厚生年金に加入している方が厚生年金受給前または受給中に亡くなり、どのように手続きすればよいかお困りではありませんか?
厚生年金は、死亡のタイミングによって遺族と企業のうちどちらが手続きを行うのかが異なります。「受給前」であれば企業が手続きしてくれますが、「受給中」に亡くなった場合は、遺族が死亡の届出を行わなければなりません。
この記事では、厚生年金受給前や受給中に加入者が亡くなった際の手続きについてや、もらえるお金について解説します。遺族厚生年金と併給できる年金や一時金もご紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。
- 厚生年金受給前に亡くなった場合は企業が手続きをしてくれる
- 亡くなったのが厚生年金受給中なら、遺族が年金事務所などに受給権者死亡届を提出する必要がある
- 厚生年金加入者の死亡後に受け取れる年金には、未支給年金や遺族厚生年金などがある
厚生年金とは
厚生年金とは、企業に勤める会社員などが加入する公的年金制度です。年金保険料は国民年金のように加入者本人だけが納めるのではなく、加入者である労働者側と雇用側が折半します。そして、労働者が65歳以上になったら年金の支給がスタートします。
厚生年金の対象となるのは、厚生年金保険に加入している企業で働く70歳未満の従業員です。
正社員ではなくアルバイトやパートなどでも、「1週間の労働時間が20時間以上」「2カ月を超える雇用の見込みがある」などの条件を満たすことで厚生年金加入者の対象になります。
厚生年金加入者が死亡した場合の手続き
厚生年金加入者が死亡した場合、どのような死後手続きを行えばよいのでしょうか?ここでは、厚生年金加入者が死亡した場合の手続きについて、加入者が亡くなったタイミング別にご紹介します。
「受給前」に亡くなったケース
厚生年金受給前に加入者が亡くなった場合、遺族は手続きを行う必要がありません。加入者が勤めていた企業が手続きを行ってくれるためです。
企業は以下の書類を年金事務所に提出します。
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格喪失届
- 厚生年金保険70歳以上被用者不該当届
ただし、企業が手続きしてくれるのは遺族厚生年金に関してのみです。ケースによっては遺族厚生年金を受給しても遺族基礎年金や寡婦年金、死亡一時金が受け取れるため、そういった年金や一時金については遺族が手続きしなければなりません。
受給要件を満たしているかどうかや給付の内容、請求先などは、年金の加入状況や亡くなった方と遺族との関係性などによって異なります。管轄の年金事務所に確認してみましょう。
「受給中」に亡くなったケース
厚生年金受給中に受給者が亡くなると、それ以降は年金を受ける権利がなくなります。そのため、亡くなったことを届け出る必要があります。厚生年金受給前に亡くなったケースとは異なり、この場合は企業ではなく遺族が手続きしなければなりません。
以下の書類を、年金事務所または街角の年金相談センターに提出します。
- 受給権者死亡届(報告書)
- 亡くなった方の年金証書
- 受給者の死亡を証明できるもの
受給権者死亡届は、日本年金機構のホームページでダウンロードできます。受給者の「死亡を証明できるもの」には、死亡診断書のコピーや住民票の除票、死亡事項の記載された戸籍謄本などが該当します。
手続きの期限は「10日以内」です。届出が遅れ、亡くなった月の翌月以降の年金を受給してしまったときは、後日返還する必要があります。
ただし、受給者のマイナンバーを日本年金機構に届出済みであれば、受給権者死亡届の提出を省略できます。
厚生年金加入者の死亡後に受け取れるお金
厚生年金加入者の死亡後に受け取れるお金には、どのようなものがあるのでしょうか?ここでは、厚生年金加入者の死亡後に受け取れる年金や一時金の、受給対象・請求方法について解説します。
未支給年金
未支給年金とは、亡くなった方に支給されるべきであるものの、まだ受け取っていない年金のことです。未支給年金の受給対象や請求方法については、以下の見出しで解説します。
受給対象
未支給年金を受給できる遺族は以下のとおりです。
- 配偶者
- 子ども
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
- 1〜6以外の3親等内の親族
いずれも、年金受給者が亡くなった時点で生計をともにしていることが条件です。「3親等内の親族」には、亡くなった年金受給者の甥姪やその配偶者、曾祖父母、曾孫など広い範囲の親族が該当します。
なお、未支給年金を受給できる順位も上記のとおりです。もっとも高順位の遺族だけが未支給年金を受給でき、それ以降の順位の方は受給できません。
請求方法
未支給年金は、以下の書類を年金事務所または街角の年金相談センターに提出することで請求できます。
- 未支給年金・未支払給付金請求書(複写帳票)
- 亡くなった方の年金証書
- 戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 世帯全員の住民票
- 亡くなった方の住民票除票
- 未支給年金の受け取りを希望する預貯金通帳
未支給年金・未支払給付金請求書は、日本年金機構のホームページでダウンロードできます。
戸籍謄本については、亡くなった方と請求者の関係を証明できるものが必要です。請求者が亡くなった方の配偶者や子どもであるなど、未支給年金の請求権を持つ人物であることがわかる戸籍であれば問題ありません。
法定相続情報一覧図とは、法務局で取得できる「亡くなった方の相続関係が一目でわかる家系図のようなもの」です。法定相続情報一覧図があれば戸籍の提出を省略できます。
また、世帯全員の住民票や亡くなった方の住民票除票は、亡くなった方と請求者が生計をともにしていたことを確認するために添付します。世帯全員の住民票だけで確認できるなら亡くなった方の除票は不要です。
なお、戸籍や住民票は受給者の死亡後に取得したものでなければなりません。亡くなる前に取得したものでは証明にならない点に注意しましょう。
預貯金口座の通帳は、コピーで構いません。表紙をめくったところのページをコピーし持参するとよいでしょう。
遺族厚生年金
遺族厚生年金とは、厚生年金保険の被保険者や老齢厚生年金の受給者だった方が亡くなった際、その遺族に対して支給される年金のことです。遺族厚生年金の受給対象や請求方法については以下の見出しで解説します。
受給対象
遺族厚生年金を受給できる遺族は以下のとおりです。
- 子どものいる配偶者
- 子ども
- 子どものいない配偶者
- 父母
- 孫
- 祖父母
遺族厚生年金を受給できる順位も上記のとおりです。子どものいる妻または子どものいる55歳以上の夫が遺族厚生年金を受給している場合、その間子どもは遺族厚生年金を受け取れません。
たとえ同じ立場でも、妻と夫ではもらえる時期が大きく異なることに注意が必要です。たとえば、子どものいない30歳未満の妻は5年間のみ受給できます。
一方、子どものいない夫は55歳以上でないと受給できません。また、受給できるのは60歳からと決まっています。
父母や祖父母も子どものいない夫と同様で、厚生年金加入者が亡くなったときに55歳以上でなければ遺族厚生年金を受け取れず、支給される時期も60歳以降です。
なお、子どもと孫には条件があります。以下のうち、いずれかに当てはまっている必要があります。
- 18歳になった年度の末日まで
- 20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある
請求方法
遺族厚生年金は、以下の書類を年金事務所または街角の年金相談センターに提出することで請求できます。
- 年金請求書(国民年金・厚生年金保険遺族給付)様式第105号
- 基礎年金番号がわかるもの
- 戸籍謄本または法定相続情報一覧図
- 世帯全員の住民票
- 亡くなった方の住民票除票
- 請求者の収入が確認できる書類
- 子どもの収入が確認できる書類
- 死亡診断書のコピー
- 遺族厚生年金の受け取りを希望する預貯金通帳
年金請求書は、日本年金機構のホームページでダウンロードできます。
請求者と子どもの収入が確認できる書類とは、所得証明書や課税証明書などのことです。子どもの場合、義務教育終了前であれば不要です。高校生以上で在学中なら、在学証明書や学生証のコピーを提出すれば問題ありません。
ただし、収入を確認するための書類についてはマイナンバーを年金請求書に記入すると省略できます。
企業型DCやiDeCoの死亡一時金
企業型DCやiDeCoなどの確定拠出年金に加入していた方が亡くなった場合、口座残高相当額が死亡一時金として遺族に支払われます。ここでは、確定拠出年金の受給対象や請求方法について解説します。
受給対象
請求権があるのは、親族のうち加入者が生前指定していた方です。ただし、とくに指定がない場合は確定拠出年金法で定められている「受取人の順位」に従います。受取人の順位は以下のとおりです。
- 配偶者
- 子ども、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹
- 亡くなった方の収入で生活が成り立っており2に該当しない方
- 子ども、父母、孫、祖父母および兄弟姉妹で2に該当しない方
「配偶者」には、法的に婚姻関係を結んだ相手だけでなく、事実婚のパートナーも含まれます。2は、亡くなった方の収入で生活が成り立っていたことが条件です。
2、4については、列挙されている方の中でも、以下のように優先順位が決まっています。
- 子
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
同順位の方が複数名いる場合、死亡一時金はいったん代表者に支払われ、そのあと当人同士で等分するのが一般的です。
請求方法
確定拠出年金の死亡一時金を受け取るためには、該当する運営管理機関に以下の書類を提出する必要があります。
- 加入者等死亡届
- 請求者の印鑑証明書
- 請求者のマイナンバーカードやマイナンバー記載の住民票
- 裁定請求書
- 亡くなった方の死亡事項や請求者との関係がわかる戸籍謄本
まずは口座がある金融機関や保険会社に連絡を入れ、手続きのための書類を郵送してもらいましょう。その後必要書類を集めて提出し、問題がなければ数カ月後に死亡一時金が入金されます。
死亡一時金として受け取るためには、加入者が亡くなってから5年以内に請求する必要がある点に注意が必要です。
遺族厚生年金と併給が可能なお金
公的年金の原則は「1人1年金」ですが、組み合わせによっては遺族厚生年金と併給できるものもあります。ここでは、遺族厚生年金と併給が可能な年金や一時金をご紹介します。
遺族基礎年金
亡くなった方の収入で生活が成り立っていた場合、以下に該当する遺族には遺族厚生年金以外にも遺族基礎年金が支給されます。
- 子どものいる配偶者
- 子ども
「子ども」とは、18歳になった年度の末日までにある子ども、または20歳未満で障害年金の障害等級が1〜2級の状態にある子どものことを指します。たとえば19歳以上の子どもや、障害等級が1級でも20歳以上であれば該当しない点に注意しましょう。
また、子どものいる配偶者が遺族基礎年金を受け取っているうちは、子どもは受給できません。
寡婦加算
厚生年金の加入者が亡くなった場合、要件を満たせばその妻に寡婦加算が支給されます。ここでは「中高齢寡婦加算」と「経過的寡婦加算」について解説します。
中高齢寡婦加算
中高齢寡婦加算とは、亡くなった方の妻が以下の条件に該当する場合に受けられる制度です。該当すれば、40歳から65歳になるまでの間、遺族厚生年金に年額58万3,400円が加算されます。
- 夫の死亡時に40〜64歳で、生計をともにしている子どもがいない
- 子どもが18歳になり、年度末を過ぎたため遺族基礎年金がもらえなくなった
「子ども」とは、18歳になった年度の末日まで、または20歳未満で障害年金の障害等級が1〜2級の状態にある方のことをいいます。
なお、亡くなった夫が老齢厚生年金の受給権者であるか、受給資格期間をクリアしている場合、厚生年金の被保険者期間が20年以上必要です。
経過的寡婦加算
経過的寡婦加算とは、遺族厚生年金を受給中の妻が65歳になり、ご自身の老齢基礎年金が開始した場合に、中高齢寡婦加算に代わって遺族厚生年金に加算されるものです。
経過的寡婦加算が上乗せされることで、65歳になったあと中高齢寡婦加算の支給がなくなっても年金額の低下を防げます。加算を受けるには、妻が昭和31年4月1日以前生まれで以下のいずれかに該当する必要があります。
- 65歳以上で遺族厚生年金の受給権を得た
- 中高齢寡婦加算を支給されていた妻が65歳になった
経過的寡婦加算は中高齢寡婦加算に代わる制度ですが、中高齢寡婦加算を受けていなくても受給が可能です。ただし、生年月日が昭和31年4月2日以降の場合は受給できないため注意しましょう。
また、原則として夫の厚生年金加入期間が20年以上でなければなりません。
死亡一時金
死亡一時金とは、国民年金に加入していた第1号被保険者が老齢基礎年金や障害基礎年金を受け取ることなく亡くなった場合に、遺族に対して支給される一時金です。
遺族厚生年金と死亡一時金を併給するための要件は以下のとおりです。
- 亡くなった方と生計をともにしている
- 遺族基礎年金が受給できない
なお、死亡一時金を受け取るためには以下の要件をクリアする必要があります。
- 国民年金の第1号被保険者として36カ月以上国民年金保険料を支払っていた
- 老齢基礎年金または障害基礎年金を受け取ったことがない
遺族厚生年金と併給するなら、もちろん死亡一時金の受給要件も満たしていなければなりません。
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