自筆証書遺言とは?要件・書き方・注意点などを解説

ご自身の意思を伝える自筆証書遺言を残しておきたいが、書き方がわからないなどと困っていませんか?

自筆証書遺言は法的な要件を守って書けば、効力が発生します。

この記事では、自筆証書遺言の書き方や注意点などを解説します。有効な自筆証書遺言を残しておきたい方は必読です。

1分でわかる!記事の内容
  • 自筆証書遺言の法的な要件がわかる
  • 自筆証書遺言の書き方がわかる
  • 自筆証書遺言を作成するときの注意点がわかる

自筆証書遺言とは?

自筆証書遺言とは、遺言者が全文(相続財産目録を除く)を手書きで作成する遺言書のことです。一般的に利用される遺言書の種類には、自筆証書遺言の他に公正証書遺言があります。

公正証書遺言とは、遺言者から口頭で伝えられた遺言の内容を法律の専門家である公証人が作成する遺言書のことです。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言のメリット・デメリットを解説します。

自筆証書遺言のメリット

自筆証書遺言の主なメリットは、次の4つです。

自筆証書遺言のメリット
  • ご自身で遺言書を作成できる
  • 費用がかからない
  • 簡単に書き直せる
  • 遺言の内容をご自身以外の方に知られない

時間や場所を選ばず、ご自身だけで手軽に遺言書を作成できることは大きなメリットです。作成時は用紙と筆記用具があればよいため、費用も抑えられます。

仮に遺言書の内容を変えたい場合は、簡単に書き直せます。

手元にある遺言書を捨てて、新たに作成しましょう。


また、ご自身で作成できるため、遺言書の内容を他者に知られないこともメリットです。ご自身が亡くなるまで遺言書が第三者に見つからない限り、遺言の内容を知られることはありません。

自筆証書遺言のデメリット

自筆証書遺言の主なデメリットは、次の4つです。

自筆証書遺言のデメリット
  • 遺言が無効になることがある
  • 遺言書が発見されないことがある
  • 書き換えられたり破棄されたりすることがある
  • 検認手続きが必要になる

自筆証書遺言は法的な要件を満たしていないと、無効になります。後ほどご紹介する法的要件を守って作成することが大切です。

仮に要件を守って作成していても、遺言者の死後に遺言書が発見されなければ意味がありません。発見されないと遺言書の効力が発生しないため、慎重に保管場所を決めましょう。

また、遺言者が生きている間に遺言書が第三者に見つかってしまうと、書き換えられたり破棄されたりするリスクもあります。

ほかにも、遺族の立場で考えたとき、自筆証書遺言には家庭裁判所での遺言書の検認手続きが必要になることもデメリットです。検認前に遺言書を開封してしまうと、5万円以下の過料が科されます。

法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認の手続きは不要です。

デメリットを防止できる自筆証書遺言書保管制度

自筆証書遺言には、「遺言書が発見されない」「書き換えられたり破棄されたりすることがある」などのデメリットがありますが、これを防止できるのが法務局の「自筆証書遺言書保管制度」です。

この制度は、2020年7月10日に始まりました。自筆証書遺言書とその画像データを法務局で保管できる制度で、全国312カ所の法務局で利用できます。

自筆証書遺言書保管制度のメリットは、次の4つです。

自筆証書遺言書保管制度のメリット
  • 紛失や盗難、偽造や改ざんのおそれがない
  • 遺言書が無効になりにくい
  • 遺言者の死後に遺言書が発見されやすい
  • 遺言書の検認が不要

法務局の自筆証書遺言作成例

法務局の自筆証書遺言作成例は、次のとおりです。

自筆証書遺言の4つの要件

自筆証書遺言の要件は、民法第968条で定められています。

(自筆証書遺言)

第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

2 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

3 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。

引用:e-GOV法令検索

この法律で定められた4つの要件を守って作成しなければ、自筆証書遺言が無効になるため注意が必要です。

1.遺言者が全文を自筆で書く

自筆証書遺言では、遺言者が財産目録を除く全文を自筆で書かなければなりません。パソコンで作成したり代筆したりすると無効になってしまいます。

2.作成した日付・氏名を自筆で書く

遺言書を作成した日付・氏名は、自筆で書く必要があります。日付は「令和5年9月1日」「2023年9月1日」などと正確に書きましょう。なお、遺言者の死後、複数の遺言書が発見された場合、新しい日付の遺言書が有効とされます。

3.印鑑を押す

氏名の後には、必ず印鑑を押すのを忘れてはいけません。

印鑑や朱肉に決まりはありませんが、なるべく質のよいものを使いましょう。

印影が消えていたり押印がなかったりすると、遺言書が無効になってしまいます。

4.訂正するときはルールを守る

遺言書(財産目録を含む)を訂正する場合は、民法第968条第3項に定められたルールを守らなければなりません。ルールどおりに訂正していない場合、訂正前の遺言内容が有効になるので注意しましょう。

訂正の仕方は、次のとおりです。

  1. 訂正する文字を二重線で消し、訂正後の文字を記入する
  2. 訂正した箇所に、遺言書で使った印鑑を押印する
  3. 欄外などに「〇字削除、〇字加入」と記載し、遺言者が署名する

法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合の要件

法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合は、次の要件を満たす必要があるので注意しましょう。

法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用する場合の要件
  • A4サイズの用紙を使う
  • 上側5mm、下側10mm、左側20mm、右側5mmの余白を作る
  • 片面のみに書く
  • 全ページにページ番号を書く
  • 複数ページになる場合、綴じ合わせない

自筆証書遺言の書き方のポイント

自筆証書遺言の書き方で大切なポイントは、次の3つです。

財産目録を作成する(パソコンで作成してもよい)

まず、相続させる財産を正確に把握するために、財産目録を作成しましょう。財産目録は、パソコンで作成しても問題ありません。

財産目録に正確な財産を書いていないと、相続人の間でトラブルになる可能性があるためです。

相続人の範囲を明確にする

正確な財産目録を作成したら、次に相続人の範囲を明確にしましょう。遺言者の財産を相続する際、各相続人の取り分の割合が法律で定められています(法定相続分)。

しかし、遺言書では、「次男Bに対し、私の所有する預貯金の中から、現金2,000万円を相続させる。」など、どの相続人にどの財産を相続させるのか決められるのです。

遺言執行者を指定する

遺言書で遺言執行者を指定しておくと、相続の手続きがスムーズに進みます。遺言執行者とは、遺言者が残した相続内容の手続きをする方のことです。相続手続きを行う際、相続人の負担が軽減されるでしょう。

自筆証書遺言で効力がある主な項目

自筆証書遺言で効力が発生するのは、次の3つの項目です。

  • 相続に関すること
  • 財産の処分に関すること
  • 身分に関すること

相続に関すること

遺言で効力が発生する相続に関することを解説します。

相続分を指定できる

遺言書では、法定相続分とは異なる割合で、誰に財産を相続させるのか指定できます。例えば、長男に事業承継する場合、事業に必要な不動産や株式などを長男に相続させると指定できるのです。

遺産分割の指定、禁止ができる

遺言書では、どの遺産をどの相続人に相続させるのか、指定できます。例えば、「妻に不動産のすべて。長男に株式のすべて」などです。また、5年を超えない期間で、遺産分割を禁止できます。

相続人に未成年者が含まれている場合などに、未成年者が成人するまで5年以内であれば遺産分割を禁止できるのです。未成年者が成人に達すると、遺産分割協議に参加できます。

相続人を廃除できる

遺言書で、推定相続人を廃除できます。ただし、廃除できるのは、民法第892条で定められた要件に該当する場合です。

要件は、次の3点です。

民法第892条で定められた要件
  • 推定相続人が遺言者に対して虐待をしたとき
  • 推定相続人が遺言者に重大な侮辱を加えたとき
  • 推定相続人にその他の著しい非行があったとき

また、廃除するには、遺言執行者を選任しなければなりません。

遺留分減殺方法を指定できる

遺言書で、遺留分減殺方法を指定できます。法定相続分とは異なる割合でどの相続人にどの財産を相続するか指定しても、遺留分は欲しいという相続人から遺留分減殺請求を起こされることがあります。

これを想定して、例えば、「遺留分減殺請求を起こされた場合、預金から払ってほしい」などと遺言書で方法を指定できるのです。

特別受益持ち戻しを免除できる

遺言書により特別受益持ち戻しの免除ができます。

遺言者が生存中に財産の贈与などを受けた方は、遺産分割のときに法定相続分から贈与を受けた分を差し引かれるのが一般的です。

しかし、「贈与した分を法定相続分から差し引かないでほしい」と遺言書で免除できます。これを特別受益持ち戻しの免除といいます。

保険金受取人・遺言執行者・祭祀継承者が指定できる

遺言では生命保険受取人・遺言執行者・祭祀継承者の指定や変更ができます。遺言執行者は遺言の内容を実行するために必要な手続きを行う方を、祭祀継承者はお墓などを引き継ぐ方を指します。

財産の処分に関すること

遺言で効力が発生する財産の処分に関することを、解説します。

遺贈ができる

法定相続人以外の第三者に財産を渡せます。これを遺贈といいます。

例えば、「孫Aに預貯金のうち1,000万円を遺贈する。」などと記載します。

寄付や一般財団の設立ができる

遺産を、寄付(遺贈寄付)や一般財団の設立に使えます。節税対策にもなります。

遺贈寄付とは、遺言者が遺言で財産のすべてまたは一部を公益法人、NPO法人、学校法人、国立大学法人、その他の団体や機関などに寄付することです。

信託を指定できる

信託とは、大切な財産を信頼できる方や信託銀行などに託し、大切な方やご自身のために管理・運用してもらう制度のことです。

法定相続人が高齢者や未成年者などで財産の運用・管理能力がない場合、遺言で信託を指定できます。

身分に関すること

遺言で効力が発生する身分に関することを、解説します。

子どもを認知できる

婚姻していない女性との間の子どもを、認知できます(遺言認知)。認知された子どもは、法定相続人になります。

認知する子どもが成人の場合は、子ども本人の承諾が必要です。胎児を認知する場合は、母親の承諾を得なければなりません。

また、遺言認知をすると法定相続人が増えるため、法定相続分や相続順位が変わります。

未成年者の後見人、後見監督人を指定できる

未成年後見人、後見監督人を指定できます。

未成年後見人とは未成年者の法定代理人で、未成年者の監護養育、財産管理などを行う方のことです。後見監督人とは、未成年後見人が行う事務を監督するために、家庭裁判所が選任した方のことをいいます。

自筆証書遺言を作成するときの注意点

自筆証書遺言を作成するときの注意点を、解説します。

代筆は認められない

代筆された自筆証書遺言は、無効になります。財産目録を除く全文を自書しなければなりません。病気などで正確に字が書けない場合、第三者に手を添えてもらうなど補助を受けて書いた遺言書も無効と判断された判例があります。

自書で遺言書を書くのが難しいときは、遺言内容を公証人に口頭で伝え、公証人に遺言書を作成してもらえる公正証書遺言を利用しましょう。

共同遺言は認められない

民法第975条で、「遺言は、2人以上の者が同一の証書ですることができない。」と定められています。例えば、夫婦で遺言書を作成した場合、無効になってしまうのです。

相続と遺贈を正しく使い分ける

法定相続人に財産を相続させる場合は「相続させる」、法定相続人以外の人に財産を渡す場合は「遺贈する」と正しく表記しなければなりません。

遺留分を侵害しない

遺留分を侵害しないように、自筆証書遺言を作成する必要があります。相続が発生した後、遺留分を主張する法定相続人によって、遺留分減殺請求をされるなどのトラブルを防ぐためです。

遺留分とは法律で定められた相続人が、最低限の財産を相続できる権利のことです。遺留分減殺請求は、遺留分を侵害する遺言より優先されます。

付言で財産配分の理由を明らかにする

遺言書の内容を見た相続人が遺言者の意思を理解できないため、トラブルになるケースが多く見られます。

特に、法定相続分とは異なる財産配分の遺言を遺した場合などは、付言によって遺言者の意図や理由を明らかにしておきましょう。

付言とは、お世話になった方や家族などへの感謝・想い・願いなどを伝える文章のことです。

自筆証書遺言より公正証書遺言が適しているケース

公正証書遺言とは、遺言者が口頭で伝えた遺言の内容を公証人が作成する遺言書のことをいいます。自筆証書遺言より公正証書遺言が適しているのは、次のようなケースです。

どうしても無効にしたくない場合

どうしても遺言を無効にしたくないときは、公正証書遺言を選んだほうがよいでしょう。

自筆証書遺言は遺言の内容が複雑な場合、法的に不備な遺言書になってしまうリスクがあります。そうなると、後々紛争に発展したり、無効になってしまったりする可能性があるのです。

一方、公正証書遺言は法律の専門家である公証人が作成するため、遺言が無効になるおそれはありません。

遺言者が字を書けない場合

遺言者が字を書けない場合、公正証書遺言が適しています。

自筆証書遺言は財産目録を除く全文を自書しなければならないため、病気などで字が書けない場合は、作成できません。

これに対し、公正証書遺言は遺言者が字を書けない場合であっても、公証人に遺言の内容を口頭で伝えられれば遺言書を作成してもらえます。

安全な場所に保管したい場合

遺言書を安全な場所に保管したいと考えた場合、公正証書遺言が適しています。

自筆証書遺言を自宅などに保管していた場合、紛失したり他の人に発見されて改ざんされたりするリスクがあります。

一方、公正証書遺言の場合は遺言書を公証役場に保管するため、紛失したり他の方に発見されて改ざんされたりする心配はありません。

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