遺産分割と相続の違いは?遺産分割の流れや種類も徹底解説!

みなさんは、「遺産分割」と「相続」の言葉の意味の違いをご存じでしょうか?

この2つの言葉は意味が似ていますが、厳密には異なります。

2つの言葉の微妙な違いをきちんと理解しておきましょう。相続人同士で誤解したり、トラブルが発生したりを防ぐことにつながります。

この記事では、「遺産分割」と「相続」の違いを詳しく解説します。その後、相続財産の3つの分け方、遺産分割の流れ、そして遺産分割の種類4つについてお話しします。

これから遺産の分割や相続に関わる予定がある方はぜひご覧下さい。

1分でわかる!記事の内容
  • 「遺産分割」と「相続」は法的には意味が異なる
  • 相続財産には3つの分け方がある
  • 遺産分割の種類は4つあり、それぞれメリットとデメリットがある

この記事の監修者

行政書士瀬崎昌彦事務所


代表


瀬崎 昌彦/行政書士・認定経営革新等支援機関

起業や創業のお手伝いをすることが多く、補助金業務を得意としています。経営管理や税理士事務所、 IT業界で20年以上の経験や、様々な業種の業務改善経験があるので、業務内容を把握することが得意です。 ITを活用した経営サポート・ 創業サポートに、経産省の認定支援機関として様々な業種での経験を活かした色々な側面からのサポートを行っています。

遺産分割と相続の違いは?

一般的には、遺産分割も相続もいずれも「遺産を引き継ぐ」という意味で使われます。しかし、法律上では、遺産分割と相続は意味が異なるのです。

ここではそれぞれの違いを分かりやすく解説します。

それぞれの違いを正しく理解しておくと、相続人同士で話し合った際に、誤解や行き違いを防ぐことにつながるでしょう。

遺産分割とは

「遺産分割」とは、法律で決められた相続人全員が話し合い、法定相続分とは異なる割合で遺産の分け方を決めることです。

被相続人が遺言を残している場合は、その遺言書に沿って遺産を分けます。しかし、遺言書がない場合や遺言書の内容と異なる方法で遺産を分けるときなどは、「誰が」、「何を」、「どれくらい」取得するのかを遺産分割協議で決定させることが必要です。

遺産分割協議がまとまるまでは、被相続人の財産は相続人全員の共有物になります。つまり、相続人全員の同意なしには活用や処分ができないということです。

相続とは

「相続」とは被相続人の権利や義務、そして地位などを受け継ぐことを指します。

たとえば、不動産を相続した場合、法律的にはその不動産の所有権や自由に活用する権利を受け継いだということ。不動産を担保に融資を受け、債務が残っている場合、その債務を返済していく義務も受け継いだということです。

相続財産は下記のように様々な種類があります。

相続財産の種類
  • 預貯金
  • 不動産
  • 株式などの有価証券
  • 自動車
  • 賃借人や賃貸人などの地位
  • 損害賠償請求権や損害賠償義務などの権利や義務
  • 借金や滞納された家賃、税金などの負債

相続によって引き継がれる財産は、積極財産と消極財産の2つに分けられます。

積極財産は預金や株券などプラスの財産のことで、消極財産は被相続人の借金や負債などのマイナスの財産のことです。

被相続人の死後3ヶ月以内に相続財産の内容を詳細に把握しないと、相続人が被相続人のマイナスの財産まで肩代わりする恐れが生じます。この場合には、相続放棄などの対応を検討しなければなりません。

相続財産の3つの分け方

続いて相続財産の分け方について紹介します。相続財産の代表的な分け方は3つです。

  • 遺言による相続
  • 遺産分割協議による相続
  • 法定相続分による相続

それぞれの相続方法について詳しく解説します。

遺言による相続

被相続人が遺言書を残している場合、被相続人の遺志を最大限に尊重するために遺言書の指示通りに遺産を分割することが原則です。遺言書には、法的拘束力があります。

また、遺言書に遺言執行者の指定がされている場合は、遺言執行者が相続の手続きを進めましょう。

多くの場合、遺産は家族や親戚に相続されるものですが、場合によっては「全額寄付する」と書かれた遺言書もあります。

このような遺言書であっても、被相続人の配偶者や子ども、親や祖父母など兄弟姉妹以外の法定相続人には「遺留分」が保障されているので安心してください。

遺留分とは「一定の相続人に最低限保障される遺産」のことです。遺留分を侵害する遺言の場合は返還請求でき、その割合は以下のとおりです。

相続人 遺留分の割合 それぞれの遺留分
配偶者・子または孫 2分の1 配偶者:4分の1
子:4分の1
配偶者・親または祖父母 2分の1 配偶者:3分の1
親または祖父母:6分の1
配偶者・兄弟姉妹 2分の1 配偶者:2分の1
兄弟姉妹:なし
配偶者のみ 2分の1 2分の1
子または孫のみ 2分の1 2分の1
親または祖父母のみ 3分の1 3分の1
兄弟姉妹のみ なし なし

法定相続分の2分の1または3分の1が遺留分として保障されます。

ただし、遺留分の権利が認められるのは配偶者や子または孫などの直系卑属、親または祖父母などの直系尊属にかぎります。兄弟姉妹には認められていないことに注意しましょう。

遺産分割協議による相続

被相続人が遺言書を残していない場合は、遺産分割協議と呼ばれる話し合いにて、相続人全員で遺産の分割方法を決定します。遺産分割協議は必ずしも直接対面で行う必要はなく、電話やメール、LINE、オンライン会議などの方法でも可能です。

詳細は後述しますが、遺産分割の方法は主に4つあります。

  • 現物分割
  • 換価分割
  • 代償分割
  • 共有分割

それぞれにメリットとデメリット、特徴があります。被相続人が残した遺産や、それぞれの相続人の立場やニーズに合わせて最適な分割方法を選びましょう。

遺産分割協議をまとめるためには、相続人全員の同意が必要です。

どうしても相続人全員が集まって遺産分割協議を開催できそうになかったり、協議中に遺産分割協議が決裂したりしてしまった場合は、家庭裁判所に調停の申立てをすることを検討する必要があります。

また、遺産分割協議の実施に法的な期限は設けられていませんが、相続税の申告があるため、相続開始から10ヶ月以内に話をまとめる必要があります

遺産分割協議が決着したら、遺産分割協議書の作成を行い、遺産相続手続きに移行しましょう。

遺産分割協議書とは、相続財産の分割方法を詳細に記した書面のことです。

法定相続分による相続

下記のケースの場合は、法定相続分による相続を検討しても良いでしょう。

  • 相続人同士の関係性が良好である
  • 法定相続の分け方で相続人全員が納得している
  • 相続財産は預貯金など分割しやすいものだけである

法定相続分によって相続する場合は、法定相続人の順位を基準に法定相続分による割合が決められます。それぞれの順位と割合は下記の通りです。

法定相続人 割合
配偶者と子ども 配偶者:2分の1
子ども:2分の1
配偶者と直系尊属 配偶者:3分の2
直系尊属:3分の1
配偶者と兄弟姉妹 配偶者:4分の3
兄弟姉妹:4分の1
子どものみ 子どもが全てを相続
両親など直系尊属のみ 直系尊属が全てを相続
兄弟姉妹のみ 兄弟姉妹が全てを相続

遺産分割の流れ

遺産分割は人生の中で何度も経験する場面ではないため、実際に遺産分割をするとなると、どのように進めれば良いか分からず慌ててしまうことも少なくありません。

遺産分割は主に下記の5つのステップを踏んで進めていきます。

  1. 遺言書の有無をチェックする
  2. 相続財産を確定させる
  3. 戸籍謄本で相続人を確定させる
  4. 遺産分割協議で相続配分を決める
  5. 遺産分割協議書を作成する

それぞれのステップについて詳しく解説します。

Step1: 遺言書の有無をチェックする

まずは遺言書があるかどうかを確認しましょう。遺言には法的拘束力があるため、遺言書があればその指示に従います

しかし、遺言書が見つかっても公正証書遺言以外の遺言書は開封してはいけないので気をつけてください。

家庭裁判所で相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続きを行う必要があります。この手続きを「検認」といいます。

家庭裁判所の検認よりも前に、自筆証書遺言書や秘密証書遺言を開封した場合、最大で5万円の過料が課せられる可能性があります。

下記は遺言書の代表的な保管場所です。

遺言書の代表的な保管場所
  • 被相続人の自宅にある金庫やカギ付きの引き出しの中
  • 貸金庫や遺言信託などの金融機関
  • 遺言書の保管制度を利用している場合は法務局
  • 公正証書遺言や秘密証書遺言を作成した場合は公証役場

公正証書遺言は公証役場に原本が保管されています。また、秘密証書遺言に関しても公証役場だけが存在を証明してくれます。

よって、遺言書が見つからない場合は、公証役場に問い合わせてみるのがおすすめです。なお自筆証書遺言も、自筆証書遺言書保管制度により法務局に保管されている可能性もあります。

遺言書が見つからなかった場合は、遺産分割協議に移ります。

Step2: 相続財産を確定させる

遺産分割の際には、どのような相続財産があるのかをチェックしましょう。

財産の中には評価額の算定が難しいものもあります。また、銀行預金がどの銀行口座に預けられているのかが分からないケースもあるかもしれません。相続財産に関して不明点がある場合は、専門家に依頼すると円滑に相続財産を確定させることが可能です。

なお、後から新たな財産が見つかると、遺産分割協議をやり直す必要が出てきます。このタイミングで全ての相続財産を確認しましょう。

どのような相続財産があるかわからない場合、これらの書類で確認できます。

  • 預金通帳、キャッシュカード、証券会社や銀行からの郵送物
  • 不動産の権利証、売買契約書、納税通知書、登記簿謄本
  • 借用書、確定申告の控え、請求書

また、「遺産」や「相続」と聞くと、預金や不動産のようにプラスの財産をイメージする方が多いかもしれません。実は被相続人の借金や負債などのマイナスの財産も遺産に含まれるため、これらも忘れないように気をつけましょう。

被相続人に借金や負債があったにも関わらず、死亡を知ったとき、または負債を知ったときから3ヶ月以内に特別な理由なしに遺産分割協議を実施しない場合、相続人が被相続人の借金や負債を肩代わりする必要があるからです。

Step3: 戸籍謄本で相続人を確定させる

相続手続きをするために下記の書類を用意します。これらの書類は誰が相続人であるかを明確にするために必要です。

相続手続きをするために必要な書類
  • 被相続人の出生から死亡まで連続した戸籍謄本
  • 被相続人の住民票の除票と戸籍の附票
  • 戸籍の附票 ※登記簿上の住所と死亡時の住所が異なる場合のみ
  • 相続人全員の戸籍謄本

被相続人の戸籍等は、本籍地の役所や地区市民センターなどで手に入れられます。市区町村によってはコンビニでの交付や、遠方だった場合は郵送での取り寄せも可能です。

現在では、上記の方法でないと戸籍が取得できません。しかし戸籍法の改正により、上記の方法以外でも戸籍が取得できるようになる新たな制度が令和5年中に予定されています。制度開始後は、どこの役所からでも戸籍等の取得ができるようになります。ご自身の戸籍だけでなく、配偶者や親、子どもなどの戸籍も取得可能です。

戸籍等を取得する際は、本籍地の役所にて相続の手続きに必要である旨を伝えましょう。出生から死亡までの連続した戸籍が必要であることを理解してもらえます。

また、次に取得すべき役所も教えてもらえます。最終的には出生まで戸籍をたどることが可能です。

なお、戸籍を何部取得すればよいのかは、必要な手続きの数や戸籍の原本還付が可能なのかによって異なります。

すべての提出先で原本還付が可能ならば1部ずつ取得すればよいですが、原本還付に対応していない提出先が1つでもある場合は2部以上取得しなければなりません。提出先である金融機関などに問い合わせ、戸籍の原本還付が可能かどうか確認しておきましょう

Step4: 遺産分割協議で相続配分を決定する

Step3で挙げた必要書類が全て揃ったら、相続人同士で遺産分割協議を実施する日程を決めます。

遺産分割協議は相続人全員の同意が原則となっていますが、万が一何らかの理由で遺産分割協議に参加できない相続人がいた場合、トラブルを未然に防ぐために書面などの形で連絡を取りましょう。

Step5: 遺産分割協議書を作成する

最後に遺産分割協議書の作成に入ります。作成時には下記の点に気をつけましょう。

遺産分割協議書の作成時の注意点
  • 表題は「遺産分割協議書」
  • 被相続人や相続人の氏名は正確に記載
  • 住所は住民票の通りに記載する
  • 作成は手書きでもパソコンでも構わない
  • 相続人の住所や署名は手書きにして、遺産分割協議書に実印を押印+印鑑証明書を用意
  • 株式や預貯金などの財産は、証券や通帳と相違ないように記載
  • 不動産は不動産登記事項証明書に記載の地番や地積、床面積や構造など可能な限り詳細を記載
  • 相続人の人数分の遺産分割協議書を作成し、完成したら各相続人が原本を1通ずつ保管
  • 後に新たな財産が発覚した際の対応方法についても記載
  • 遺産分割協議が決裂した場合は、家庭裁判所に調停の申立をする

遺産分割の種類

遺産分割は主に4種類あり、下記の通りです。

  • 現物分割
  • 換価分割
  • 代償分割
  • 共有分割

それぞれの分割方法の内容とメリットとデメリットについて解説します。遺産分割方法で悩んでいる際にはぜひ参考にしてください。

現物分割

現物分割は最も一般的な遺産分割方法です。遺産を現物のままで分割します。

現物分割のメリット
  • 手続きが簡単でわかりやすい
  • 不動産を子孫に残せる
  • 不動産の評価が不要

現物分割のデメリット
  • 現金や預金の分割には最適だが、不動産や土地などの場合は、現物の価値が異なるため不公平になる可能性がある
  • 特定の相続人だけが不動産を相続した場合、他の相続人から不満が出る可能性がある
  • 分筆(土地をいくつかに分割すること)によって不動産の価値が低下するリスクがある

換価分割

換価分割は、遺産を売却して、売却で得た代金を相続人の間で分割する方法です。

換価分割のメリット
  • 現物分割よりも公平に分割できる
  • 相続税の納税資金を用意できる
  • 相続税の節税になるケースがある
  • 土地建物の管理費用が不要になる

換価分割のデメリット
  • 土地の売却によって譲渡所得や相続税が課税され、小規模宅地の特例が適用されないため相続税が上がる
  • 売却のための手続きに時間がかかる
  • 財産が手元に残らない

代償分割

代償分割は、1人の特定の相続人が遺産相続をして、他の相続人に代償金を渡す方法です。土地や建物のように、相続人で分割しにくいものが相続財産となった際に活用されます。

代償分割のメリット
  • 公平に遺産分割をしやすい
  • 財産を残せる
  • 相続税の負担を軽減できる

代償分割のデメリット
  • 遺産評価がトラブルにつながる可能性がある
  • 代償金を支払う相続人の経済的負担が大きい
  • 贈与税や所得税が発生する可能性がある

共有分割

共有分割とは、共同相続人が遺産を共有の状態で相続する方法です。しかし、この方法を選択して土地などを共有にして相続すると、売却や利用方法について相続人の間で揉める可能性があります。そのため、最終手段に使われることが多い遺産分割方法です。

共有分割のメリット
  • それぞれの相続人が公平に感じられる
  • 収益不動産であれば、収入も平等に分けられる

共有分割のデメリット
  • 管理や売却の方法に関して相続人の間で意見が食い違った場合、膠着状態になる可能性がある
  • 他の相続人と定期的に連絡を取り合う必要がある

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