相続放棄は弁護士への相談が失敗しない秘訣|費用やメリットを解説

相続放棄は、原則として相続人本人が行うべき手続きです。法律上の知識が不足する部分や時間や労力を掛けられない部分だけを、専門家の力を借りながら進めるという選択肢も悪くはないでしょう。

しかし、相続放棄をする背景には、そうせざるを得ない事情があるのが大半なのではないでしょうか?そのようなケースでは、万が一でも失敗するわけにはいきません。

そういった万が一のリスクを最小限に抑えるために、相続放棄を弁護士へ相談するメリット依頼先の探し方のポイントについて、くわしく解説していきます。

1分でわかる!記事の内容
  • 弁護士には相続放棄のすべての手続きを一貫して委任できる
  • 相続放棄が却下されると挽回が難しいため、事前の準備が重要
  • 相続放棄を依頼する弁護士を選ぶには、取扱業務を参考にするのがおすすめ

相続放棄を弁護士に依頼すべき理由

相続放棄の手続きを弁護士に依頼すべき最大の理由は、相続放棄の申述が却下されるという最悪の事態を回避するためです。

相続に関する手続きには、さまざまな専門知識が求められます。相続を拒否する選択である相続放棄も、例外ではありません。

弁護士が持つ知識や経験を生かして、相続放棄が却下されるリスクを抑えつつ合理的に手続きを進めることが、相続放棄を弁護士に依頼する目的であり、依頼すべき理由でもあるのです。

相続放棄が却下されると申述できなくなる

相続放棄の申述は、積極的に認められる方向で運用されているとはいえ、100%ではありません。しかも相続放棄が却下されると、同様の手続きは二度と認められないのです。

このため却下される要因に少しでも該当する恐れがある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

仮に申述が却下された場合には、即時抗告という手続きが可能です。これは裁判所の審判を不服として上級の裁判所に審理してもらう手続きで、相続放棄が却下された場合に認められる唯一の手段といえます。

しかし、これは一度下された審判を覆す手続きにほかなりません。相続放棄の申述が却下されるべきではない理由を合理的に説明することが求められるため、非常に高度な法解釈や判例の知識が不可欠です。

よほど法律に精通した方であっても、これを実現するのは難しいと言わざるを得ないでしょう。

却下されたケースで弁護士の力が必要になることはもちろんですが、さらに大切なのは却下されない申述を行うことです。できるだけ早い段階から弁護士の力を借りて、却下という事態を防ぐことが得策といえます。

相続放棄で100%債務から免れる訳ではない

相続放棄をすれば、原則として被相続人の借金を引き継ぐ必要はありません。ただし、すべての借金から完全に開放されるとは言い切れないことも事実です。

なぜなら相続放棄の申述に関しては、相続人の権利として広く受理される方向で運用されている一方で、それによって「個別の債権・債務が完結した」とまでは考えられていないからです。

具体的な例を挙げましょう。

相続放棄をした方であっても、特定遺贈によって遺産を取得することは可能です。相続と遺贈とは全く別の制度とされているからです。

この仕組みを悪用すれば、多額の借金を持つ被相続人が資産を特定して遺贈すれば、相続放棄をすることで借金を回避しつつ資産だけを手に入れられます。

しかしこれでは、債権者にとって極端に過大な不利益が生じるといえるでしょう。このような場合、仮に相続放棄が認められていたとしても、債権者から訴訟を起こされる可能性も否めません。

もちろんこれは極端な例ではありますが、相続放棄によって相続人と債務者の間に合理的といえないほどの利益や不利益が生じる場合には、争いが生じるリスクはゼロではないのです。

債権者の対応も任せられる

債権者の対応を任せられることも、相続放棄を弁護士に依頼すべき理由の1つです。

被相続人の借金などを理由に相続放棄を検討している場合には、少なくとも手続きが完了するまでは相続人として法定相続分に応じた債務を負っている状態です。

支払いを請求される可能性もありますし、話し合いをする必要が生じるかもしれません。

しかし、相続放棄を検討している場合の債務の扱いは非常に難しく、十分な注意が必要です。なぜなら請求に応じて支払いをしたことで、相続放棄ができなくなる可能性すらあるからです。

詳細は後述しますが、相続放棄の段階で債務者の請求に応じて返済すると、相続を承認したとみなされる可能性が生じます。

弁護士に依頼すれば、法律や判例に基づいて債権者に対応してもらうことが可能です。

手続きを一貫して委任できる

相続放棄を弁護士に依頼するメリットは、相続人や相続財産の調査から債権者への対応、他の相続人とのトラブルの対策に至るまで、すべての業務を一貫して委任できることです。

相続に関する手続きは、その1つ1つに時間と労力、そして専門的な知識が求められるものが少なくありません。

弁護士に依頼すれば、相続放棄が認められなくなるリスクを最小限に抑えつつ、合理的に手続きを進めてくれる可能性が高いでしょう。

司法書士では対応できないことがある

相続放棄を依頼できる専門家には、弁護士のほかに司法書士がいます。

しかし、弁護士にはすべての手続きを一貫して委任できるのに対して、司法書士に委任できるのは申述書の作成までにとどまります。相続放棄を司法書士に依頼した場合には、対応できる業務に制限があるのです。

相続放棄には、熟慮期間の超過や遺産の処分などによって法定単純相続に該当するリスクが存在します。これに付随して、債権者に対しても専門的な知識を持って慎重に対応することが不可欠です。

これらのすべてを任せられるのが弁護士のメリットであるといえ、それに相当するメリットは司法書士では得られないのです。

相続放棄以外のアドバイスがもらえる

弁護士に相談すれば、個々の事情により適した解決策に関するアドバイスがもらえるかもしれません。

相続放棄を検討する事情は、相続人によってさまざまでしょう。中には相続放棄が最善の選択ではない可能性もあり得ます。

相続放棄は、それによって他の法定相続人に影響を及ぼすという特性を有しています。

借金が原因で相続放棄をすれば、他の相続人が負債を抱えるリスクが生じるのです。特定の相続人に資産を集めるために相続放棄をしても、後順位の相続人に権利が移ることで目的を達成できないかもしれません。

このようなケースでは、必ずしも相続放棄が最善の選択とはなり得ないでしょう。

弁護士に相続放棄を相談することは、それを選択する背景に応じたよりよい選択肢を提案してもらえることもあるのです。

そもそも相続放棄とは

相続放棄は相続が発生したときの選択肢の1つです。相続放棄について、限定承認との違いとあわせて解説します。

すべての遺産を引き継がない手続き

相続放棄とは、被相続人のすべての遺産を引き継がない手続きです。

相続財産といっても、必ずしも預金や有価証券、不動産などのプラスの財産だけとは限りません。借入や保証債務などのマイナスの財産もすべて含まれます。

相続は故人の権利だけでなく、義務も引き継ぐ手続きなのです。

故人の負債が資産を上回っていれば、相続人には大きな不利益が生じてしまうかもしれません。このようなリスクから身を守る手段の1つが相続放棄です。

相続放棄をすれば「初めから相続人ではなかった」という扱いを受けるため、代襲相続も発生しません。

このため、借金を相続するリスクの回避や、特定の相続人に遺産を集中させる方法として有効に機能します。

限定承認との違い

借金の相続を回避する方法には、相続放棄のほかに限定承認という手続きが存在します。

限定承認は、「被相続人の資産の範囲内で負債も相続する」という手段です。つまり、相続人ではなくなる相続放棄と異なり、あくまでも相続を承認する手続きといえます。

被相続人の負債が資産を上回っていて、すべての資産を処分しても借金が清算できないケースも考えられるでしょう。この場合にも、相続人に借金を返済する義務は生じません。

つまり、相続放棄と同様の効果が生じるのです。

とはいえ相続放棄と限定承認では、手続きの方法も大きく異なります。

相続放棄は相続人の1人の意思で、単独で手続きできるのに対し、限定承認はすべての相続人が共同で手続きをしなければなりません。

効果のうえでも大きな違いがあり、限定承認は相続を承認する方法の一形態のため、後順位の法定相続人に影響を及ぼすことがないのです。

相続放棄の注意点

相続放棄は検討する場合には、いくつかの注意すべきポイントを把握しておかなければなりません。

被相続人の財産をすべて引き継がないという手続きですから、債権者や他の法定相続人といった権利関係者に多大な影響を及ぼします。このため相続放棄の手続きは、民法で厳格に定められているのです。

  • 相続放棄には3カ月の期限がある
  • 遺産を処分すると放棄できなくなる
  • 相続放棄は撤回できない

相続放棄には3カ月の期限がある

相続放棄を選択するには、相続開始を知ったときから3カ月に、家庭裁判所に対して申述をしなければなりません。

この期間は相続するか否かを慎重に考える期間という意味で、熟慮期間と呼ばれます。この期日を過ぎると、相続放棄が認められなくなることを覚えておきましょう。

相続を承認するか放棄するかを決めるには、そのための検討材料が必要です。それを集めるのも、この3カ月に行わなければならなりません。

「誰が相続人になるか」「気付いていない相続人はいないか」を調査するとともに、被相続人のプラスの財産もマイナスの財産もすべて洗い出し、もれなく一覧にしなければなりません。

3カ月という期間は決して長くはないのです。

遺産を処分すると放棄できなくなる

相続放棄には、遺産を処分するなど特定の行為があった場合には放棄自体が認められなくなる制限が設けられています。

相続の原則的な手続きは単純承認とされているため、相続人が特段の意思表示をしなければ単純承認とみなされます。これが法定単純承認です。

熟慮期間を過ぎた場合のほか、遺産を処分した場合や私的に消費した場合などが該当します。例えば、被相続人の預金を私的に使い込んだ場合や、空き家になった実家を売却した場合などが分かりやすいでしょう。

前述した「被相続人が負っていた借金の請求に応じて支払いをした」なども、相続を承認したとみなされる恐れがあります。

特に、「相続を承認する方向で手続きを進めていたら、後から大きな借金が発覚した」という場合などには、法定単純承認に該当する事由が生じがちです。

それを防ぐには、正確な財産調査が不可欠といえるのです。

相続放棄は撤回できない

容易に撤回できないことも、相続放棄を行う際の注意点です。

相続放棄の申述が受理された後になって、被相続人に大きな資産が発見されたとしても、相続放棄を撤回して資産を受け継げません。これは、3カ月の熟慮期間内であっても同様です。

自己都合での撤回や取り消しは認められないものの、特定のケースに限っては取り消しが認められる可能性があります。

未成年者や成年被後見人など、法律行為が制限されている方が単独で手続きを行った場合や、その相続放棄が詐欺や脅迫に基づいて行われた場合などです。

また、申述をした後でも、それが受理される前であれば、特段の事情がなくとも取り下げられます。

相続放棄を弁護士に依頼すべきケース

相続放棄を弁護士に依頼することで得られるメリットは前述の通りですが、中でも特定のケースでは特に弁護士への依頼が重要と考えられます。

本人の力だけでは相続放棄が却下される恐れがある場合などが、弁護士に依頼すべきケースに該当するのです。

  • 熟慮期間に間に合わない
  • 債権者対応を委ねたい
  • 法定単純承認の不安がある

熟慮期間に間に合わない

相続放棄を弁護士に依頼すべきケースの1つは、熟慮期間に申述が間に合わない可能性がある場合です。

3カ月の熟慮期間内に相続財産を調査しても、相続を承認すべきか否かを決められない可能性もあるでしょう。このような場合には、家庭裁判所に対する申立てによって、期間を延長する手続きが認められています。

また、一般的に「相続開始を知ったとき」とは相続人が亡くなったときを指しますが、相続開始日が不明確である場合もあるでしょう。たとえば、被相続人との関係が疎遠になっており、亡くなったことを知らなかったケースが該当します。

すでに熟慮期間を過ぎてしまったかどうかの判断が、相続人自身でも付きかねる状況も十分に考えられるのです。

債権者対応を委ねたい

債権者対応を委ねられることも、相続放棄を弁護士に依頼する理由の1つとなります。

被相続人の借金が理由で相続放棄をする場合には、債権者への対応には十分な注意が必要であることは前述の通りです。

相続放棄が受理されるまでの期間に請求や督促がきたとしても、弁護士に交渉を依頼している旨を伝えればよいのです。

単に対応の手間が省けるだけでなく、法定単純承認に該当するリスクも抑えられます。

法定単純承認の不安がある

熟慮期間を過ぎてしまった、遺産の処分とみなされる行為があるなど、法定単純承認に該当する不安があるケースでは、できるだけ早急に弁護士に相談しましょう。

これらの状況で相続放棄の申述を行ったとしても、原則として却下されてしまいます。

しかし、例えば熟慮期間の3カ月を過ぎた場合でも、申述が受理された事例は決して少なくありません。

相続人になった事実を知らなかったこと、熟慮期間後に被相続人の負債が判明したことなど、やむを得ない事情があると認められれば、相続放棄が認められる可能性は十分にあり得ます。

また、被相続人の財産を葬儀費用に充てた場合や、経済的価値の低い財産の形見分け程度であれば単純承認とみなされない可能性もあるのです。

このような判断に、高度な法律上の知識を必要とすることは間違いありません。

相続放棄を弁護士に依頼するタイミング

相続放棄を弁護士に依頼するのであれば、できるだけ早い段階で相談することをおすすめします。

放棄する理由が借金であるならば、その負債が判明した段階で依頼しましょう。また、他の相続人とのトラブルを避けるためであれば、相続が開始した段階での依頼が適しています。

前述したとおり、相続放棄には期限があるとともに、一定の行為によって放棄自体が認められなくなる可能性があります。

相談のタイミングが早ければ早いほど、確実に相続放棄できる可能性が高まるといえるのです。

相続放棄を弁護士に依頼する費用相場

弁護士の報酬は事務所によって大きく異なりますが、相続放棄を依頼した場合の費用は5万~10万円程度に設定しているケースが多くみられます。これが1つの相場といっても差し支えないでしょう。

このほかに経費などの実費が必要になります。ご自身で相続放棄をした場合には、申述書に貼付する800円の印紙代や戸籍の取得費用、郵送料などしかかからず、数千円の出費で済むかもしれません。

確かに金額だけをみれば大きな出費ではありますが、弁護士への依頼によって支出以上の効果が得られることも十分に考えられるでしょう。

相続放棄を相談する弁護士の選び方

弁護士の業務は多岐に渡るため、必ずしもすべての弁護士が相続放棄に精通しているとは限りません。

刑事事件を主要な業務と取られている弁護士もいれば、会社などに関する商事事件ばかりを扱っている弁護士もいるでしょう。

相続放棄を依頼するのであれば、その業務に関する深い知見や多くの経験を持つ弁護士を選ぶことが大切です。

主要業務に相続をあげている弁護士を選ぶ

第一の候補となり得るのは、主要な取扱業務として相続をあげている弁護士です。

「相続放棄 弁護士 ○○県」などのキーワードでインターネットで検索するのも1つの方法です。また、日本弁護士連合会の弁護士情報提供サービス「ひまわりサーチ」などを用いて調べてみるのもよいでしょう。

ひまわりサーチは各県ごとに登録された弁護士を取扱業務などから検索できるシステムで、「遺言・相続」を取扱業務、もしくは重点取扱業務としている弁護士を検索できます。

ただし、このシステムへの登録は弁護士の任意となっているため、すべての弁護士が登録されているとは限らない点には注意が必要です。

参考:日本弁護士連合会-弁護士検索

民事事件・家事事件の実績で選ぶ

相続放棄を検討するに至った理由によっては、その事情に応じた取扱業務を考慮して弁護士を選ぶのもよいでしょう。

例えば相続放棄によって、被相続人が営んでいた会社をたたまなければならないケースも考えられるでしょうし、債権者とのトラブルを考慮しなければならないケースもあるでしょう。

このような事情がある場合には、相続放棄に対する専門性以上に、個別の事案に関する民事事件や家事事件の知見が必要とされるかもしれません。

相続放棄に至る背景に応じて、その事情に適した弁護士を選ぶのも1つの方法です。

費用が不安なら法テラスを検討

弁護士に支払う費用に不安がある場合には、法テラスの利用もおすすめです。

法テラスを利用するためには、収入や資産が一定額以下であるなどの要件があるものの、3回まで無料で法律相談が受けられるなどのメリットがあります。

法テラスとは

法テラスは、正式名称を「日本司法支援センター」といい、法律のトラブルを相談するための総合窓口として機能しています。トラブルに合った弁護士や司法書士の紹介、無料相談などを行っている組織です。

相談内容は問わないため、もちろん相続放棄に関する悩みにも対応してくれます。

相続放棄を法律テラスで相談するメリット

相続放棄の相談先として法テラスのメリットが最大限に生かせるのは、相続人が経済的に余裕がない場合です。

収入や資産が一定額以下であるなどの要件に該当する場合には、30分程度の法律相談が最大3回まで無料で受けられるほか、弁護士費用の立て替えなども行ってくれます。

立て替えてもらった着手金・実費などは分割で返済可能なため、相続放棄の費用を捻出することが困難な場合にも利用できる仕組みといえるでしょう。

相続放棄を法律テラスで相談するデメリット

法テラスに相続放棄を相談した場合には、いくつかのデメリットが生じることも知っておきましょう。

まず、法テラスの無料相談では、相談相手となる専門家が法テラスに契約している弁護士や司法書士に限られるため、自由に指定できません。

相続放棄に精通した弁護士に巡り合えるとは限らないことを知っておきましょう。

また、無料相談や費用の立て替えなど民事法律扶助業務には所定の審査があるため、すぐさま手続きに着手できない点にも要注意です。

相続放棄には3カ月という期限が定められているため、審査に時間を費やすのが不利益につながるリスクがあることも認識しておきましょう。

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