遺産分割で相続人同士がもめたりスムーズにいかなかったりといった理由から、弁護士への相談を検討するケースは少なくありません。
弁護士に依頼するにあたってもっとも気になるのは、費用面のことではないでしょうか。世間的に弁護士=費用が高いというイメージもあり、いったいいくらくらい費用がかかるのか不安を感じる方もいるでしょう。
この記事では、そんな弁護士費用の相場や弁護士事務所の選び方、費用の抑え方について解説します。遺産分割の弁護士費用について不安がある方は、ぜひ最後までご覧ください。
- 弁護士の費用相場はあるが、経済的利益にもよるため正式な金額はケースによって異なる
- 弁護士費用が支払えないときは、無料相談の活用や複数の事務所を比較する、法テラスを利用するなどの方法がある
- すでにトラブルになっている場合や、トラブルに発展しそうな要素がある場合は弁護士に依頼したほうがよい
遺産分割とは
遺産分割とは、亡くなった人が遺言書を残さなかった場合に、相続人全員の話し合いにもとづいて遺産を分けることです。相続人全員の話し合いを「遺産分割協議」、その協議の中で決定した分割方法をまとめた書類を「遺産分割協議書」といいます。
遺産分割は法律で定められた相続人全員で行う必要があり、誰か1人でも欠けていると遺産分割ができません。
遺産分割を弁護士に依頼すべきケースとは
遺産分割を弁護士に依頼したほうがよいのは以下のようなケースです。
- 有効な遺言書が見つかったが、その内容に納得がいかない
- 遺産分割に協力的でない相続人がいる
- 相続人同士が不仲なため、できれば自分で連絡したくない
- 連絡の取れない相続人がいて遺産分割が進まない
- 被相続人にどれだけ遺産があるかわからない
- ほかの相続人が遺産を隠している可能性がある
- ほかの相続人が自分に都合のよい提案ばかりしてくる
- 被相続人に前婚での子、または婚外子がいる可能性がある
- 相続人同士でもめる可能性がある
当事者だけで穏便に解決するような案件でなければ、専門家の手を借りたほうがよいでしょう。そのほうがスムーズに運ぶ可能性が高いためです。
また、遺産分割協議書はご自身でも作成できますが、作成を専門家に依頼するよりもミスをする可能性が高くなります。もしミスがあれば、提出しても受け付けてもらえなかったり訂正が必要になったりします。
相続を取り扱う専門家はさまざまですが、もめる要素があるケースでは弁護士が適任です。弁護士であれば遺産分割協議書の作成だけでなく、相手方との交渉や遺産分割調停・審判の代理も行えます。
すでにもめている場合は、できるだけ早く弁護士に相談することをおすすめします。
遺産分割を弁護士に依頼した場合の費用相場
遺産分割を弁護士に依頼した場合の費用相場はいくらくらいなのでしょうか。ここでは、業務別の費用相場をご紹介します。
- 相談料
- 着手金
- 報酬金
- 実費
- 日当
【相談料】5,000円〜
弁護士に相談したときにかかる費用が相談料です。30分5,000円〜が相場ですが、中には無料で行っている事務所もあります。
ただし無料には種類があります。「初回のみ無料」なのか「何回でも無料」なのかは事務所によって異なるため、事前にホームページで調べておくとよいでしょう。
なお、無料相談を活用する際は、あらかじめ相談する内容をメモにまとめておくと順を追って説明しやすく、スムーズに進むため無駄がありません。
相談料の支払いは、相談後その場で支払うことが多いですが、事務所にもよるため気になる場合は事前に確認しましょう。
【着手金】20〜30万円
遺産分割協議での交渉や調停・審判の代理など、弁護士に正式な依頼をした際にかかる費用が着手金です。相場は20〜30万円程度ですが、遺産総額や遺産の数、相続人の数など、ケースによって金額は前後します。
支払いのタイミングについては、依頼時に全額支払う事務所もあれば分割払いや後払いに応じてくれる事務所もあります。そのほか、事務所によっては着手金がかからないところもあるため、複数の事務所を比較してみるとよいでしょう。
なお、思うような成果を得られなかった場合でも、着手金は返金されないことがほとんどです。
【報酬金】経済的利益によって変動
報酬金は、無事相続問題が解決したときに発生する費用です。金額はあらかじめ決まっているのではなく、一般的には経済的利益によって変動します。経済的利益とは、遺産分割の場面においては遺産の時価相当額を指します。
なお、報酬金については、以前は日本弁護士連合会にて以下のような基準が設けられていました。
報酬金 | |
---|---|
経済的利益の金額が300万円以下 | 経済的利益の16% |
300万円超え3,000万円以下 | 10%+18万円 |
3,000万円超え3億円以下 | 6%+138万円 |
3億超え | 4%+738万円 |
参考:日本弁護士連合会
上記の基準はすでに廃止されているため、現在弁護士費用はそれぞれの事務所が自由に設定できます。基準に従う必要はありません。ただ、現在でもこの基準を目安にしている弁護士事務所は多いです。
支払いは問題解決時に銀行振込や現金での手渡しによって行われますが、事務所によっては分割払いや後払いに対応してくれるところもあります。また、弁護士が相手方から受け取ったお金の中から弁護士費用を差し引き、残りを返金してもらう方法もあります。
報酬金は問題が解決した際に発生する費用であるため、何も解決せず失敗に終わったようなケースでは支払う必要がありません。
【実費】1〜3万円
実費は、事件処理にかかる諸経費です。主に以下のものが該当します。
- 遺産分割調停を申立てる際の収入印紙
- 弁護士の交通費
- 通信費
- コピー代
- 保証金
- 供託金
- 書類の郵送料
ケースにもよりますが、遺産分割の場合は1〜3万円程度が相場です。遺産分割調停に発展したケースでは1〜5万円程度かかります。ただし裁判所が遠方の場合や、裁判所まで何度も足を運んでもらう必要がある場合は、さらに高額になる可能性があります。
【日当】1日の出張で5万円
日当は、弁護士に出張してもらう際に発生します。
- 半日の出張:3万円程度
- 1日の出張:5万円程度
出張の機会がなければ発生しないため、案件によってはまったくかからないこともありますが、何度も出張の機会が発生すれば高額になる可能性があります。泊まりでの出張になった場合は、宿泊費として実費もその分多くかかるため注意が必要です。
また、事務所によっては着手金の中に含まれていることもあります。依頼する弁護士が遠方の場合は、日当が発生する基準について確認しておいたほうがよいでしょう。
遺産分割を依頼した場合の弁護士費用の具体例
実際に遺産分割を弁護士に依頼した場合、トータルでどの程度費用がかかるのでしょうか。ここでは、弁護士費用の具体例をケース別にご紹介します。
ただし、ここで紹介するのはほんの一例です。必ずしもこのとおりの金額になるとはかぎらないことを念頭に置いておきましょう。
なお、報酬金の計算方法については、以前日本弁護士連合会で設けられていた基準を参考にしています。
遺産分割協議を依頼した場合
まず、遺産分割協議を弁護士に依頼したケースです。
相談料 | 無料のため0円 |
---|---|
着手金 | 22万円(税込) |
報酬金 | 74万8,000円(税込) |
実費 | 1万円 |
日当 | 0円 |
合計 | 97万8,000円(税込) |
※経済的利益は500万円で計算しています。
遺産分割調停を依頼した場合
続いては、遺産分割調停を弁護士に依頼したケースです。
相談料 | 無料のため0円 |
---|---|
着手金 | 33万円(税込) |
報酬金 | 129万8,000円(税込) |
実費 | 3万円 |
日当 | 5.5万円(税込) |
合計 | 171万3,000円(税込) |
※経済的利益は1,000万円で計算しています。
遺産分割調停にかかる費用は、専門家に依頼すると高額にはなりますが、スムーズに進められるため肉体的・精神的ストレスの軽減につながります。
遺産分割調停・審判を依頼した場合
最後に、遺産分割調停と審判を弁護士に依頼したケースです。
相談料 | 5,500円 |
---|---|
着手金 | 33万円(税込)+審判への移行により発生する着手金16.5万円(税込) |
報酬金 | 129万8,000円(税込) |
実費 | 10万円 |
日当 | 11万円 |
合計 | 200万8,500円(税込) |
※経済的利益は1,000万円で計算しています。
弁護士費用は通常誰が支払うべき?
遺産分割が進まない原因がほかの相続人にあったとしても、基本的に弁護士費用は依頼者が支払います。たとえば相続人AとBがそれぞれ弁護士を依頼した場合は、AはAの依頼した弁護士に費用を支払い、BはBの依頼した弁護士に費用を支払います。
しかし、とくに相続人同士でトラブルになっておらず、単に遺産分割協議書の作成を依頼したりアドバイスをもらったりするために弁護士に依頼するケースもあるでしょう。その場合、どのように費用を負担するのか、相続人同士で話し合うことが大切です。
なお、複数名で依頼する場合も、費用負担について事前に話し合っておくことをおすすめします。費用を請求された段階でお互いに納得できていないと、遺産分割そのものではなく支払い方法でもめることになるためです。
支払いに関して調停を申立てることもできますが、その場合は余計な弁護士費用がかかることを覚えておきましょう。
遺産分割がスムーズにいく弁護士事務所の選び方
遺産分割をスムーズに進めるために重要なのは弁護士選びです。選ぶポイントは、費用のほかにもいくつかあります。ここでは、弁護士事務所の選び方について解説します。
相続案件の実績が豊富にある
相続手続きに慣れており、実績が豊富にある弁護士事務所を選ぶとよいでしょう。得意分野は事務所によって異なるためです。
たとえば債務整理専門の事務所もあれば、離婚問題を専門にしている事務所もあります。多くの弁護士事務所がホームページで実績について公開しているため、確認するとよいでしょう。
相談しやすい
相談しやすいかどうかも重要です。相手がどれだけ優れた弁護士であっても、相談のしにくさや相性の悪さを感じる場合は、思うように話せず気持ちを伝えられない可能性があるためです。
実際に、仕事は正確で頼りになるものの、態度が淡々としているために人によっては相談しづさを感じる弁護士もよくいます。
きちんと業務をこなしてくれさえすればそれでよいというなら別ですが、そうでないなら相談しやすいかどうかを見極める必要があります。相談料無料の事務所に相談してみて、そのときの感触で依頼するかどうかを決めるのもよいでしょう。
料金体系がわかりやすい
料金体系がわかりやすいかどうかも大切なポイントです。弁護士事務所の料金体系はわかりづらい傾向があります。ホームページや事務所で簡単に料金表が確認でき、いくらかかるのかができるだけ明確にされている事務所を選びましょう。
反対に、結局いくらかかるのかが不透明な事務所や、料金表に書かれている費用以外に、あれもこれもと費用がかかるような事務所は要注意です。
ただし金額設定については、安ければよいというわけではありません。複数の事務所を比較し、サービスの内容に見合った金額を設定している事務所を探しましょう。
費用について納得できない場合や相場よりも高すぎると感じる場合は、避けたほうがよいでしょう。
弁護士費用が支払えない場合は?費用の問題を突破する方法
弁護士費用はどうしても高額になりがちです。予想よりも費用が膨れ上がってしまうケースもよくあります。そのため、費用が支払えないことも珍しくありません。
ここでは、弁護士費用が支払えない場合の対処法について解説します。
相談料・着手金無料の弁護士事務所に相談する
少しでも費用を抑えたいのであれば、相談料や着手金が無料の事務所を選ぶのもひとつです。一度の相談ですべての思いを打ち明けきれないことはよくあり、何度も相談を重ねればそれだけで費用がかさんでしまうためです。
ただし、「無料」に種類があることには注意しなければなりません。たとえば初回のみ無料としている事務所であれば、初回は無料で相談できますが2回目以降の相談については費用がかかります。
中には「何回でも無料」としている事務所もあるため、そういった事務所を探してみるのもよいでしょう。
また、着手金無料の事務所も要注意です。着手金が無料である分報酬金が高めに設定されていることもあるため、着手金単体で考えるのではなく「報酬金と合わせていくらかかるのか」を考える必要があるでしょう。
分割払いに対応している弁護士事務所に相談する
一括での支払いが難しい場合は、分割払いが可能な事務所に相談してみましょう。
弁護士費用の中には、着手金のように業務に着手する前に一括で支払うべきものもありますが、分割払いに対応している事務所であれば柔軟に対応してもらえます。
支払いについて相談するのは気が引けるかもしれませんが、分割払いが可能な事務所は意外にたくさんあります。支払いが厳しいと思ったら、怖がらずに相談してみることをおすすめします。
1カ所だけを見て決めず複数の事務所を比較する
弁護士事務所を選ぶ際は、1カ所だけを見て判断するのではなく複数の事務所を比較するとよいでしょう。
また、比較の際はただホームページや料金表を見比べるよりも、実際に無料相談を受けてみることをおすすめします。費用の比較はもちろん、実際に事務所を訪問して無料相談を受けることで、事務所の雰囲気や弁護士の人となりなどもわかるためです。
なお、無料相談を受けたからといって、そのままその事務所に依頼する必要はありません。何カ所か無料相談を受けてみて、その中から総合的に判断するとよいでしょう。
法テラスに相談する
とにかく費用を抑えたい場合は、法テラスに相談するという手段があります。
法テラスは、金銭的に厳しい場合でも法的トラブルを解決できるようにとつくられた公的機関です。利用には収入要件などが設けられているためそれらをクリアする必要がありますが、利用が認められれば通常よりも少ない資金で弁護士への依頼が可能です。
費用は一括で支払うのが原則ですが、支払えない場合は立て替え制度が利用できます。その場合、月々5,000〜1万円程度からの少ない金額で分割払いができるため、金銭的に余裕がなくても安心です。
さらに、それでも支払えない場合は立替金の免除・猶予を利用できる可能性があります。金銭的に余裕はないけど弁護士に依頼したいという場合は、一度法テラスに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
弁護士費用が高額になるのはどんなとき?
どのようなときに弁護士費用は高額になるのでしょうか。ここでは、弁護士費用が高額になるケースについて解説します。
相続人が多いケース
弁護士費用は相続人が多ければ多いほど高額になる傾向にあります。相続人が多ければその分相続人調査が複雑になり、必要な戸籍も増えるためです。
たとえば、何代もさかのぼる必要があるような古い相続になれば、大量の戸籍を取得することになり、その分高額になってしまいます。
遺産の数が多いケース
遺産の数が多いケースも、弁護士費用が高額になりがちです。遺産の数が多く複雑な場合、調査の対象や取得すべき証明書が増えるためです。
不動産をたくさん持っている場合や預貯金の口座をいくつも所有している場合など、遺産の数が多いときはその分費用が上乗せされる可能性があります。
遺産総額が高額なケース
遺産総額が高額である場合、弁護士費用も高額になる傾向があります。遺産分割協議の報酬金は、得られる経済的利益に応じて変動するためです。
どの程度高額になるかは事務所によっても異なりますが、遺産総額が高額な場合は弁護士費用もそれにともなって高くなる傾向があることを念頭に置いておきましょう。
遺産分割調停や審判に発展したケース
遺産分割協議が成立せず、遺産分割調停や審判に発展した場合、弁護士費用は通常よりも高くなります。なぜなら、調停を申立てる費用や実費、弁護士の日当などがかかるためです。
さらに、途中で調停や審判に発展した場合、調停や審判の着手金も追加でかかります。そのため、かなり高額になるケースもあります。
別の手続きが追加で発生したケース
ケースによっては、別の手続きが追加で必要になることがあります。たとえば、以下のような場合です。
- 使途不明金の調査が必要になった
- 遺留分侵害額請求をされた
- 遺言無効・生前贈与無効請求を主張された
ケースによっては遺産分割以外にも手続きが必要になることがあります。追加の作業が増えれば、その分弁護士費用も高額になります。
結局、弁護士に依頼したほうがいいの?
現時点ですでにトラブルになっている場合やトラブルになる可能性がある場合は、弁護士に依頼したほうがよいでしょう。
弁護士に依頼したからといって、すべての問題が100%解決するとはかぎりません。しかし、遺産分割を弁護士に依頼することで手続きがスムーズに進みやすくなるほか、協議を有利なかたちで進められる可能性があります。
弁護士に依頼せずご自身ですべて手続きを行うとなると、自らさまざまな書類を収集したり作成したりしなければなりません。また、遺産分割協議書には正確さが求められるため、ミスの度合いによっては遺産分割協議自体のやり直しが必要になることもあります。
慣れている方であればよいですが、慣れていない方が遺産分割の手続きをすべてご自身で行うのは非常にハードルが高いです。相続手続きには期限が設けられているものもあるため、弁護士に依頼するのはもっとも早く堅実な方法といえます。
無料相談や法テラスを利用して解決を目指そう
遺産分割の弁護士費用の相場や弁護士事務所の選び方、弁護士費用の抑え方などについて解説しました。
遺産分割の弁護士費用は高額になりがちです。金銭的に余裕がない方や多額の相続税を支払わなければならない場合などは、できるかぎり費用を抑えたいところでしょう。
しかし、遺産分割は問題のないケースならまだしも、明らかに問題があるケースですべて自力で切り抜けるのは困難です。そのため、無料相談や費用の比較、場合によっては法テラスなどをうまく利用しながら解決を目指すことが重要です。
遺産相続の問題は、長期化するほどこじれてしまう傾向にあります。完全にこじれてしまった状態で弁護士に相談した場合、解決までに時間がかかる可能性があります。弁護士への相談は、できるだけ早めにしたほうがよいでしょう。
ほかにもこちらのメディアでは、遺産分割と相続の違いについてや遺産分割協議はやり直しできるのかについても解説しています。ぜひこちらの記事もご確認ください。