遺留分とは?相続人ごとの割合から侵害された場合の対策も徹底解説

遺産分割では遺言が最大限優先されるなど、相続においては被相続人の意思が尊重されます。しかし兄弟・姉妹以外の法定相続人には、遺留分という最低限の遺産取得分が保障されているのです。

遺留分は、被相続人でも侵すことができない強い権利であるがゆえに、ともすれば相続人同士のトラブルの種にもなりかねません。

遺留分に関する正しい知識を身につけて、遺留分を侵害すること、侵害されることへの対策も検討しておきましょう。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺留分は特定の法定相続人だけが持つ「最低限の遺産を取得できる権利」
  • 遺留分の侵害が生じたら、遺留分侵害額請求権を行使できる
  • 遺留分はトラブルを招きがちな要素。しっかりした認識と対策が必要

遺留分とは?

遺留分とは、特定の法定相続人だけに認められた、最低限の遺産を取得できる権利です。

配偶者や子ども、直系尊属など兄弟・姉妹以外の法定相続人には、遺贈や生前贈与によっても奪われることがない遺産取得分が保障されています。

本来であれば、被相続人の意思が尊重されるべき遺産相続にあっても、侵すことができない強い権利です。

遺留分とは最低限の遺産をもらえる権利

遺産分割の原則的な割合は、法定相続分として民法に定められています。しかし相続においては、遺言によって法律とは異なる遺産分割割合を指定することも可能です。これにより、被相続人の意思が最大限に尊重されるよう配慮されているのです。

遺言書に記せば、法定相続人だけでなく、第三者に財産を譲ることも認められています。極端な例ではありますが、「家族に一切の財産を相続させず、愛人にすべての遺産を贈る」という遺言も法的には有効です。

しかしそれでは、遺された家族の生活資金にさえ支障をきたすかもしれません。そのため遺留分は、相続人の中でも被相続人により近い家族関係の人だけに認められ、一定の財産を取得できる期待を保証するものといえるのです。

とはいえ被相続人にとっては、法定相続人以外に財産を遺すため、法定相続分以外の分割方法を示すためには、遺言はとても大切な手段です。

例えば故人に事実婚のパートナーがいたとしても、内縁関係では相続人になれません。遺言がなければ一切の財産を受け取れないのです。また、故人が手掛けた事業を特定の誰かに引き継いでほしければ、事業用資産を分割せずに譲り渡さなければなりません。

このように、遺留分の侵害が起こる背景はさまざまです。遺留分に関する正確な知識を知っておかなければ、トラブルを招く可能性が否めないのです。

遺留分を持つ相続人

遺留分が認められた法定相続人は、遺留分について定めた民法1042条で「兄弟姉妹以外の相続人」と定めています。つまり配偶者と子、直系尊属が遺留分を持つ相続人です。

ただし、遺留分は代襲相続の対象となることも覚えておきましょう。代襲相続とは、相続開始時点で法定相続人がすでに死亡していた場合、その子どもが相続人になるという仕組みです。

例えば相続開始時点で被相続人の子どもが死亡していた場合には、被相続人の孫に遺留分が発生するのです。

遺留分を持たない相続人

法定相続人の中でも兄弟・姉妹には遺留分が認められていません。このため相続開始時点で兄弟・姉妹が亡くなっている場合にも、甥・姪の遺留分もありません。

通常の相続では、兄弟・姉妹が亡くなっている場合には、代襲相続によって甥・姪が相続人となります。しかし遺留分を考える際には、そもそも兄弟・姉妹が遺留分を持たないため、甥・姪にも認められないのです。

遺留分の計算方法

遺留分の割合は法定相続分の2分の1、親だけが相続人の場合は法定相続分の3分の1と定められています。

算出の基準となる法定相続分は「だれが相続人になるか」によって異なりますから、「遺産全体のうち遺留分に相当する金額を算出したうえで、それぞれの相続人の遺留分を算出する」という2段階で計算します。

遺留分は原則として法定相続分の半分となる

遺留分の割合は、原則として法定相続分の半分です。ただし親などの直系尊属のみが相続人の場合は、法定相続分の3分の1となります。

被相続人が3,000万円の財産を遺して亡くなった場合には、相続財産の半分、つまり1,500万円(相続人が親だけの場合は1,000万円)が遺留分に相当します。

総体的遺留分と個別遺留分で計算する

遺留分は法定相続分の半分(もしくは3分の1)といっても、相続人の組み合わせによって算出の基礎となる法定相続分が異なる点に注意しましょう。

このため遺留分を計算する際には、まず「遺産総額のうち、いくらが遺留分に相当するか(総体的遺留分)」を求め、そのうえで「それぞれの相続人の遺留分相当額を算出する(個別遺留分)」という方法で計算します。

例えば配偶者と子ども2人が相続人である場合、法定相続分は配偶者が1/2、2人の子どもはそれぞれ1/4ずつです。

この場合の遺留分は、配偶者が1/4、2人の子どもはそれぞれ1/8となります。

遺産総額が3,000万円の場合は、総体的遺留分が1,500万円、それぞれの相続人の個別遺留分は配偶者が750万円2人の子どもはそれぞれ375万円となるのです。

相続人の組み合わせによる遺留分の例
配偶者のみが相続人の場合1/2
子のみが相続人の場合1/2
直系尊属のみが相続人の場合1/3
兄弟・姉妹のみが相続人の場合なし
配偶者と子が相続人の場合配偶者:1/4
子:1/4(子の人数で均等割)
配偶者と父母が相続人の場合配偶者:1/3
父母:1/6(父母で均等割)
配偶者と兄弟姉妹が相続人の場合配偶者:1/2
兄弟・姉妹:なし

遺留分侵害の要因は?

遺留分を侵害する要因は、遺言によって法定相続人以外の人に財産を遺贈した場合だけとは限りません。特定の相続人にすべての遺産を譲るなど、法定相続分と異なる割合を指定した場合なども該当します。

さらに、「相続開始前の生前贈与によって遺産自体が減少していた」などのケースも、遺留分侵害の要因になるとを覚えておきましょう。

遺言書

遺留分の侵害が起こる要因としてもっとも分かりやすい事例は、遺言書によって法定相続分以外の分け方を指定した場合です。

先に挙げた、配偶者と子ども2人が相続人である場面を想定してみましょう。

「配偶者にすべての遺産を相続させる」という遺言があれば、2人の子どもはそれぞれ相続財産の1/4ずつの遺留分を主張できます。

「法定相続人以外の第三者にすべての財産を遺贈する」という趣旨の遺言であれば、配偶者は1/2、2人の子どもはそれぞれ1/4ずつの遺留分を主張できるのです。

死因贈与

死因贈与とは、贈与する側が死亡したときに効力を生じる贈与契約です。実質的には遺贈と同様の効果を生むものではありますが、死因贈与はあくまでも贈与契約の1つとされ、法律上は明確に区別されています。

遺贈とは、前述した通り遺言によって財産を贈与することです。通常の贈与契約と異なり、被相続人が一方的に贈与の意思を示しただけで成立するとされています。ただし、それを受け取るのも拒否するも、受遺者(遺贈を受ける人)の意思に委ねられるのです。

一方の死因贈与は贈与契約の1種であるため、贈与者(贈与する人、被相続人)と受贈者(贈与を受ける人)の合意があってはじめて成立します。

実際に効果が生じるのは相続開始時と同時になるものの、被相続人の生前に契約が成立している点が大きな違いとなるのです。

生前贈与

遺留分侵害の要因として特に注意を必要とするものが、生前贈与といえるでしょう。

生前贈与とは、被相続人の存命中に財産を贈与することです。贈与する相手は法定相続人に限らず、第三者も含まれます。

遺留分侵害を考えるうえで生前贈与に注意する必要がある理由は、「相続開始時から1年以内の生前贈与」と「相続開始時から10年以内の特別受益」を相続財産に加算する旨の規定があるからです。

遺留分算定の基礎となる遺産総額は、次の計算式で算出されます。

  • 相続財産+1年以内の生前贈与+10年以内の特別受益-債務=遺留分算定の基礎となる遺産総額

ただし、特定の条件のもとに行われた生前贈与に関しては、相続開始前1年以内という制限がかかりません。それは「贈与者と受贈者の双方が、その贈与によって遺留分を侵害することを知っていた場合」です。

この場合、贈与者(被相続人)と受贈者が意図的に遺留分を侵害したと判断されるため、遺留分権利者を保護するための措置として制限をなくしているのです。

なお、相続税の課税対象とされる相続財産と、遺留分の算定に用いる相続財産では、算入する生前贈与の期間が異なります。

税法上で相続財産に含まれるのは相続開始前3年以内の贈与です。年数の基準が異なりますので、混同しないように注意しましょう。

特別受益

ここで、特別受益についても説明しておきましょう。

特別受益は特定の相続人に対して行われた生前贈与のうち、「婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本」とされるものを指しています。

少し難しい表現ですが、結婚資金や住宅購入資金などがこれに当たると考えれば分かりやすいでしょう。

被相続人の生前に一部の相続人だけがこのような資金援助を受けていた場合、相続開始時の財産だけに着目して遺産の割合を決めるのはいささか不公平といえます。このため生前贈与を「遺産の先渡し」と解釈して、相続財産の一部と考えるのが特別受益です。

特別受益がある場合には、遺留分だけでなく、遺産分割の際にも影響を及ぼす可能性があります。

これは「特別受益の持ち戻し」と呼ばれる仕組みで、特別受益の金額を相続財産に加算して総額を算出し、特別受益を受けた相続人の相続分から特別受益の額を差し引くのです。

遺産分割で考慮される特別受益には時効がなく、何年前の贈与であっても相続財産に含めることができます。その一方で、遺留分の算定には「相続開始前10年以内」に限られる点には注意が必要です。

遺留分を侵害されたら遺留分侵害額請求ができる

自分以外の誰かが多くの遺産を取得してことによって、相続できる財産が遺留分を下回った状態が「遺留分の侵害」です。

遺留分は法律で保障された権利ですから、それを取り戻すための権利も併せて定められています。これが「遺留分侵害額請求」です。

遺留分侵害額請求とは?

遺留分侵害額請求とは、「侵害された遺留分を金銭に換算して、遺産を多く受け取った相手に対して請求する」という仕組みです。

配偶者と子ども2人が相続人で、遺産総額が3,000万円の場合を想定しましょう。「法定相続人以外の第三者にすべての財産を遺贈する」という遺言書が遺されていたら、配偶者も2人の子どもも一切の遺産を相続できません

ここで発生する遺留分は、配偶者が750万円、2人の子どもはそれぞれ375万円です。仮に相続財産が預貯金や現金などではなく、不動産などの実物資産であったとしても、それを金銭に換算して請求することができます。

遺留分侵害額請求には優先順位がある

侵害した遺留分を補償する責任を負うのは、遺留分侵害の要因を作った相続人や受遺者、受贈者です。しかし現実的には、遺留分侵害の要因となった行為が1つだけとは限りません。

「生前贈与によって相続財産が目減りしていたうえに第三者に遺贈した結果、遺留分の侵害につながった」という状況も十分に考えられるでしょう。

このため遺留分侵害額請求をする際には、その要因となった行為に応じて請求先の優先順位が定められています。遺留分侵害の要因となった遺贈や遺産分割のうち、時系列で新しい行為から順に請求する仕組みです。

最も新しい行為とされるのは、相続開始時点で有効となる遺言です。つまり、遺言書に記された遺産分割が、初めに遺留分侵害額請求の対象となる行為となります。

遺言による侵害

まず第1に遺留分侵害額請求の対象とされるのが、遺言による侵害です。

遺言は相続の開始によって効力が発生する書類であるため、遺留分侵害が発生する要因として一番新しいものと考えられるのです。

特定の相続人に遺産すべてを相続させる趣旨の遺言や、法定相続人以外の第三者への遺贈などがこれに該当します。

死因贈与

前述の通り、死因贈与も被相続人が死亡した時点、つまり相続開始に効力が生じます

しかし、死因贈与は被相続人の存命中に成立した法律行為です。このため効果の発生は遺言書と同時であっても、遺留分侵害額請求の優先順位としては遺言書の後になると考えれば分かりやすいでしょう。

生前贈与は新しい順

遺留分侵害額請求の対象となる要因の中で、優先順位が最も低いのが生前贈与です。

生前贈与は被相続人の存命中に行われるものですから、相続開始時に効力が発生する遺言書や死因贈与と異なり、複数回の贈与が行われている可能性もあるでしょう。

このため生前贈与が遺留分侵害額請求の対象とされる場合には、行為が新しい順に優先されます。

ただし、同日に複数の贈与がある場合も考えられるでしょう。このケースでは、贈与額の割合に応じて按分して遺留分侵害額を請求します。

遺留分侵害額請求の流れ

遺留分の侵害が生じたら、侵害している相手の対して侵害の事実と侵害額請求の意思を伝え、交渉する必要があります。

まずは話し合いでの解決を目指し、それで決着がつかない場合には調停、訴訟という手続きを踏むのです。

協議

遺留分侵害額請求の第1段階は、相手との協議です。まずは遺留分を侵害している相手に対して、遺留分が侵害されている事実とその金額を提示し、その支払いを求めることから始めましょう。

遺産分割と同様、遺留分に関しても、当事者同士での話し合いで円満に解決するのが理想です。遺留分侵害額を補償してほしい旨を伝え、落ち着いて協議できる場を設けます。

一般的に法律上の請求といえば、内容証明郵便で送達するのが原則ですが、いきなりその方法を取るのはあまりおすすめできません。

内容証明郵便とは、「いつ、どのような内容の文書が誰から誰あてに差し出されたか」ということを、郵便局が証明するシステムです。

それ自体には法律上の拘束力などはありませんが、時効の中断などの効果があることから、一般の郵便物よりも重大な意思表示と捉えられる傾向が強く見られます。

より分かりやすくいうならば、「相手側が精神的な圧力をかけてきた」と認識される恐れがあるのです。

遺留分は法律に定められた権利とはいえ、相手側が遺留分を侵害している事実を理解していないケースや、遺留分という権利自体を知らない可能性も考えられます。

その事実を知っていれば解決できる可能性があったにも関わらず、1通の内容証明郵便がそれをかわしてしまう恐れもあるのです。

調停

当事者同士での話し合いで決着がつかない場合や、そもそも相手が話し合いに応じないなどの場合には、家庭裁判所の調停を利用します。

遺留分侵害額の請求調停は、法律に詳しい有識者などから選任される調停委員が、当事者双方の主張を踏まえて解決案を提示したり助言をしたりして、当事者の合意形成を目指す手続きです。

仮に相手側が「払いたくない」と主張したとしても、法律上の根拠に基づいて支払い義務があることを示して説得してくれるのです。

調停を行うには、遺留分を持つ相続人またはその承継人が、相手方の住所地の家庭裁判所に申し立てをする必要があります。

ただしこの場合には、事前に内容証明郵便で遺留分侵害額請求の意思を改めて伝えておきましょう。なぜなら調停の申し立て自体には、「遺留分に関する権利を行使する旨の意思表示」としての効力はないからです。

話し合いで円満に解決できる可能性が残されている段階では、内容証明郵便が敵意と捉えられるリスクがありますが、すでに協議が決裂している場合には話は別です。

遺留分侵害額請求権には時効が定められていることから、この時効の完成を止めるためにも証拠能力の高い内容証明郵便が必要となるのです。

遺留分のトラブルが話し合いで解決できず調停へ進まざるを得ないケースでは、ご本人の力だけで解決の道を探るのは難しいかもしれません。

参考:裁判所「遺留分侵害額の請求調停」

民事訴訟

調停でも解決できない場合に行う手続きが、遺留分侵害額請求訴訟です。

遺留分侵害額の請求調停で当事者間の合意が得られなければ、調停不成立となり手続きは終了します。この場合は地方裁判所に訴訟を提起し、裁判所の判断を仰ぐのです。

訴状の提出先は、下記のいずれの地方裁判所です。ただし請求額が140万円以内の場合には、簡易裁判所に訴訟を提起します。

訴状の提出先
  • 被告の普通裁判籍の所在地
  • 原告の所在地
  • 相続開始時における亡くなった人の普通裁判籍の所在地

調停と訴訟の一番大きな違いは強制力です。調停はあくまでも合意を目指す手続きですが、訴訟で下される判決は強制力を持った命令となります。

遺留分を侵害している側に支払い命令が下されれば、当事者は従わなければなりません。

ただし民事訴訟においては、請求を裏付ける事実関係を証明する責任は原告にあるとされています。つまり、遺留分侵害額を請求する人が、証拠を用意しなければならないのです。

遺留分侵害額訴訟では、被告(遺留分を侵害している人)が相続や遺贈によって財産を受け取った事実や、これによって原告の遺留分が侵害された事実などが請求を裏付ける事実関係に該当します。

遺留分侵害額請求権には時効がある

遺留分侵害額請求権には時効の定めがあり、一定の期間に行使しなければ権利が消滅してしまいます。

民法第1048条の定めでは、「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも同様とする」とされています。

ただし「侵害があったことを知ってから1年」は消滅時効、「相続開始から10年」は除斥期間とされており、法律上の扱いが多少異なる点には注意が必要です。

消滅時効と除斥期間は、いずれも一定の時間が経過することで権利が消滅するという仕組みですが、消滅時効は当事者が時効を主張しないと効果が生じないのに対し、除斥期間の場合は時間の経過だけで権利が消滅するなどの相違点が挙げられます。

遺留分侵害額の請求が認められたとしても、実際の支払いが滞っているようなケースも注意が必要です。

金銭債権の消滅時効は5年とされていますから、仮に遺留分侵害が認められ債権・債務が確定したとしても、5年を経過してしまえばその後の請求はできなくなっていしまいます。

遺留分侵害額請求権の時効を止めるには?

遺留分侵害額請求権の時効の完成を止めるには、遺留分権利者が「時効の完成猶予」もしくは「時効の更新」の効果につながる何らかの行動を取らなければなりません。

完成猶予とは時効の進行が一旦ストップする効果で、一方の「更新」は時効が進行した時間がゼロにリセットされる効果です。かつては「時効の停止」「時効の中断」と表現されていたものが、民法の改正によって名称が変わるとともに、内容が整理されました。

時効の更新事由は「裁判の確定判決」など、手続きに時間が掛かるものです。このため遺留分侵害額請求権の時効を止めるには、内容証明郵便で遺留分を請求することが一般的です。

この手続きは、時効の完成が猶予される「催告」という事由にあたります。

催告以外にも、「裁判上の請求(訴えの提起)」「協議を行う旨の合意」なども時効の進行を止める効果があるため、内容証明郵便による請求に続けて、これらの手続きを進めていきましょう。

遺留分減殺請求との違い

遺留分侵害額請求は民法改正によって2019年7月1日に施行された制度で、それ以前は遺留分減殺請求という制度によって遺留分が保障されていました。

遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求の大きな違いは、前者が「侵害された遺留分に相当する金銭の支払いの請求」であるのに対し、後者は「権利を取得できなかった遺産そのものの返還請求」という点です。

具体的な例をみてみましょう。相続財産が1,000万円相当の不動産だけで、AとBという2人の子どもが相続人となったケースを想定します。

遺言書に「すべての財産を相続人Aに譲る」旨の記載があった場合、相続人Bは何も相続できずに遺留分を侵害された状況に陥ります。相続人が子ども2人のケースでは、相続人Bが遺留分として取得できる権利は遺産の1/4です。

この場合、遺留分減殺請求で相続人Bが取得できるのは「不動産の1/4の所有権(共有持ち分)」、遺留分侵害額請求では「遺産の1/4に相当する250万円の金銭」となります。

実際には1/4の共有持ち分を得たとしても利用価値があるとは考えにくく、より現実的な請求方法に変更されたといえるのです。

遺留分侵害額請求権も相続する

遺留分は個人に帰属する権利ですから、仮に遺留分を侵害された状態で権利者が亡くなった場合には、その遺留分侵害額請求権も相続の対象です。

遺留分を侵害された権利者が亡くなって二次相続が発生した際には、その遺留分権利者の相続人が遺留分侵害額請求権を相続することも覚えておきましょう。

亡くなった遺留分権利者には遺留分侵害額請求をする意思がなかったとしても、相続で権利を取得した人が同様に考えるとは限りません。

やむを得ず遺留分を侵害する遺産割合とする場合には、二次相続の発生も考慮しておくことが大切です。

遺留分がトラブル要因になるケース

遺留分は、最低限の遺産取得割合が示された重要な権利ですが、実際の相続の場面では遺留分の存在自体がトラブルの要因となる可能性も否めません。

特に注意が必要な事例は、遺留分によって遺産が分散することで、被相続人が営んでいた事業の承継に支障が出るケースです。

該当する場合には、被相続人の生前から十分な対策を検討しておく必要があるでしょう。

事業承継に支障が出る

遺留分がトラブル要因になりかねない事業承継のケースとは、被相続人が行っていた事業を継続させるために1人の後継者に遺産を集中させたい場合です。「事業承継のため」という明確な理由があったとしても、遺留分侵害が許容されるわけでありません。

例えば被相続人が行っていた事業に関する資産や自社株式を長男にすべて相続させれば、長男が他の相続人から遺留分侵害額の請求を受ける可能性があるのです。

長男が手持ちの資産で請求に応じられなければ、受け継いだ事業用資産や自社株式を売却せざるを得なくなるかもしれません。

このようなトラブルを防止するため、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)において、遺留分に関する民法の特例が盛り込まれています。

被相続人が経営する会社または個人事業を承継するには、被相続人の生前に後継者を含めた推定相続人全員の合意のうえで、被相続人から後継者に贈与された自社株式や事業用資産の価額について、遺留分算定の基礎となる相続財産から除外するなどの措置を講じられるのです。

対処法は「遺留分を算定するための財産の価額から除外(除外合意)」と「遺留分を算定するための財産の価額に算入する価額を合意時の時価に固定(固定合意)」の2つで、両方を組み合わせることも可能です。

後者は会社の場合だけに使える方法で、具体的には、自社株式の価額を取り決めて固定します。つまり、その後に後継者の経営努力により株価が上昇しても、固定した金額以上での遺留分の請求を受けることがなくなります。

参考:中小企業庁:事業承継を円滑に行うための遺留分に関する民法の特例

遺留分は放棄できる

遺留分は、一定の相続人に保証された権利ではありますが、必ずしも行使しなければならないものではありません。

遺留分の権利を行使するかしないかは権利者の意思に委ねられており、遺留分を自ら手放す「遺留分の放棄」も認められています。

遺留分を放棄するとその後の遺留分侵害額請求ができなくなるため、何らかの理由で財産を多く取得した相続人や受遺者は、遺留分侵害額請求を受ける可能性があるという不安定な立場が解消されます。

相続開始後はもちろん、相続開始前にも遺留分を放棄できますが、その場合には特に厳格な手続きが必要です。相続開始前に遺留分を放棄する場合には裁判所の許可が必要とされ、仮に遺留分権利者が自筆で署名し実印を押した合意書を作成したとしてもは認められません。

生前の遺留分放棄は裁判所の許可が必要となる

遺留分は、遺言書で示された被相続人の意向に反してでも守られる、非常に強い権利といえます。つまりこの権利を放棄することは、相続人にとって大きな不利益をもたらす可能性があるともいえるでしょう。

相続開始前の遺留分放棄を容易に認めてしまうと、被相続人や他の相続人からの不当な干渉が行われ、不本意な遺留分放棄を迫られる可能性が否めません。

そのため民法1049条には「相続の開始前における遺留分の放棄は、家庭裁判所の許可を受けたときに限り、その効力を生ずる」と定められており、当事者同士だけでの取り決めでは認めないとされているのです。

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所へ、遺留分権利者本人が申し立てをしなければならず、遺留分放棄の合理性が認められる特段の事情があるかなどを考慮したうえで判断されます。

参考:裁判所「遺留分放棄の許可」

遺留分トラブルの対策を講じよう

遺留分が相続のトラブルにつながる可能性は、残念ながら低くはありません

遺族の生活資金や、「遺産を相続できる」という期待を保障することも大切です。その一方で、それぞれの相続人がおかれている状況などから、遺留分を侵害してでも特定の相手に遺産を譲りたいと被相続人が希望することもあるでしょう。

遺留分を侵害された側だけでなく、侵害した側にも、それなりの正当な理由や主張があるかもしれません。トラブルを未然に防ぐには、遺留分という仕組みをしっかりと理解して、被相続人の生前から対策を講じておくことが望ましいでしょう。

ほかにもこちらのメディアでは、法定相続人が相続放棄した場合についてや推定相続人についても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。

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