「限定承認にデメリットがないか気になっている」「限定承認をするべきかどうかがわからない」など、本当に限定承認をしてしまってよいのかお悩みではありませんか?
限定承認はたしかにメリットも多いですが、場合によってはそれ以上のデメリットも存在します。そのため、メリットとデメリットの両方を把握したうえで検討する必要があるでしょう。
この記事では、限定承認のメリットやデメリット、手続きについて解説します。限定承認にかかる費用や限定承認をしたほうがよいケースについてもご紹介しているため、限定承認についてお悩みの方はぜひ最後までご覧ください。
- 限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を相続すること
- 限定承認は相続人全員で行う必要がある
- 限定承認は、プラスの財産とマイナスの財産どちらが多いかがわからない場合に有効な手段
限定承認とは
限定承認とは、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する方法です。プラスの財産とは現金や預貯金、不動産、有価証券などのことをいい、マイナスの財産とは借入金や税金、家賃などの未払金を指します。
たとえばプラスの財産がマイナスの財産よりも大きい場合、負債を精算したあとに残った部分を相続財産として受け取れます。反対にプラスの財産よりもマイナスの財産のほうが大きいなら、「プラスの財産の範囲内」で負債を精算するため財産はプラマイゼロです。
この場合、手元には財産が残りませんが、プラスの財産を超えた部分については返済する必要がありません。
なお、相続の方法には、限定承認のほかにも「単純承認」「相続放棄」という2つの方法があります。相続人は被相続人の相続が開始したあと、3つの方法のうちいずれかを選択します。
単純承認 | プラスの財産もマイナスの財産もすべて無条件に相続する |
---|---|
限定承認 | プラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する |
相続放棄 | 相続権を放棄し、はじめから相続人でなかったことにする |
何も手続きをしなければ単純承認を選択したことになり、プラス・マイナスにかかわらずすべての財産を相続してしまう点に注意が必要です。
限定承認のメリットとデメリット
限定承認を選択した場合、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか?ここでは、限定承認のメリットとデメリットをそれぞれご紹介します。
限定承認をするメリット
限定承認をするメリットは以下のとおりです。
- 借金を背負わずに済む
- プラスの財産があれば手元に残せる
- 特定の相続財産を優先的に買い取れる
- 後日判明した相続財産についても相続できる
- 相続人の順位が変わらない
それぞれ解説します。
借金を背負わずに済む
限定承認を選択することで、借金を背負わずに済みます。限定承認は、プラスの財産の範囲内でマイナスの財産を引き継ぐ方法であるためです。
たとえプラスの財産よりもマイナスの財産のほうが大きく借金を返しきれない場合でも、相続人はプラスの財産を超えた部分について、ご自身の財産から返済をする必要がありません。
プラスの財産があれば手元に残せる
マイナスの財産よりもプラスの財産のほうが大きければ、その分手元に財産を残せます。
多額の借金が判明していても、中にはきちんと計算をしたら結果的にプラスだったというケースもあります。しかし、借金があるからと相続放棄をしてしまうと、受け取れるものも受け取れません。
手放したくない財産があり相続放棄を迷っているというケースなら、限定承認を検討する価値はあるでしょう。
特定の相続財産を優先的に買い取れる
限定承認を選択すると、負債が多く手元に残せる財産がなくても、自宅や車といった特定の相続財産を優先的に買い取れます。この権利を「先買権(さきがいけん)」といい、相続放棄では認められませんが、限定承認を選択した場合には行使が可能です。
プラスの財産で負債を精算する際、金銭だけで返済しきれないときは不動産や動産が競売にかけられます。しかし、相続人が「先買権」を行使すれば競売を中止でき、鑑定人が定めた評価額を支払うことで特定の財産を取得できます。
買い取るための資金は必要ですが、住居や形見の品といった失いたくない財産を確保できることは十分メリットといえるでしょう。
後日判明した相続財産についても相続できる
限定承認をしたあとで新たな相続財産が判明した場合も、限定承認なら相続が可能です。相続放棄をしてしまうと、後日どのような財産が発見されても、すでに相続人ではなくなっているため一切相続できません。
また、後日判明した財産がマイナスの財産であったとしても、引き継ぐのはプラスの財産の範囲内です。
たとえばプラスの財産が1,000万円あり、後日2,000万円の借金が判明した場合、相続人は1,000万円のみ返済すればよく、相続した1,000万円を返済に充てれば済みます。
しかし、単純承認であれば2,000万円を返済しなければならないため、相続人にかかる負担が大きくなります。
相続人の順位が変わらない
限定承認を選択した場合、相続放棄とは異なり相続人の順位が変わりません。
相続放棄をすると、相続権が後順位の相続人に移ります。たとえば配偶者と子どもが相続人になるケースで、第1順位の子どもが相続放棄をすると、第2順位である父母や祖父母が相続人になります。
単に「持て余すから相続財産はいらない」というような考えで相続放棄をするのであれば問題ないかもしれません。
しかし、多額の借金があるなどの理由で相続したくない場合、後順位の方が借金を背負ったり相続放棄の手続きをしたりしなければならず、結果的に迷惑をかけてしまうおそれがあります。
限定承認であれば相続人の順位が変わらないため、後順位の相続人への影響を気にする必要はありません。
限定承認をするデメリット
限定承認をするデメリットは以下のとおりです。
- 相続人全員で手続きする必要がある
- 譲渡所得税が発生する可能性がある
- 手続き完了まで相続財産に手がつけられない
- 時間や手間がかかる
- 費用が高額になる可能性がある
- 小規模宅地等の特例が受けられない
それぞれ解説します。
相続人全員で手続きする必要がある
限定承認は、相続人全員で手続きする必要があります。つまり、1人でも反対している方がいると限定承認はできません。
単純承認や相続放棄であれば、それぞれが単独で選択できます。しかし、限定承認に関しては単独で選択できないため、その分ハードルが高い方法であるといえるでしょう。
限定承認を選択したくても、その時点ですでに単純承認をしている相続人がいれば相続人全員で限定承認をすることが叶わなくなるため、限定承認はできなくなります。
譲渡所得税が発生する可能性がある
限定承認をすることで、相続税のほかに譲渡所得税が発生する可能性があります。税法上、限定承認をすると「相続人が被相続人から時価で財産を購入した」とみなされるためです。
たとえば、被相続人が3,000万円で購入した土地を例に考えてみましょう。被相続人が3,000万円で購入した土地の時価が、相続時に5,000万円まで値上がりしていた場合、値上がりした2,000万円に対して譲渡所得税がかかります。
譲渡所得税は被相続人が納めるべき税金ですが、相続財産の中から支払わなければならないため、その分手元に残せる財産が減ってしまいます。
手続き完了まで相続財産に手がつけられない
限定承認を選択しても、手続きが完了するまでは相続財産に手をつけられません。たとえ一部でも処分するなどの行為をしてしまうと、単純承認を選択したとみなされ、それ以上限定承認の手続きが進められなくなるためです。
多額の借金がある場合、単純承認を選択したとみなされるとその借金を相続人が背負わなくてはなりません。
限定承認をしたいなら、限定承認の手続きが完了するまで相続財産に手をつけられず、遺産分割なども手続き完了後に行う必要があることを覚えておきましょう。
時間や手間がかかる
限定承認は時間や手間がかかります。相続人全員で行う必要がある以上、相続人調査をしっかり行い、全員と連絡を取らなければならないためです。
場合によっては、これまで存在すら知らなかった相続人とコンタクトを取らなければならないことや、反対している相続人の説得、相続放棄の提案を行う必要なども出てきます。
また、申述が受理されたあとも手続きは続くため、申述から1年以上かかるケースも少なくありません。
費用が高額になる可能性がある
限定承認を選択した場合、費用が高額になる可能性があります。限定承認の手続きは難しく、専門家に頼らざるを得ないケースがほとんどであるためです。
専門家に依頼すると、事務所にもよりますが着手金だけで30万円程度かかることもあり、どうしても費用が膨れ上がってしまいます。さらに、成功報酬も支払わなければなりません。
相続放棄であれば専門家に依頼したとしても数万円で済むパターンが多いため、費用の面でほかの相続方法と大きな差が出ます。
そのほか、限定承認が認められると債権者への請求申出を官報にて行う必要があり、掲載料として5万円程度かかります。
小規模宅地等の特例が受けられない
限定承認を選択すると「小規模宅地等の特例」など、相続税が軽減できる制度が利用できなくなります。場合によっては、単純承認をして特例を利用したほうがプラスになる可能性もあります。限定承認をする際は、慎重に行う必要があるでしょう。
限定承認の手続きについて
限定承認の手続きは複雑で準備すべき書類も多いです。ここでは、限定承認の流れや期限、必要書類について解説します。
手続きの流れ
限定承認の手続きの流れは以下のとおりです。
- 家庭裁判所に限定承認申述書を提出する
- 家庭裁判所から相続人全員に照会書が送付される
- 照会書に対する回答書を相続人全員が返送する
- 申述受理証明書が発行される
- 相続人が複数名いる場合は相続財産管理人が選任される
- 官報に掲載される
- 債権者に対して請求の申出を催告する
- 相続財産が競売によって現金化される
- 債務の弁済が行われる
- 遺産分割
限定承認申述書と添付書類は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。相続人の住所地ではない点に注意が必要です。
申述書提出後、家庭裁判所から相続人全員に照会書が送付されます。照会書が届いたら、照会書に対する回答書をそれぞれが返送します。そのあと限定承認が認められれば「申述受理証明書」が発行される流れです。
しかし、手続きはそこで終わりではありません。相続財産管理人の選任や官報への掲載、相続財産の競売などが行われ、債務を弁済してようやく手続き完了です。残った財産は相続人で分配します。
期限
限定承認には「自己のために相続が開始されたことを知ったときから3カ月」という期限が定められています。これを「熟慮期間」といい、限定承認をするなら熟慮期間内に手続きをしなければなりません。
しかし、相続人の調査を行い、すべての相続人に連絡を取ったり話し合いをしたりする必要があることを考えると、3カ月という期間は非常に短く感じるでしょう。
3カ月以内に手続きできそうにない場合は、「期間伸長申立て」を行うことで期間の延長を申立てられます。
何もせず期間を過ぎてしまうと、単純承認をしたとみなされ限定承認ができなくなるため、間に合いそうにないと思った時点で申立てを行っておくとよいでしょう。
必要書類
限定承認の申述に必要な書類は以下のとおりです。
- 限定承認の申述書
- 被相続人の戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票または戸籍の附票
- 法定相続人全員の戸籍謄本
- 財産目録
そのほか、家庭裁判所から提出を求められた書類があれば準備します。
被相続人の戸籍謄本は、被相続人の出生から死亡までのものが一式必要です。市区町村役場の窓口で「出生から死亡までの戸籍がほしい」と伝えると、その役場で取得できるものはすべて出してもらえます。
被相続人の除票や附票は、「最後の住所が記載されているもの」を請求しましょう。わからない場合は窓口でそのとおり伝えると必要なものを取得できます。
財産目録とは、相続財産の内容や評価額などをまとめて一覧表にしたものです。財産目録には、漏れがないようすべての財産を記入する必要があります。財産隠しを行うと、単純承認をしたとみなされるおそれがあるため注意しましょう。
なお、申述書と財産目録の様式は裁判所の公式ホームページからダウンロードが可能です。記入例も掲載されているため、参考にするとよいでしょう。
限定承認にかかる費用
限定承認にかかる費用は以下のとおりです。
申述書類提出時の収入印紙代 | 800円 |
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戸籍・住民票の除票取得費用 | ・現在戸籍…450円 ・改製原戸籍・除籍…750円 ・住民票の除票…200〜300円 ・戸籍の附票…200〜400円 |
郵送料 | 要問い合わせ |
官報への広告費用 | 5万円程度 |
最低限上記の費用がかかります。
郵送料とは、照会書を送付する際の郵便切手代です。細かい金額は家庭裁判所によって異なるため、事前に確認するようにしましょう。
債務を精算するために不動産の現金化が必要なら、鑑定費用や競売費用も支払わなければなりません。
競売費用に関しては、申立て費用と予納金がかかります。申立て費用は数千円程度で済みますが、予納金は高額になることが多く、100万円近くかかることも珍しくありません。
そのほか、専門家に依頼する場合は専門家の報酬も発生します。事務所にもよりますが、30万円程度の着手金+成功報酬がかかります。
ケースによっては、高額な費用がかかることを覚悟しておく必要があるでしょう。
限定承認を行ったほうがよいケース
ケースによっては、限定承認が有効な場合があります。ここでは、限定承認を行ったほうがよいケースをご紹介します。
プラス・マイナスどちらが多いかわからない
プラスの財産もマイナスの財産も多く、どちらが上回っているかわからない場合は限定承認が有効です。マイナスの財産のほうが多い場合や、後日新たな借金が判明したときでも、限定承認を選択することで借金を背負わずに済みます。
また、借金が多いからといって相続放棄をしてしまうと後日プラスの財産が判明しても相続できませんが、限定承認であれば後日判明した財産についても相続が可能です。
家業を継ぎたい
被相続人が家業を営んでおり、相続人が家業を継ぎたいと思っている場合、限定承認を選択したほうがよい可能性があります。
いくら被相続人の負債が多いからといって相続放棄を選択してしまうと、事業を行う場所や設備も失ってしまうため家業を継ぐことは困難です。しかし、限定承認を選択し「先買権」を行使すれば、費用はかかりますが家業を継ぐために必要なものは守れます。
借金も精算できるため、債務のない状態から再スタートできる点も大きいでしょう。
手放したくない財産がある
実家や車など、手放したくない財産がある場合も限定承認は有効な手段です。限定承認を選択し、先買権を行使すれば手元に財産を残せる可能性があるためです。
ただし、限定承認は予想外に費用がかかってしまうことがあります。どれくらいの費用がかかるのかを視野に入れ、相続人同士でよく話し合ったうえで決定する必要があるでしょう。
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