被相続人(亡くなった方)に、法定相続人がいない場合や、法定相続人がいても全員が相続放棄をすると、相続財産を管理する人がいない状態になります。
相続人がいないことで不都合がある場合、利害関係者が家庭裁判所に申し立てを行うことで、相続財産管理人を選任してもらえるのです。
この記事では、相続財産管理人が必要になるケースや、相続財産管理人を選任する要件と流れについてご説明します。また、「相続財産管理人には誰がなるのか?」についても解説しているため、ぜひご覧ください。
- 相続財産管理人は、相続人がいない場合などに必要となる存在
- 相続財産管理人になれるのは相続財産の清算に適している人
- 家庭裁判所に相続財産管理人の選任を請求できるのは、利害関係人か検察官
相続財産管理人(相続財産清算人)とは
相続人がいない場合の清算を目的とした相続財産管理人は、令和5年4月1日施行の民法改正によって、相続財産清算人と呼び方が変わりました(952条)。
この記事では、旧法で相続財産管理人と呼ばれていた、現在の相続財産清算人についてご紹介します。
相続財産管理人の役割
相続財産管理人(相続財産清算人)は、相続人の代わりに財産を管理する人のことです。
一般的な相続では、被相続人の財産管理は相続人が行います。しかし、状況によっては、相続人が存在しないケースがあります。あるいは、相続人全員が相続放棄をして相続をする人がいないケースもあるでしょう。
財産を管理する人がいないと、被相続人の債権者から損害賠償請求が請求されるといった事態や、被相続人が所有していた不動産が崩壊したような事態であっても、誰も対応できません。
そのため、家庭裁判所が相続財産管理人(相続財産清算人)を選任し、借金の返済および受遺者に対する譲渡(民法第957条)を行います。
また、「特別縁故者」と呼ばれる被相続人と生計を同じくしていた方や被相続人の療養看護に努めた方、被相続人と特別の縁故があった方に対する相続財産の分与(民法第958条の2)も行います。
そのうえで残りの財産を国へ引き渡すのです(民法第959条)。
もし後に相続人が判明し、相続の承認をした場合には、相続財産管理人(相続財産清算人)の代理権は消滅します(民法第956条第1項)。
相続財産管理人は誰がなるのか
相続財産管理人(相続財産清算人)は、家庭裁判所が被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して、相続財産を清算するのに最も適している人を選任します。
状況によっては弁護士や司法書士といった、清算に適格性を有する専門職の者が選ばれることがあります。
相続財産管理人を請求できる要件
相続財産管理人(相続財産清算人)を選任する必要があるときは、家庭裁判所に請求します。その場合、次の3つの要件を満たしている必要があります。
- 相続が開始している
- 遺産が存在する
- 相続人のあることが明らかでない
ただし、遺言書があり遺言執行者が選任されている場合は、相続人がいなくても、相続財産管理人(相続財産清算人)を選任する必要はありません。
「相続人のあることが明らかでない」というのは、法律上の難解な言い回しで、法定相続人となる者が一人もいない場合をいいます。また、戸籍上に相続人は存在するものの、相続人全員が相続放棄をした場合も該当します。
その相続に関して重大な非行があった「相続欠格者」や被相続人への侮辱などの理由から、相続権を取り消された「推定相続人の廃除を受けた者」も相続人には含まれません。
被相続人の遺言により、すべての相続財産を遺贈される人が存在すれば、その人は相続人と同一の権利義務を有するので「相続人があることが明らかでない」には該当しません。
また、相続人自身が生死不明や所在不明の場合も、相続人は死亡した扱いにはならないので、「相続人のあることが明らかでない」には該当しません。
相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を請求するための要件
家庭裁判所に相続財産管理人(相続財産清算人)の選任を請求するためには、次の3つの要件を満たす必要があります。
- 利害関係人であること
- 相続財産があること
- 相続人の存在、不存在が明らかでないこと
具体的にどのような要件なのか紹介していきましょう。
利害関係人であること
被相続人の債権者、特定遺贈を受けた者、特別縁故者など、その相続財産に対して利害関係を有する人でなければ選任の請求はできません。
相続財産があること
相続財産がほとんどないのであれば、単に経費を消費するだけで清算をする意味はありません。この場合は、相続財産管理人(相続財産清算人)を選任する必要がありません。
ただし、費用倒れが明白な場合であっても、申立人が費用を予納すれば、家庭裁判所は相続財産管理人(相続財産清算人)を選任してくれます。しかし、現実にはそこまでして申し立てを行う人は、ほぼいません。
相続人の存在、不存在が明らかでないこと
帰属する者がいない財産については、不動産は国庫に、動産は占有者に帰属します(民法第239条)。
救済制度がなければ、被相続人の債権者は、その財産に対して債権回収ができないという事態になります。また、相続人が後に現れた場合にも法律的解決が複雑になります。
そのため、相続財産について、相続人が不明または不存在の場合には、法人を成立させ、相続財産管理人(相続財産清算人)を選任して、その法人の代理権を与えることにしたのです(民法952条)。
そのうえで、相続財産管理人(相続財産清算人)に相続人の捜索と相続財産の管理をさせ、清算手続きを行わせます。
相続財産管理人(相続財産清算人)が選任されるケースとは
相続財産管理人(相続財産清算人)を必要とするケースは次の3つです。
- 相続人がいないケース
- 続人全員が相続放棄を選択したケース
- 第三者への遺贈を指定した遺言書が存在するケース
それぞれのケースで、なぜ相続財産管理人(相続財産清算人)を必要とするのか、説明していきましょう。
相続人がいないケース
最初から法定相続人が誰もいない場合には、相続財産管理人(相続財産清算人)の選任が必要になります。
具体的には、以下のいずれかに該当する人がひとりもいなければ、相続財産管理人(相続財産清算人)の選任が必要です。
相続人全員が相続放棄を選択したケース
相続人がいるものの相続人全員が相続放棄を選択した場合は、全員が相続人ではなくなるため相続財産を管理する人がいなくなります。
相続財産を管理する者がいなければ、被相続人の債権者が弁済を受けることが難しくなります。そのため、相続財産を管理する役割を担う相続財産管理人(相続財産清算人)が必要になるのです。
ただし、相続放棄を選択したからといって、相続人がただちに財産管理の義務を免れるわけではありません。
すべての相続人が相続放棄を選択したとしても、相続財産管理人(相続財産清算人)が管理を始めるまでは、最後に相続放棄を選択した相続人が財産の管理をする必要があります。
民法の規定では「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない(第940条1項)」とされています。
つまり、自分の財産と同じように大事に相続財産の管理をしなければならないのです。もし相続財産管理人(相続財産清算人)が選任される前にずさんな管理をして財産を破損すれば、債権者から損害賠償を請求される可能性があります。
第三者への遺贈を指定した遺言書が存在するケース
被相続人が作成した遺言書により、法定相続人ではない人(受遺者)に対する遺贈が行われた場合、遺贈の目的物を受遺者に引き渡す必要があります。
相続人がいれば、相続人が遺贈義務者となり、受遺者に対して遺贈の目的物を引き渡します。
一方、相続人がいないケースでは、相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された後に、相続財産管理人(相続財産清算人)が受遺者に対して、遺贈の目的物を引き渡します。
相続財産管理人(相続財産清算人)が選任されるまでの流れ
相続財産管理人(相続財産清算人)が選任されるまでの流れを紹介していきましょう。
利害関係人か検察官による申立て
相続財産管理人(相続財産清算人)は家庭裁判所から選任してもらう必要がありますが、その際は「相続財産清算人選任審判」の申立てを行わなければなりません。この場合に申し立てるのは、利害関係人もしくは検察官です。
利害関係人とは、被相続人の債権者、特定遺贈の受遺者、特別縁故者などの相続人ではないが、被相続人と法律上特別な関係にある人のことをいいます。内縁の妻や医療看護をしてきた人も該当します。
検察官が申立てをする権利があるのは、国が相続財産管理人(相続財産清算人)を必要とする場合があるからです。
必要書類の提出
相続財産管理人の申立てに際しては、次の必要書類を提出します。
- 申立書
- 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の子(及びその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(及びその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 代襲者としての甥姪で死亡している方がいる場合、その甥または姪の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 財産を証する資料(不動産登記事項証明書(未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金及び有価証券の残高が分かる書類(通帳写し、残高証明書等)等)
- 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)、金銭消費貸借契約書写し等)
- 相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票または戸籍附票
家庭裁判所による審理・選任
利害関係人あるいは検察官から相続財産管理人(相続財産清算人)選定の申立てがあると、家庭裁判所は被相続人との関係や利害関係の有無などを考慮して相続財産管理人(相続財産清算人)を選任します。
申立人の利害関係が認められない場合や相続財産管理人の選任が不必要となった場合には、申立てが却下されます。
相続財産管理人(相続財産清算人)を選任した後の手続きの流れ
相続財産管理人(相続財産清算人)が選任された後は、次のような流れで手続きが進行します。
選任公告
相続財産管理人(相続財産清算人)を選任した家庭裁判所は、選任した旨と合わせて、相続人がいる場合には6カ月以内にその権利を主張すべき旨を公告します(民法第952条第2項)。
選任公告が行われるのは、把握できていない相続人の存在を確認するためです。もし相続人が名乗り出て相続を承認すれば、その時点で相続財産管理人(相続財産清算人)の代理権は消滅します(民法第956条第1項)。
相続財産の管理
相続財産管理人(相続財産清算人)は、相続財産法人の法定代理人として相続財産を管理します。その際、管理すべき相続財産の目録を作成します(民法第953条の準用による第27条第1項)。
必要であれば、家庭裁判所の命令によって、相続財産管理人(相続財産清算人)が相続財産の補修、賃料の支払いなどの保存処分を行うこともあります(民法第27条第3項)。
債権者・受遺者に向けた弁済申出の公告・催告
相続財産管理人(相続財産清算人)の選任公告後、2カ月以内に相続人が判明しなかった場合、相続財産管理人(相続財産清算人)は遅滞なく、相続債権者・受遺者に対し、一定期間内に請求を申し出るべき旨の公告を行います(民法第957条第1項)。
公告期間は2カ月以上に設定されます。
また、相続財産管理人(相続財産清算人)が把握している相続債権者・受遺者に対しては、個別に弁済申出の催告が行われます(民法第957条第2項、第927条第3項)。
相続人の捜索の公告、債権者・受遺者への弁済
弁済申出の公告期間が満了した後も相続人が判明しなかった場合、家庭裁判所が相続財産管理人(相続財産清算人)または検察官の請求により、相続人の捜索の公告を行います(民法第958条)。公告期間は6カ月以上です。
相続財産管理人(相続財産清算人)は、相続人の捜索の公告期間が満了するまでに判明した相続債権者・受遺者に対して、それぞれ弁済を行います。
また、相続人が判明して相続を承認した場合には、その時点で相続財産管理人(相続財産清算人)の代理権は消滅します。
相続人の捜索の公告期間が満了するまでに判明しなかった相続人・相続債権者・受遺者は、その権利を行使できません(民法第958条)。
特別縁故者への財産分与、国庫への帰属
被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者、その他被相続人と特別の縁故があった者は、相続人の捜索の公告期間満了後3カ月以内に、家庭裁判所に対して相続財産の分与を請求できます。
家庭裁判所は、被相続人と特別縁故者の関係性などを考慮して、相続財産の全部または一部の分与を認めることがあります(民法第958条の2)。
特別縁故者への財産分与が完了した後、残った財産は国庫へ帰属します(民法第959条)。
管理終了の報告
相続財産の国庫帰属が完了したら、相続財産管理人(相続財産清算人)は、家庭裁判所に対して管理終了報告を行います。これで相続財産管理人(相続財産清算人)の職務は終了です。
相続財産管理人(相続財産清算人)を選任するための費用
相続財産管理人(相続財産清算人)を選任するための費用について紹介します。
申し立ての費用
相続財産管理人(相続財産清算人)選任の申し立てを行うための費用としては、申立書に貼付する800円の収入印紙、連絡用の郵便切手、官報公告料等が必要です。
連絡用の郵便切手は1,000円程度ですが、裁判所によって異なりますので、事前に申し立てを予定している裁判所に確認してください。また、予納金の納付を求められることもあります。
予納金とは
予納金とは、相続財産管理人(相続財産清算人)の経費や報酬などに充てるため、申立人があらかじめ納めるお金のことです。
予納金が必要になるのは、相続財産が少ないために相続財産管理人(相続財産清算人)が相続財産を管理するために必要な費用(報酬を含む)に不足が生じる可能性がある場合です。
相続財産管理人(相続財産清算人)が円滑に事務を行うことができるように、申立人に相当額を予納金として納付するよう求められることがあります。
相続の処理が終わり、費用の清算と報酬の支払いの完了後に予納金に残りがあれば返金されます。
相続財産管理人(相続財産清算人)の職務
相続財産管理人(相続財産清算人)の役割は相続財産や相続人を調査し、借金があれば債権者に弁済して、清算することにあります。相続財産を引き継ぐ者がいない場合は国に帰属させます。
相続財産管理人(相続財産清算人)は、相続財産を自由に使うことはできません。相続財産の管理を行う権限がありますが、相続財産を処分するには、家庭裁判所の許可が必要となります。
相続財産管理人(相続財産清算人)の職務である相続財産の管理と処分について説明をします。
相続財産の管理行為
相続財産の管理行為として、保存行為・利用行為・改良行為を行います(民法第953条を準用する第28条、第103条)。
主に行うのは、保存行為です。財産の現状を維持するために必要な一切の行為が保存行為です。
たとえば、不動産の相続登記、建物の修繕工事、預金の払い戻しなどが該当します。
払い戻した預金は、相続財産管理人(相続財産清算人)名義の口座で管理します。
保存行為・利用行為、改良行為には家庭裁判所の許可はいりません。相続財産管理人(相続財産清算人)の単独の判断でこれらの行為を行うことができます。
しかし、不動産の売却といった財産の形を変える行為は、処分行為に該当しますので、家庭裁判所の許可が必要になります。
相続財産の処分行為
処分行為とは、相続財産の形を変える行為のことをいいます。具体的には、不動産の売却、株式の売却、定期預金の満期前の解約、家具家電の処分などが該当します。
処分行為については家庭裁判所の許可が必要ですから、相続財産管理人(相続財産清算人)の単独判断で財産を扱うことはできません。処分行為が必要な場合は、家庭裁判所に対し「相続財産管理人の権限外行為許可」申立をします。
被相続人の遺骨を納める墓地の購入費や永代供養費の支出も家庭裁判所の許可が必要です。
許可申立を受けた家庭裁判所は、金額や内容を特定して許可を出します。相続財産管理人(相続財産清算人)が家庭裁判所の許可を受けずに処分行為を行うのは、権利のない代理行為です。
権利のない代理行為を実行した相続財産管理人(相続財産清算人)は、法的責任を問われることがあります。
おすすめの記事
ほかにもこちらのメディアでは、法定相続人が放棄した場合についてや相続手続きをしなかったらどうなるかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。