遺族年金は夫が死亡した70歳以上の方でいくら受け取れるのか、そもそももらえるのか不安に思っている方はいませんか?
遺族年金は70歳以上でも、一定の要件を満たしていれば受け取れます。ただし「いくら受け取れるのか」という点については、計算方法が複雑でわかりづらい場合があるため、計算方法をよく確認する必要があるでしょう。
この記事では70歳の方の受給額や、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」それぞれの計算方法について解説します。遺族年金について不安がある方はぜひ最後までご覧ください。
- 遺族年金とは、遺族にとって働き手だった方を亡くした場合に支給される年金のこと
- 遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類がある
- 遺族年金は、亡くなった方と遺族のどちらかが70歳以上である場合でも、一定の要件を満たしていれば受け取れる
遺族年金とは
遺族年金とは、亡くなった方が一家の大黒柱であるなど、遺族にとって働き手であった場合に遺族が受け取れる年金のことです。
遺族年金を受け取るには、亡くなった方が国民年金または厚生年金保険の被保険者であるか、過去に被保険者であった必要があります。
また、亡くなった方の納付状況や、遺族年金を受け取る遺族の年齢、優先順位などさまざまな条件を満たさなければなりません。
遺族年金には「遺族基礎年金」と「遺族厚生年金」の2種類があり、どちらの年金が受け取れるかは、亡くなった方の年金加入状況によって異なります。ケースによっては両方受給できる場合もあります。
遺族年金は70歳以上でも受給できる
遺族年金は、亡くなった方と遺族のどちらかが70歳以上でも、一定の要件を満たしていれば受け取れます。ここでは遺族基礎年金、遺族厚生年金それぞれの受給要件について解説します。
遺族基礎年金の受給要件
まずは、遺族基礎年金の受給要件です。遺族基礎年金を受け取るには、亡くなった方と遺族の両方が要件を満たさなければなりません。
それぞれ解説します。
参考:日本年金機構-遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)
亡くなった方の受給要件
遺族基礎年金を受け取るには、亡くなった方が以下の要件のうちいずれかに該当している必要があります。
- 国民年金の被保険者である間に亡くなった
- 国民年金の被保険者だった60〜64歳の方で、日本国内に住所を有していた
- 老齢基礎年金の受給権者だった
- 老齢基礎年金の受給資格を満たしていた
1、2については、亡くなった日の前日時点で保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上でなければなりません。保険料納付済期間には、保険料免除期間も含まれます。
ただし、令和8年3月末日までに亡くなった65歳未満の方に関しては、亡くなった日の前日から数えて前々月までの直近1年間に保険料の未納がなければ問題ありません。
3、4については、下記期間の合計が25年以上必要です。
- 保険料納付済期間
- 保険料免除期間
- 合算対象期間
「合算対象期間」とは、期間の計算には入れるものの、年金額には反映されない期間をいいます。
たとえば昭和61年以前に、国民年金に任意加入できるのにしなかった期間や、平成3年以前に、学生であったため加入しなかった期間などが該当します。
遺族の受給要件
遺族基礎年金を受け取れるのは以下の方です。
- 子どもがいる配偶者
- 子ども
亡くなった方の親や兄弟姉妹は対象外です。ただし、配偶者も子どもも、ただ配偶者や子どもであるというだけでは受給できません。「亡くなった方に生計を維持されていた」といえる状況が必要です。
「生計を維持されていた」とは、亡くなった方の収入で一家の生活が成り立っていたような状況をいいます。
配偶者の要件は以下のとおりです。
- 子どもと生計をともにしている
- 前年の年収が850万円未満、または所得が655万5,000円未満である
- 未婚である
配偶者とは、法律上の配偶者である以外に、内縁の妻や夫も含まれます。
- 亡くなった方の実子または法律上の養子である
- 18歳になった年度の3月31日を過ぎていない、または20歳未満で障害年金の障害等級が1級、2級である
- 前年の年収が850万円未満、または所得が655万5,000円未満である
- 未婚である
子どもの要件は以下のとおりです。
子どもの場合、受給するには亡くなった方と法律上の親子でなければなりません。たとえば配偶者の連れ子で、亡くなった方と養子縁組をしていない方などは対象外です。
配偶者に上記の要件を満たした子どもがいるなら、受給者は配偶者です。子どもが上記の要件を満たしており、生計をともにしている父母(亡くなった方の配偶者)がいない場合は、子どもが受給者になります。
遺族厚生年金の受給要件
続いては、遺族厚生年金の受給要件です。遺族厚生年金も遺族基礎年金と同様に、亡くなった方と遺族両方の要件を満たす必要があります。
それぞれ解説します。
亡くなった方の受給要件
遺族厚生年金を受け取るには、亡くなった方が以下の要件のうち1つでも該当している必要があります。
- 厚生年金の被保険者である間に亡くなった
- 厚生年金の被保険者期間に初診した病気やけがで5年以内に亡くなった
- 1、2級の障害厚生(共済)年金を受給していた
- 老齢厚生年金の受給権者だった
- 老齢厚生年金の受給資格を満たしていた
1、2については、亡くなった日の前日時点で、保険料納付済期間が国民年金加入期間の3分の2以上でなければなりません。保険料納付済期間には、保険料免除期間も含まれます。
ただし、令和8年3月末日までに亡くなった65歳未満の方に関しては、亡くなった日の前日から数えて前々月までの直近1年間に、保険料の未納がなければ問題ありません。
4、5については、下記期間の合計が25年以上必要です。
- 保険料納付済期間
- 保険料免除期間
- 合算対象期間
「合算対象期間」とは、期間の計算には入れるものの、年金額には反映されない期間をいいます。
たとえば昭和61年以前に、国民年金に任意加入できるのにしなかった期間や、平成3年以前に、学生であったため加入しなかった期間などが該当します。
遺族の受給要件
以下のうち、優先順位のもっとも高い方が遺族厚生年金を受給できます。
- 子どもがいる配偶者
- 子ども
- 子どもがいない配偶者
- 父母
- 孫
- 祖父母
遺族厚生年金を受け取れるのは、亡くなった方に生計を維持されていた次の方です。
- 妻
- 55歳以上の夫・父母・祖父母
- 18歳になった年度の3月31日を過ぎていない子ども・孫
- 20歳未満で障害年金の障害等級1、2級の子ども・孫
同居でも別居でも生計をともにしており、前年の収入が850万円未満または所得が665万5,000円未満でなければなりません。
子どもがいる妻に年齢制限はありませんが、夫には「55歳以上」という年齢制限があります。
父母、祖父母も同様に、亡くなった方の死亡時に55歳以上でなければ対象になりません。また、父母、祖父母の受給開始は60歳からです。
子どものいない30歳未満の妻が受給できるのは5年間のみです。子どものいない夫は55歳以上でなければ対象にならず、55歳以上でも受給できるのは60歳からとされています。ただし、遺族基礎年金とあわせて受給できるなら55歳から受給が可能です。
子ども、孫については、18歳になった年度の3月31日を過ぎていないか、20歳未満で障害年金の障害等級1、2級の状態であるのが条件です。
遺族年金を受給するための手続き
死後の手続きの1つである遺族年金の請求は、遺族年金を受け取るために必要な手続きです。すべての要件を満たしたからといって、自動的に支給されるものではないためです。
最寄りの年金事務所や街角の年金相談センターに出向き、以下の書類を提出しましょう。
- 年金請求書
- 基礎年金番号通知書または年金手帳
- 亡くなった方と遺族年金を請求する方の関係がわかる戸籍謄本
- 世帯全員の住民票(謄本)
- 亡くなった方の除票
- 遺族年金を請求する方の収入がわかる書類
- 子どもの収入がわかる書類
- 亡くなった方の死亡診断書(コピー可)
- 遺族年金を受給する口座の情報がわかるもの
年金請求書は、住所地の市区町村役場や年金事務所、年金相談センターなどの窓口に備えつけられています。そのほか、日本年金機構のホームページからもダウンロード可能です。
基礎年金番号通知書や年金手帳は、基礎年金番号を確認するために必要です。番号が確認できれば、ほかのものでも認められる場合があります。
たとえば、毎年4月末に送付される国民年金の口座振替額通知書や、年金額改定通知書からでも番号を確認できるため、年金手帳の代わりになるか問い合わせてみましょう。
ただし、何も提出できないときは「提出できない理由」を記載した書面を添付しなければなりません。
世帯全員の住民票、収入がわかる書類については、年金請求書にマイナンバーを記載すれば省略できます。また、子どもが義務教育終了前であるなら、子どもの収入がわかる書類は不要です。
義務教育終了後でも学生であれば、在学証明書や学生証のコピーを添付しましょう。
口座は、請求する方本人の口座でなければなりません。通帳の表紙裏か、キャッシュカードのコピーを用意しましょう。ただし、公金受け取り口座を使用するなら不要です。
なお、戸籍謄本、世帯全員の住民票は亡くなった方の死亡日以降に取得したもので、取得から6カ月以内のものが必要です。
遺族年金の計算方法
遺族年金の受給額はどのように計算するのでしょうか?ここでは、遺族基礎年金と遺族厚生年金の計算方法について解説します。
遺族基礎年金の計算方法
子どものいる配偶者が受け取れる、令和5年4月分以降の年金額は以下のとおりです。
67歳以下の方(生年月日が昭和31年4月2日以降) | 79万5,000円+子どもの加算額 |
---|---|
68歳以上の方(生年月日が昭和31年4月2日以前) | 79万2,600円+子どもの加算額 |
子どもの加算額は、子どもの数によって異なります。1人目、2人目はそれぞれ22万8,700円、3人目以降はそれぞれ7万6,200円です。
ただし、加算の対象になる子どもは「18歳になった年度の3月31日まで」か「20歳未満で障害等級が1、2級の状態」で、さらに未婚でなければなりません。
たとえば、配偶者が70歳で子どもはいるものの加算の対象にならない場合、配偶者がもらえる年金額は年額79万2,600円です。67歳以下で加算の対象になる子どもが3人いる場合の年金額は、以下のとおりです。
- 79万5,000円+22万8,700円×2+7万6,200円=132万8,600円
配偶者がおらず、子どもが受給するときの年金額は以下のとおりです。
- 79万5,000円+2人目以降の子どもの加算額
子どもが1人なら、受け取る年金額は79万5,000円です。2人であれば2人目の加算額22万8,700円を加え、2人で割ります。
- 79万5,000円+22万8,700円÷2=子ども1人あたり51万1,850円
参考:日本年金機構-遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)-遺族基礎年金の年金額(令和5年4月分から)
遺族厚生年金の計算方法
遺族厚生年金の年金額は「老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3」です。報酬比例部分とは、遺族厚生年金や老齢厚生年金、障害厚生年金の基礎になるもので、厚生年金保険に加入している間の報酬や期間に基づいて計算されます。
遺族厚生年金は遺族基礎年金のように定額ではなく、亡くなった方が年金に加入した時期や報酬額などによって年金額が変わってきます。
計算が複雑であるため、ねんきん定期便に記載がある「これまでの加入実績に応じた老齢厚生年金額」をもとに計算するとよいでしょう。
なお、被保険者であった期間が25年未満なら、300カ月とみなして計算します。計算式は以下のとおりです。
- これまでの加入実績に応じた老齢厚生年金額÷加入した月数×300カ月×3/4
18歳になった年度の3月31日を過ぎていない子どもや、20歳未満で障害等級1、2級の子どもがいない40歳以上65歳未満の妻は、中高齢寡婦加算の対象です。要件を満たしている場合、年額59万6,300円が65歳になるまで支給されます。
参考:日本年金機構-遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)-遺族厚生年金の年金額
遺族年金受給中に扶養に入るには
遺族年金を受給している方でも、要件を満たせば子どもや孫の扶養に入れます。ここでは、「税制上の扶養」に入る場合と「社会保険上の扶養」に入る場合について解説します。
税制上の扶養に入る場合
税制上の扶養とは、以下の要件を満たしている場合に所得控除を受けられる制度です。
- 扶養に入る方の所得が年間48万円以下、給与収入のみで103万円以下
- 扶養者と扶養に入る方が生計をともにしている
70歳以上の方が税制上の扶養に入った場合、扶養者である子どもや孫の住民税や所得税が軽減できます。控除額は以下のとおりです。
同居か別居か | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 |
---|---|---|
同居 | 58万円 | 45万円 |
別居 | 48万円 | 38万円 |
前述のとおり、扶養に入るには扶養者と扶養に入る方が生計をともにしていなければなりません。しかし必ずしも同居である必要はなく、別居の場合でも仕送りをしているなど、事情によっては認められるケースもあります。
社会保険上の扶養に入る場合
社会保険上の扶養とは、収入がないために生計が立てられない方の代わりに、子どもや孫などの扶養者が社会保険に加入する制度です。
本来であれば75歳までは国民健康保険料を納めなければなりませんが、社会保険上の扶養に入った場合、それ以降は国民健康保険料を納める必要がなくなります。
ただしそのためには、扶養に入る方の年収が遺族年金を含めて180万円以下であり、かつ以下の要件を満たすことが条件です。
- 同居:扶養者の収入の2分の1未満
- 別居:扶養者から仕送りしてもらっている金額未満
遺族年金に関する注意点
遺族年金を受給するにあたって、どのような点に注意すればよいのでしょうか?ここでは、遺族年金に関する注意点をご紹介します。
遺族基礎年金と老齢年金は二重でもらえない
遺族基礎年金と老齢年金はどちらか片方しか受給できません。そのため、どちらを受給したほうがよいのかをよく検討して選択する必要があります。
どちらを選択したほうがより多くの年金を受け取れるかは、ケースによって異なります。たとえば、老齢基礎年金のみ受給できる方であれば、老齢基礎年金よりも遺族基礎年金を選択したほうが多く受け取れる可能性が高いです。
しかし亡くなった方が公務員や会社員で、老齢基礎年金だけでなく老齢厚生年金も受給できるようなケースでは、老齢年金を選択したほうがよいこともあります。どちらを選択したらいくらもらえるのか、といったシミュレーションが重要です。
遺族厚生年金なら二重でもらえる場合もある
遺族厚生年金を受給する場合、遺族厚生年金に加えて老齢年金を受け取れることもあります。ただし、すべてのケースで二重に受給できるとはかぎらないため注意しましょう。
重要なのは、どの年金を組み合わせるかです。たとえば遺族厚生年金と老齢基礎年金であれば、どちらも受給が可能です。遺族厚生年金と、65歳以降に支給される老齢厚生年金も同時に受給できます。
ただし、この場合老齢厚生年金は全額支給されますが、遺族厚生年金に関しては老齢厚生年金に相当する額を引いて残った分のみ受け取れます。
また、遺族厚生年金と特別支給の老齢厚生年金は同時に受給できません。特別支給の老齢厚生年金とは、60〜64歳の期間に受け取れる老齢厚生年金です。
なお、以下のうち金額の大きいほうが遺族厚生年金の支給額になります。
- 亡くなった方の老齢厚生年金支給額の4分の3
- 亡くなった方の老齢厚生年金支給額の2分の1と、受給者の老齢厚生年金支給額の2分の1を足した金額
遺族年金は再婚するともらえなくなる
受給者が途中で再婚した場合、それ以降は受給権がなくなります。法的には結婚していない内縁関係でも同様です。事実婚の状態にあるときは受給権が消滅します。
ただし、遺族年金を受給していた配偶者が再婚した場合、子どもが要件を満たしていれば子どもが代わりに受給できるようになります。
なお、再婚したときは「遺族年金失権届」を年金事務所や年金相談センターに提出する必要がある点に注意しましょう。遺族基礎年金は再婚した日から14日以内、遺族厚生年金は10日以内が期限です。
再婚したり特定の相手と事実婚の状態になったりしたにもかかわらず届出を行っていないと、不正受給とみなされます。その場合、返金しなければならないのはもちろん、罰金や罰則などのペナルティを受ける可能性もあります。
期限が短いため、再婚したらすぐに手続きしましょう。
要件がなくても他制度を使えることがある
遺族年金がもらえない場合でも、ほかの制度を利用できる可能性があります。以下の2つの制度です。
- 寡婦年金
- 死亡一時金
上記の制度を利用できるのは、亡くなった方が自営業者や農業従事者などの「第1号被保険者」である場合です。ただしどちらも、受給者が老齢年金または障害基礎年金を受け取ったことがあるなら受給できません。
それぞれ解説します。
寡婦年金
寡婦年金は、亡くなった方の妻が遺族基礎年金を受給できないときに支給される年金です。亡くなった日の前日時点で、亡くなった方が10年以上保険料を納めている場合に受給できます。
対象になるのは亡くなった方の妻のみで、子どもなどほかの遺族は対象になりません。また、60〜65歳になるまでの間に支給されるものであるため、「70歳以上でも受給できる」というものではない点には注意が必要です。
死亡一時金
死亡一時金は、遺族基礎年金を受給できない場合に受け取れる一時金です。亡くなった日の前日時点で、保険料を36月以上納めているなら受給できます。
寡婦年金とは異なり、亡くなった方と生計をともにしていた遺族であれば子どもや孫、父母や兄弟姉妹などでも対象になります。
以下は受給できる方の優先順位です。
- 配偶者
- 子ども
- 父母
- 孫
- 祖父母
- 兄弟姉妹
たとえば配偶者がいれば配偶者、配偶者も子どももいない場合は父母など、優先順位の高い方が受給します。
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