相続放棄しても生命保険金は受け取れる?借金の回避や税の扱いも解説

相続放棄を行えば負債を引き継ぐ責任から解放されるものの、気になるのが「生命保険金も受け取れなくなるのでは?」という点です。

相続放棄をしても生命保険が受け取れるか否かは、誰が受取人に指定されているかに掛かっています。

この記事では、相続放棄をしても受け取れる生命保険金の詳細や、保険金の相続税の扱いについてくわしく解説します。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続放棄をした方が受取人の生命保険金は、放棄に関わらず受け取れる
  • 被相続人が受取人の生命保険金は、相続放棄をすると受け取れない
  • 契約者・被保険者・受取人が誰かによって、税の扱いも変わる

相続放棄をしても生命保険金は受け取れる

結論から言うと、相続放棄をしても、ただちに生命保険金を受け取る権利がなくなるわけではありません。

仮に、妻が受取人になっている生命保険に加入していた夫が亡くなったとしたら、そこで発生する保険金は妻自身の固有の財産だからです。

とはいえ、すべての生命保険金が受け取れるとは限らないことにも注意しましょう。

生命保険金は相続財産ではない

相続放棄の手続きをしても生命保険金が受け取れるのは、そもそも生命保険金は相続財産ではないからです。

確かに被相続人が亡くなったことで受け取れる保険金といえば、相続財産と同様の性質のものと思われがちです。被相続人(=被保険者)の死亡によって生じた権利という点で一致しているため、保険金が相続財産であると誤解されるのでしょう。

しかし、「保険金を受け取る権利」は受取人に生じた固有の権利であり、被相続人に発生した権利ではありません

このことから、相続放棄をしても生命保険金が受け取れるというロジックが成り立つのです。

生命保険金を受け取るには条件がある

相続放棄をした方が生命保険金を受け取るには、その保険が一定の条件を満たしたものでなければなりません。

契約者・被保険者・受取人という3者の関係を説明しながら、受け取れる保険金と受け取れない保険金の違いを見ていきましょう。

契約者・被保険者・受取人によって変わる

生命保険は一般的に、保険会社と契約者の保険契約によって成立するものですが、そこには契約者・被保険者・受取人という3者が存在します。必ずしも「契約者=被保険者=受取人」とは限りません

例えば一家の生計を支えている夫が契約者となり、妻の死亡に備えた保険に入ったとしたら、契約者は夫、被保険者は妻となります。

さらにここで、「誰がその保険金を受け取るか」も決めなければなりません。

妻の死亡に備えている保険ですから、妻以外の方が受取人になるのが通常でしょう。契約者である夫や、子どもなどを受取人に指定するのが一般的です。

契約者が夫、被保険者が妻、受取人が子どもという内容で契約した場合には、被保険者が亡くなったことによって発生する保険金は、子どもの財産となるのです。

この場合、子どもが相続放棄をしても保険金は受け取れます。相続放棄をした方が保険金受取人に指定されている場合には、生命保険金を受け取れるのです。

相続財産でない生命保険金

生命保険金が相続財産にあたるか否かは、受取人が誰であるかによって決まります。

生命保険金を受け取る権利は受取人に発生しますから、「相続が介在しなくてもご自身のものになるお金」であれば、相続財産にはあたらないのです。

相続放棄をした方が受取人

相続放棄をした方が受け取れるのは、その方が受取人に指定されている保険金です。前述の通り、保険金は受取人固有の権利ですから、被相続人の死亡によって生じたものであっても相続財産ではありません。

生命保険金を請求する権利自体が、相続放棄をした方の固有の権利であるため、保険金を受け取る行為自体が相続に該当しないのです。

被相続人の死亡によって生じた権利であることは事実ですが、それは被相続人に生じた権利ではありません。

保険金を受け取るという行為に、相続が関係していないことになるのです。

受取人の指定がない生命保険金

生命保険金の受取人の指定がない場合でも、相続財産に該当しないことがあります。それは、保険契約約款で「法定相続人が受取人になる」旨が定められているものです。

「相続人という規定なら、放棄したら受け取れないのでは?」と考える方がいるかもしれません。しかし、この場合の「保険金を受け取る権利」は相続によって得るものではなく、法定相続人自身に直接発生します。

このため相続放棄の影響を受けず、保険金を受け取れるのです。

ただし約款の定めによっては、相続財産にあたる可能性も否めません。受取人の指定がない場合、どのような扱いになるかを保険会社に確認してみることが大切です。

また、受取人を指定していたものの、その方が被保険者(被相続人)よりも先に亡くなっていた場合には、亡くなった受取人の法定相続人が受取人となることも覚えておきましょう。

相続財産にあたる生命保険金

相続財産にあたる生命保険金は、「相続手続きを経なければご自身のものにならない保険金」が該当します。

つまり、被保険者に生命保険金を受け取る権利が発生した場合には、相続財産にあたると考えられるのです。

被相続人が受取人

被相続人が受取人となっている保険金は、相続財産に該当します。

「亡くなった方が受取人になっている保険」に違和感を覚える方もいると思いますが、病気やケガに備えるための保険を想定すると分かりやすいでしょう。

これらの保険では、入院や手術などの際に保険金が支払われるとともに、被保険者が亡くなった際にも一定の保険金が下りる仕組みを備えたものが少なくありません。被保険者自身が受取人に指定されているケースもあり得るでしょう。

この場合には、保険金を請求する権利は被相続人に発生し、権利自体が相続財産として扱われるのです。

例を挙げましょう。家計を支えている夫が自らの病気やケガに備えて、自分自身を被保険者および保険金受取人とした保険を契約したとします。

この保険は、療養のために定められた保険金がすべて下りなかった場合、残る保険金が死亡時に支払われる仕組みとなっていました。そこで夫が亡くなった場合には、亡くなった夫に対して保険金が支払われるのです。

この場合には、保険金は被相続人の固有の財産です。つまり、相続財産にあたります。

保険金が相続財産にあたる事例
  • 夫:自分自身を被保険者および保険金受取人とした保険を契約
  • 残る保険金が死亡時に支払われる仕組み
  • 夫が亡くなった場合:亡くなった夫に対して保険金が支払われる

生命保険の解約返戻金

生命保険金の解約返戻金も、相続財産にあたるお金です。解約返戻金(かいやくへんれいきん)とは解約時に払い戻されるお金を指します。先の例に当てはめて考えてみましょう。

夫が契約者・被保険者・受取人となって加入していた療養のための保険で、本人が亡くなったことで解約返戻金が発生したとします。解約返戻金は契約者に対して払い戻されるお金ですから、亡くなられた被相続人がもらうべき性質のものです。

この場合の解約返戻金も被相続人の財産で、相続財産にあたります。

解約返戻金が相続財産にあたる事例
  • 夫:契約者・被保険者・受取人となって療養のための保険加入
  • 夫が亡くなった場合:解約返戻金が発生
  • 解約返戻金は契約者に対して払い戻されるお金のため、夫が受取人

生命保険金にかかる相続税の注意点

生命保険金は必ずしも相続財産にはあたりませんが、税法上の観点では相続財産と同様に扱われる可能性があります。

被相続人の死亡という要因で発生する権利であるため、相続人が受け取った場合には相続財産と同様に課税するのです。

生命保険金は「みなし相続財産」に該当する

民法上の相続財産にはあたらないものの、税法上では相続財産と同様に扱われる財産を、「みなし相続財産」と呼びます。被相続人の死亡によって相続人が受け取る生命保険金は、この「みなし相続財産」に該当するのです。

相続放棄をした場合であっても、保険金が基礎控除額を超えるときは、相続税の課税対象として扱われます。

基礎控除額の計算式は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。この場合の法定相続人の数には、相続放棄をした方も含まれます

  • 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

確かに、資産を上回る負債が理由で相続放棄をした場合には、相続税の懸念は少ないかもしれません。

しかし、特定の相続人に資産を集めるために相続放棄をした場合などには、生命保険金も相続税の課税対象となることを覚えておく必要があります。

相続放棄すると非課税枠が認められない

生命保険金は相続税の課税対象とされますが、これに課せられる税金には「500万円×法定相続人の数(相続放棄をした人を含む)」の非課税枠が設けられています。しかし、相続放棄をした方は、非課税枠が使えません。

非課税枠の計算には相続放棄をした方も含めますが、相続放棄をした当人はこの恩恵を受けられないのです。

親が亡くなり、長男と次男の2人が相続人となったケースを想定してみましょう。親が被保険者、長男と次男を受取人として、それぞれ1,000万円ずつの生命保険に加入していたとします。

この場面で長男が相続放棄をしても、ご自身が受取人となっている1,000万円の生命保険金は受け取れます。しかし、長男は非課税枠が使えなくなるのです。

非課税枠は500万円×2人で1,000万円ですが、その恩恵を受けられるのは、相続放棄をしていない次男だけです。長男は1,000万円すべてが課税対象となり、次男には課税されません。

事例(親が亡くなった場合)
  • 親が被保険者、長男と次男を受取人として、それぞれ1,000万円ずつの生命保険に加入
  • 長男(相続放棄):生命保険金1,000万円の受け取り、すべてが課税対象
  • 次男:生命保険金1,000万円の受け取り、相続税控除により非課税

契約者によっては所得税や贈与税がかかる

生命保険金は「みなし相続財産」として相続税の課税対象となるのが通常ですが、契約者によっては所得税や贈与税がかかる場合があります。

保険料を負担した契約者自身が受取人だった場合には、一時所得とされ所得税の対象になります。また、契約者自身が被保険者でも受取人でもない第三者の場合には、契約者から受取人への贈与と判断され、贈与税の対象となるのです。

夫が契約者となり、妻の死亡に備えた保険に加入したケースで考えてみましょう。この場合の契約者は夫、被保険者は妻です。

契約者である夫が受取人となっている場合には、自分自身の負担によって加入した保険から保険料が支払われるため、一時所得と考えられます。

それに対し子どもが受取人に指定されていた場合には、夫が負担した保険が子どもの財産になるため、夫(子どもにとっての父親)から子どもへの贈与があっとものとみなされます。

前者の場合には所得税、後者の場合には贈与税の対象となるのです。

事例
  • 夫が契約者となり、妻(被保険者)の死亡
  • 受取人が夫の場合:保険料を支払いしていたため一次所得となり所得税の対象
  • 受取人が子どもの場合:夫が負担した保険が子どもの財産になるため贈与税の対象

相続放棄しても受け取れるその他のお金

被相続の死亡に起因して受け取る権利が発生するお金は、生命保険だけとは限りません。中には相続放棄しても受け取れるお金も存在します。

相続放棄をした方でも受け取れる、その他の給付金などについても確認しておきましょう。

遺族年金

遺族年金とは、国民年金や厚生年金の加入者が亡くなった場合に、一定の要件を満たした遺族に支給される年金です。国民年金から支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金から支給される「遺族厚生年金」という2つの制度があります。

国民年金は20歳以上の国民全員が加入する年金制度で、厚生年金は会社員や公務員の方だけが加入する年金制度です。そもそも加入の条件が異なっているうえ、遺族年金の受給要件や金額も相違があります。

国民年金 厚生年金
制度 20歳以上の国民全員が加入 会社員や公務員の方だけが加入
加入者が亡くなった場合、遺族に支払われる 遺族基礎年金 遺族厚生年金

しかし、いずれの遺族年金も、それを受給する権利は遺族の固有のものと認められているため、相続財産には含まれません。

仮に相続放棄をしたとしても、遺族年金の受給要件を満たしていれば、受け取れるのです。

死亡退職金

死亡退職金は、労働者の死亡に伴う退職で発生する退職金を指します。就業規則などで受取人の定めがあれば、亡くなった退職者本人に代わって遺族が受け取れる仕組みです。

この場合の死亡退職金は、規定された受取人に発生した権利といえるため、相続放棄をしても受け取れます。

ただし、就業規則などで被相続人が受取人に指定されている場合などには、相続財産に該当します。つまり相続放棄をすると、死亡退職金も受け取れません。

また、死亡退職金も「みなし相続財産」とされており、相続税の課税対象となることも覚えておきましょう。

相続で生命保険を有効活用する事例

生命保険は受取人を指定して財産を贈れるため、相続の場面でも有効活用できるケースが少なくありません。特徴的な事例を見てみましょう。

特定の相続人に財産を集めたいケース

遺産をできるだけ分割せず、特定の相続人に集中させたいケースでは、生命保険を活用できます。

遺産を遺したい相手を生命保険の受取人にする方法だけでなく、遺産を受け取れなくなる相続人の財産を補償するための方法としても有効です。

例えば同居していた長男に単独で自宅を相続させたいと思っても、それによって他の相続人の受け取る財産が過少になるケースなどが考えられるでしょう。

この場面では、足りない相続財産を補填する方法として生命保険金を活用できるのです。

負債の相続を回避したいケース

被相続人が負債を抱えているケースでは、相続放棄が有効な選択肢となります。負債の相続を回避しつつ、一定の財産を受け取るには、生命保険の活用が効果的です。

相続放棄をするとプラスの財産も受け取れなくなりますが、相続人が受取人になった生命保険であれば、相続放棄の影響を受けずに受け取れます

ただし、被相続人の生前に債務の返済が滞っている場合には、生命保険も差し押さえの対象になることを知っておきましょう。

負債を原因として相続放棄を検討しなければならないケースでは、被相続人の生前から専門家に相続放棄に関する相談をしてみるのも1つの方法です。

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