース

遺産相続があったとき、相続人自身の確定申告は原則不要です。しかし、ケースによっては被相続人だけでなく相続人自身の確定申告が必要になることがあります。ここでは、相続人自身の確定申告が必要なケースを5つご紹介します。

相続した遺産を売却した場合

相続した遺産を売却し、利益を得た場合は確定申告が必要です。なぜなら、利益に対して所得税がかかるためです。申告が必要かどうかは、以下の計算式で確認します。

  • 譲渡所得金額=売却金額-(取得にかかった費用+売却時にかかった費用)-特別控除額

取得費は、被相続人が遺産を取得したときにかかった金額です。当時の売買契約書が見当たらず売買金額がわからない場合は、売却金額の5%相当額を取得にかかった費用として計算します。

計算の結果がマイナスであれば申告は不要ですが、プラスであれば申告しなければなりません。

相続した遺産を寄付した場合

相続した遺産を特定の機関や団体に寄付した場合、確定申告をすることで所得税の寄付金控除が適用され、所得税が還付される可能性があります。

そのため、申告自体は義務ではありませんが、節税対策として行うとよいでしょう。

寄付金控除の対象になるのは、寄付先が以下のような機関や団体である場合です。

寄付金控除の対象となる寄付先
  • 地方自治体
  • 公益財団法人
  • 公益社団法人
  • 社会福祉法人
  • 学校法人
  • 認定NPO法人
  • 政党・政党支部
  • 政治資金団体
  • 日本赤十字社の支部

どのような団体に寄付しても控除の対象になるというわけではいないため、注意しましょう。また、寄付金控除の適用を受けるには、寄付団体から交付された受領証を確定申告の際に添付する必要があります。

そのほか、寄付の対象が不動産である場合は、時価で売却したとみなされて課税される「みなし譲渡」と判断される可能性があります。不動産を寄付するのであれば、みなし譲渡に該当しないかどうかを事前に確認しておいたほうがよいでしょう。

未支給年金や死亡保険金を受け取った場合

未支給年金や死亡保険金(生命保険金)を受け取った場合、条件によっては確定申告が必要になります。

「未支給年金」は一時所得の総額が50万円を超えると確定申告が必要です。一方で「死亡保険金(生命保険金)」は保険金受取人と保険料の負担者が同一の場合に必要となります。

未支給年金は相続人の一時所得に該当します。そのため、未支給年金を受け取ったときは申告が必要です。ただし一時所得には50万円の特別控除があるため、一時所得の総額が50万円以下なら申告は必要ありません。

死亡保険金(生命保険金)は、保険金受取人と保険料の負担者が同一人物であれば所得税がかかります。その場合は申告しなければなりません。たとえば以下の2つの契約のうち、申告が必要になるのは2のケースです。

被保険者保険料の負担者保険金受取人税金の種別
1被相続人被相続人配偶者相続税
2被相続人配偶者配偶者所得税

1のケースでは、被相続人が保険料を支払っているため申告の対象にはなりません。このケースのように、保険料の負担者以外の方が死亡保険(生命保険)の保険金を受け取ると相続税の対象になります。

2のケースは、保険金受取人と保険料の負担者が同一人物であるため所得税の対象になり、申告が必要です。

相続した遺産に収益物件が含まれていた場合

相続した遺産の中に収益物件が含まれていたときは確定申告が必要です。収益物件とは所有することで収入を得られる物件のことで、たとえば賃貸マンションやア

パート、借家、貸駐車場などが該当します。

通常、遺産の相続に所得税はかからず、相続税だけが発生します。そのため、相続した不動産が収益物件でなければ確定申告は必要ありません。しかし、相続した不動産が収益物件だった場合、相続開始以降に発生した賃貸料は相続人の収入になるため申告が必要になるのです。

有効な遺言書があり、その中で収益物件を相続する方が指定されているのであれば、その方が申告します。

遺言書がないケースや収益物件に関して指定がないときは、いったん法定相続分どおりに分割し、被相続人の死亡から遺産分割協議書成立までに生じた賃貸料に対してそれぞれが申告します。

被相続人から事業を引き継いだ場合

被相続人から事業を引き継いだ場合は、事業所得の申告をしなければなりません。

被相続人のこれまでの確定申告書や取引の際の契約書などを探し出し、所得を計算する必要があります。

相続人自身が確定申告する際の方法と流れ

相続人自身が確定申告する際の方法と流れについて解説します。申告期間が決まっているためできるだけ早めに行動し、必要書類に漏れがないようにしましょう。

申告に必要な書類を用意する

まず、必要な書類を用意します。相続人自身の確定申告に必要な書類は以下のとおりです。

相続人自身の確定申告に必要な書類
  • 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカードなど)
  • 確定申告書AまたはB
  • 源泉徴収票
  • 生命保険料、社会保険料などの控除証明書
  • 収入がわかるもの(通帳など)
  • 経費がわかるもの(領収書や請求書)
  • 寄付先から発行された領収書(相続した遺産を寄付した場合)

本人確認書類は、顔写真つきのものが必要です。運転免許証やマイナンバーカードであればそれだけでも問題ありませんが、通知カードの場合は運転免許証などもあわせて提示しなくてはなりません。

確定申告書の用紙は税務署の窓口でもらえるほか、国税庁のホームページからダウンロードが可能です。

控除証明書は保険会社などから郵送されてくるものですが、見当たらなければ保険会社や年金事務所に問い合わせて発行してもらいましょう。源泉徴収票も、なければ勤務先や日本年金機構で手配してもらえます。

税務署に書類を提出する

書類が整ったら、税務署に確定申告と添付書類を提出します。提出先は相続人本人の住所地を管轄する税務署です。

なお、申告期限は収入があった翌年2月16日〜3月15日です。期限を過ぎても申告はできますが、延滞税や加算税が発生する可能性があるため、期限内に提出できるようにしましょう。

ミスがあったことにあとから気づいた場合、5年以内であれば訂正が可能です。申告は以下のうち、いずれかの方法で行います。

税務署への書類提出方法
  • 税務署に直接持ち込む
  • 税務署に郵送する
  • e-Taxで電子申告する

どの方法で申告しても構いませんが、確実なのは税務署に直接持ち込む方法です。ただし、期限ぎりぎりのタイミングになると人が殺到するため、余裕をもって申告することをおすすめします。

相続時の確定申告で注意すべきこと

相続時の確定申告では、どのようなことに注意すべきなのでしょうか?ここでは、相続時の確定申告で注意すべきことについて解説します。

医療費や税金が未払いだと控除対象になる

未払いの医療費や未納の税金などは、相続税の債務控除の対象です。相続税の債務控除とは、相続税を算出する際、被相続人が残した債務を遺産の総額から差し引くことです。

被相続人が亡くなった時点で未納になっている税金や入院中の医療費、準確定申告の際に相続人が納付する所得税なども債務控除の対象になります。

そのほか、被相続人から事業を引き継いだ際にかかった費用など、相続人自身の確定申告で生じた支払いの中にも、対象になるものがあるかもしれません。

債務控除できるものが多ければ、それだけ税金の負担が軽減します。被相続人の支払い状況や被相続人が亡くなる前後の請求書を確認し、控除できるものは控除しましょう。

廃業や青色申告の手続きが必要な場合もある

被相続人が事業を営んでいたときは、廃業届の提出や青色申告の手続きなど、確定申告以外にもしなければならないことがあります。

廃業届は、相続人がそのまま後継者として事業を引き継ぐ場合でも必要です。被相続人の廃業届を提出したあと、相続人が新たに開業届を提出します。

また、被相続人が青色申告をしており今後も青色申告を希望するのであれば、「青色申告承認申請書」を提出する必要があります。申請期限は以下のとおりです。

被相続人の死亡日 申請期限
1月1日〜8月31日 亡くなった日から4カ月以内
9月1日〜10月31日 12月31日
11月1日〜12月31日 翌年2月15日

このように、申請期限は被相続人がいつ亡くなったかによって異なるため、いつまでに申請しなければならないのかを念頭に置いておきましょう。

なお、被相続人がこれまで白色申告を行っており、相続人は今後青色申告を希望する場合は、被相続人が亡くなった日から2カ月以内に青色申告承認申請書を提出しなければなりません。

延滞税と無申告加算税が課されることもある

確定申告をしなかったときは無申告加算税、申告しても期限を過ぎていたときは延滞税が課されることがあるため注意が必要です。

無申告加算税は、本来納付すべき税額に対し、50万円までであれば15%、50万円を超える部分については20%が加算されるペナルティです。

延滞税は、本来の納付期限の翌日から納付するまでの日数に応じてかかります。税率は最高で14.6%で、申告や納付が遅れればその分延滞税は高額になります。確定申告が必要な場合は、必ず期限内に申告するようにしましょう。

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