遺言書を作ってずいぶん年月がたつが、有効期限があるのか気になる方もいるのではないでしょうか?遺言書を作成した後に、財産が大きく増減している場合や、家族構成が変わったような場合には特に不安になりますよね。
遺言書には有効期限というものはなく、原則的には何年たっても有効です。
しかし以前に作られた遺言書は、現在の遺言者の状況にマッチしない場合もあるでしょう。また有効であっても、あまりに現状にそぐわない場合には、相続人間でトラブルになってしまうこともあるかもしれません。
そこでこの記事では、遺言書の期限や古くなった場合の注意点、対処法について解説します。
- 遺言書には有効期限がない
- 古い遺言書は相続人の生死や、相続財産の変化に注意する
- 古い遺言書は定期的に見直すことが大切
遺言書の有効期限
遺言書とは、自分が遺した財産の分け方への思いを示した書面のことです。遺言書には日付が入れられていますが、有効期限はあるのでしょうか?
遺言書に期限はない
遺言書は、原則的に有効期限はありません。
遺言書を作成してから相当の年月がたっても、法律にのっとった形式で書かれていれば、効力を失うことはありません。しかし家族構成が変化した場合や、財産内容が大きく変わった場合は、現状にそぐわないため遺言書を書き直したほうがよいでしょう。
例えば相続させようと考えていた子供が亡くなったようなケースや、遺産の大部分を与えようと考えていた妻と離婚したようなケースです。また株が上昇し財産が大きく増えることもあるでしょうし、逆に商売で失敗し財産を失うこともあるかもしれません。
遺言書に期限はありませんが、作成して長い年月が経ち、現状にそぐわない場合は書き直したほうがよいでしょう。
- 家族構成が変化した
- 財産内容が大きく変わった
- 作成して長い年月が経ち、現状にそぐわない
遺言書が複数ある時は新しい遺言書が優先される
遺言書が何通もある場合は、新しい遺言書が優先されます。
遺言書は1通しか書いてはいけないという決まりはありません。私たちを取り巻く経済や社会環境、家族構成などは常に変化しています。それに対応して、遺言書は何度作成しても書き直しても問題はありません。
遺言者が亡くなり、引き出しから何通も遺言書が見つかるのはよくあることです。遺言書の内容が重複する場合は、日付が新しいものを優先させましょう。
自筆証書遺言は無効になりやすい
自筆証書遺言書は、要件を満たしていないと無効になるため注意して作成しなければなりません。
自筆証書遺言書の法律上の要件は、次の3つです。
- 遺言者が全文を自筆で書く
- 作成した日付を自筆で書く
- 氏名を自筆で書き、押印する
自筆証書遺言書は、裁判所の検認を受けなければならず、手間がかかります。また、保管場所がわからなくなるリスクや、隠蔽・改ざんの恐れもあります。
遺言書が隠蔽されると、隠蔽した本人以外には遺言書の存在がわからなくなるため、遺言が執行できません。また、改ざんが行われた場合、遺言書自体が無効になることはありませんが、改ざんされた部分が無効になります。
遺言書の隠蔽や改ざんに関与した人は相続人の地位を失うことになるため注意が必要です。
自筆遺言書が無効にならないためには、法務局の保管制度を利用することをおすすめします。自筆証書遺言保管制度は2020年7月から始まった制度で、ご自身で作った遺言書を法務局が保管してくれます。これにより、紛失や改ざんなどの恐れがありません。
それでは、自筆証書遺言を書くときに守るべき3つの条件を解説します。
全文自筆で書く
遺言書は、原則的に本人が全文を自筆で書く必要があります。パソコンで作成した遺言書や家族による代筆は、不正・偽造の恐れがあるため認められていません。
しかし2019年の法改正により、相続財産目録についてはパソコンでの作成も可能となりました。また金融機関の通帳や不動産の登記事項証明書なども、相続財産目録として利用できます。
なお、自筆証書遺言は、どうしても加筆や修正が必要な場合が多くなります。加筆や修正については、改ざんを防ぐために厳格なルールが定められており、規定に従って作成されていないと無効になります。
訂正の方法は次の通りです。
- 訂正する本文に取り消し線を引く
- そばに新たな文言を書いて印鑑を押す
- 欄外の余白部分に訂正した内容を記載し署名する
日付を入れる
日付を記入する理由は有効期限を示すものではなく、複数の遺言書がある場合にどれが一番新しいのかを特定するためのものです。そのため、作成した日付を年月日まで正確に記載しなければなりません。日付スタンプ印は無効なため、必ず手書きで記載しましょう。
複数の遺言書が見つかった場合は、最後に作成したものが優先されます。たとえば、古い遺言書に「不動産Aを長男へ相続させる」とあっても、新しい遺言書に「不動産Aを次男へ相続させる」とあった場合、後者が有効になるのです。
反対に、複数あっても内容が重複していない場合は、古い遺言書でも効力が残っていることもあります。
たとえば、古い遺言書に「不動産Aを長男へ相続させる」とあり、新しい遺言書に「不動産Bを次男へ相続させる」と記載されていたとします。この場合、書かれている内容がそれぞれ異なるため、どちらも有効となるのです。
氏名を自筆で書き押印する
自筆による署名がない自筆証書遺言書は、無効になります。氏名をフルネームで書いてしっかり押印しましょう。
遺言書に使用する印鑑は認印でも有効ですが、偽造を防ぐためにも実印を使用したほうが間違いはありません。
公正証書遺言には保管期限がある
公正証書遺言も有効期限はありませんが、公証役場で保管する期間には定めがあります。
公正証書遺言書とは遺言者が公証人に遺言内容を伝え、それをもとに作成する遺言書です。証人2人を用意して公証役場に行かねばならず、手間と費用が掛かります。しかし遺言書は公証役場で保管されるため、紛失や改ざんのリスクはありません。
公正証書の保管期限は20年ですが、公証人法規則では期間が満了しても特別の事由のある時は保存しなければならないとしています。遺言公正証書は「特別の事由」に該当するため、公証実務においては遺言者の死亡後50年、証書作成後140年または遺言者の生後170年間保存する取扱いとなっています。
- 遺言者の死亡後50年
- 証書作成後140年
- 遺言者の生後170年間
古い遺言書の注意点
古い遺言書が見つかった場合、現状にそぐわないこともあります。古い遺言書の問題点について説明しましょう。
- 作成当時の相続人が亡くなっている
- 相続財産が変わっている
- 遺言者が判断能力を失っていた
- 遺言書の内容が遺留分を侵害している
作成当時の相続人が亡くなっている
古い遺言書では、遺言に指定された相続人がすでに亡くなっていたということもあります。
そのような場合には、遺言書に書かれたとおりに相続させることはできないため、死亡した相続人に対する遺言は無効です。ただし、他の相続人に対する遺言は有効のままであるため、死亡により無効になった財産を法定相続人全員で遺産分割協議により分割します。
仮に死亡した相続人に子どもがいたとしても、子どもが代わりに相続する「代襲相続」はできません。実際、最高裁は平成23年2月22日の判決で、遺言の効力が失われているため代襲相続はできないとしています。
相続財産が変わっている
古い遺言書では、対象となる財産内容が大きく変化している場合があります。株式・不動産など評価額が変動していたり、売却済みとなっていることもあるでしょう。
また、マイナスな面だけではなく、新たにプラスの財産を取得していることも考えられます。その結果、古い遺言書にしたがって遺産を分けると、相続人間で大きな差が生じ、いさかいに発展することがあるのです。
遺言者が判断能力を失っていた
遺言者が認知症などにより遺言作成時に判断能力を失っていた場合も、問題になることがあります。遺言能力がある場合はよいですが、病気や認知症などにより判断能力を失ったときは、遺言書は無効になる可能性があります。
また、遺言書の内容に不満がある相続人が、判断能力の欠如を理由に効力がないと訴えてくることもあるでしょう。
それを避けるためにも、認知症が疑われている場合は、公正証書遺言であれば、公証人が判断能力を確認することになっていますので安心です。公証実務において、本人の事理弁識能力に疑義があるときは、医師の診断書を求め、公正証書遺言の原本と共に公証役場に保存されます。
遺言書の内容が遺留分を侵害している
遺言書の作成で、トラブルになりやすいのは遺留分の侵害です。
遺留分とは、遺言書により奪うことのできない一定割合の遺産を言います。遺言書の内容が遺留分を侵害するときは、侵害を受けた相続人は遺留分侵害額請求により金銭の請求ができます。
遺留分侵害額請求権は、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間行使しないと時効により消滅となり、相続開始のときから10年間が経過した場合は、除斥期間により消滅します。
- 配偶者のみが相続人の場合…2分の1
- 子のみが相続人の場合…2分の1
- 直系尊属のみが相続人の場合…3分の1
- 兄弟姉妹のみが相続人の場合…遺留分なし
- 配偶者と子が相続人の場合…配偶者が4分の1、子が4分の1
なお遺留分を持つ相続人が複数いるときは、遺留分を法定相続人数で分配します。
遺言書が古くなったときの対処法
古くなった遺言書をそのまま放置しておくと、遺言者が亡くなった後相続人間のトラブルが発生する原因になります。遺言書が古くなり現状にそぐわなくなった場合には、遺言者は遺言書の見直しをしたほうがよいでしょう。
遺言書の見直しをせずに遺言者が亡くなったときは、遺産分割協議を行って遺産を分配する方法があります。
遺言書を見直す
遺言書が古くなった場合は、遺言書の見直しが必要です。遺言書には種類があり、自筆証書遺言書と公正証書遺言書とでは保管場所が異なるため、遺言書を見直す方法も異なります。
自筆証書遺言書の場合
自宅で遺言書を保管している場合には、以前作った遺言書を破棄して新しいものと差し替えましょう。
法務局の自筆証書遺言保管制度を利用して、法務局で遺言書を保管しているケースは、撤回書を作って提出します。撤回の場合も保管と同様、本人でなければ行えません。本人確認のために顔写真つきの身分証明書が必要となるため、必ず持参しましょう。
公正証書遺言の場合
公正証書遺言の撤回には、発行から3カ月以内の印鑑登録証明書および実印・手数料1万1,000円を持参する必要があります。公証役場では、証人2名の面前で公証人に公正証書遺言の撤回を要請し、公正証書に署名押印することで撤回できます。
なお、新しい遺言書には「何月何日に作った遺言を撤回する」と記載することで、新たに作成した遺言書の効力が発生します。
遺産分割協議を行う
遺言書が古くなって現状にそぐわない場合、相続人はその内容について疑問を感じることもあるかもしれません。たとえば遺言書に記載された相続人が亡くなっている場合や、遺産が存在しないこともあり得ます。
原則的には被相続人の意思を尊重するため、遺言書による相続が優先されます。しかし、遺言書が現状に即していないときは、遺産分割協議により遺産を分けることが可能です。遺産分割協議には期限はないので、遺産分割協議を行うときは次の条件を確認しましょう。
- 相続人全員が合意していること
- 遺言書により遺産分割協議が禁止されていないこと
相続人の誰か1人が遺言書による相続を主張しているケースでは、他の相続人全員が遺産分割協議に同意しても遺産分割協議は無効となり、遺言による相続となります。
古い遺言書が出てきたら専門家に相談を
遺言書に有効期限はありませんが、古くなった遺言書の見直しは必要なことです。
遺言書が古くて現状にそぐわず、相続人間でトラブルになるケースはよく見られます。とくに遺言書を書いた当時と比べ、相続人や資産状況が大きく変化している場合や、古い遺言書が最新の法律に対応していない場合は、適時見直したほうがよいでしょう。
遺言書は故人の意思を遺族に伝える重要な文書です。状況の変化や法的要件の変更を踏まえて、定期的に見直しを行い、必要に応じて更新することが大切です。古い遺言書が出てきた場合、相続人間のトラブルに発展する前に専門家への相談も検討しましょう。
ほかにもこちらのメディアでは、遺言書がない場合の相続についてや遺言書は開封してもいいのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。