遺産分割協議書とは?作成の流れから注意点までを徹底解説

遺産分割協議書は、被相続人が遺した財産の分割方法を記載した書面です。相続人の合意の証しであるとともに、遺産分割の内容を第三者に示す手段としても重要になります。

そんな遺産分割協議書を、自分で作成したいと考えている方もいるでしょう。この記事では遺産分割協議書の役割や、作成の流れについてご紹介します。

一旦作成すると撤回は困難なため、ポイントを押さえて慎重に作成しましょう。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺産分割協議書とは相続財産の分割方法を詳細に記した書面
  • 遺産分割の内容を第三者に示す手段としても遺産分割協議書は重要
  • 相続財産に関する権利・義務を決める契約書のようなもの。作成は慎重に

遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書とは、被相続人の財産をどのように分割し、相続人がどのように取得するかを記した書面です。

それぞれの相続人が他の相続人に対して主張できる権利と、履行すべき義務を明示する契約書のような位置付けともいえるでしょう。

相続財産の分割方法を記載した書面

遺産分割協議書には、相続の際に「どの財産をどの相続人が取得するか」など、遺産の分割方法を詳細に記載します。

相続が発生すると、相続財産は原則として「法定相続分に応じた割合で相続人全員が共有している状態」として扱われます。遺産の中に不動産があろうと借金があろうと、すべての権利と義務が共有の対象です。

とはいえ実際に資産を受け継いで利用するには、財産ごとに取得する相続人を決め、現実的に分割できる状態にしなければならないでしょう。

この手続きが遺産分割協議であり、合意した内容を記載した書面が遺産分割協議書なのです。

遺産分割協議書は必要か

ではなぜ、遺産分割協議書が必要になるのでしょうか?遺産分割協議書は、大きく分けて2つの重要な役割を担っています。その1つが「相続人全員の合意の証し」、2つ目が「合意内容を第三者に示すこと」です。

遺産分割がしばしば争いの種になるように、一旦合意に至った分割の内容でも、時間が経つことによって不満が生じる可能性もゼロとは言い切れません。このような場合に備えて、相続人同士が合意の内容を共有し証明するというのが1つ目の役割です。

もう1つ、合意内容を第三者に示すという役割に関しては、不動産の名義変更を例に挙げれば分かりやすいでしょう。相続人が被相続人の配偶者と子ども2人だった場合、法律上の相続分は配偶者が1/2、それぞれの子どもが1/4ずつです。

相続財産が自宅と預金だったとしたら、それらすべてを法定相続分通りの持ち分で共有する形になってしまいます。

実際には、配偶者が自宅を単独で取得し、その代わりに預金を子ども2人で分配するなどの方法を取ることもあるでしょう。

しかし、あくまでもそれは相続人同士の話し合いによるもので、そのままでは第三者に主張することができません。それを証明する手段として、遺産分割協議書が必要なのです。

遺産分割協議書作成の流れ

遺産分割協議書を作成するためには、すべての相続財産を確認したうえで「誰がどの財産を相続するか」という話し合い(遺産分割協議)を行わなければなりません。

しかし、遺産分割協議に着手するためには、「だれが相続人か」「相続財産は何があるか」を明らかにする段取りが必要です。

相続開始から遺産分割協議書作成までの流れを、順を追って確認していきましょう。

遺言書の有無の確認

相続が発生したら、まず第一にやるべきことは遺言書の有無の確認です。遺言書は3種類あり、遺産に関する故人の希望を記す書類です。

法定相続人以外の人に財産を譲る意思を示すこともできますから、万が一それを知らずに法定相続人同士で話し合いを始めたら、その内容は無駄になってしまうかもしれません。

遺言書が見つかった場合の扱いには注意が必要です。遺言書に偽造や改ざんがないことを証明するために、検認を受けなければなりません。「検認」とは家庭裁判所で行う手続きのことで、遺言書の中身を確認することを指します。

検認の手続きを怠って遺言書を開封すると、「5万円以下の過料」という罰則も設けられています。ただし、真正の遺言であることが明らかな公正証書遺言や法務局保管の遺言の場合には、検認の手続きは必要ありません。

相続人の確定

相続人を確定することも、一連の相続手続きの基本となる重要な作業です。相続人となり得る立場の人は、民法に定める相続順位に規定されています。

配偶者は必ず相続人になる立場とされ、第1順位は子ども、第2順位は親などの直系尊属、第3順位は兄弟・姉妹と定められているのです。

順位が高い人から相続の権利を得る仕組みで、第1順位の子どもがいる場合には、第2順位の親、第3順位の兄弟・姉妹は相続人になりません。

「いる・いない」という判断に関しても注意が必要です。すでに死亡している場合は「いない」とされるわけではなく、子どもの子ども、つまり孫が相続人となります。ちなみにこれは、代襲相続と呼ばれる仕組みです。相続人の確定には、このような法律上の知識が不可欠であることも覚えておきましょう。

実際の手続きは、被相続人の出生から死亡に至るまでのすべての戸籍を集め、配偶者や子ども、親、兄弟など、相続人になり得る立場の人を確認していくことから始めます。

相続人自身にとっては明白な家族関係であったとしても、第三者からみれば「相続人たちが認識していない相続人、例えば隠し子がいるかもしれない」という疑念を排除できる証拠は、戸籍しかありません。

相続人の確定という作業は、単に相続人自身が相続人であることを確認するだけでなく、「第三者に対する証明」という意味を持つことが重要なのです。

相続財産の確定

遺産の内容を確定することも、遺産分割協議の前にやっておかなければならない重要な仕事です。相続の対象となる財産は、なにも資産だけとは限りません。借金や保証債務などの債務、つまりマイナスの財産も含まれることを理解しておきましょう。

特に借入や保証債務が多い場合には、相続によって多大な損害が発生する可能性もないとは言い切れません。このような場合には、相続放棄限定承認などによって、負債の相続を防ぐ手立てを考えなければならないでしょう。

相続財産の調査は、故人の財産の状況によってはかなりの時間と労力を要することも考慮しておきましょう。

多くの方は銀行だけでも複数の口座を持っているのが一般的で、預金残高を確認するにも複数の銀行に照会したり、残高証明書の発行を依頼したりといった手続きが発生します。

株などの有価証券を保有していれば、これらの口座も確認しなければなりません。相続財産に漏れがあった場合、後から発見された財産に関する遺産分割協議が改めて必要になることも考えられます。

できるだけ早く、かつ正確に財産をリストアップする技量が要求されるのです。

プラスの財産
現金
預貯金
不動産
自動車
株式
債権
保険
電子マネー
FX
仮想通貨
貴金属
美術品
家具・家電類
マイナスの財産
借入金
分割払い・リボ払い
保証債務

遺産分割協議

相続人と相続財産が確定したら、相続人全員で遺産の分け方を話し合います。これが遺産分割協議です。

遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければなりません。遠方に住んでいるために一堂に会することが難しい場合でも、メールや電話などを用いてしっかりと全員の意見をすり合わせていくことが必要です。

遺産分割を円滑に進める重要なポイントには、財産の評価額に関して相続人が共通の認識を持つことが挙げられるでしょう。相続財産は預金や現金のように、価値が明確なものだけとは限りません。例えば不動産は、査定の方法によっても評価額が異なります。

遺産分割協議がスムースに進まないケースでも、特定の相続人が自己中心的な主張をしているとは限りません。単純に相続人の間で評価額認識にズレが生じていることが珍しくないのです。

相続人の中に未成年の方や認知症を患っている方がいる場合にも注意が必要です。

遺産分割協議は、相続人の権利を守る重要な契約行為の一種です。未成年者のように契約などの法律行為が制限されている相続人は、遺産分割協議を行うにも代理人を選任する必要が生じます。

通常、未成年者の契約行為などは法定代理人である親が行います。しかし相続の場合は、ともに相続人である親と子で利害が対立するかもしれません。

このため未成年の子どもと親が共同相続人となっているケースでは、家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。

仮に親が子どものためを思って合理的に遺産を分割したとしても、その内容は無効となってしまうのです。

合意内容を記載した遺産分割協議書の作成

相続財産の分割方法にすべての相続人が合意したら、その内容を記載した遺産分割協議書を作成します。

遺産分割協議書には、被相続人の氏名や住所、死亡日などを記載します。さらに、誰の遺産かを特定するほか、分割する財産を特定する記述や分割方法、相続人全員が合意している旨の記載も必要です。

また、代償分割など特定の方法で分割する場合には、「代償金に関する記述」などそれに応じた内容が必要になると覚えておきましょう。

代償分割とは、特定の相続財産を相続する相続人が、他の共同相続人に対して「代償金」を支払う遺産分割の方法です。

この場合には、代償分割である旨や代償金の金額なども遺産分割協議書に記載しておきましょう。

なぜなら遺産分割協議書に記載をせずに代償金を支払った場合、代償金であることが認められずに贈与とみなされるリスクが生じるからです。

遺産分割協議書は「合意内容を記載した書面」であるとともに、「合意内容を第三者に示す書面」でもあります。第三者から見ても遺産分割の内容が分かりやすく理解できる、という視点で作成するとよいでしょう。

遺産分割協議書作成のポイント

遺産分割協議書の作成に当たっては、注意しておきたいいくつかのポイントが存在します。

特に「第三者への証明」という側面から、重要な注意点をしっかりと認識して作成することが必要です。

特定の書式はない

遺産分割協議書には、法律で定められた特定の書式などはありません。どの相続に関するものかが特定され、遺産分割の内容が明確に示されていれば、独自の書式でも問題はないのです。

ただし遺産分割協議書には、必ず記載しなければならない項目があります。以下の基本的な項目を押さえて作成しましょう。

遺産分割協議書に記載すべき基本的な項目

遺産分割協議書に記載すべき基本的な項目
  • 被相続人の氏名、本籍地、死亡時の住所、死亡日
  • 分割する財産の詳細
  • 分割方法の詳細
  • 相続人全員が合意している旨
  • 相続人全員の氏名、住所、実印による捺印

「いくら書式自由といっても、何からのテンプレートがあった方が分かりやすい」という方もいらっしゃるでしょう。

そのような場合には、法務局のウェブサイトで公開しているひな形を参考にすることをおすすめします。

参考:法務局で公開しているひな形

署名・実印での押印が望ましい

遺産分割協議書の書式に決まりがないことは前述の通りですが、実は署名・捺印に関する規定も存在しません。相続人が認印で捺印したとしても、遺産分割協議書であることには変わらないのです。

しかしこれでは「合意内容を第三者に示す書面」としての条件を満たすことができません。相続人の1人が不動産を相続する場面を想定して考えてみましょう。

被相続人の配偶者と子ども2人が、被相続人の自宅と預金を相続するとします。遺産分割協議において、「配偶者が自宅を単独で取得し、預金を子ども2人で等分に分割する」という内容で合意に至りました。

実際の相続の現場でも、よく見られる分割のパターンです。

しかし、その遺産分割協議書をもとに自宅の名義を配偶者に変更しようとしたならば、遺産分割協議書への捺印は認印では足りません。実印で捺印し、印鑑証明書も添付しなければならないのです。なぜでしょうか?

法定相続分によれば、相続割合は配偶者が1/2、それぞれの子どもが1/4ずつです。遺産分割協議によって配偶者が単独で相続することになる自宅も、相続が開始された時点では、法定相続分に従って3人の相続人が共有している状態になっています。

つまり、遺産分割協議に基づいて配偶者が単独で自宅を相続することは、子ども2人が持つ1/4ずつの所有権を失うことを意味しているのです。

この場合の遺産分割協議書は、所有権という重要な権利を失うことに同意する証しといえるでしょう。このため遺産分割協議に基づく相続登記では、実印と印鑑証明書が必要とされているのです。

手書きでもパソコンでも問題ない

遺産分割協議書は、手書きでもパソコンでも問題なく有効に機能します。自筆証書遺言のように「パソコンで作成したら無効」などの規定はありません。

相続人全員が確認する段になって多少の修正が生じるケースも少なくないことや、同一の内容で全員分の書類を作成することから、パソコンで作成したほうが便利ともいえます。

ただし、署名・捺印の欄は当然例外です。すべての相続人が自筆で氏名を記し、実印を押印する欄を設けて作成しましょう。

遺産分割協議書作成の注意点

遺産分割協議書は特定の書式がないだけに、作成の際に注意しておかなければならないポイントが存在します。

後の手続きに支障が出ることのないよう、押さえるべきポイントを把握しておきましょう。

対象を明確に記載する

遺産分割協議書に記載する相続財産は、それぞれを明確に特定できるように記載しなければなりません。

不動産を例に挙げれば、登記事項証明書に記載された情報を正確に転記することが望ましいです。また、共同担保目録に記載された私道などの持ち分に関しても、絶対に省略してはいけません。

銀行預金では、銀行名や支店名、口座種別、口座番号、口座名義を記載すれば特定できるでしょう。ただしこの場合、預金残高を記載するのは得策ではありません

預金残高は利息などによって変わる可能性があり、残高を記載することが資産特定の支障になる可能性もあるからです。

遺産の漏れに注意する

遺産分割協議書を作成する際には、分割対象として記載する遺産に漏れがないよう、十分に注意する必要があります。遺産分割協議を終えた後に新たな遺産が発見された場合には、その財産に関する協議を改めて行う必要が生じることもあり得るからです。

特に不動産の共有持ち分などは、漏れが生じやすいうえに、将来的なトラブルに発展しやすい項目といえます。ご自身による手続きに不安を感じるのであれば、早めに専門家に相談することをおすすめします。

実際に相続財産の調査を経験すると、被相続人が持つすべての財産を漏れなく把握することがいかに難しいかが分かるでしょう。

郵便物やメインバンクの通帳の履歴は、所有する財産を把握するために必要な情報の宝庫です。これらの手掛かりをつなぎ合わせて、被相続人の財産の全体像を把握していくのです。

相続財産の確定は、ある種の経験値がものをいう作業ともいえます。

近年では金融機関からの郵便物なども少なくなり、財産を調べる手掛かりも減少しています。このような背景から、相続人自身での財産調査がより困難になってきているのです。

一方で、近親者でなければ分からない財産も少なくはありません。トラブルに発展しがちな事例を挙げれるとすれば、「被相続人の親が亡くなった時に、実家の共有持ち分を相続していた」というケースです。

複数人が共有している不動産に関しては、固定資産税の納税通知も代表者にしか送られません。このため家族以外の第三者は、「被相続人が実家の共有持ち分を持っている」という事実にたどり着きにくいのです。

このような財産は、相続人の記憶を頼りに発掘していくのがむしろ効率的といえるでしょう。遺産を漏れなく確認する作業は、相続人ご自身と専門家が力を合わせて進めていくのが理想的なのです。

全員分の原本を作成する

遺産分割協議書は合意の証しであり、相続人全員がそれに従って権利に行使し義務を履行するという契約書のような位置付けです。このため相続人全員分の原本を作成し、全員が原本を保管する形を取りましょう。

遺産分割協議後に発生する相続登記や金融機関の名義変更などの手続きでは、遺産分割協議書の提示が必要とされます。このため各自が遺産分割協議書を保有していないと、現実的な不都合も生じるのです。

また、これらの手続きには印鑑登録証明書の提出も求められます。

それぞれの相続人が署名し、実印を捺した遺産分割協議書を人数分用意するとともに、相続人全員分の印鑑証明書も用意することも大切です。

作成後の撤回は困難になる

遺産分割協議書の作成後にそれを撤回したい場合や、内容を変更したい場合にも、改めて相続人全員による合意が必要です。一旦合意に至った協議をやり直すとなると、相続人同士のトラブルに発展する可能性も否めません。

このため遺産分割協議書の作成に際しては、その後に変更が生じることがないように慎重に話し合いを進めましょう。そのうえで、遺産分割協議書には盛り込まなかった新たな相続財産が見つかった場合に関しても、取り扱いの方法を明記しておくと安心です。

やむを得ず遺産分割協議をやり直す場合には、相続税の申告など、期限が決められた手続きに間に合わなくなる可能性にも注意が必要です。

遺産分割協議書が不要なケース

複数の共同相続人が遺産を相続する場合の大半で必要となる遺産分割協議書ですが、特定のケースでは必要性が生じません。

遺産分割協議書が不要なケースも確認しておきましょう。

相続人が1人だけの場合

遺産分割協議書が不要なケースの代表例が、相続人が1人だけの場合です。すべての相続財産を1人が取得するため、遺産分割自体の必要がないからです。

例えば、被相続人の配偶者がすで他界していて、子どもが1人のケースなどが該当します。

第1順位の子どもが相続人になることから、被相続人の親や兄弟などは相続人にはなりません。結果として相続人が1人という状況が生まれるのです。

また、1人を除くすべての相続人が相続放棄をした場合なども同様に、遺産分割協議書は必要ありません。

法定相続分で分割する場合

遺産分割の基本的な割合は、民法に定める法定相続分です。法定相続分は相続順位に応じて定められており、「配偶者と子ども」「子どもだけ」「配偶者と親」のように、誰が相続人になるかによって割合が決まります。

例えば配偶者と子どもが相続人であれば、1/2を配偶者が相続し、残る1/2を子ども全員で分割します。配偶者と親が相続人の場合には、2/3を配偶者、残る1/3を親が相続するのです。

このように、法律で定められた割合に従って相続するのであれば、遺産分割協議書は必要ありません。

例え相続財産が不動産であったとしても、法定相続分通りに共有するのであれば、遺産分割協議書なしで相続登記を完了することができるのです。

しかし、すべての財産が共有で解決できるとは限りません。被相続人が株などの有価証券を保有していた場合には、複数人での共有が認められないケースもあるでしょう。

法定相続分通りに分割することで遺産分割協議書を必要としないのは、相続財産が容易に分割できる場合に限られるといえます。

遺言書に従って遺産分割する場合

被相続人が遺言書を遺している場合には、その内容に従って遺産を分けるのが原則です。この場合には、遺産分割協議書は必要ありません。

ただし、遺言書には必ずしもすべての財産の扱いが示されているとは限りません。記載内容が十分でないために、相続人の話し合いが必要になるケースも往々にして生じます。

また遺言書があったとしても、相続人全員の合意に基づいて別の分割方法を選択することも可能です。

遺言書があることを認識したうえで遺産分割協議を行い、そこで合意した方法で遺産分割をするのであれば、当然その内容を記した遺産分割協議書を作成しなければなりません。

遺産分割協議書作成の期限は?

遺産分割協議書の作成に明確な期限はありません。しかし、遺産分割がまとまっていないことで、相続税の申告など関連する相続手続きに着手できない可能性も否めません。

このため遺産分割協議書作成の期限の目安としては、相続税の申告や、2023年4月から施行される特別受益や寄与分の主張の期限などが挙げられるでしょう。

相続税の申告期限が目安になる

相続財産の相続が基礎控除額を超える場合、相続開始から10カ月以内に相続税の申告と納税をしなければなりません。

相続税の基礎控除額は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で求められます。

  • 3,000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除額

相続税の申告・納税が必要な場合には、この10カ月という期限が遺産分割協議の目安となります。なぜなら相続税の金額は、それぞれの相続人が取得した財産に応じて決められるからです。

このため遺産分割協議によって取得する財産が決まっていなければ、法定相続分を基礎とした仮の申告をせざるを得ません。

また、配偶者控除小規模宅地等の特例など、課される税額を大きく減らすことができる特例制度も、10カ月以内に申告が必要とされています。

特別受益や寄与分の主張は10年以内

2023年4月1日からの民法の改正に伴い、相続開始から10年を超えた場合には特別受益や寄与分の主張ができなくなります。

遺産分割では、特定の相続人だけが生前に受けた贈与など(特別受益)を相続財産から相殺することや、相続人自身が行った被相続人に対する特別な貢献(寄与分)などを主張することができます。

改正民法では、これらの主張に期限が設けられることになるのです。

特別受益や寄与分が遺産分割の争点となっているのであれば、調停や審判などを利用して早期に解決を図る必要があるでしょう。

作成後でなければ遺産が手に入らない

遺産分割協議が長引くことで生じる現実的なデメリットとしては、遺産分割協議書作成後でなければ遺産が手に入らないことが挙げられるでしょう。

例えば、1人の相続人が特定の不動産を取得することに、全員が合意していたとします。しかし、その他の財産の取り扱いが決まらずに遺産分割協議書が作成できなければ、その相続人は不動産を単独で取得できません

被相続人が株式を保有していた証券口座の名義変更など、不動産以外の遺産に関しても、遺産分割協議書の提出を求められる場面は非常に多いです。

遺産分割協議書がないことによって、すべての財産の手続きが滞るわけではないにせよ、不動産や有価証券など高額な資産を活用する機会を制限されてしまうデメリットが生じます。

遺産分割協議書に関するよくある質問

さらに遺産分割協議書に対する理解を深めるために、よくある質問もチェックしておきましょう。

遺産分割協議書は自分で作成できる?

一連の相続手続きは、原則として相続人本人が行うべきものです。ただし相続人や相続財産の確定という基本的な作業だけをとってみても、相応の法律上の知識を必要とすることは間違いありません。

遺産分割協議書がご自身でできるかどうかは、作成に至るまでの手続きに求められる知識を十分に持っているかが鍵となるでしょう。

例えば、被相続人が不動産を所有していた場合には、登記識別情報通知権利証、固定資産税の納税通知書などから物件を特定していきます。加えて、市役所などで土地・家屋総合名寄帳登録事項証明書(名寄帳(なよせちょう))を取得する方法などで所有物件を探します。

相続ならではの知識を持たなければ、多くの時間と労力を浪費してしまう可能性も否めません。相続手続きには専門知識が必要であることを踏まえた上で、ご自身で手続きを進めるか、もしくは専門家に依頼するかを検討しましょう。

財産がいらない場合には?

相続財産がいらない場合の選択肢として、まず第一に考えられる方法は相続放棄です。

相続放棄は民法に定められた方法で、現金や不動産などの資産はもちろん、借金などの負債も含めてすべての相続を放棄し、相続人の立場から外れる手続きです。

ただし相続放棄をする場合には、相続開始から3カ月以内に家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければなりません。この期間を過ぎれば、相続放棄はできなくなります。

仮に3カ月を過ぎた場合でも、共同相続人に対して「相続財産を放棄する」意思を示すことは問題ありません。この場合は相続放棄と異なり、被相続人の債務から逃れられない点には注意が必要です。

実際の相続の場面でも、特定の相続人が財産を放棄することは珍しくありません。

例えば被相続人の配偶者と子ども2人が、被相続人の自宅と預金を相続すると想定してみましょう。

「配偶者(子どもの視点では親)に、すべての遺産を相続させたい」と考えた子ども2人が、相続財産を放棄する場面を考えれば納得がいくはずです。

この場合に子ども2人が法に基づいた「相続放棄」をしてしまえば、相続人の立場から外れるために「配偶者と親」「配偶者と兄弟・姉妹」のように相続関係が変わってしまいます。つまり、配偶者がすべての遺産を受け取ることができません

このように、子どもが親にすべての財産を相続させたいと考えたケースでは、相続放棄を選ぶのではなく「相続を承認した上で、財産の権利を放棄する」という方法が有効なのです。

作成後に遺言が見つかった場合は?

作成後に遺言が見つかった場合の扱いは、遺言書に記載された内容によって異なります。直ちに遺産分割協議書が無効になるわけではないことを覚えておきましょう。

確かに遺言書は強い法的拘束力を持つ書類ではありますが、相続人全員の合意があれば遺言書と異なる遺産分割方法を取ることも認められています。

仮に遺言書に記載された内容が遺産分割協議書と異なっていたとしても、遺産分割協議書を優先することに相続人全員が合意するのであれば、そのままの方法で遺産を分割することが可能です。

しかし、「仮に遺言書の存在を知っていれば、遺産分割協議書の内容で合意しなかった」と考える相続人もいるでしょう。

この場合には、原則として遺言の内容が優先されるのです。

また、遺言書には法定相続人以外の人への遺贈の意思が示されている場合もあるでしょう。遺言による認知で、相続人が増えることもあり得ます。

この場合の遺産分割協議は、受遺者(遺贈によって財産を受け取る人)や認知による相続人が不在の状態で合意に至ったに過ぎず、効力は認められません

また、特定の相続人が遺言によって廃除されている可能性もあるでしょう。

相続人の廃除とは、被相続人の意思で「特定の相続人を相続人の立場から外す」という手続きで、この場合は廃除された相続人を除いて遺産分割協議を行う必要があります。

専門家への相談も検討しよう

相続人の意見を集約して遺産を公平にするという重要な手続きが遺産分割協議であり、その内容をまとめた書面が遺産分割協議書です。

しかも遺産分割協議書は、「合意した内容を第三者に対して明確に示す」という意味を持つ書類でもあります。トラブルなく遺産分割を進め適切な遺産分割協議書を作成するには、法律上の知識や相続手続きに関する経験が不可欠です。

ご自身での作成に少しでも不安を感じるのであれば、早めに専門家への相談を検討しましょう。

ほかにもこちらのメディアでは、遺産分割協議書の提出先についてや遺産分割協議の期限はあるのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。