一連の相続手続きの中でも、遺産分割協議書の作成に不安を覚える方は少なくないでしょう。
遺産分割協議書は、それぞれの相続人がどのような遺産を相続するかを記載した書面で、その後の相続登記などでも必要とされる重要な位置付けです。
「自分で作成する自信はないけれど、専門家に依頼したらいくらかかるのだろう?」という不安を覚える方も多いはず。
そこで今回の記事では、遺産分割協議書の作成にかかる費用を解説します。弁護士・税理士・司法書士・行政書士のそれぞれにかかる費用を詳しく解説するため、相場を知りたい方はご参考ください。
- 報酬額算定する仕組みも報酬相場も各専門家によって異なる
- 遺産分割協議書の作成以外に依頼したい業務に応じて専門家を選ぼう
- 相続の知識や費やせる時間が十分になければ専門家への依頼がおすすめ
遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、被相続人が遺した財産を、相続人がどのように取得するかを決める遺産分割協議の内容を記載した書面です。
法定相続分とは異なる割合で分割する場合だけでなく、「どの財産を誰が相続するか」などを詳細に記します。
遺産分割協議書を作成することで、不動産の所有権を単独で取得したり、株などの名義を変更したりができるようになるのです。
遺産分割協議書は自分で作成できる
遺産分割協議書は、相続財産の分け方に関する相続人同士の合意内容を記載した書面です。相続人自身で作成することもでき、特定の書式などはありません。
ただし、遺産分割協議書には「合意した内容を第三者に証明する」という働きもありますから、必ず記載しなければならない項目などのポイントは押さえておく必要があります。
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼すべきケース
遺産分割協議書の作成には、民法を始めとした法律上の知識が欠かせません。
また、時間や労力を必要とする作業も少なくありませんから、十分な時間が取れない方や、手続きに不安を覚える方は、専門家への依頼を検討すべきでしょう。
相続手続きの知識が乏しい
相続手続きには、さまざまな法律上の知識を必要とします。
遺産分割を始める前には、誰が相続人になるかを確定しなければなりませんが、ここでも専門知識が必須です。
相続人は、民法に定める相続順位に従って、亡くなった方の家族関係で決まります。配偶者は必ず相続人になる立場で、第1順位は子ども、第2順位は親、第3順位は兄弟・姉妹です。
必ず相続人になる立場 | 配偶者 |
---|---|
第1順位 | 子ども |
第2順位 | 親 |
第3順位 | 兄弟・姉妹 |
高い順位の人が相続人となったら、それより低順位の人は相続人とはなりません。さらに相続人が誰になるかによって、法定相続分も変わります。
相続では、手続きに関するさまざまな知識を必要とします。このような知識に自信がなければ、専門家への依頼が安心です。
遠方の相続人がいて協議が難しい
遺産分割協議は、相続人全員で行わなければなりません。とはいえ遠方に住む相続人がいて、一堂に会することが難しいケースもあるでしょう。
このような場合には、電話やメールなどの手段を用いて、それぞれの主張をすり合わせていかなければなりません。
複数の相続人の意見をまとめて遺産分割協議書を作成するのであれば、相続に関わらない第三者が望ましいといえるでしょう。
相続を扱う専門家であれば、法律の定めなどに基づいて、不備のない遺産分割協議書を作成することができるのです。
相続手続きに充てる時間がない
相続人の確定や相続財産の調査には、多くの時間と労力を要します。
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を集め、相続人になり得る立場の人を抽出する作業。被相続人の預金通帳の取引履歴をから、他の銀行や証券会社などの口座を探す作業。
いずれも時間が掛かるだけでなく、慣れも必要とされる仕事です。相続手続きに十分な時間が充てられない場合には、専門家への依頼を検討するのが得策といえるでしょう。
相続財産でもめている
複数の相続人で遺産を分割する場合、必ずしも話し合いが円満に進むとは限りません。相続人の主張が食い違い、争いに発展するケースもあり得ます。
当事者だけで解決の見込みが立たない場合は、弁護士へ依頼するとよいでしょう。相続手続きの専門家の中でも、代理人として主張を代弁できるのは弁護士だけです。
話し合いで決着がつかず遺産分割調停や審判の場で解決を図るとしても、弁護士であればそのまま代理人を務めることができます。
各専門家ごとの遺産分割協議書の費用相場
相続手続きを専門家に依頼した場合には、依頼内容に応じた報酬などの費用が発生します。
報酬額を算定する仕組みや報酬の相場も各専門家によって異なりますから、個別の相場を士業ごとに見ていきましょう。
弁護士に依頼した場合
遺産分割協議書の作成など相続相談を弁護士に依頼するケースといえば、協議が合意に至らず相続人自身の力で決着をつけることが難しい状態のときといえるでしょう。
単に遺産分割協議書の作成をするというよりはむしろ、代理人として相続人の主張を代弁して円満に遺産分割を完了し、相続人に利益をもたらすことが仕事といえます。
このため弁護士費用の形態は、「依頼人が受ける経済的利益」を基準として定められているケースが多いのが特徴です。
2004年3月までは、日本弁護士連合会(日弁連)が作成した報酬規程によって着手金や報酬などが定められていましたが、現在は完全に自由化されています。とはいえ旧報酬規程をベースに報酬を定めている弁護士は多く、ある種の相場を形成しているともいえるでしょう。
日本弁護士連合会旧報酬規程 | |
---|---|
300万円以下 | 着手金:8%(最低10万円) 報酬金:16% |
300万円~3,000万円 | 着手金:5%+9万円 報酬金:10%+18万円 |
3,000万円~3億円 | 着手金:3%+69万円 報酬金:6%+138万円 |
3億円以上 | 着手金:2%+369万円 報酬金:4%+738万円 |
税理士に依頼した場合
相続手続きにおいて、税理士が活躍する分野は相続税の申告です。このため相続手続きの中でも、遺産分割協議書の作成だけを税理士に依頼するというケースは稀といえるでしょう。
あくまでも相続税の申告に付随する業務として、相続人の調査や相続調査、遺産分割協議書の作成などを一括して依頼します。
このため税理士の相続手続きの費用は、遺産の総額に対するパーセンテージで設定されているのが一般的です。
税理士報酬として多くみられる設定は財産総額の0.5〜1.0%で、仮に遺産の総額が1億円であれば50万〜100万円が報酬額となります。
相続財産の総額が基礎控除額を超えるか否かが微妙なケースでも、不動産が遺産に含まれている場合には税理士に依頼するのがおすすめです。
不動産の中でもとりわけ土地の評価は、国税庁が定める財産評価基準書に基づいて金額を算出しなければなりません。
路線価や倍率などで決まる1平方メートル当たりの単価に面積を掛け合わせた数字が評価額となりますが、ここで得られる数値は、いわば「評価額の最高値」です。実際には、間口や奥行き、傾斜など土地の形状に応じて価格を補正しなければなりません。
土地の評価にはこのような専門知識が不可欠で、さもなければ評価額が、つまりは納税額が高くなってしまうからです。
被相続人が未公開株式を保有していた場合も同様です。一般の上場株式と異なり、非上場会社の株式は評価額の算出が非常に難しく、専門知識がなければ適正な評価ができません。
このような場合にも、できるだけ早い段階で税理士に相続相談することをおすすめします。
参考:国税庁-財産評価基準書
司法書士に依頼した場合
司法書士に遺産分割協議書の作成を依頼するのは、相続財産に不動産があり、主としてこの所有権移転登記を委ねたいケースでしょう。
手続きごとに報酬額を設定している報酬形態が多く、基本となる不動産登記の報酬に、相続人の調査や相続財産の調査、遺産分割協議書作成などの業務ごとに報酬をプラスしていく仕組みです。
司法書士の報酬には決まった規定はなく、各司法書士が自由に定めることになっています。
日本司法書士会連合会が2018年1月に実施した報酬アンケートによれば、相続手続きを司法書士に依頼した場合の費用相場は地域ごとに異なるものの、全体の平均では6万~7万8,000円という結果でした。
依頼内容の想定は「法定相続人3名の相続で、うち1名が土地1筆と建物1棟(固定資産評価額の合計1,000万円)を単独で取得する場合」とし、戸籍謄本等5通の交付請求、遺産分割協議書及び相続関係説明図の作成、所有権移転登記を受任した場合の報酬です。
以下の結果を見ればわかる通り、低額者10%の平均と高額者10%の平均に大きな差があることが分かります。
このため司法書士に相続相談など業務を依頼する場合には、複数の見積りを比較することも有効といえるでしょう。
参考:日本司法書士会連合会「報酬アンケート結果(2018年1月実施)」
行政書士に依頼した場合
行政書士は他士業と異なり、特定の手続きに付随して遺産分割協議書の作成を依頼するという形を取る必要がありません。このため「遺産分割協議書の作成だけ」なども依頼しやすい専門家といえます。
相続相談ができる行政書士の報酬形態も業務ごとの単価が定められているケースが多く、遺産分割協議書の作成だけなら3~6万円程度の設定が多くみられます。
これに加え、相続人調査や財産調査、銀行口座の解約手続きなど他の業務の報酬を追加していく形です。
ただし、相続人の数や財産相続の項目によって遺産分割協議書の内容や分量にも差異が生じるため、それに応じて報酬額が変わる可能性もある点には注意しましょう。
行政書士は相続税申告や不動産登記といった相続に関する専門分野がなく、単純に「権利関係を示す法的書類の作成」を専門に扱う士業です。
このため相続税申告の必要がなく、相続人も少人数でトラブルの心配が少ないなどのケースで、手続きを円滑に進めるための書類作成を頼みたい場合や、足りない知識を補うアドバイスが欲しい場合などに適しています。
自動車の名義変更など、行政手続きをあわせて依頼できる点もメリットです。
遺産分割協議書を自分で作成した場合の費用
相続手続きは相続人本人が行うことが原則ですから、遺産分割協議書もご自身で作成することが可能です。その場合、遺産分割協議書に添える印鑑証明書の手数料など以外には、基本的に費用はかかりません。
相続人の確定や相続財産のリストアップがしっかりとできていて、遺産の分割方法に関する相続人同士の合意が得られていれば、ご自身で遺産分割協議書を作成する選択肢も十分に考えられるでしょう。
ただし、間違えてはならないポイントも存在しますから、その点には十分な注意が必要です。
公正証書として作成することもできる
遺産分割協議書は、「士業の専門家に依頼する」「ご自身で作成する」という以外にも、公正証書として作成するという選択肢があります。
公正証書は、通常であれば私文書(個人や法人などの私的な法律行為について記載した文書)として作成されるべき書類を、公証人が強い証拠力のある公文書として作成するものです。
公正証書の費用とメリット
遺産分割協議書を公正証書として作成する場合には、公証人手数料という費用が発生します。
この費用は遺産分割協議書に記載する財産の額に応じて定められており、これ以外に証書代や公証役場外で作成してもらう場合の出張費などがプラスされます。
ただし、記載内容によっては手数料算出の基準が変わる可能性もあることから、公証役場で確認することをおすすめします。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
100万円を超え200万円以下 | 7,000円 |
200万円を超え500万円以下 | 1万1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下 | 1万7,000円 |
1,000万円を超え3,000万円以下 | 2万3,000円 |
3,000万円を超え5,000万円以下 | 2万9,000円 |
5,000万円を超え1億円以下 | 4万3,000円 |
1億円を超え3億円以下 | 4万3,000円に超過額5,000万円までごとに 1万3,000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 | 9万5,000円に超過額5,000万円までごとに 1万1,000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9,000円に超過額5,000万円までごとに8,000円を加算した額 |
遺産分割協議書は、「相続財産を分割するに際しての各相続人の権利と義務を記した契約書」のような側面を持ちます。例えば「相続人Aは不動産を相続し、相続人Bは預金を相続する」という協議が成立したのであれば、Aは預金を、Bは不動産の所有権を放棄する義務が生じるのです。
しかし、協議が合意に至ったからといって、必ずしも義務が履行されるとは限りません。例えば「相続人Aが不動産を相続し、相続人Bに代償金を支払う」という内容で合意したにも関わらず、代償金が調達できずに支払いが滞る可能性も考えられるでしょう。
公正証書には「債務者が金銭の支払いをしないときは、直ちに強制執行に服する」などの記載も可能です。この場合には、裁判を経ることなく直ちに強制執行ができます。
つまり公正証書として作成した遺産分割協議書には、強い証明力と執行力などを備えることができるのです。
遺産分割の成立後にも相続人同士のトラブルが予想される場合には、公正証書として遺産分割協議書を作成する意義は大きいといえるでしょう。
遺産分割協議書を専門家に依頼するメリット・デメリット
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼することは、大きなメリットがある反面、まったくデメリットがないとも言い切れません。
専門家に依頼する際のメリットとデメリットについても確認しておきましょう。
メリット
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼する最大のメリットは、不備なく書面を作成できることでしょう。これは、どの士業に依頼したとしても共通のメリットとして挙げられます。
遺産分割協議書には、特定の書式などがありません。しかしこれは、知識を持たない人にとっては、ご自身で取り組みにくい要因とも考えられるでしょう。
さらに相続では、遺産分割協議書を用いて行う手続きが数多く存在します。遺産分割協議書に不備があると、その後の手続きが円滑に進みません。登記や金融機関の手続きに至っては、不備が原因で差し戻されるケースもあるでしょう
遺産分割協議書の内容を訂正するには、相続人全員の訂正印が必要になるなど、多くの手間が生じます。相続人が遠方に住んでいれば、これに時間を要することで、相続税申告など期限のある手続きに間に合わなくなる可能性も否めません。
専門家に依頼することで、このようなリスクを排除して、時間と労力を掛けずに作成することが可能です。
デメリット
遺産分割協議書の作成を専門家に依頼するデメリットといえば、業務に応じた費用が発生する点でしょう。
自分で作成する場合には、官公庁で取得する各種証明書など以外にはほとんど費用が掛かりませんが、専門家に依頼すれば、安くても数万円の負担が生じます。
また、遺産分割の内容や相続人の関係を他人に知られたくないケースもあるでしょう。
相続を扱う士業には守秘義務が課せられていますから、秘密にしたい内容が周囲に漏れる心配はありません。しかし、いくら専門家といえども第三者ですから、家族関係や財産の内容に関するデリケートな問題に触れてほしくないケースもあるでしょう。
相続手続きでは、相続に関わる人の家族関係や、被相続人の財産の実態を明らかにすることが不可欠です。話したくないことまで伝えなくてはならない点も、専門家に依頼するデメリットといえるでしょう。
遺産分割協議書の作成費用は誰が負担する?
遺産分割協議書の作成に要する費用を誰が負担すべきかは、特に明確な規定があるわけではありません。
依頼内容の性質から、負担する人を決めるのが一般的です。
弁護士費用は依頼者が負担する
遺産分割協議書の作成に要する費用を負担すべき人が明確に決められるのは、弁護士に依頼する場合です。
弁護士に依頼するケースといえば、遺産分割協議が合意に至らないことから、弁護士の力を借りて遺産分割を完了したい場合でしょう。
つまり弁護士は、「遺産分割協議書という成果品を完成させる」という相続人全員の利益のためではなく、依頼人の利益のために仕事をするのです。
このため遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼する場合、その費用は依頼者が負担することになります。
税理士・司法書士・行政書士費用は協議で決める
弁護士に依頼するケースと異なり、税理士・司法書士・行政書士などへの依頼は相続人全員の利益となる業務です。このため発生する費用に関しても、特定の相続人が負担しなければならないという性質のものではありません。
税理士・司法書士・行政書士に業務を依頼する場合には、相続人同士の話し合いで決めるのが一般的です。相続人全員の負担として、遺産の中から支払う形でもいいでしょう。
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