「納得して押印したけど、よく考えたら自分だけが損をしているような気がする」「もう一度最初からやり直したい」すでに終わった遺産分割協議に関して、このような悩みを抱えていませんか?
結論からいえば、遺産分割協議はやり直せます。しかし、どのような場合でもできるわけではありません。また、やり直しにはリスクをともないます。
この記事では、遺産分割協議のやり直しができるケースとできないケース、注意点を解説します。やり直すにはどうすればよいのかについてもご紹介しているため、やり直しを検討している方はぜひ最後までご覧ください。
- 遺産分割協議はやり直せる場合もある
- 協議をやり直す際は、再協議を行うか調停を申立てる
- 協議をやり直すことで税金がかかる可能性がある
遺産分割協議はどんな場合でもやり直せるわけではない
「遺産はいらないと言ったけど、やっぱりほしくなった」「不動産を相続したけどやっぱりいらない」と思っても、相続人全員で遺産分割協議を行い、その内容に全員が合意した以上、簡単には認められないのです。
ただし、ケースによってはやり直しできることもあります。やり直しできるケースとそうでないケースについては、次の見出し以降で解説します。
遺産分割協議のやり直しができるケース
遺産分割協議のやり直しには、条件を満たすことや理由が必要です。ここでは、やり直しが可能なケースを5つご紹介します。
- 相続人全員がやり直しに合意している
- 遺産分割協議後に判明した遺産がある
- 遺産分割協議後に生前贈与が判明した
- 詐欺や強迫によって遺産分割協議が成立した
- 錯誤によって遺産分割協議が成立した
相続人全員がやり直しに合意している
相続人全員が合意していれば、深刻な事情がなくても遺産分割協議はやり直せます。ただし協議をするときと同様に、ひとりでも反対しているとやり直せません。
遺産分割協議においては、あくまでも相続人全員の意思が重要視されるのです。
遺産分割協議後に判明した遺産がある
遺産分割協議書に含まれていなかった遺産が新たに判明した場合は、遺産分割協議をやり直せます。このケースでは、新たに判明した遺産についてのみの協議でよく、すでに決定している部分はそのままで問題ありません。
ただし、新たな遺産が判明したことで状況が変わり、すべての相続人がはじめからやり直したいというのであれば、すでに決定している部分についてもはじめからやり直せます。
遺産分割協議後に生前贈与が判明した
特定の相続人に対して高額な生前贈与が行われていたことが遺産分割協議後に判明したときは、取消しが認められる場合があります。生前贈与があると事前にわかっていれば、協議の内容がまた違ったものになっていたかもしれないためです。
上記のような場合は、すでに決定している部分を取消し、再協議を行います。
なお、取消しは家庭裁判所に調停を申立てて行います。取消権は取消しできるときから5年で時効を迎えるため、5年を過ぎると取消しできなくなる点にはご注意ください。
詐欺や強迫によって遺産分割協議が成立した
遺産分割協議が詐欺や強迫によって成立したものであった場合は、やり直しが可能です。この場合は、すでに決定した部分をいったん取消し、再協議を行います。取消しできるケースは以下のとおりです。
- ほかの相続人にだまされていることに気づかず署名・押印した
- ほかの相続人に強迫されて、無理に署名・押印させられた
上記のようなケースでは、家庭裁判所に調停を申立て、協議の取消しを行います。注意したいのは、いつまでも取消しできるわけではないという点です。
取消権は5年で時効にかかります。5年を過ぎてしまうと、取消しできなくなるということを念頭に置いておきましょう。
錯誤によって遺産分割協議が成立した
遺産分割協議に「錯誤」があった場合もやり直せます。錯誤とは、深刻な勘違いのことです。たとえば、一部の相続人が意図的に遺産を隠していたため、その遺産の存在を知らずに協議を行ってしまった場合などが挙げられます。
このようなケースでは、協議が無効であると主張できる可能性があります。
遺産分割協議をやり直さなければならないケース
遺産分割協議を「やり直さなければならない」ケースも存在します。つまり無効になるケースです。ここでは、やり直さなければならないケースを3つご紹介します。
- 遺産分割協議に参加していない相続人がいた
- 遺産分割の時点で認知症だった相続人がいる
- 特別代理人の選任が必要なケースで選任していなかった
遺産分割協議に参加していない相続人がいた
遺産分割協議に参加していない相続人がひとりでもいた場合、その協議は無効です。遺産分割協議には、すべての相続人が参加しなければならないためです。たとえ参加できない正当な理由があったとしても、その相続人を除いての協議は認められません。
このようなケースでは、今度はきちんとすべての相続人を集めて、再協議を行う必要があります。
あとから相続人が漏れていたことに気づいたときは、改めて相続人調査をし直しましょう。前婚での子どもや認知した婚外子、養子などは被相続人の家族も聞かされていないことがあり、相続調査から漏れやすいため要注意です。
また、一部の相続人に連絡がつかず、呼びかけができなかったケースでは、手紙を送ったり直接訪問したりなどして接触を試みて、それでも連絡がつかなければ調停手続きを検討する必要があるでしょう。
遺産分割の時点で認知症だった相続人がいる
遺産分割の時点で認知症だった相続人がひとりでもいると、遺産分割協議は無効です。ただし、認知症だった相続人が存命で状態が改善していなければ、そのままでは再協議ができません。協議をしたところで同じ結果になるためです。
その場合は、成年後見人を選任してから再協議を行う必要があります。そのほか、精神疾患や知的障害などによって判断能力がないと判断されるようなケースも同様です。
特別代理人の選任が必要なケースで選任していなかった
親と子どもが同時に相続人になる場合、子どもが未成年者なら特別代理人を選任しなければなりません。親権者である親と子どもの利益が相反することから、親が子どもの代理人になれないためです。
しかし、特別代理人を選任せず子ども本人が参加していたり、同じく相続人である親が代理人になっていたりすると、その遺産分割協議は無効になります。このようなケースでは、未成年者である子どものために特別代理人を選任したうえで再協議が必要です。
遺産分割協議をやり直せないケース
残念ながら、遺産分割協議をやり直せないケースもあります。ここでは、やり直せないケースを2つご紹介します。
- やり直しに合意していない相続人がいる
- 遺産分割調停や審判の確定後である
やり直しに合意していない相続人がいる
たったひとりでも、遺産分割協議のやり直しに反対している相続人がいるとやり直せません。相続人全員の合意が必須であるためです。
途中で気が変わり、やり直しに応じてくれればその時点でやり直せるようになりますが、気持ちが変わらないのであれば諦めるよりほかありません。
ただし、反対している相続人が亡くなったあと、その相続人を相続した方全員の合意が得られるならやり直せます。
遺産分割調停や審判の確定後である
遺産分割調停や審判がすでに確定していると、すべての相続人がやり直しを希望していても遺産分割協議はやり直せません。なぜなら、裁判所の決定は覆せないためです。
審判に納得がいかないときは、審判書を受け取った日の翌日から2週間以内であれば、高等裁判所への即時抗告の申立てが可能です。即時抗告とは高等裁判所に再審理を求める手続きで、認められれば審判の結果を覆せます。
しかし、高等裁判所は調停や審判で十分に審理されていると考える傾向にあるため、必ずしも思いどおりの結果になるとはかぎりません。なお、調停や審判のあとに判明した遺産がある場合は、あとから判明した遺産についてのみ協議を行えます。
遺産分割協議をやり直す方法
遺産分割協議をやり直すには、どのような手続きをすればよいのでしょうか?ここでは、遺産分割協議をやり直す方法について解説します。
もう一度遺産分割協議をする
遺産分割協議をやり直すときは、すべての相続人でもう一度協議し直します。
相続人が全員存命で、成年後見人の選任が必要な方などもいなければ、メンバーは変わりません。しかし、相続人の中にすでに亡くなっている方がいるならば、その方の相続人全員に呼びかける必要があります。
また、やり直しの時点で認知症や精神疾患などによって判断能力が欠けている相続人がいる場合は、成年後見人を選任したうえで協議を行わなければなりません。協議が成立したら新たに遺産分割協議書を作成し、前回のものはすべて破棄しましょう。
遺産分割調停を申立てる
再度協議を行っても、意見が食い違う場合やトラブルに発展しそうなときは、家庭裁判所に遺産分割調停を申立てるという手段があります。調停とは、裁判のように勝ち負けを争うのではなく、あくまでも話し合いによって問題を解決する手続きです。
話し合いといっても当事者が直接顔を合わせることはなく、調停委員を通して進められるため、当事者だけで話すよりも冷静な話し合いが期待できます。ただし、調停の手続きは複雑です。
また、相手方である相続人が弁護士に依頼した場合、調停が相手方にとって有利な方向に進んでしまう可能性があります。そのため、調停に進むようなケースは弁護士への相談がおすすめです。
遺産分割協議をやり直すときに注意すべきこと
遺産分割協議をやり直す場合は、いくつか注意点があります。なぜなら、まったくリスクなしにやり直せるわけではないためです。
ここでは、遺産分割協議をやり直すときに注意すべきことを4つご紹介します。
- ほかの相続手続きもやり直しになる
- やり直してもすべてが振り出しに戻るわけではない
- 取消権は取消せるときから5年で時効を迎える
- 贈与税や所得税、登録免許税がかかる場合がある
ほかの相続手続きもやり直しになる
遺産分割協議をやり直した場合、それに伴ってほかの相続手続きもやり直しになることがあります。たとえば、以下のケースが挙げられます。
相続税の申告と納付は、前回の協議のときにすでに済んでいたとしても、遺産分割の内容によっては再度行う必要が出てきます。
また、不動産の相続登記が完了していた場合は、登記もし直す必要があります。所有権抹消登記を申請するとともに、新たな所有者の名前で再度相続登記を申請しなければなりません。
そのほか、自動車や株式などの名義変更がすでに完了していたケースも、新たな所有者への名義変更が必要です。
このように、協議をやり直すことによって、ほかの相続手続きのやり直しや別の申請が発生する可能性があります。よく考えたうえでやり直す必要があるでしょう。
やり直してもすべてが振り出しに戻るわけではない
遺産分割協議をやり直したとしても、すべてが振り出しに戻るわけではありません。やり直しや取消しの時点で、すでに遺産が第三者の手に渡っている可能性があるためです。
たとえば第三者の手に渡った遺産が不動産であれば、協議をやり直す前に第三者が登記を備えてしまうと、やり直した結果不動産を取得したとしても取り戻せません。
また、詐欺や強迫を理由に協議を取消す場合は、取消し前に取得していた第三者がその事情を知らなければ取り戻せません。
このように、遺産がすでに第三者の手に渡っていると、たとえやり直したとしてもその取引までもがなかったことになるわけではなく、遺産を取り戻せないケースもあることを覚えておきましょう。
取消権は取消せるときから5年で時効を迎える
取消権が取消せるときから5年で時効を迎えることも、注意すべきポイントです。なぜなら詐欺や強迫、錯誤などを理由に遺産分割協議を取消すときには時効が適用されるためです。
遺産分割協議のやり直しには時効がないため、やり直しができるケースであれば前回の協議から何年経ってもやり直せます。
しかし、だからといって詐欺や強迫、錯誤に気づいてから5年経ってしまうと協議が取消せず、やり直しができなくなります。
贈与税や所得税、登録免許税がかかる場合がある
遺産分割協議をやり直した場合、贈与税や所得税、登録免許税などが二重でかかる可能性があります。やり直した結果、前回相続した相続人とは別の相続人が遺産を相続すると、売買や贈与扱いになるためです。
協議をやり直すことで、別途贈与税や所得税が発生するケースがあることに注意しましょう。
また、前回と不動産を相続する方が変わった場合も要注意です。なぜなら、所有者が変わるのであれば相続登記もし直さなければならないためです。その場合、登録免許税や不動産取得税もかかります。
さらに、専門家に依頼すればその分の報酬も発生するため注意しましょう。
遺産分割協議をやり直さないケースに比べて多くの費用がかかってしまいます。
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