遺言書の検認は必ず必要?手続きの流れやポイントを詳しく解説

亡くなった方が書いた遺言書が見つかった場合、勝手に開封しても良いと思っていませんか?

自宅で遺言書を見つけたとしても、発見者は慌てて開封してはいけません。家庭裁判所にて「検認」という手続きを受ける必要があります。検認手続きをして遺言書の存在を明らかにしてもらわなければ相続の手続きが進まないため、早めに行動することが大切です。

この記事では、検認が必要な遺言書についてや、手続きの流れについて解説します。検認を受けなかった場合のリスクや、知っておきたいポイントについても解説しますのでぜひ参考にしてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 検認する必要があるのは「本人が保管していた自筆証書遺言」と「秘密証書遺言
  • 検認は管轄の家庭裁判所へ申し立てる
  • 検認は遺言書の存在を証明するもので効力を証明するものではない

遺言書の検認とは

遺言書とは遺言を書面に残したものであり、遺言書の検認とは家庭裁判所にて、遺言書の内容を確認してもらうことを言います。遺言書を発見した方や預かっていた方が、家庭裁判所にて遺言書を開封し、中身を確かめます。検認を終えることで遺言書の存在を明確にできるのです。

検認の主な目的は以下の3点です。

検認の主な目的
  • 遺言書の存在と内容を相続人全員へ知らせる
  • 遺言書の内容を明確にする
  • 遺言書の偽造や変造を防止する

上記のことからも遺言書の検認は重要な手続きです。遺言書の検認は法律でも義務付けられており、正しい手続きを踏まなければ被相続人の希望に沿った相続が進められないことになります。

検認が必要な遺言書の種類

遺言書の作成方法には種類があり、すべてに検認が必要な訳ではありません。

一般的な普通方式で作成される遺言書には自筆証書遺言・秘密証書遺言・公正証書遺言の3種類があります。そのうち、検認が必要なのは「本人が保管していた自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」です。

検認の必要性を以下の表にまとめました。

遺言書の種類検認
公正証書遺言不要
遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言不要
本人が保管していた自筆証書遺言必要
秘密証書遺言必要

3種類の遺言書のうち公正証書遺言は、公証役場の公証人が法律知識に基づいて作成します。公証人が遺言書に記した内容を遺言者と2人以上の証人の前で読み上げ、署名・押印して完成させるため、遺言書が無効になってしまう恐れがほとんどありません。遺言書の原本は公証役場にて保管され、改ざんや偽造の恐れもないため、検認作業をする必要がないのです。

ここからは、検認が必要となる「本人が保管していた自筆証書遺言」と「秘密証書遺言」について詳しく見ていきましょう。

本人が保管していた自筆証書遺言

検認が必要な遺言書には、遺言書保管制度を利用せず本人が自宅などで保管していた自筆証書遺言があります。自筆証書遺言とは、遺言者が自筆で記載する遺言書を言います。

財産目録の部分のみ代筆やパソコンでの作成が認められていますが、遺言者本人が手書きで全文を記入しなければなりません。筆記用具や紙に決まりはないため手軽に作成できますが、自宅などに置いていた場合には、開封する時に家庭裁判所にて検認手続きが必要です。

ただし、2020年7月に創設された「自筆証書遺言書保管制度」を利用した場合は、家庭裁判所での検認がいりません。この制度は、手数料を支払えば公正証書遺言のように遺言書を法務局で預かってもらえる制度です。

法務局に預けておけば、検認がいらなくなり、遺言書の破棄・隠蔽・改ざん等のリスクも回避できるため、財産を相続人に確実に託す方法の一つとして利用されています。

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言者が内容を秘密にして作成する遺言書です。記入後に封をして、作成した遺言書を公証役場にて存在のみを証明してもらいます。公証役場では、公証人と証人2人以上に遺言書が書かれている事実を確認してもらいます。存在を明らかにしてもらうだけで、本人以外がその中身を見ることはありません。

公証役場で存在を確認してもらった後は、遺言書が作成されている記録が公証役場に残ります。遺言書の原本は、遺言者自身が持ち帰ります。したがって、秘密証書遺言は公的に保管されていない遺言書であり、家庭裁判所にて検認作業が必要になるのです。

ただし、秘密証書遺言はメリットが少ないため、実際にはあまり使われていない遺言方法です。

遺言書の検認手続きの流れ

遺言書の検認手続きはどのように進めれば良いのでしょうか?用意しておかなければならない物もあるため、スムーズに行えるようにチェックしておきましょう。

遺言書の検認手続き流れは以下の通りです。

  1. 相続人を確定させる
  2. 申し立てに必要な書類を準備する
  3. 家庭裁判所へ検認を申し立てる
  4. 家庭裁判所での検認に立ち会う
  5. 検認済証明の交付を受ける

流れを手順ごとに詳しく見ていきましょう。

1.相続人を確定させる

遺言書の検認申請をする前に、法定相続人が誰なのかはっきりさせておく必要があります。手続きの際には、家庭裁判所から法定相続人全員に対して検認日についての案内が通知されます。

そのため、相続人が誰なのかを調査して確定させる「相続人調査」を行わなければなりません。相続人調査では、遺言者の死亡時から出生時までの戸籍をさかのぼって収集します。すべての戸籍謄本等を取り寄せた上で、法定相続人を確定させます。

法定相続人とは、民法で定められた被相続人の財産を相続できる人のことです。順番により法定相続人の範囲と順位が決められています。

第1順位直系卑属(子)子が死亡している場合は孫前の配偶者の子、認知した子、養子縁組した子も含む
第2順位直系尊属(親)養親も含む
第3順位兄弟姉妹兄弟姉妹が死亡している場合は姪、甥

相続人調査では、被相続人の戸籍謄本等を本籍地の市役所で取得し、その情報をもとに、過去にさかのぼって本籍地をたどっていかなければなりません。本籍地が変わっている場合は、変わる前の本籍地に依頼する必要があります。郵送でも取得可能ですが、その都度それぞれの役所で手続きするのには手間がかかり、大変な作業です。

また、戸籍は普段見慣れないものであり、知識がなければ読み解くのが難しいものです。関係性が複雑になればなるほど必要な書類が増えて、誰が相続人になるのか分からなくなってしまう可能性もあります。収集の抜け漏れが発生するケースもあるため、相続人を見落とさないためにも専門家に依頼するのがおすすめです。

2.申し立てに必要な書類を準備する

遺言書の検認申請に必要な書類は以下の通りです。

遺言書の検認申請に必要な書類
  • 遺言書
  • 検認申立書
  • 遺言者の戸籍謄本・除籍謄本
  • 相続人全員分の戸籍謄本

検認申立書には、申立手数料として800円分の収入印紙を貼付します。また、相続人全員分の連絡用郵便切手が必要です。

検認申立書は、裁判所のホームページでダウンロードできます。事前に必要事項を記載しておくとスムーズでしょう。

3.家庭裁判所へ検認を申し立てる

書類が準備できたら、管轄の家庭裁判所へ検認を申し立てます。管轄の家庭裁判所は、遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。どこに申し立てるべきか分からない場合、裁判所のホームページで検索できます。

申し立ての方法は、家庭裁判所の窓口のほかに、郵送の提出もできます。郵送の場合は郵送方法に指定はありませんが、追跡できる一般書留やレターパックで送付すると安心でしょう。

提出した書類に問題がなければ申立人のもとに検認日調整の連絡があり、日程が決まったら「検認期日通知書」と「出欠回答書」が相続人全員に郵送されます。

検認は請求したその日に行えるのではなく1カ月程度かかります。検認期日まで遺言書を開封できないため注意してください。検認作業が終わるまでは相続の手続きが開始できないため、できるだけ早く申し込むようにしましょう。

4.家庭裁判所での検認に立ち会う

検認期日に家庭裁判所へ行き、申立人・検認に立ち会う相続人・裁判所の職員で遺言書を開封します。

検認当日は以下のものを持参しましょう。

検認当日に必要なもの
  • 遺言書
  • 印鑑(検認の申立書に押したもの)
  • 身分証明書
  • 150円分の収入印紙
  • 検認期日通知書

裁判官が遺言書の封を開け、作成された日付・遺言者の署名・筆跡・内容を確認します。

検認はすべての相続人が参加する必要はないものの、申立人は必ず立ち会います。

5.検認済証明の交付を受ける

検認が終わったらすぐに検認済証明書を申請し、遺言書原本に検認済証明書を貼り付けてもらいます。検認済証明書の発行手数料は150円です。検認済証明がなければ、相続登記、預貯金の解約などが進められないため必ず申し込みましょう。

検認の当日に欠席した相続人などに対しては「検認済通知」が送付されます。検認済通知は検認作業が無事に終わったことをお知らせする通知であり、遺言書に書かれていた内容を伝えるものではありません。内容が知りたい場合は、検認済証明書が貼付された遺言書を持っている申立人に依頼することになります。

検認が完了したら、遺言書の記載に沿って相続の手続きを進めていくことが可能になります。

遺言書の検認を受けなければどうなる?

遺言書の検認は民法で定められたルールです。遺言書の検認をしない場合はどのようなリスクがあるのか確認しておきましょう。

相続の手続きが進められない

検認請求が遅れてしまった場合、相続の手続きがなかなか進められない恐れがあります。遺産相続の手続きを行う中で、検証済証明書の提出が求められるのは不動産の名義変更、預金や株式の名義変更などです。

相続の手続きには期限が定められているものもあるため注意が必要です。相続放棄を検討する際は3カ月以内に行わなければなりません。相続税の申告・納付は相続開始があったことを知った日の翌日から10カ月とされています。

手続きの期日が過ぎてしまう可能性もあるため、検認請求は早めに行いましょう。

5万円以下のペナルティを課せられる

遺言書の検認は、民法で定められている規則であるため、検認が必要な遺言書を開封する行為は違法行為です。5万円以下の過料を科せられるケースがあるため注意してください。また、故意に遺言書を隠匿した場合は「相続欠格」に該当し、相続人としての権利を失ってしまう可能性があります。

遺言書の検認で知っておきたいポイント

遺言書の検認で知っておきたいポイントは以下の4点です。

  • 検認は遺言書の効力を証明するものではない
  • 検認に立ち会う必要があるのは申立人のみ
  • 遺言書が複数ある場合もすべての検認が必要
  • 誤って開封してしまった場合も検認が必要

詳しくチェックしておきましょう。

検認は遺言書の効力を証明するものではない

遺言書は家庭裁判所で検認してもらっても、その遺言が有効であるという確証ではありません。検認は、相続人すべてに対し遺言書があることを示し、遺言書の状態や内容を確かめるためのものです。検認の実施により遺言書の偽造、変造を防止し、今後の相続手続きが開始できるようになるためのものです。

したがって、検認を経た遺言でも無効になるケースも考えられます。相続人すべてが遺言書の内容に納得がいかなければ、遺産分割協議に切り替えて、違う財産の分け方を検討し直すことも可能です。

ただし、遺産分割協議は相続人全員の同意がなければ実施できないため、誰か一人でも遺言書通りの相続を望んだ場合は遺言書の内容が優先されます。

また、相続人以外の第三者に遺贈したいという希望が遺言書に記載されていた場合は、その方の同意がなければ遺産分割協議が行えません。遺言書の中で遺言執行者が選任されていた場合も、遺言執行者の同意を得る必要があります。

遺言書の内容に納得できず、遺産分割協議を行うことも難しいケースでは「遺言無効確認訴訟」を起こすか「遺留分侵害額請求」を行使することが可能です。

遺言無効確認訴訟は遺言書が法律的に無効であることを、裁判所に確めてもらうための裁判手続きを言います。遺留分侵害額請求は、遺言書により相続で最低限もらえる遺産の侵害を受けている時に請求できる権利です。

検認を経ても遺言書の有効・無効が確定するものではないことを覚えておきましょう。

検認に立ち会う必要があるのは申立人のみ

前述の通り、検認には相続人すべてが参加する必要はありませんが、申立人の立ち会いが必須です。検認に同席しなかったからといって不利益になることもありません。

検認の日程が決まったら、相続人全員に「検認期日通知書」と「出欠回答書」が郵送されるため、相続人にはもれなく検認期日が知らされます。また、検認の当日に欠席した相続人などに対しても、検認が終了したことをお知らせする「検認済通知」が送付されます。

デメリットと言えば、検認終了後に送られてくる検認済通知に遺言書の内容が書いている訳ではないため、書かれている内容を知るタイミングが少し遅れてしまうことくらいでしょう。

遺言書が複数ある場合もすべての検認が必要

遺言書は作成しても、何度でも書き直すことが可能です。一度記入しても状況や考えが変わることはあります。もし、遺言書が何枚か見つかった時は、すべての遺言書を検認してもらいましょう。

遺言書は、基本的に日付が最新のものが有効です。ただし、日付の記載がないものは無効になってしまいます。また、複数の遺言書のうち、遺言の形式に不備があった場合などは日付が新しい遺言書でも無効になってしまいます。

複数見つかった遺言書のうち「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」があった場合、公正証書遺言の方が公的な手続きを踏んで作成されたものであるからと、優先されると思ってしまいそうですが、それは誤りです。日付が優先されるのが原則のルールになります。

検認は遺言書の効力を示すものではなく、検認時点での状態を明確にし、その後の改ざんや偽造を防ぐことが目的です。遺言書がいくつかある場合は、トラブルを回避するためにもすべての遺言書について検認しておくことが大切です。

誤って開封してしまった場合も検認が必要

遺言書に検認が必要とは知らず、誤って封を開けてしまうことがあるかもしれません。万が一、知らずに開けてしてしまった場合にでも、すぐに検認の手続きを行う必要があります。また、あらぬ疑いをかけられぬよう、他の相続人には誤って封を開けしてしまった事実を伝えておくと安心です。

前述の通り、検認が必要である遺言書は、家庭裁判所の検認手続きを経て開封しなければならないと定められています。誤って開けてしてしまった場合は、5万円以下の過料に処せられる可能性もあるでしょう。

しかし、誤って開封してしまったとしても、遺言書の効力や相続人の資格が失われる訳ではありません。開封後でも検認の手続きを踏めば、検認済証明書を発行してもらえます。相続の手続きをする際には、検認済証明書がなければ受け付けてもらえないため、開封後でも検認の請求は必要です。

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