遺族年金がもらえないケースは?もらえる人の条件や救済制度を解説

「遺族年金がもらえない具体的なケースを知りたい」このような疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか?年金制度は複雑で、家族が亡くなったときに遺族年金がもらえるかどうか、不安に感じてしまいますよね。

遺族年金は「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」に分けられ、受給するための条件や受給対象となる範囲が異なります。

こちらの記事では、遺族年金の受給条件や、遺族年金がもらえない具体的なケースを解説します。家族に万が一の事態が起こったときの備えについて知りたい方に役立つ内容となっているので、ぜひ参考にしてみてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺族年金は遺族の生活保障が目的
  • 遺族年金は死亡者の条件と受給対象者条件の両方をクリアする必要がある
  • 遺族年金がもらえないときの救済策についても知っておこう

遺族年金の趣旨

遺族年金とは「片働きで働いている方」など、主に家計を支えている稼ぎ頭の方が亡くなったとき、残された遺族の方々の生活を保障するための公的制度です。

例えば、片働きで生計を維持していた方が事故や病気などで亡くなってしまうと、遺族の方々は経済的に困窮してしまいます。万が一の事態に備える公的な「保険」として、遺族年金の仕組みが政府によって運営されています。

遺族年金を受給する条件

国が管掌している遺族年金とは、「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類です。それぞれ、受給するための条件が設けられています。

遺族基礎年金の受給条件

遺族基礎年金を受給するには「死亡者が満たすべき条件」をクリアしたうえで、受給対象者に該当する必要があります。両方の条件をクリアしないと受給できない点は、きちんと押さえておきましょう。

死亡者の条件

遺族基礎年金を受給するには、死亡者が下記のいずれかに該当している必要があります。

  1. 国民年金の被保険者である間に亡くなった
  2. 60歳以上65歳未満で、国民年金の被保険者であり日本国内に住所を有していた方が亡くなった
  3. 老齢基礎年金の受給権者が亡くなった
  4. 老齢基礎年金の受給資格をクリアした方が亡くなった

1・2については、亡くなった方が、亡くなった日の前日において保険料を納めている期間(保険料納付免除期間を含む)が国民年金加入期間の3分の2以上あることが求められています。

ただし、亡くなった日が令和8年3月末日まで、さらに亡くなった方が65歳未満の場合は取り扱いが異なります。亡くなった日の前日の段階で、亡くなった日が属する月の前々月までの直近1年間に保険料を納めていない月がなければ、1・2の条件はクリアできます。

例えば、令和5年6月1日に亡くなった場合、令和4年4月から令和5年3月までの期間に保険料が納められていれば、1・2の条件はクリアできます。

3および4の条件については、保険料納付済期間・保険料免除期間・合算対象期間を足した期間が25年以上あることが求められています。老齢基礎年金の受給資格は「10年」ですが、遺族基礎年金は「25年」と異なる点に注意しましょう。

受給対象者

遺族基礎年金は、遺族であれば誰でも受給できるわけではありません。亡くなった方に生計を維持されていた方で、「子」あるいは「子のある配偶者」が対象となります。

遺族厚生年金の受給条件

厚生年金に加入している方が、厚生年金に加入している期間中に亡くなった場合、条件を満たせば遺族に遺族厚生年金が支給されます。

死亡者の条件

遺族厚生年金を受給するには、亡くなった方が保険料納付などの条件をクリアしている必要があります。

  1. 厚生年金保険に加入している期間に死亡した
  2. ケガや病気の初診日が厚生年金の被保険者期間にあり、初診日から5年以内に死亡した
  3. 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受給者が死亡した
  4. 老齢厚生年金の受給権者が死亡した
  5. 老齢厚生年金の受給資格をクリアした方が死亡した

1・2の条件については、亡くなった日の前日の段階で、保険料免除期間を含む保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上あることが求められます。

ただし、令和8年3月末日までに亡くなったときは取り扱いが異なります。亡くなった日の前日の段階で、亡くなった日が属する月の前々月までの直近1年間に保険料が未納となっている月がなければ、1・2の条件はクリアできる点は知っておきましょう。

受給対象者

遺族厚生年金の受給対象者は、亡くなった方の収入を頼っていた、いわゆる「生計を維持」されていた方です。なお、受給できる遺族には順位が定められています。

受給できる順位
  • 1位:妻
  • 2位:子
  • 3位:夫
  • 4位:父母
  • 5位:孫
  • 6位:祖父母

遺族年金は、「遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が受給できる」シチュエーションと、「遺族厚生年金のみ受給できる」シチュエーションがあります。

夫が受給開始できるのは60歳からですが、「遺族基礎年金と遺族厚生年金の両方が受給できる」場合は、55歳から60歳の間でも遺族厚生年金を受給できます。

遺族年金の申請方法

遺族年金は、下記の必要書類を準備したうえで、住所地の市区町村役場に提出します。

遺族年金の申請時の必要書類
  • 基礎年金番号がわかる書類
  • 戸籍謄本(記載事項証明書)
  • 世帯全員の住民票の写し
  • 死亡者の住民票の除票
  • 収入確認書類
  • 子の収入確認書類
  • 死亡診断書(死体検案書等)のコピー

死亡日が国民年金第3号被保険者期間中の場合は、書類の提出先が年金事務所または街角の年金相談センターになります。

家族が亡くなった後は、遺族年金の請求をはじめ、さまざまな死後手続きを行う必要があります。諸手続きを進めるのは負担になりますが、年金の申請も忘れずに進めていきましょう。

遺族基礎年金がもらえないケース

受給条件を満たしていない場合は、遺族基礎年金を受給できません。

配偶者に子がいないとき

亡くなった方の配偶者に子がいない場合は、遺族基礎年金を受給できません。受給対象者は「子のある配偶者」か「子」なので、子のない配偶者は遺族基礎年金がもらえないことになります。

配偶者・子が生計維持条件を満たさないとき

遺族基礎年金は、亡くなった方に「生計を維持されていた」という条件があるため、配偶者・子が生計維持条件を満たさないときは対象外です。具体的に、生計維持の条件は下記のとおりです。

生計維持の条件
  • 生計を同じくしていること
  • 収入条件を満たしていること

「生計を同じくしていること」とは、同居している状況や別居して生活に必要な仕送りをしている状況などが該当します。

「収入条件を満たしていること」とは、前年の収入が850万円未満または所得が655万5,000円未満であることが該当します。

配偶者が再婚したとき

遺族基礎年金を受給していても、配偶者が再婚すると遺族年金はもらえません。再婚した時点で支給停止となります。

また、遺族基礎年金を受給している最中に子が結婚した場合も、「子のある配偶者」に該当しなくなり支給停止となります。

死亡者が保険料納付条件を満たしていないとき

亡くなった方が、保険料納付条件をクリアしていなかった場合は遺族年金がもらえません。会社員や公務員の方は原則として保険料の納付漏れがありませんが、自営業者など第1号被保険者の方が亡くなったときは注意が必要です。

保険料を納めていない期間が加入期間全体の3分の1以上ある場合や、亡くなった日が属する月の前々月までの直近1年間において、保険料を納めていない月がある場合は受給できません。

例えば、以下のようなケースでは保険料納付条件を満たしておらず、遺族基礎年金はもらえません。

保険料納付条件を満たしていないケース
  • 亡くなったタイミングで加入期間全体が15年あり、保険料を納めていない期間が5年以上ある
  • 令和5年6月1日に亡くなり、令和4年4月から令和5年3月までの間に保険料を納めていない期間がある

「亡くなった日が含まれる月の前々月」という条件は、駆け込みで保険料を納付して不正に受給することを防ぐ目的があります。

万が一の事態に遺族の生活を守るためにも、きちんと保険料を納付することが重要です。

遺族厚生年金がもらえないケース

遺族厚生年金がもらえない具体的なケースを見ていきましょう。

配偶者・子が生計維持条件を満たさないとき

亡くなった方の配偶者・子が生計維持条件を満たしたいないケースでは、遺族厚生年金は受給できません。生計維持要件の具体的な金額は、遺族基礎年金と同じです。

配偶者が再婚したとき

配偶者が再婚すると、遺族厚生年金がもらえません。配偶者が遺族厚生年金を受給している最中に再婚した場合は受給停止となります。遺族年金は制限なくいつまででももらえるわけではないため、注意しましょう。

死亡者が保険料納付条件を満たしていないとき

亡くなった方が保険料納付条件を満たしていないときも、遺族厚生年金は受給できません。厚生年金に加入している場合は、本人ではなく勤務先に保険料の納付義務があるため、保険料納付条件をクリアできないケースはほとんどありません。

しかし、「初診日が厚生年金の被保険者期間ではない」などのときは、支給対象外です。また、亡くなった方が受給していた老齢厚生年金の受給資格期間が「10年以上25年未満」の場合も、遺族厚生年金は受給できません。

夫・父母・祖父母の年齢が54歳以下のとき

遺族厚生年金は、受給対象者によって年齢制限があります。夫・父母・祖父母に関しては「55歳以上」という年齢制限があるため、家族が亡くなったときに54歳以下の場合は、遺族厚生年金がもらえないことになります。

遺族年金の受給額

万が一の事態に備えるためには、受給額に関して知っておくことが欠かせません。年金受給額を把握することで、もし不足する場合は生命保険で備えるなど適切な対策を進めることができるでしょう。

遺族基礎年金の受給額

遺族基礎年金の受給額は、下記のように年齢や子の数によって差があります(令和5年4月分以降)。

遺族基礎年金の受給額
  • 67歳以下で子のある配偶者:79万5,000円(子の加算あり)
  • 68歳以上で子のある配偶者:79万2,600円(子の加算あり)
  • 子:79万5,000円+2人目以降の子の加算額(子の数で割った額が1人あたりの額)

子の加算額は以下の通りです。

1人目および2人目の子の加算額 各22万8,700円
3人目以降の子の加算額 各7万6,200円

遺族厚生年金の受給額

遺族厚生年金の年金額は、亡くなった方の「老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3」です。亡くなった方が厚生年金保険に加入していた期間が300カ月(25年)未満の場合は、「被保険者期間が300カ月ある」とみなして計算します。

例えば、厚生年金保険加入期間が5年でも、「300カ月勤めた」とみなします。5年間の平均年収が500万円の場合、老齢厚生年金額は約78万円、つまり遺族厚生年金は4分の3にあたる約58万5,000円となります。

65歳以上で老齢厚生年金を受け取る権利と遺族厚生年金を受け取る権利の両方を有している方の場合は、以下のいずれか高い方の額となります。

  • 亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額
  • 自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1と亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と額を合算した額

遺族年金額は毎年改定される

公的年金制度の支給額は、賃金上昇率や物価上昇率などを加味して毎年見直しが行われています。賃金や物価が下がれば、年金額も連動して減少する仕組みです。

毎年4月に遺族年金をはじめとした年金額は改定されるため、注目してみてください。

遺族年金がもらえないときの救済制度

遺族年金がもらえないときでも、公的給付制度が利用できる可能性があります。遺族年金がもらえないときは、以下の救済制度が利用できないか確認してみてください。

労災保険の遺族給付

亡くなった方の死因に業務起因性がある場合、下記に該当する方は労災保険から遺族に対する給付を受けられる可能性があります。

労災保険から遺族に対する給付を受けられる可能性がある方
  • 妻または60歳以上か一定障害の夫
  • 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の子
  • 60歳以上か一定障害の父母
  • 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか一定障害の孫
  • 60歳以上か一定障害の祖父母
  • 18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか60歳以上または一定障害の兄弟姉妹
  • 55歳以上60歳未満の夫
  • 55歳以上60歳未満の父母
  • 55歳以上60歳未満の祖父母
  • 55歳以上60歳未満の兄弟姉妹

亡くなった方の遺族の人数によって、年金での支給か一時金での支給か異なります。もし業務が原因で亡くなった方がいるときは、労働基準監督署で相談しましょう。

寡婦年金

寡婦年金とは、夫と生計維持関係にあり、なおかつ下記の条件に該当する妻に支給される年金です。

寡婦年金支給の条件
  • 死亡日の前日において国民年金第1号被保険者としての保険料納付期間・保険料免除期間が10年以上ある夫が亡くなった
  • 夫と10年以上継続して婚姻関係(事実上の婚姻関係を含む)にある

寡婦年金の支給期間は「60歳から65歳になるまでの間」です。「夫の第1号被保険者期間だけで計算した老齢基礎年金額の4分の3」が支給されます。

例えば、国民年金第1号被保険者として保険料を40年間納めていた方が亡くなった場合、令和5年度に関しては65歳から79万5,000円が受給できます。寡婦年金額は「79万5,000円✕4分の3」で、59万6,250円です。

亡くなった夫が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けたことがあるときや、妻が繰り上げ支給の老齢基礎年金を受けているときは、寡婦年金は支給されません。具体的には、専業主婦で夫が老齢基礎年金を受給する前に亡くなったとき、寡婦年金の対象となります。

死亡一時金

死亡一時金は、亡くなった方の妻以外も支給対象者となる一時金です。

亡くなった方が、死亡日の前日において第1号被保険者として保険料を納めた月数が36カ月以上あることが条件です。

死亡一時金を受給できるのは、下記の中で最も順位が高い方となります。

死亡一時金を受給できる順位
  • 1位:配偶者
  • 2位:子
  • 3位:父母
  • 4位:孫
  • 5位:祖父母
  • 6位:兄弟姉妹

死亡一時金の額は、下記の表のように保険料を納めた月数に応じて12万円~32万円の範囲で決定します。亡くなった方が老齢基礎年金・障害基礎年金を受けたことがあるときは、死亡一時金は受給できません。

月数金額
36カ月以上180カ月未満12万円
180カ月以上240カ月未満14万5,000円
240カ月以上300カ月未満17万円
300カ月以上360カ月未満22万円
360カ月以上420カ月未満27万円
420カ月以上32万円

例えば、第1号被保険者として保険料を納めた月数が5年(60カ月)の方が亡くなった場合、遺族に死亡一時金として12万円が支給されます。

また、死亡一時金と寡婦年金の両方の受給権を満たす場合は、併給できずどちらか一方を選択します。基本的には寡婦年金の方が受給額が高くなるため、寡婦年金を選ぶのがベターです。

ただし、自身が老齢基礎年金を繰上げ受給して寡婦年金を受給できない場合は、死亡一時金を選択して受給しましょう。

遺族年金の男女間格差の解消が審議されている

現行の遺族年金の制度は、「男性が働き女性が育児をする」という前時代的な家庭を想定されています。遺族厚生年金に関して夫の受給条件は厳しく、専業主夫にとっては厳しい設計と言わざる得ません。

実際に、厚生労働省の2021年度の調査によると、遺族厚生年金の受給者は9割以上が女性でした。

厚生労働省は、遺族年金制度の男女差を解消するための議論を進めており、2025年に法改正の案を国会へ提出することを目指しています。時代の変化に伴って年金制度も改変されていくため、年金に関するニュースには注目すると良いでしょう。

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