親の遺言書が見つかり、どうしたらいいかわからない方もいるのではないでしょうか。
遺言書を初めて取り扱う人は、勝手に開封してもよいのか困ってしまいますよね。遺言書を発見したら、家庭裁判所に検認の申し立てをおこない、相続人に対し遺言書の存在と内容を知らせる必要がある場合があります。遺言書を検認しないで開封すると、法律違反に問われ過料を科せられることもあるので慎重に対応しなければなりません。
そこでこの記事では遺言書の検認とは何か、検認をしなくてもよい場合としなくてはならない場合・検認の重要性・検認手続きの流れ・注意すべき点を解説します。
- 自筆証書遺言は裁判所で検認が必要
- 遺言書の検認手続きの流れ
- 検認を行う際の注意点
遺言書の検認とは
遺言書の検認とは、親などが亡くなった後に相続人に対し、遺言書の存在を知らせ、遺言書の内容や正当性を確認する手続きをいいます。
遺言書を見つけた、または預かっていた相続人は、速やかに遺言書の検認申立を行わなければなりません。検認は遺言者の最終の住所地を管轄する家庭裁判所で行われ、確認した後、相続人は遺産の処理が可能になります。
検認は、遺言書の偽造や変造・圧力による作成なども調査されますが、遺言書の確認をするものであり、有効性を判断するものではありません。なお公正証書遺言および保管制度を活用した自筆証書遺言は、偽造や変造の恐れがないため検認は不要です。
遺言書の検認はしなくてもよい場合と必要な場合がある
故人が遺した遺言書のすべてに検認が必要なわけではありません。
遺言書には、検認をしなくてもよい遺言書と必ずしなければならない遺言書があります。遺言書には自筆遺言書と公正証書遺言書・秘密証書遺言書に分かれますが、このうち公正証書遺言書は検認の必要はなく、秘密証書遺言書は必要です。
自筆証書遺言書は原則的には検認が必要ですが、法務局が保管したものについては不要です。
3つの遺言書の検認の要・不要および特徴を簡単にまとめると次のようになります。
※自筆証書遺言書のうち遺言書情報証明書がある場合の検認は不要
検認が必要な場合
公正証書遺言の検認は不要ですが、自筆証書遺言および秘密証書遺言は原則的に検認が必要です。
自筆証書遺言は、遺言作成者が財産目録を除く全文を自筆で書く遺言書のことで、ペンと紙と印鑑があればいつでも簡単に作成できます。費用が掛からず証人も不要で、遺言書の存在や遺言内容を秘密にできるメリットがありますが、家庭裁判所で検認を受けなければなりません。
検認は、遺言を最初に見つけた相続人が手続きを取る必要があります。自筆証書遺言は、要件を満たしていないと無効になる恐れや、変造や偽装のリスクがあります。
これらのリスクを防止するために、検認が必要になります。
秘密証書遺言は内容を秘密にして、遺言書があることだけを公証人役場に証明してもらう遺言書を言います。内容を秘密にするため、遺言書の内容を知られることはありません。しかし要件を満たしていないと無効になるため、家庭裁判所の検認が必要です。
検認をしなくてもよい場合
公正証書遺言および遺言書自筆証書遺言のうち遺言書情報証明書がある遺言書は検認が不要です。
公正証書遺言は、公証人が関与して公正証書の形で作成するため無効になることはありません。また公証人が筆記するため偽造や変造・破棄・隠蔽のリスクはなく、相続人同士のトラブルの防止も期待できます。
家庭裁判所による検認が不要なので、その分、相続手続きを早く進めることができます。
自筆証書遺言でも、遺言書保管制度を利用すれば検認が不要です。
遺言書保管制度は、2020年7月から始まった制度で、自筆証書遺言を法務局で保管してもらえます。遺言書の保管は1通3,900円かかり、遺言者が直接法務局に出向いて申請しなければなりません。
なお遺言書の原本は、遺言者の死亡日から50年間保管されます。また法務局は遺言書情報証明書を発行し各相続人に対し、遺言書を保管している旨を通知してくれます。そのため、遺言書が見つからないというリスクを防止できます。
遺言書の検認は重要
検認を申し立てる人は、遺言書の保管者または遺言書を発見した相続人とされています。
申立人は、相続の発生を知ったら速やかに検認の手続きを行わなければなりません。遺言書を検認しないと、法律違反となり過料を科されるばかりでなく、故意に隠すなどすると、相続人の地位を失うことにもなりかねません。
そのような事態に陥れば、相続人同士でトラブルとなり、相続手続きを行えなくなるリスク発生の可能性もあります。したがって、遺言書の検認は故人の遺志を尊重すると同時に、トラブルを未然に防ぐためには重要な手続きです。
検認しないと法律違反として罰せられることもある
自筆証書遺言および秘密証書遺言は、検認をせずに勝手に開封すると、法律違反に問われ5万円以下の過料を科せられます。また遺言書を検認しないで隠蔽したり、偽造・変造・破棄したりすると、相続人の欠格事由になります。
その場合には、その相続人は財産を受ける権利を一切失うことになり、ケースによっては刑法の私用文書等毀棄罪に問われ5年以下の懲役に処される可能性もあります。
また保管している遺言書を検認しないで放置しておくと、不動産の名義変更や預貯金の解約などの相続手続きができないため早めに手続きしましょう。
遺言書の開封方法や注意点についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事を参考にしてください。
相続人の間で紛争になるおそれも
遺言書の検認を受けず開封しても、遺言書が無効にはなりませんが、相続人同士のトラブルが発生する可能性があります。
ほかの相続人からは偽造や変造をしたのではないかと疑われ、遺言書の無効を訴える相続人がいるかもしれません。相続人間のトラブルを避けるためにも、勝手に開封せずに検認を受けるようにしましょう。
相続手続きが遅れる
遺言書の検認が終わっていないと、金融機関で被相続人の口座の解約手続きはできません。
検認手続きが終わると、遺言書の原本の最後のページに家庭裁判所の契印が押された「検認済証明書」合綴されます。金融機関で被相続人の預貯金を解約する場合には、検認済証明書の綴られた遺言書を提示する必要があります。
したがって検認手続きが完了していないと、預貯金の解約手続きができず、遺産を貰うこともできません。また遺言書の検認が終わっていないと、不動産の相続登記もできません。
不動産の所有権の移転登記は、不動産を管轄する法務局に申請します。しかし登記についても、家庭裁判所の検証済証明書の合綴された遺言書の提出が必要で、検認がないと受け付けてもらえません。
遺言書の検認手続きのフロー
遺言書は、故人の遺族や信頼される人によって発見されるのが一般的です。遺言書を見つけた人は、次のような流れにより検認手続きを行う必要があります。
(1)必要な書類を揃え検認を申立てる
必要書類のひとつである遺言書の検認申立てには、さまざまな書類が必要です。
遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本を揃えるのは、特に手間がかかる場合もあるので、早めに用意しましょう。
【検認申立て必要書類】
- 遺言書の検認の申立書(家事審判申立書)
- 遺言書(自筆または秘密証書遺言)
- 遺言者の出生から死亡までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 相続人全員の戸籍謄本
- 当事者目録
- 収入印紙(検認の申立書へ貼付・1通につき800円)
- 郵便切手(相続人への連絡用)
戸籍謄本は、事前に法定相続情報一覧図を作成して法務局にて保管しているときは、それに代えられます
なお申立書と当事者目録は、家庭裁判所の下記公式サイトからダウンロードできます。
【検認の申立て】
家庭裁判所で取得した検認申立書および当事者目録に、必要事項を記入して作成します。
なお、家庭裁判所のウェブサイトには申立書の記載例があるため、利用すれば間違いは少なくなるでしょう。
検認申立書と当事者目録を作成し書類が用意できたら、家庭裁判所に検認を申し立てます。
申立てる家庭裁判所は、遺言者が最後に住んでいた地域を管轄する家庭裁判所で、直接家庭裁判所に出向き提出する方法でも、郵送でも可能です。
(2)検認に立ち会う
【検認日の決定】
家庭裁判所に申し立てを行うと、数週間~1ヵ月ほどで連絡が入り、検認する期日が決まります。検認日は申立人だけでなく、相続人全員に家庭裁判所より「検認期日通知書」が郵送されます。
遺言書の存在を知らなかった相続人も、この通知で遺言書があったことを知ることになります。
【検認立ち合い】
申立人は、検認当日に遺言書の原本を持参して家庭裁判所へ出向き、検認に立ち会わなければなりません。検認は相続人と裁判所の職員が立会い遺言書を開封し、おおよそ10〜15分程度で終わります。
申立人以外の相続人にも、検認の通知は行きますが、都合のつかない人は欠席しても問題はありません。申立人は検認当日には、申立に使った印鑑や家庭裁判所から指示されたものを用意して出席します。
欠席した相続人には、検認が終了後「検認済通知」が届きますが、遺言書の内容は記載されていないため、申立人から遺言書の内容を知らせる必要があります。
(3)検認済証明書の発行を申請する
検認が終了したら、「検認済証明書」を申請します。
不動産の名義変更や金融機関の解約には、この書類が必要になるため、必ず申請するようにしましょう。申請が終わると、検認済証明書と遺言書が申立人に返還され、検認手続きは終了します。
検認が終わるまでの期間
検認は申し立てを行ってから、完了するまでは通常数週間~1ヵ月程度かかります。
遺言書の検認の期限はありませんが、相続税の申告納付は、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内と決まっています。また相続放棄や遺留分侵害請求などの手続きについても、期限があるため、速やかに申し立てを行った方が良いでしょう。
検認をする際の注意点
遺言書の検認というものは重要で繊細なプロセスのため、いくつか注意しなければならない点があります。
開封した場合でも検認は必要
【開封してしまった遺言書の場合】
遺言書の検認をする前に開封してしまっても、検認手続きは必要です。
検認は、遺言書の有効性や遺言者の意思を確認するために必要で、検認することで相続人間のトラブルの防止が期待できます。開封した後でも検認すれば、検認済証明書の発行ができ相続手続きをすすめられます。
また開封したことを隠すと、偽造・変造の疑いをもたれてしまう場合があるので、他の相続人にはあらかじめ開封してしまったことを知らせた方が良いでしょう。
【封をされていない遺言書の場合】
それでは封をされていない遺言書を見つけた場合、どう処理したらよいのでしょうか?
封をしていない自筆遺言でも、遺言の全文および日付・氏名を自筆し、押印していれば有効です。したがって封をしていない自筆遺言書も、封をされている遺言書と同様に家庭裁判所で検認を受ける必要はあります。
またメモのような状態で見つかる自筆遺言書も、故人が作成した遺言書と証明されるためには、家庭裁判所で検認しなくてはなりません。しかし破棄されたり書き換えされたりするリスクを防ぐためには、必ず封をしたほうが問題はおこらないでしょう。
なお秘密証書遺言の場合は、遺言書を封筒に入れ印鑑で封印し、公証役場に持っていく必要があります。
【遺言書が複数ある場合の取り扱い】
遺言書が複数ある場合は、どうしたらよいのでしょうか?
遺言書が複数あるケースでは、まず作成日付を確認する必要があります。遺言書のうち日付の記載がないものについては、無効になるため外してもよいでしょう。日付が異なる遺書が出てきた場合には、新しい日付の遺言書が有効になります。
したがって、一度書いた遺言書を再度書き直す場合は、以前に作った遺言書の内容を含めて書き直した方が良いでしょう。
検認は法的な効力を判断するものではない
遺言書の検認をしても、遺言通りに相続をする必要はありません。
検認は遺言書の有効性を証明するものではなく、相続人に遺言書のあったことを知らせその内容を確認するものです。したがって、相続人が協議を行い全員が同意すれば、遺言書とは違う相続を行うこともできます。
しかし相続人の誰か一人が、遺言書通りの遺産分割を主張すれば、検認された遺言書が優先されます。遺言書の内容に納得できない場合には、「遺言無効確認調停」や「遺言無効確認訴訟」を起こさなければなりません。
相続人は全員検認に立ち会わなければならないの?
家庭裁判所から相続人に「検認期日通知書」が郵送されてくると、出席しなければ相続人の権利を失うのではないかと心配する人もいるのではないでしょうか。しかし検認期日に相続人全員が集まる義務はなく、相続人がそろわなくても期日には行われます。
また欠席しても相続人が不利益になることはなく、遺言書の効力にも影響を与えることはありません。しかし申立人は遺言書を持参する役割があるため、検認期日に必ず出席する必要があります。
まとめ
自筆遺言書を見つけたら、速やかに家庭裁判所に検認申請の手続きをする必要があります。
遺言書を勝手に開封すると、法律違反に問われることになり、改ざんや偽造すると相続人の地位を失う恐れもあります。またほかの相続人からは疑いの眼を向けられ、トラブルに発展し相続人間で仲たがいにもなりかねません。
この記事では検認の手続きのフローや申立方法も記載しましたので、その流れに沿って速やかに検認申請を行いましょう。
遺言書というものは、亡くなった方の最期の思いが綴られているため、その意思を尊重し遺言者の想いを実現されるように努めるのが遺された人の責務ともいえるでしょう。
ほかにもこちらのメディアでは、遺言書は開封しても問題ないの?といったテーマについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。