遺産相続で裁判になったら?調停・審判の流れもわかりやすく解説

遺産相続は、相続人全員が納得する形で穏便に進めるのが理想です。しかし現実には、お互いの意見が対立しトラブルに発展することも珍しくありません。

遺産相続を巡るトラブル解決の手段といえば、「訴訟を起こして裁判で解決」というイメージを持たれている方も多いかも知れませんが、裁判での解決方法には、実は訴訟のほかにも「調停」「審判」という手続きが存在します。

では、この3種類の手続きはどう違うのでしょうか?また、どのようなケースで行われ、手続きはどのように進めれば良いのでしょうか?

この記事では、遺産相続における裁判の手続きの違いや流れ、ケースごとの注意点について、わかりやすく解説します。遺産相続の裁判手続きに不安を感じている方は、ぜひ参考にしてみてください。

1分でわかる!記事の内容
  • 遺産相続における裁判手続きの種類とその違い
  • 遺産分割協議の裁判手続きの進め方
  • 遺産相続で訴訟になる6つのケース

遺産相続における裁判とは

相続が発生したとき、法定相続分どおりあるいは遺言書どおりの遺産相続に相続人全員が納得して合意した場合は、裁判に発展することはまずないでしょう。

ただし、相続分について相続人同士の意見が対立したり、相続遺産そのものに争いがあったりした場合は、司法に判断を委ねる、つまり裁判にて解決を図ることになります。

相続の裁判手続きは3種類

一般的に、相続において行われる裁判手続きには「調停」「審判」「訴訟」の3種類があります。大まかな違いをまとめると、以下のようになります。

調停 審判 訴訟
司法担当者 調停委員 裁判官 裁判官
出席の必要 なし あり あり
遺産分割の解決 不可
交付書面 調停調書 審判書 判決書
公開の有無 非公開 非公開 公開

遺産分割協議は訴訟不可

遺産分割協議によるトラブルを解決したい場合は、調停もしくは審判による手続きを進めることになります。これは家事事件手続法という法律により、遺産分割に対する訴訟の提起が認められていないためです。

ただし、遺産分割協議の前提となる事実に争いがある場合、たとえば「ある財産が相続財産に含まれるか否か」「遺言は有効か無効か」などを解決する場合は、先に訴訟を提起して解決する必要があります。

遺産分割の裁判手続きは、基本的には先に調停の申立を行い、調停で話し合いがまとまらず不成立となった場合は、自動的に審判手続きに進むという流れになります。

遺産分割調停の流れと注意点

「遺産分割調停」とは、中立的な立場である調停委員が間に入り、相続人同士が家庭裁判所において話し合うことによって解決を図る手続きのことです。

裁判所における手続きとはいえ、仲介人を交えた話し合いの延長のようなイメージであるため、厳格なものではなく費用も比較的安く済みます。よって、まずは調停手続きから入るのが無難でしょう。

遺産分割調停の流れ

遺産分割調停は、以下のような流れに沿って進めます。

  1. 事前調査で資料や証拠を集める
  2. 管轄の家庭裁判所に対して、遺産分割調停を申し立てる
  3. 家庭裁判所から呼出状が届く
  4. 調停の開催(1回~数回)
  5. 調停の終了
    調停が成立した場合:調停調書が作成・交付される
    調停が不成立の場合:遺産分割審判へ自動的に移行する

事前調査で資料や証拠を集める

遺産分割協議がまとまらない場合は調停を申し立てる前に、争点となっている事項について、証拠や資料集めを行うことが重要です。

これは、調停手続きにおいて調停委員は財産の調査や公的機関への問い合わせなどを行わないため、自ら資料や証拠を収集して調停委員に提示する必要があるからです。

管轄の家庭裁判所に対して、遺産分割調停を申し立てる

管轄の家庭裁判所とは、「相手方のいずれかが住んでいる地域の家庭裁判所」または「当事者の合意で定める家庭裁判所」を指します。

たとえば、遺産分割協議に参加する相続人が自分以外に2人いる場合は、2人のうちのいずれかの住所地を管轄する家庭裁判所に対して申し立てます。ただし、全員が合意している場合は、自分の住所地管轄の家庭裁判所でも差し支えありません。

家庭裁判所から呼出状が届く

申立てが受理されれば、家庭裁判所から調停開催日を記した呼出状が届きます。調停については、本人が出席する必要はなく代理人を立てることもできます。

また、調停に参加はしたいけれどどうしても当日出席が難しいという場合は、Web会議もしくは電話による調停参加が認められることもあるため、管轄の家庭裁判所に問い合わせてみましょう。

なお、正当な理由なく呼び出しに応じず、かつ代理人の選任や書面の提出なども行わなかった場合は、法的には「5万円以下の過料」が科せられる可能性があります。ただ、現実に過料が科せられることはほぼありません。

調停の開催

調停は、調停委員が当事者全員の言い分を聞いたうえで、法律に則った解決方法を助言しながら合意を目指す形で進められます。1回の調停の所要時間は、概ね2時間程度とされています。

そのため、1回の調停で話し合いがまとまらない場合は、その後複数回に渡って調停が開催されることになります。

調停の終了

調停委員から示された調停案に対して、当事者全員が合意した場合は調停成立となり、「調停調書」が作成されて調停は終了します。

一方、当事者のうち一人でも調停案に反対している場合は調停不成立となり、自動的に審判手続きに移行します。以降の審判手続きについては、後ほど詳しく解説します。

遺産分割調停の効力

調停委員から示される調停案は、あくまでも助言であるため、それを受け入れるかどうかは当事者個々が自由に判断できます。つまり、全員が受け入れれば調停成立、一人でも反対すれば調停不成立となります。

しかし、調停案に対する合意をもとに作成された「調停調書」は、確定判決と同様の効力を持ち、内容に従わない相続人に対しては強制執行などが可能になります。「調停だから反故にしても大丈夫」などと軽く考えないようにしましょう。

遺産分割調停の費用

遺産分割調停の費用として、家庭裁判所に対する申立てそのものにかかるのは「調停申立費用:収入印紙1,200円分」+「予納郵券」です。

「予納郵券」とは、裁判手続きを進めるうえで、相手方や債権者などに書類を送付するための郵送費用を、裁判所が定めた分だけあらかじめ納めておくもののことです。予納郵券の額は家庭裁判所や事件の種類によって異なります。

申立以外の費用としては、事前調査で収集する戸籍謄本や不動産の登記事項証明書などの取得料金が必要です。また、弁護士に調停への同席や助言を求める場合は、依頼報酬も必要になります。

遺産分割調停の期間

初回の遺産分割調停は、申立からおよそ1~2ヶ月後に開催されます。遺産分割調停が1回で終わらない場合は、何回かに分けて開催されることになります。

調停開催のペースは概ね1~2ヶ月に1回とされており、案件が複雑な場合は開催回数も多くなるため、長ければ数年間に渡って調停が行われる場合もあります。

遺産分割審判の流れと注意点

「遺産分割審判」とは、裁判官が当事者の主張を考慮しながらも、自らも職権で調査・証拠収集を行い、遺産分割に対する決定を下す手続きのことです。

調停と異なり、原則的に下された決定(審判)には当事者全員が従わなくてはなりません。

遺産分割審判の流れ

遺産分割審判は、以下のような流れに沿って進めます。

  1. 遺産分割調停からの移行または遺産分割審判の申立て
  2. 家庭裁判所から呼出状が届く
  3. 審判の開催(通常は複数回)
  4. 審判の確定または不服申立て

遺産分割調停からの移行または遺産分割審判の申立て

遺産分割審判の開始は、遺産分割調停が不成立に終わった場合の自動移行というケースがほとんどです。調停を経ることなく、審判を申立てることも法的には可能ですが、実際は先に審判を申し立てても調停に付されるのが一般的です。

なお、遺産分割審判の管轄裁判所は「被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所」または「当事者の合意で定める家庭裁判所」であり、遺産分割調停とは別の家庭裁判所に移送されることもあります。

ただし、実際には遺産分割調停と遺産分割審判の管轄裁判所が異なる場合でも、遺産分割調停を行った家庭裁判所がそのまま遺産分割審判も引き継ぐ「自庁処理」になる可能性もあるので、各家庭裁判所の決定に従いましょう。

家庭裁判所から呼出状が届く

遺産分割調停からの移行でも、申立てでも、家庭裁判所から審判期日を記した呼出状が届きます。

調停と異なり、期日には当事者全員が同席する必要があります。なお、本人が出席できない場合は代理人を立てることもできますが、この場合の代理人は弁護士に限られ、家族などを代理人に指名することは認められません

審判の開催(通常は複数回)

審判においては、まず当事者すべてに主張を述べる機会が設けられます。裁判官はそれぞれの主張を聞いたうえで、必要に応じて独自に調査や証拠収集を行います。

審判は通常複数回開催され、裁判官がすべての審理が終了したと判断すると、審判決定の日が定められて審理終結となります。審理終結後に、新たな資料や証拠を提出することは認められません。

審判の確定または不服申立て

審判が決定されると裁判官により「審判書」が作成され、すべての当事者に交付されます。

この「審判書」に対して、2週間以内にいずれの当事者からも不服申立てがない場合は、審判が確定します。

一方、審判書の内容に不服がある当事者は、2週間以内に不服申立てを行うことができます。これを「即時抗告」と呼びます。なお、この2週間という期限は「審判書を受け取った日の翌日」を1日目として数えましょう。

即時抗告を行うには「即時抗告申立書」を「高等裁判所」宛に提出しなければなりません。ただし、宛先は高等裁判所ですが、提出先は審判書を出した家庭裁判所であるため注意が必要です。

もっとも、この宛先と提出先の違いも含め、即時抗告の手続自体が非常に難解であるため、専門家である弁護士に依頼するのが一般的です。

遺産分割審判の効力

遺産分割審判は遺産分割調停の調停案と異なり、審理中に裁判官が当事者に助言を行うものではありません。そのため、一旦下された審判の内容は、即時抗告しない限りそのまま有効なものとして当事者を拘束します。

「審判書」の内容は「調停調書」と同じく、確定判決と同様の効力を持ち、内容に従わない相続人に対しては強制執行などが可能になります。

なお、裁判所が裁量により法定相続分を増減することは認められていないため、基本的に審判書においては、相続遺産は法定相続分に従って分割するという結論が下されます。

遺産分割審判の費用

遺産分割審判の申立て費用は、遺産分割調停の申立て費用及び予納郵券と同じです。ただし、遺産分割調停が不成立となり遺産分割審判に移行した場合は、調停申立て時に審判の申立てもあったとみなされるため、改めて費用の納付は不要です。

なお、遺産分割審判においては、裁判官が独自に調査・資料収集を行うため、そのための費用として追加で切手代(追加郵券)の提出を求められることがあります。

遺産分割審判の期間

遺産分割審判は、一般的に遺産分割調停に比べて手続きが煩雑かつ厳格であるため、1回で終結することはまずありません。

審判開催のペースは概ね1~2ヶ月に1回と、調停のペースとほぼ同じですが、調停よりも長期化するという前提で臨みましょう。

遺産相続で訴訟が提起されるケース

遺産分割協議そのものに対して訴訟を提起することは認められません。しかし、遺産分割協議を進めるにあたって前提条件となる事項に争いがある場合は、先に訴訟により事実を確定させていれば、調停または審判手続きの申し立てが可能です。

遺産相続において訴訟が提起されるケースとしては、以下のようなものが挙げられます。

遺産相続において訴訟が提起されるケース
  • 遺産の範囲に争いがある場合(遺産確認訴訟)
  • 遺言の有効性に争いがある場合(遺言無効確認訴訟)
  • 相続人の地位・範囲に争いがある場合(相続人の地位不存在確認訴訟)
  • 遺産が使い込まれた疑いがある場合(不当利得返還請求訴訟)
  • 遺産分割協議の取り消しや無効を主張する場合(遺産分割協議無効確認訴訟)
  • 遺留分が侵害された場合(遺留分侵害額請求訴訟)

遺産の範囲に争いがある場合(遺産確認訴訟)

ある特定の財産が相続財産に該当するのかについて不明確である場合は、遺産分割協議を進めることができないため、「遺産確認訴訟」を提起して相続財産を確定させる必要があります。

典型的な例としては、以下のようなケースが考えられます。

  • 被相続人の所有不動産であるはずの物件が、いつの間にか名義変更されていた
  • 被相続人名義の預貯金口座が、実際は相続人の一人の積立口座として利用されていた

遺言の有効性に争いがある場合(遺言無効確認訴訟)

遺言書は存在するものの、その内容に疑義があり争う場合は「遺言無効確認訴訟」を提起します。具体的には以下のようなケースが考えられます。

  • 遺言書の形式が要件を欠いている
  • 高齢や精神上の障害により遺言能力が欠如していた
  • 詐欺や強迫による遺言の疑いがある

相続人の地位・範囲に争いがある場合(相続人の地位不存在確認訴訟)

誰が相続人となるかが確定しないうちは遺産分割協議を進められないため、「相続人の地位不存在確認訴訟」を提起して、相続人をすべて確定させます。これには、以下のようなケースが考えられます。

  • 被相続人に対する不行跡があり相続欠格に該当する可能性がある
  • 見ず知らずの者が被相続人の隠し子として名乗り出てきた

なお、相続欠格事由には「遺言書を偽造、破棄または隠匿した」も含まれますが、この場合は遺言無効確認訴訟において手続きを進めることになります。

遺産が使い込まれた疑いがある場合(不当利得返還請求訴訟)

相続人の誰かが、相続財産の一部を勝手に使い込んだり処分したりした疑いがある場合は、「不当利得返還請求訴訟」あるいは「不法行為に基づく損害賠償請求訴訟」により、返還を求めることになります。

遺産分割協議の取り消しや無効を主張する場合(遺産分割協議無効確認訴訟)

一旦行われた遺産分割協議に対して、新たな事実が判明した場合などは、「遺産分割協議無効確認訴訟」により、その取り消しや無効を求めることができます。

なお、取り消しと無効の違いについては、取り消しが取消権者による意思表示がなされるまでは有効であるのに対して、無効が特に意思表示を必要とせず法律上当然に無効となる点が異なります。

他にも要件や効果に細かな違いはありますが、遺産分割協議に関しては無効確認訴訟を提起して内容の無効を求める点は同じなので、ここではあまり気にする必要はないでしょう。

遺留分が侵害された場合(遺留分侵害額請求訴訟)

贈与や不平等な遺言により、相続遺産が自身の遺留分に満たない場合は、「遺留分侵害額請求訴訟」を提起して、遺留分を取り戻すことができます。

遺留分とは、兄弟姉妹以外の法定相続人に最低限保障された、一定割合の相続財産のことです。遺言であっても、この遺留分を奪うことは認められません。

遺産相続に関する裁判でよくある質問

遺産相続における裁判に関して、よく寄せられる質問をQ&A形式でまとめました。

調停なしにいきなり審判の申立はできる?

法的には可能ですが、実際に審判から開始されることはほぼありません。

相続に関する裁判は「家事事件」に分類されますが、離婚や養子縁組など家事事件の多くが、先に調停を経なければならない「調停前置主義」を採用しています。しかし、遺産分割協議については調停前置主義が採られていません。

よって、法的にはいきなり遺産分割審判の申立てを行うことも可能です。ただし、実際には遺産分割審判の申立てを行ったとしても、家庭裁判所の職権により調停に付されるのが一般的となっています。

遺産分割調停の呼び出しには応じないといけない?

実際に罰則を科せられる可能性は低いですが、何らかの方法で自分の意見を伝えておくのが無難です。

まず前提として、遺産分割調停の呼び出しに対して正当な理由なく欠席した場合、「5万円以下の過料」という罰則が設けられています。ただし、この正当な理由の判断はかなり緩く、実際に罰則が科せられるケースはほぼありません。

とはいえ、何のリアクションも取らずに欠席した場合、当事者全員の合意が必要な調停は不成立となり、自動的に審判に移行してしまいます。そうなると、たとえ不本意な遺産分割方法であっても、従わなくてはならなくなります。

このような事態を避けるためには、調停期日への出席が難しい場合は以下のような方法で自分の意見を伝えておくことをおすすめします。

  • 呼び出しの際に家庭裁判所から送付される「答弁書」に欠席する旨と自身の希望する分割方法などを記入して、返送する
  • オンライン(電話会議システム)で参加可能な場合は、その旨を家庭裁判所に連絡する
  • 代理人(弁護士)に依頼する

遺産分割調停は弁護士なしでも大丈夫?

手続き自体は弁護士がいなくても進められますが、後のことも見据えて最初から弁護士に依頼するのがおすすめです。

遺産分割調停の一連の手続きは自分で進めることができ、期日にも本人が出席すれば問題ありません。しかし、相手方にのみ弁護士が付いており、自身に不利な資料や判例を出された場合、調停委員の判断も相手方に寄ってしまう可能性があります。

また、調停不成立で審判に移行した場合や、遺産分割の前提条件を巡って訴訟に発展する可能性も考えると、裁判関係の手続きは最初から弁護士に依頼、または相談することをおすすめします。

遺産相続で裁判になりそうなときはまずは弁護士に相談を

本記事では、遺産相続を巡るトラブル解決方法として、特に「遺産分割調停」と「遺産分割審判」の手続きを中心に解説しました。

「遺産分割調停」は、中立的な第三者である調停委員を介することで、当事者間の感情的な対立を抑えながら円満な解決を目指す手続きです。裁判手続きといっても、必要以上に身構える必要はありません。

ただし、最後のQ&Aでもお伝えしたように、調停が不成立に終わったり、そもそも遺産分割協議の前提を争ったりという可能性を考えると、手続きを一人で進めるのは得策とは言えません。

特にどうしても譲れない主張点がある場合は、裏付けとなる法的根拠や資料の収集は専門家に一任したほうが、大事な遺産を失わずに済み結果的に損をする可能性が低くなります。

遺産相続で裁判になりそうだなと感じたときは、本記事の内容を参考にして準備を整えつつ、必要に応じて専門家である弁護士などに相続の相談をしましょう。

ほかにもこちらのメディアでは、相続欠格遺産分割協議をしない場合のデメリットについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。