お墓は誰が相続する?手続き方法や相続したくないときの対処法を解説

「長男だから、親が亡くなったらお墓を相続しないといけない」「お墓を相続したら遠方からわざわざ手入れをしに行かなければならないの?」そのようなことでお困りではありませんか?

たしかに、以前はお墓についても「長男が継いで当たり前」というような風潮がありました。しかし、長男が承継すべきという決まりはなく、実際に長男以外の方が祭祀承継者としてお墓を継いでいるケースも少なくありません

この記事では、お墓を誰が相続するかについてや、お墓を承継する際の手続き方法、相続したくないときの対象法などを解説します。お墓の承継問題でお困りの方はぜひご覧ください。

1分でわかる!記事の内容
  • お墓の相続とは、お墓や仏壇などの祭祀財産を引き継ぐこと
  • 相続放棄をしても、祭祀承継者に指定されれば辞退できない
  • お墓を相続したくない・管理できないときはお墓の移転や墓じまいを検討する

お墓の相続とは

お墓の相続とは、お墓の名義人が亡くなることによってお墓や仏壇、仏具といった祭祀財産(さいしざいさん)を引き継ぐことです。

先祖をまつるための財産である「祭祀財産」は、不動産や預貯金などの一般的な相続財産と異なり遺産分割の対象になりません。そのため、正しくは「相続する」ではなく「承継する」と表現します。

なお、お墓の承継者は遺産分割協議でも決められますが、原則「祭祀承継者」が承継します

お墓を相続する「祭祀承継者」とは

祭祀承継者とは、お墓の所有権や仏壇、仏具などの祭祀財産を引き継ぐ方のことです。家系図や位牌、神棚なども承継し、これらを維持・管理していかなければなりません。

以前は家督相続と同様の考え方から、「長男や長女が継いで当たり前」とされていました。しかし法律にそのような定めはなく、現在では長男や長女以外の方が祭祀承継者を務めることも珍しくありません。

ここでは、祭祀承継者の役割と決定方法について解説します。

祭祀承継者の役割

祭祀承継者の主な役割は以下のとおりです。

祭祀承継者の役割
  • お墓の維持管理
  • お墓の管理費・お布施などの支払い
  • 法要の主宰・実施
  • 遺骨・お墓を所有し場所を定める

祭祀承継者には、被相続人の命日やお盆などに備えてお墓を管理する役割があります。日ごろから手入れをし、お墓を適切な状態に保たなくてはなりません。管理にかかる費用やお布施などの支払いも、祭祀承継者の役目です。

法要を行うことは義務ではありませんが、初七日や四十九日の忌日法要、一周忌や三回忌といった年忌法要など、法要の主宰も祭祀承継者が務めるケースが多いです。

また、遺骨やお墓をどこでどのように管理するかの権限も、祭祀承継者が持っています。たとえば祭祀承継者以外の方がお墓の移転を希望している場合でも、祭祀承継者の同意がないと移転できません。

祭祀承継者の決定方法

祭祀承継者の決定方法はいくつかありますが、好きな方法を選べるわけではありません。以下のように優先順位が設定されています。

  1. 被相続人の意思
  2. 親族での話し合いや慣習
  3. 家庭裁判所の調停または審判

それぞれ解説します。

相続人の意思

もっとも優先されるのは被相続人の意思です。たとえば遺言書で祭祀承継者が指定されていたときや生前に口頭で頼まれていた場合などは、被相続人の意思を尊重してその方が祭祀承継者になります。

ここでの注意点は、祭祀承継者と相続人は異なるという点です。祭祀承継者は、親族でなくても問題ありません。

ただし墓地や霊園の中には、祭祀承継者について「使用者の親族であること」などの条件を定めているところもあります。事前にルールを確認しておきましょう。

親族での話し合いや慣習

被相続人によって祭祀承継者が指定されていなければ、親族での話し合いや地域の慣習に従って祭祀承継者を決定します。遺産分割協議による決定も可能です。

以前は「土地などの家督相続と同様に、祭祀承継者も長男がなるべき」というような慣習も珍しくありませんでした。しかし、現在では慣習自体が薄れている地域も多く、親族での話し合いで祭祀承継者を決めるケースも少なくありません。

家庭裁判所の調停または審判

親族での話し合いや慣習によっても祭祀承継者が決定しない場合は、家庭裁判所に調停または審判を申立てます

通常、家庭裁判所に申し立てるときはまず調停を申立て、それでも解決しなければ審判に移行します。しかし、祭祀承継者を決定する場合ははじめから審判の申立ても可能です。なお、裁判所は以下のポイントを考慮して祭祀承継者を選定します。

祭祀承継者の選定ポイント
  • 被相続人との関係性
  • 生前の生活関係
  • 祭祀承継の意思
  • 管理能力や生活状況
  • 利害関係人の意見

そのうえで、「被相続人が生きていたら祭祀承継者に指名したであろう人物」を指定します。

祭祀承継者は原則1人であるべきとされていますが、1人で承継できない特別な事情がある場合は、複数名での分割承継や共同承継が認められる可能性があります。

お墓を相続する手続きと流れ

お墓を相続する手続きと流れは以下のとおりです。

  1. 祭祀承継者を決定させる
  2. 墓地の管理者に連絡する
  3. お墓を名義変更する
  4. 手数料を支払う

流れに沿って解説します。

1.祭祀承継者を決定させる

まず、祭祀承継者を決定させます。祭祀承継者が決まっていないと、このあと行うお墓の名義変更ができません

決定方法は前述のとおり、被相続人の遺言や口頭での指定があればそれに従い、なければ親族での話し合いや地域の慣習にならいます。それでも決まらなければ、家庭裁判所に判断を委ねます。

祭祀承継者の条件は墓地や霊園によって異なるため、決定前にルールを確認しておきましょう。

2.墓地の管理者に連絡する

祭祀承継者が決定したら墓地の管理者に連絡し、お墓の名義変更をしたい旨を伝えましょう。直接管理者のもとを訪ねても、電話での連絡でもどちらでも問題ありません。

管理者の連絡先は以下のとおりです。

墓地の種類連絡先
寺院墓地住職の自宅
事務所のある墓地その事務所
事務所のない公営墓地墓地のある地域を管轄する役所や地区の自治会長
事務所のない民間墓地墓地の管理者、墓地の管理を委託されている会社

ただし、墓地によっては上記のパターンと異なることもあるためご注意ください。また、名義変更の必要書類も墓地ごとに決まりがあります。連絡を入れる際、ついでに確認しておくとよいでしょう。

3.お墓を名義変更する

墓地の管理者に連絡をしたら、お墓の名義変更をします。必要書類は墓地ごとに異なるため、事前に問い合わせておく必要があります。

以下は、名義変更の際に求められることの多い書類です。

名義変更の際に求められることの多い書類
  • 名義変更の申請書
  • 墓地使用許可証や永代使用権承諾書など
  • 現在の祭祀承継者の死亡事項が記載された戸籍謄本
  • 新たな祭祀承継者の戸籍謄本や住民票
  • 新たな祭祀承継者の印鑑証明書・実印
  • 祭祀承継者に指名されたことがわかるもの(遺言書など)

墓地使用許可証や永代使用権承諾書は、現在の祭祀承継者が墓地の使用権を取得したときに発行された書類です。

祭祀承継者に指名されたことがわかるものについては、上記のほかにも家庭裁判所の審判書や親族の同意書などがあります。

4.手数料を支払う

多くの場合、名義変更には手数料がかかります。手数料がかかるかかからないか、また金額がいくらになるのかは墓地の種類によっても異なります。

墓地のタイプ手数料の目安
寺院墓地ケースによる
公営墓地数百~数千円程度が一般的
民営墓地数千円〜が一般的。
1万円以上かかることもある

寺院墓地の場合は檀家の地位も承継するため、手数料に加えてお布施を包む場合もあります。金額の相場はケースによるため、お寺に直接確認しましょう。

お墓を相続するメリット・デメリット

お墓を相続すると、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?ここでは、お墓を相続するメリットとデメリットについて解説します。

とくにデメリットについては、相続する前にきちんと理解しておかないとあとから苦労することになります。メリットとデメリットを事前にしっかり理解しておきましょう。

お墓を相続するメリット

お墓を相続するメリットは以下のとおりです。

お墓を相続するメリット
  • お墓や仏壇を好きなように管理できる
  • 法要の日程をご自身の都合に合わせて組める

お墓を相続し祭祀承継者になると、ご自身の好きなようにお墓や仏壇を管理できます。たとえば、墓地が遠方で管理しづらい場合に、お墓をご自身の近所にある墓地へと移転したり、ご自身の判断で墓じまいをしたりといったことも可能です。

また、祭祀承継者は法要も主宰するため、ご自身の都合で法要の日程を設定できるというメリットもあります。

お墓を相続するデメリット

お墓を相続するデメリットは以下のとおりです。

お墓を相続するデメリット
  • 管理に手間や費用がかかる
  • お墓によるトラブルに対しても責任を負う

お墓の管理には手間や費用がかかります。定期的な手入れが必要になるため、遠方の場合は通うだけでも一苦労です。

費用面についても、法要を行う際のお布施や、維持管理費を支払っていかなければなりません。場合によっては、親族や親戚の交通費を負担することもあります。

また、災害でお墓が倒壊し周囲に被害をおよぼしたときなど、管理しているお墓がトラブルの原因になった場合は対応しなければなりません。ケースによっては、損害賠償を請求されることもあります。

お墓を相続したくない・管理できないときは

お墓を相続したくない、または相続しても遠方などで管理ができない場合はどうすればよいのでしょうか?

中には、お墓を相続したくないのに祭祀承継者に指定されてしまった、という方もいるかもしれません。

祭祀承継者に指定されてしまったら辞退できないとされています。しかし、また代が変わるまで無理に管理し続ける必要はありません。

ここでは、お墓を相続したくない・管理できないときの対処法をご紹介します。

家庭裁判所に調停や審判の申立てをする

親族同士の話し合いがまとまらず祭祀承継者が決まらないときは、家庭裁判所に決定してもらいます。この場合、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に対して「祭祀承継者指定の調停または審判」を申立てます。

通常、家庭裁判所に申立てをする際はまず調停を申立てるのが原則ですが、祭祀承継者を指定する場合は調停を経ずに審判を申立てても構いません。調停を申立ててもまとまらなければ審判に移行し、家庭裁判所が祭祀承継者を決定します。

祭祀承継者になりたくない・管理できない事情があるときは、なりたくない・できない理由を調停や審判の際に主張する必要があります。

ただし、主張の裏付けとなる証拠を用意しなければならないため、調停や審判に進む場合は申立ての段階で弁護士に相談したほうがよいでしょう。

お墓を移転させる

「祭祀承継者になるのは構わないけど、お墓が遠方にあるため管理が難しい」というようなケースであれば、お墓をご自身の近所にある墓地へと移転させるのも1つです。祭祀承継者であれば、ほかの親族の同意がなくてもご自身の判断で移転が可能です。

ただし、お墓を移転するのであれば、当然移転先の墓地を購入しなければなりません。また、「改葬」という手続きも必要です。時間や費用がかかるため、慎重に判断すべきでしょう。

墓じまいを検討する

祭祀承継者になったものの、祭祀承継者としての務めをこなせない場合は「墓じまい」をするという選択肢もあります。

墓じまいとは、墓石を撤去して区画を更地に戻し、墓地の管理者に使用権を返還することです。墓じまいをすれば、今後は墓地を維持管理していく義務も管理費用を納めていく必要もなくなります。

ただし墓じまいをするには、以下のような作業が必要です。

墓じまいに必要な作業
  • 改葬許可申請
  • 墓地との使用契約の解約手続き
  • 墓石の撤去・処分
  • 新たな納骨先の確保

墓じまいには、申請・手続きの手間や、墓石の撤去費用などがかかります。

また、お墓を撤去することだけでなく、お墓から取り出した遺骨をどうするかについても検討しなければなりません。新たな納骨先を用意する費用も考えると、莫大な費用がかかる可能性があります。

お墓を相続する際の注意点

墓地や霊園ごとにルールが設けられている点や、お墓は相続放棄できない点など、お墓を相続する際に注意すべきポイントはいくつかあります。

ある日突然訪れるのが相続です。相続が開始してから調べ始めるのでは遅いこともあります。

ここでは、お墓を相続する際の注意点について解説します。注意点をそれぞれ確認し、事前に備えておきましょう。

墓地や霊園ごとにルールが設けられている

墓地や霊園ごとに、ルールが設けられている点に注意しましょう。

祭祀承継者には、法律上は誰でもなれるとされています。しかし墓地や霊園によっては、たとえば「原則3親等まで」「使用者の親族でなければならない」など、祭祀承継者について条件が定められていることがあります。

名義変更の必要書類や手数料なども墓地や霊園ごとに決められているため、事前の確認が必要です。

お墓は相続放棄できない

お墓を相続したくないと思っても、相続放棄できません。お墓や仏壇といった祭祀財産は遺産分割の対象にならず、相続放棄とは関係がないためです。

相続放棄をして相続権を失っていても、祭祀承継者に指定されれば就任しなければなりません。たとえば相続人全員が相続放棄したケースでも、誰かはお墓を管理する必要があるのです。

しかし考え方を変えれば、被相続人に多額の借金があり、相続人全員が相続放棄をせざるを得ないような場合でも、お墓や仏壇は失わずに済むということです。お墓や仏壇は相続財産には含まれないため、相続放棄をしたあとでも問題なく承継できます。

お墓の相続には相続税がかからない

お墓の相続には相続税がかかりません。お墓や仏壇などの祭祀財産は相続財産に該当せず、相続税の課税対象にならないためです。ほかにも、固定資産税や贈与税などといった税金もお墓にはかかりません。

生前にお墓や仏壇を購入しておけば相続税の課税対象である現金が減るため、有効な節税対策になります

しかし、必要以上に装飾が施されているものや純金製のものなどを購入した場合、課税逃れを疑われる可能性があります。相続税の課税対象になることがあるため注意が必要です。

もめないために事前に話し合っておく

もめないためには、親族同士で事前によく話し合っておくことが重要です。被相続人が元気なうちに、被相続人本人がどうしたいかを聞いておくとよいでしょう。

少しでももめる可能性がある場合は、遺言書を作成してもらうことをおすすめします。遺言書があれば、もめることなくスムーズに祭祀承継者を決定できます。

祭祀承継者を決める際に意見がまとまらず、親族間でトラブルになってしまったときは、できるだけ早く弁護士に相談しましょう。

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