相続登記しないとどうなる?9つのデメリットと義務化について解説

「相続で土地を譲り受けたけど、手続きは必要なのだろうか?」「相続登記をしないとどのような不利益を被るの?」と気になっている方もいるでしょう。

相続財産の名義を相続人に移す所有権移転登記は、2024年4月1日から義務化されます。過料が科されるようになるほか、土地の利活用のうえで多くのデメリットがあるため、相続登記が未了ならば早めに行いましょう。

今回は相続登記をしないとどうなるのか、具体的なデメリットをご紹介します。

1分でわかる!記事の内容
  • 不動産を相続したら名義変更の登記手続きが必要
  • 相続登記は2024年4月から罰則付きで義務化される
  • 相続登記をしないと売却や担保をはじめ有効活用できない

不動産を相続したら相続登記が必要になる

種類や面積にかかわらず、相続で不動産を譲り受けたときは相続登記が必要です。相続登記とは土地や建物の所有権を亡くなった方から相続人へと移すための手続きです。

これにより、法務局備え付けの登記事項証明書の記載内容が書き換えられ、公に権利を主張できるようになるのです。

相続登記は義務ではなく、怠ったとしてもペナルティは課されません。(2023年9月時点)しかし所有者が誰か不明瞭な状態が続くと、売買を自由にできなかったり、第三者との間でトラブルが生じたりする可能性があります。

相続登記を自分で行うのが難しい場合、司法書士や弁護士等に依頼できます。手続きに必要な書類が何か分からない、申請書を作成する時間がないなどで悩まれている方は、プロに頼むとよいでしょう。

自分で行う場合、法務局に出向かずに手続きが完了する相続登記のオンライン申請がおすすめです。

相続登記をしないとどうなる?9つのデメリット

相続登記をしないと、具体的にはどのようなデメリットが生じるのでしょうか?

不利益の内容を把握することで、いかに登記をせず放置し続けるのが危険か理解できますよ。相続登記をしないとどうなるのか詳しく解説します。

  • 建物や土地を売却できない
  • 不動産を担保として融資を受けられない
  • 固定資産税が増える可能性がある
  • 二次相続で相続人の数が膨れ上がる
  • 賃借人から賃料を受け取れない可能性がある
  • 相続財産の権利を失う可能性がある
  • 子どもや孫の手続きの負担が増える
  • 管理不行き届きでクレームの危険がある
  • 相続財産が差し押さえを受ける危険がある

建物や土地を売却できない

最も大きなデメリットの1つが、第三者に建物や土地を売却できないことです。不動産の所有者がご自身だと証明できないため、買い手が見つかる可能性が極めて低くなるでしょう。

土地や建物の売買では、不動産の代金決済と同時に、所有権まで移転するのが一般的です。所有権移転登記の手続きも、登記簿上の所有者と新たに権利を取得する方の共同申請によって行われます。

不動産の売買にあたり、買い手は登記事項証明書の所有者の欄を確認します。売主と名義人が一致しなければ、本当にご自身のものになるか分からないため、売買が成立する可能性は低くなります。

不動産を担保として融資を受けられない

不動産を担保に金融機関から融資を受けられないのも痛いところです。銀行や信用金庫からお金を借り入れる際は、土地等を提供して抵当権という権利を設定するのが一般的です。

万一返済が滞ったとき、金融機関は抵当権付きの不動産をオークションに出して、債権の回収にあてます。抵当権は所有権と同様、物権にかかる権利の一種なので法務局に申請して、権利者や金額などの詳細を記載しなくてはいけません。

抵当権の設定登記は、抵当権者(金融機関)と登記簿上の所有者による共同申請で行われます。融資の審査時に登記事項証明書の内容をチェックされるので、自分名義の不動産がなければ、金融機関からは融資を受けられないことを意味します。

固定資産税が増える可能性がある

相続登記をしないと、本来より高い固定資産税の負担を迫られる可能性があります。固定資産税は、登記が行われず、不動産の所有権が不明瞭な状態の土地にも課される税金です。相続登記がなされていない期間の納税義務は、相続人全員の連帯債務となるのが特徴です。

納税通知書はその年の1月1日時点の所有者宛てに送付されますが、法律上は相続人全員が債務を履行しなくてはいけません。遺産分割協議や遺言で土地・建物を譲り受けない相続人の場合、本来なら支払わなくてもよい税金の負担を迫られるのです。

相続登記をきちんと行うことで所有者を公に証明できれば、権利を持たない方は納税義務から解放されます。

二次相続で相続人の数が膨れ上がる

二次相続によって、相続人の数が想像以上に膨れ上がる危険もあります。二次相続とは相続登記をしないうちに相続人が死亡し、新たに発生した相続のことです。ある相続で財産を譲り受けた相続人には、配偶者や子どもがいる方も一定数いると推察できます。

相続の回数が増えるほど権利を持つ方が多くなり、以後の手続きが煩雑になる可能性が高いです。遺産分割協議書には相続人全員の印鑑が必要なので、相続人の数が増えるほど、協議をまとめるのが大変になるでしょう。

相続登記に必要な戸籍や住民票等の取得枚数も多くなります。手続きの手間を考えると、登記を放置し続けてもいいことはありません。

賃借人から賃料を受け取れない可能性がある

賃貸中の物件を譲り受けた場合、賃借人からの賃料を受け取れない可能性があります。なぜなら新たな相続人が家賃を請求しても、アパートの住民に応じる義務はないためです。

支払先の変更にかかる通知を受け取ったとしても、賃借人はその内容を信じてよいか判断できません。二重支払いを避けるため、法律上は登記簿の所有者に対して賃料を支払えば問題ないとされています。

相続によって賃貸借契約の主体は被相続人から相続人へと受け継がれますが、賃料の請求権の扱いは異なります。新たな大家が譲り受けた物件の賃借人に賃料を請求するには、相続登記を済ませて、物件の名義を自分名義にしておく必要があるのです。

相続財産の権利を失う可能性がある

相続登記をしない間に第三者が自分名義に権利を移してしまい、本来の相続人が権利を失う恐れがあります。相続で譲り受けたのはご自身なのに理不尽ではないかと思うかもしれませんが、相続人の債権者であれば可能です。

よくあるシチュエーションは相続人に借金がある方がいて、お金を貸していた第三者が財産の持分を自分名義に変えてしまうケースです。遺産分割協議で取得する財産や配分が決まったとしても、相続登記をしないとその内容を公に証明できません。

登記が行われていない期間、不動産は法定相続分に基づく相続人全員の共有状態です。相続の事実を知った相続人の債権者が不動産の持分を自分名義に書き換えてしまえば、相続人は権利を主張できなくなります。

子どもや孫の手続きの負担が増える

相続登記をしないまま相続人が死亡すると、その子どもや孫の負担が増大します。相続人の数が増えて資料の収集が困難になるほか、すべき登記の回数が増えるのもデメリットです。

二次相続が発生した場合、原則として「被相続人から死亡した相続人」「死亡した相続人から現在の所有者」の2段階の所有権移転登記が必要です。中間省略登記によって一度で済ませる方法もありますが、条件付きですべての方向けではありません。

登記の回数が多ければ、それだけ手続きの手間や相続登記の費用が増えてしまいます。必要な書類も膨大な数に達するため、相続登記を放置したまま死亡しては、後の世代に迷惑がかかります。

管理不行き届きでクレームの危険がある

相続登記が未了の土地は管理もまったくされていない、または行き届いていないケースが少なくありません。生い茂った雑草が他人の敷地に侵入したり、ごみのたまり場と化して悪臭が発生したりして、クレームを受ける危険があります。

管理不行き届きが原因で、他人に損害を与えてしまったら、所有者となる相続人が損害賠償する責任を負うのです。管理者や住居者がおらず、長らく放置された土地は不法投棄をはじめ、犯罪の温床と化すリスクもあります。

使い道がない土地は遺産分割協議が済むまで放置されやすいですが、立ち入らない期間が長期化すると、所有者責任を問われることがあります。早めに相続内容を確定して登記の手続きまで完了させましょう。

相続財産が差し押さえを受ける危険がある

相続人が法的な義務を履行しない場合、差し押さえを受ける危険があります。例えば相続税の申告・納税期限は相続の事実を知ったときから起算して10カ月以内です。

遺産分割協議がまとまらずこの期限を超過してしまうと、税務署から相続した不動産の差し押さえを受ける可能性があります。差し押さえが行われるのは、督促を無視して延滞を続ける等の特別な事情があるケースにかぎられます。この場合、相続登記がない以上、抵抗できないため注意が必要です。

相続税以外にも、金融機関等から受けた融資の返済期限を守らなかったときにも差し押さえを受ける場合があります。権利が実行されるとご自身はもちろん、他の相続人も相続財産を失ってしまうでしょう。

2024年4月1日から相続登記は義務化に

現状では相続登記をするかしないかは任意ですが、2024年4月1日から義務に変更されます。期限までに手続きを行わないと過料が課されるので注意しましょう。相続登記義務化によって何が変わるのか解説します。

相続登記義務化の変更点

相続登記義務化によって相続登記をしない場合の扱いが変更されます。

2024年3月まで2024年4月以降
相続登記未了の罰則なし10万円以下の過料
※相続の事実を知った日から3年が手続きの期限

登記義務化の対象は、法改正の施行後に相続した土地に限られないことに注意が必要です。2024年3月以前に譲り受けた建物や土地も、3年以内に名義を移す必要があります。

相続登記の期限を過ぎた時点で必ずしも過料が科されるのではありません。正当な理由がなく、法務局から催促を受けたのに手続きをしない場合に限られます。

相続登記しないと起こるシチュエーション

相続登記の義務化によって、今まで相続登記をしてこなかった方も手続きを余儀なくされました。過料以外にも、登記をしないことで生じるリスクは多々あります。具体的にどのような不利益を被るのか具体例をご紹介します。

  • 相続人が勝手に名義を変更して売却された
  • 遺産分割が未了のうちに持分を売却された
  • 債権者の差し押さえを受けて売却された
  • 相続人に認知症の患者が出てしまった
  • 続人に行方不明者が出てしまった
  • 相続人の数が多すぎて手続きが進まない
  • 相続放棄した方の意見が変わってしまう
  • 相続登記に必要な戸籍の収集に手間取る
  • 保険金がスムーズに支払われない
  • 公共事業の用地買収が進まない
  • 老朽化した家屋が倒壊する

相続人が勝手に名義を変更して売却された

ある相続人が、相続財産の名義を勝手に自分へと変更して売却してしまう事例です。遺産分割協議書を偽造して、法務局のチェックをかいくぐることは可能です。法定相続分を超える部分は、事情を知らない買い主に対して主張できません

したがって取引自体は取消可能なのですが、一度移転した所有権を正しく戻すために時間や手間がかかります。売却時点では気付かず、すでに登記簿上の所有者が買い主になっているならなおさらです。

取引には何の関与もない相続人が、ご自身の法定相続分を取り戻すのも一苦労です。完全な偽造なら仕方ないですが、内容も確認せずに協議書に押印していた場合、罪に問うのは難しくなります。

遺産分割が未了のうちに持分を売却された

遺産分割がまとまっていないのに、ご自身の持分を売却してしまうケースは多々あります。法定相続分を無視して単独名義に移すのは犯罪行為の一種なので、起り得る可能性は高くないでしょう。

しかし、共有状態の土地をご自身の法定相続分に基づき、売却する難易度は低くなります。相続登記は代表者による申請が可能だからです。

遺産分割協議が終わっていない間に、ある相続人が無断で法定相続分どおりに登記を申請するリスクがあります。勝手に登記を済ませて、その持分を売却してしまえば、他の相続人は法定相続分以外の権利を主張できなくなります。

債権者の差し押さえを受けて売却された

借金がある相続人の債権者が自らの債権を保護するため、法定相続分どおりに登記するパターンです。続いて名義が変更された財産に対して差し押さえを行い、弁済にあてます。

相続登記の申請は相続人以外にも、債権者による代行も認められています。借金の返済が滞った場合、お金を貸していた方は債務者名義の財産を差し押さえようとするでしょう。このとき、本人名義の財産のほか、相続で譲り受ける土地や建物も差し押さえの対象です。

被相続人名義では差し押さえできないので、まずは債務者の法定相続分どおりに所有権移転の申請を出します。たとえ遺産分割協議で債務者以外が不動産の権利を取得すると決まっても、事情を知らない第三者(この場合は債権者)には主張できないのです。

相続人に認知症の患者が出てしまった

相続登記をしない間にある相続人が認知症を発症してしまい、判断能力を失う場合があります。認知症等で意思能力がない方は遺産分割をはじめ、財産の売却や処分の判断をご自身で行えません。

遺産分割協議は相続人全員の同意が必要なので、手続きがスムーズに進まないという問題が発生します。相続人の中に認知症で判断能力を失った方が出たときは、代わりに判断を下す後見人を選定する必要があります。

成年後見人の選任では家庭裁判所への申し立てが必要です。必要な書類の数も膨大で、後見人の選任だけでも時間がかかります。遺産分割協議をまとめる前段階で大きな手間が生じてしまうのはデメリットです。

相続人に行方不明者が出てしまった

相続登記をしない間に相続人が行方不明になってしまう場合があります。行方不明者といえども遺産分割協議からは除外できません。行方を突き止めるために役所で住民票や戸籍を取得したり、聞き込み調査をしたりと多大な時間や手間がかかります。

どうしても行方不明者の所在が分からない場合、家庭裁判所に申し立てて不在者財産管理人の選任が必要です。

後見人と同様、手続きに必要な書類の収集等で時間や手間がかかるのは避けられないでしょう。相続登記をしない状態を放置すると遺産分割協議だけでなく、新たな手続きも発生してしまうのです。

相続人の数が多すぎて手続きが進まない

相続登記を放置し続けて二次相続が何件も起きている状況だと、相続人が数えきれない数に上る場合もあります。相続登記には相続人全員の住民票が必要なので、書類の収集に想定以上の時間がかかるでしょう。

遺産分割協議を伴う場合、協議書には相続人全員の印鑑が必要です。数が多いとハンコをもらうのが大変です。

二次相続が発生していると、顔を見たことがない、初めて存在を知った相続人がいるケースも珍しくありません。相続や遺産分割のセンシティブな話をするのも気が引けると思われるので、話し合いが難航する可能性が高いです。

相続放棄した方の意見が変わってしまう

相続登記を放置し続けたために一度相続放棄をした方の意見が変わって、権利を主張するようになる場合があります。不動産を共有名義にすると、後にトラブルが生じやすいことは一般的に知られています。

ある相続人による単独所有にするため、他の相続人が法定相続分の権利を放棄したとしましょう。話し合いが円満に終われば、とくに問題ないと考える方もいるかもしれません。

しかし、相続放棄をした相続人に改めて話を持ちかけたときに、意見が変わって権利を主張したいと言い出す可能性があるのです。

最初の話し合いから時間が経過したからこその現象なので、相続登記の放置を続けるのはおすすめできません。

相続登記に必要な戸籍の収集に手間取る

二次相続が発生していると、登記に必要な戸籍を取得する方の数が増えます。相続登記をしないまま相続人が死亡した場合、被相続人だけでなく、相続人の出生から死亡までの戸籍も求められます。時間が経つほど雪だるま式に必要な資料が増えていくのが、相続登記の放置を続ける怖いところです。

何を準備すべきかご自身では分からなくなり、司法書士への依頼を余儀なくされることも考えられます。

保険金がスムーズに支払われない

譲り受けた不動産に火災保険や地震保険がついていた場合、名義変更が未了だと、保険金が支払われるまで時間がかかる可能性があります。契約の権利はそのまま引き継がれます。しかし、登記簿上の名義と実態が異なると、審査で懸念を抱かれるでしょう。

特定の相続人が保険付きの不動産に住み続け、保険料を支払っている状況も考えられます。その場合でも、名義変更が未了だと、相続人全員に保険金が分割して支払われる可能性があります。実際の対応は保険会社によって異なりますし、相続登記の未了を理由に、保険が下りない可能性は低いです。

しかし事故や災害に見舞われた方は一刻も早く保険金を受け取りたいと推察されます。相続人への名義変更は早めに済ませ、さまざまなリスクに備えましょう。

公共事業の用地買収が進まない

所有者不明の土地が原因で、鉄道の敷地やダムの建設など公共事業の用地買収が進まない可能性があります。ご自身では住む予定がなく、持て余していた土地でも公共事業のエリアに含まれる場合があります。

まずは国や地方公共団体等の事業者と所有者の間で、売買契約を締結しなくてはいけません。所有者が亡くなっていれば、被相続人の調査から始めねばならず、調査・資料収集等だけでも時間がかかります。

現在の権利者を把握できたとしても、交渉が難航する恐れもあります。

老朽化した家屋が倒壊する

相続登記をしないのが空き家の場合、老朽化によって屋根や建物が倒壊する危険があります。近隣の住民からクレームが入る恐れがあるほか、実際に被害が生じたら、損害を賠償する責任を負うでしょう。

本来なら自治体が所有者に対して改善を求め、そのうえで未対応の場合に取り壊し等の処置が行われます。所有者や管理者がすでに亡くなっているケースでは、はじめに相続人に対して勧告・指導がなされます。

相続登記を放置し続けている場合、自治体が誰に改善を要求するのか探すだけで時間を要するでしょう。その間に、被害が生じる危険もあります。

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