相続に必要な戸籍謄本とは?取り方や抄本との違いについて解説

「戸籍謄本」という言葉は知っているものの、どのようなものかいまいちよくわからないという方や、実際に見たことがないためイメージがわかないという方はいませんか?

たしかに、戸籍謄本は普段目にするものではなく、取得する機会もそれほど多くはありません。しかし、相続手続きでは「誰が相続人になるのか」を調査したり証明したりするために戸籍謄本が必要です。

この記事では、相続に必要な戸籍謄本の取り方や、謄本と抄本の違いについて解説します。取得の際の注意点も解説しているため、戸籍について詳しく知りたい方はぜひ最後までご覧ください。

1分でわかる!記事の内容
  • 相続に必要な戸籍謄本とは、出生から死亡までが記録された公的書類
  • 相続には、被相続人の戸籍謄本や相続人全員の戸籍謄本が必要
  • 戸籍謄本は遺産分割手続き前にすべて揃えておく必要がある

相続に必要な戸籍謄本とは

戸籍謄本とは、人が生まれてから亡くなるまでに行った結婚や離婚、養子縁組などや、戸籍を移動した経緯などが記録された公的な書類です。戸籍謄本を見れば、誰がどこを本籍地として生まれて亡くなったのか、誰とどのような親族関係にあるのかがわかります。

相続手続きでは、「被相続人法定相続人は誰なのか」を調査し証明する書類として使用します。相続登記や預貯金の名義変更、自動車の名義変更といった手続きの際に提出を求められることが多いです。

ただし、戸籍謄本は本籍地を表す証明書であって、住所地を表すものではありません。住所地を証明するには、戸籍の附票や住民票を取得する必要があります。

相続に戸籍謄本が必要な理由

相続に戸籍謄本が必要な理由は、相続手続きの際には相続人を確定する必要があるためです。

被相続人の配偶者や子どもには、「相続人は自分たちしかいない」ということがわかるかもしれません。しかし、それが事実で誰の目から見ても明らかであったとしても、本当にほかに相続人がいないかどうかは公的な証明書をもって証明しなければならないのです。

また、「相続人は自分たちだけ」だと思い込んでいても、実際には相続人が認識していない前婚での子どもや、認知された子どもなどが存在しているケースもあります。

法律で定められた相続人が配偶者と子どもであることや、ほかに存在していないことなどを法的に証明する手段として、戸籍謄本が必要なのです。

戸籍を省略できる法定相続情報一覧図

「法定相続情報一覧図」を提出すると、さまざまな相続手続きで戸籍謄本を省略できます。法定相続情報一覧図とは、被相続人の相続関係を図式化した書類に、法務局の認証を受けたものです。

法定相続情報一覧図を取得しておけば、相続登記や自動車の名義変更など、その後行う相続手続きで戸籍の代わりに使用できます。申出の際に必要枚数を設定できるため、複数枚取得すればいくつかの相続手続きを同時に進められます。

ただし、提出先によっては法定相続情報一覧図を提出しても戸籍を求められることがある点には注意が必要です。提出先ごとに、前もって必要書類を確認しておいたほうがよいでしょう。

法定相続情報一覧図の取得に必要な書類

法定相続情報一覧図を取得するには、以下の書類を法務局に提出する必要があります。

法定相続情報一覧図を取得するための必要書類
  • 法定相続情報一覧図の保管及び交付の申出書
  • 作成した法定相続情報一覧図
  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
  • 被相続人の戸籍の附票または住民票の除票
  • 相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本
  • 相続人全員の戸籍の附票または住民票
  • 申出人の本人確認書類(運転免許証やマイナンバーカード、住民票など)
  • 委任状(親族以外が代理で申し出る場合)

法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載するかどうかは自由です。記載する場合は、相続人それぞれの住所を確認できるものが必要です。

代理人に手続きを依頼するときは、代理人が親族以外なら委任状、親族であればそれを証明できる戸籍謄本を提出します。被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や、相続人全員の戸籍謄本または戸籍抄本の書類で証明できるなら不要です。

申出書、法定相続情報一覧図の様式や記入例は、法務局のホームページで確認できます。

参照:法務局-法定相続情報証明制度の具体的な手続について(STEP3 申出書の記入,登記所へ申出)
   主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例

戸籍謄本の有効期限

戸籍謄本に有効期限はありません。被相続人の戸籍の場合、亡くなった事項が記載されればそれ以降は情報が更新されないためです。

相続人の戸籍についても、法改正によって改製される前の古い戸籍は内容が変更されることがないため、いつ取得したものでも構いません。

ただし、相続人の「現在の戸籍」については、被相続人が亡くなった時点で相続人が生存していたことを証明する必要があるため、被相続人が亡くなる前のものしかなければ、被相続人が亡くなったあとのものを新たに取得しなければなりません。

被相続人が亡くなったあと、結婚や離婚などによって相続人の戸籍に何らかの変更が生じたときも、最新のものが必要です。

なお、金融機関や証券会社など、提出先によっては古い戸籍にも期限が設けられているケースがあります。その場合は新たに取り直し、期限内のものを提出しましょう。

戸籍抄本との違い

戸籍謄本と似た書類に、戸籍抄本があります。役所で住民票を取得する際などに「謄本か抄本か」を聞かれたことがある方もいるのではないでしょうか?

謄本か抄本かの違いは、「戸籍に在籍している方全員が記載されているものかそうでないか」です。まとめると以下のとおりです。

戸籍謄本 戸籍に在籍している方全員が記載されたもの
戸籍抄本 対象者1名だけが記載されたもの

どちらを取得すればよいかわからない場合は、念のため戸籍謄本を取得しておくと漏れがありません。

相続に必要な戸籍謄本の種類

相続に必要な戸籍謄本は、大きく分けると「被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本」と「相続人全員の戸籍謄本」の2種類です。ここでは、相続に必要な戸籍謄本の種類について解説します。

なお、戸籍を請求する際は、被相続人、相続人それぞれの「戸籍の附票」も一緒に取得しておくと相続登記の申請や相続関係説明図の作成など、さまざまな場面で役立ちます。

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本

被相続人の戸籍謄本は、生まれてから亡くなるまでのものが一式必要です。相続人が思わぬところから出てくる可能性もあるため、空白の期間ができないよう隙間なく取得しましょう。

戸籍には、細かく分けると改製原戸籍除籍といった種類があります。しかし、「生まれてから亡くなるまでの戸籍をください」「取得できる戸籍をすべてください」などと窓口でいえば、戸籍の種類を指定しなくても一度の請求でまとめて取得可能です。

被相続人が転籍や結婚・離婚を繰り返しているケースなどで、どこの市区町村で戸籍を取得すればよいかわからないこともあります。その場合、死亡事項の記載された最新の戸籍謄本を1枚取得し、そこからひとつずつさかのぼっていくとよいでしょう。

1枚取得してまだそれ以前のものが存在している場合は、転籍前の本籍地で請求します。被相続人の戸籍が揃ったら、その戸籍を用いて相続人調査を行います。

相続人全員の戸籍謄本

先に取得した被相続人の戸籍からすべての相続人を洗い出し、それぞれの戸籍謄本を取得します。このとき取得するのは「現在の戸籍謄本」です。

ただし、現在も被相続人と同じ戸籍に在籍している相続人は、被相続人の死亡事項記載の戸籍に名前が載ってくるため不要です。また、誰が相続人になるかによって、戸籍を取得すべき範囲が異なります。それぞれ見ていきましょう。

相続人が被相続人より先に死亡している場合

被相続人が亡くなった時点で、相続人になるはずだった子どもがすでに亡くなっている場合は、被相続人から見て孫が相続人になります。このケースでは、以下の戸籍が必要です。

相続人が被相続人より先に死亡している場合に必要な戸籍
  • 亡くなった子どもの出生から死亡までの戸籍謄本
  • 孫全員分の現在の戸籍謄本

孫も亡くなっている場合、相続権はさらに下に下りていきます。亡くなった孫の出生から死亡までの戸籍謄本、ひ孫の現在の戸籍謄本が必要です。

このように、何代も前の相続になればなるほど相続関係は複雑になり、取得しなければならない戸籍の数も膨大になります。

相続人が兄弟姉妹の場合

被相続人に子どもや孫などの直系卑属、両親や祖父母などの直系尊属がいないときは、兄弟姉妹が相続人になります。兄弟姉妹が相続人になる場合、一度権利が両親に上がるため、両親それぞれの出生から死亡までの戸籍謄本が必要です。

その中で異父兄弟や異母兄弟が見つかればその方たちも相続人になるため、異父兄弟や異母兄弟の戸籍謄本を取得しなければなりません。

相続に必要な戸籍謄本の取り方

戸籍謄本の取り方は、ご自身で市区町村役場に出向く方法と代理人に依頼する方法、郵送で請求する方法の3つがあります。

請求先は、本籍地のある市区町村役場や地区市民センターなどです。被相続人の本籍地がわからないときは、住民票の除票を本籍地記載で取得して確認しましょう。それぞれ解説します。

市区町村役場の窓口で請求する場合

ご自身で市区町村役場や地区市民センターの窓口に出向いて戸籍謄本を取得する場合は、以下のものが必要です。

戸籍証明等申請書窓口の備え付けを使用する
ダウンロード
印鑑認印可
シャチハタ不可
本人確認書類運転免許証
マイナンバーカードなど

戸籍証明等申請書は、自治体によって名称が異なります。わからない場合は窓口で確認しましょう。各市区町村役場のホームページからのダウンロードも可能です。

代理人が取得する場合

窓口請求でも郵送請求でも、戸籍の取得は代理人に依頼できます。

請求対象者の配偶者、子どもや孫、親や祖父母以外の方に依頼する場合は、以下の書類が必要です。「市町村役場の窓口で請求する場合」「郵送で取り寄せる場合」それぞれの必要書類に追加して請求しましょう。

委任状窓口でもらっておく
ダウンロード
代理人の本人確認書類運転免許証
マイナンバーカードなど

戸籍謄本の取得は、司法書士や行政書士などの専門家にも委任できます。相続人が多く相続関係が複雑な場合、遠方への転籍が多く戸籍を揃えるのが大変なケースなどは、専門家への依頼も検討することをおすすめします。

郵送で取り寄せる場合

郵送でも戸籍謄本は取り寄せられます。

請求先は市区町村役場であることがほとんどですが、地域によっては証明書発行センターが設置されており、郵送請求についてのみ証明書発行センターが対応することもあります。市区町村役場のホームページで確認してから郵送しましょう。

封筒に以下のものを同封し、請求します。

戸籍証明等申請書(郵送用)窓口でもらっておく
ダウンロード
本人確認書類運転免許証
マイナンバーカードなどのコピー
定額小為替取得する戸籍の手数料相当額のもの
返信用封筒・切手封筒に返信先の住所を記載し切手を同封

返送には通常1週間〜10日程度かかりますが、急ぎの場合は速達やレターパックで送り、同じように速達やレターパックで返送してもらうと時間をかなり短縮できます。

定額小為替は、郵便局の窓口で購入が可能です。手数料相当額の定額小為替を同封しますが、足りない場合は追加で定額小為替のみ郵送する必要があるため、多めに入れておきましょう。

返信用の切手も、多めに用意することをおすすめします。

戸籍謄本の取得にかかる費用

戸籍謄本や戸籍の附票の取得には、以下の手数料がかかります。

戸籍謄本の取得にかかる費用
  • 戸籍謄本:450円
  • 改製原戸籍謄本:750円
  • 除籍謄本:750円
  • 戸籍の附票:200〜300円

戸籍謄本の手数料に関しては、改製原戸籍謄本や除籍謄本も含めて2023年9月時点では全国一律です。ただし、戸籍の附票は市区町村によって金額が異なります。事前に各市区町村のホームページで確認するか、問い合わせておきましょう。

戸籍謄本を取得する際に注意すべきこと

相続手続きにおいて、戸籍謄本は重要な書類のひとつです。戸籍謄本がたった1通足りなかったことがきっかけで、相続手続きがやり直しになるケースもあるほどです。ここでは、戸籍謄本を取得する際に注意すべきことをご紹介します。

戸籍謄本が揃ってから遺産分割をする

戸籍謄本が揃う前に遺産分割手続きを行うことはおすすめできません。なぜなら、すべての相続人が判明していない状態で遺産分割協議を行い、その結果漏れている相続人がひとりでもいれば、協議は無効になってしまうためです。

親のことをきちんと把握しているつもりでも、前婚でのことや現在の家族以外にも子どもがいる事実を知らないケースは意外に珍しくありません。

中には、戸籍をたどっていくうちに親に何度も離婚歴があり、その都度子どもが生まれていた事実を知って衝撃を受けることもあります。

親としても、現在の家族には話しづらかったり話すきっかけが掴めなかったりなどで、結局話せないまま亡くなってしまうケースは少なくありません。

そのため、相続人を把握しているつもりでも、戸籍謄本を揃えてすべての相続人を洗い出してから遺産分割手続きに進む必要があるのです。

ケースによっては戸籍謄本の数が膨大になる

被相続人と配偶者、子どもだけのシンプルな相続関係であればそれほど膨大にはなりませんが、ケースによっては取得しなければならない戸籍謄本の数が膨大になることがあります。

以下のようなケースであれば、戸籍の収集だけでも大変な作業になるかもしれません。

  • 何代も前の相続をする場合
  • 被相続人よりも先に相続人が亡くなっている場合
  • 兄弟姉妹が相続人で、さらに異父兄弟や異母兄弟がいる場合

相続関係が複雑になればなるほど、戸籍謄本の収集も困難になります。また、相続人を見落としてしまうリスクも高くなります。手に負えないと感じたら、無理をせず専門家を頼りましょう。

すべて依頼するのではなく、あくまでも動くのはご自身で、専門家からアドバイスをもらったり取得した戸籍謄本を確認してもらったりする場合は、最小限の費用で依頼できることもあります。

古い戸籍は取得できない可能性がある

古い戸籍は、さまざまな理由により取得できない可能性があります。取得できない主な理由は以下のとおりです。

古い戸籍が取得できない理由
  • 保管期間を経過したため廃棄されてしまった
  • 戦災や火災などで焼失してしまった
  • 震災や津波などの災害によって滅失してしまった

戸籍法では、戸籍の保存期間は除籍になってから150年とされています。「除籍」とは、戸籍に在籍している方全員が死亡や結婚、養子縁組などで戸籍から出たために、誰もいなくなった状態の戸籍のことです。

戸籍を廃棄するかどうかの判断は各市区町村役場に委ねられていますが、あまりにも古い戸籍は廃棄される可能性があり、一度廃棄された戸籍は元に戻りません。ほかにも、戦災や災害で戸籍が滅失・焼失してしまい取得が不可能なケースもあります。

ただ、上記のような理由で戸籍が揃わなくても、相続がそこから進められなくなってしまうわけではありません。取得できない戸籍に関しては、廃棄証明書や焼失証明書、滅失証明書など、取得できないことを証明する書類を役所で発行してもらえます。

ここで解説したような理由で戸籍が取得できないときは、戸籍に代わる証明書を発行してもらえないか窓口で相談してみましょう。

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