相続手続きをする際に、代襲相続人と相続人の違いがわからず、困っていませんか?
高齢化が進む日本では、代襲相続人が発生するケースが珍しくありません。ご自身が代襲相続人となった場合に備えて、基本的な情報を事前に把握しておきましょう。
今回は、代襲相続人は何かを解説するとともに、対象になる範囲や相続割合について解説します。
- 代襲相続人とは、本来の相続人に代わって相続人になった方のこと
- 代襲相続人は、相続人の相続割合を引き継ぐ
- 代襲相続人になると意向が無視されるなどのトラブルが起きやすい
代襲相続人とは?
代襲相続人とは、被相続人よりも先に相続人が死亡している場合に、本来の相続人に代わって相続人になった方です。
典型的なパターンは、親より先に子どもが死亡したケースです。本来は子どもが相続人になりますが、すでに死亡しているので代襲相続が発生します。
代襲相続が発生する要因
代襲相続が発生する要因として、下記の3つがあります。
被相続人より先に相続人が死亡している
被相続人の子どもが亡くなっていて孫がいるときは、孫が代襲相続人となります。孫も死亡していればひ孫というように、下へ下へと続くのが特徴です。
被相続人と相続人が事故などによって同時に死亡したときも、代襲相続が発生します。
相続廃除された相続人がいる
相続人のなかで相続廃除された方がいる場合、代襲相続が発生します。相続廃除とは、相続人が以下の行為をした場合に、相続権利を与えない制度です。
- 虐待をした
- 重大な侮辱を加えた
- 多額の借金を返済させた
被相続人が家庭裁判所に申立てして認められれば、相続人は相続権を失います。
相続欠格した相続人がいる
相続欠格した相続人は相続権が失われ、代襲相続が発生します。
- 殺害、または殺害を手助けした
- 自身に有利な遺言を強制した
- 遺言書を偽造、または破棄・隠匿した
相続欠格は該当事由が重大であるため、裁判などの手続きなしで相続権が剝奪されます。
代襲相続人になれる方の範囲はどこまで?
代襲相続人になれる方の範囲は、法定相続人の順位に影響されます。
法定相続人とは、民法で定められた相続人のことで、下記のように遺産を相続できる順番が決まっています。
相続人が不明な場合は、相続人調査をしましょう。
なお、被相続人の配偶者は必ず法定相続人になるため、順位は関係ありません。
例えば夫が亡くなった場合、配偶者である妻と第1順位の子が法定相続人となります。 一方、夫婦のみで子がいないケースでは、夫が亡くなると配偶者である妻と第2順位の夫の父母が法定相続人となります。
しかし、代襲相続が発生したときは、相続権は次の順位に移りません。
ここでは、上記の順位をもとに、代襲相続人になれる方の範囲をご紹介します。
被相続人の孫(実子の子)
第1位順位である被相続人の子がすでに死亡している場合、代襲相続人になるのは孫やひ孫です。
実子には、婚姻関係がある配偶者との間に生まれた子どもだけでなく、離婚した元配偶者との子どもや婚外子(愛人の子どもなど)も含まれます。
被相続人の孫(養子の子)
被相続人の子どもが養子である場合、養子の子が代襲相続人になりますが、以下の条件があります。
- 養子縁組後に生まれた孫…代襲相続できる
- 養子縁組前に生まれた孫…代襲相続できない
ポイントになるのは、縁組の日付です。養子縁組前に生まれた孫は直系親族にはならないので、対象から外れます。
被相続人の甥・姪
第1、2順位に該当する相続人がおらず、第3順位の兄弟姉妹も死亡しているときは、甥や姪が代襲相続人になります。ただし、兄弟姉妹の代襲相続は、甥姪の代までです。
本来、代襲相続人が亡くなったときは、次の世代への「再代襲相続」ができます。しかし、再代襲相続ができるのはひ孫や玄孫のみであり、甥姪の子はできません。
相続税の2割加算に注意
被相続人の甥・姪が遺産を相続する際は、相続税の2割加算に注意しましょう。相続税の2割加算とは特定の相続人が遺産を受け取るときに、相続税が通常より2割増しで発生する仕組みです。
甥姪のほか、被相続人の祖父母や兄弟姉妹が相続をする場合は相続税の2割加算が適用されます。
なお、相続税の2割加算に該当する範囲は「一親等の血族および配偶者以外の相続人」です。一親等の血族とは両親や子どもなど、ご自身から見てもっとも近い親族を指します。
被相続人の孫(実子・養子)は二親等に該当するため、本来であれば2割加算が適用されるものの代襲相続の場合は例外となります。
代襲相続人になれない方
続いて、代襲相続人になれない方を解説します。
法定相続人の配偶者
法定相続人の配偶者は、代襲相続人になれません。例えば、被相続人の子どもが先に死亡している場合、その子どもの配偶者は代襲相続人になれません。
しかし、法定相続人の配偶者(長男の嫁など)が献身的に介護を担っている家庭もあるでしょう。法定相続人の配偶者に財産を譲りたいときは、事前に生前贈与を行うか、遺言を用意しておく必要があります。
被相続人の直系尊属
相続第1順位である被相続人の子がいない場合、相続権は第2順位である直系尊属(父母・祖父母)に引き継がれます。しかしこれは、法定相続人に選ばれたのであり、代襲相続人になったわけではありません。
代襲相続人になるのは直系卑属だけであり、被相続人の父母・祖父母は無関係です。
直系尊属 | 父母・祖父母などご自身より前の世代 | 代襲相続人になれない |
---|---|---|
直系卑属 | 子・孫などご自身よりあとの世代 | 代襲相続人になれる |
被相続人の甥や姪の子・孫
被相続人の甥姪の子・孫は、代襲相続人になりません。第3順位における代襲相続人の範囲は、甥姪までの一代限りだからです。
代襲相続が何代も続く子どもや孫などのケースとは異なるので注意が必要です。
相続放棄した相続人の子
親が法定相続人であっても、相続放棄をしている場合は、その子や孫は代襲相続人になれません。
相続放棄とは、相続権利を放棄することです。借金や債務などのマイナス財産が多い場合に、相続放棄を選択すれば、財産を引き継がなくてすみます。
相続放棄をした方は、はじめから相続人でなかったとみなされるため、代襲相続も発生しません。相続放棄をすると、放棄した財産は同順位の相続人、または下位の相続人に移ります。
例えば、被相続人の子どもが死亡や相続廃除により相続できない状態だった場合、代襲相続により被相続人の孫が相続権を得ます。しかし、被相続人の子どもが相続放棄をした場合、孫ではなく被相続人の父母に相続権が移るのです。
代襲相続人の相続割合・遺留分
代襲相続人における相続割合と遺留分について解説します。
相続人の相続割合を引き継ぐ
代襲相続人は、もともと相続人だった方の相続分と同じです。民法で定められた法定相続分は、次のとおりです。
相続人の構成 | 相続人 | 法定相続分 |
---|---|---|
配偶者と子ども | 配偶者 | 1/2 |
子 | 1/2 | |
配偶者と父母(祖父、祖母) | 配偶者 | 2/3 |
父母(祖父、祖母) | 1/3 | |
配偶者と兄弟姉妹 | 配偶者 | 3/4 |
兄弟姉妹 | 1/4 |
ただし、代襲相続人が複数いるときは、相続分を人数で均等に分けます。
例えば、被相続人の子が亡くなっているときの孫の相続分は2分の1です。孫が2人いれば、それぞれの割合は4分の1となります。
他の相続人の相続割合に影響はない
代襲相続人は、あくまで相続分を引き継ぐだけであり、他の相続割合に変動はありません。代襲相続人が増えたとしても、他の相続人に影響はないのです。
ただし、遺産分割協議で割合が変動することはあります。
甥・姪には遺留分がない
代襲相続をした甥・姪には遺留分がありません。
遺留分とは、最低限もらえる遺産の取り分です。財産の分割方法は遺言で自由に設定できますが、遺された家族の生活保障のために、遺言書よりも遺留分が優先されます。
遺言により遺産総額が遺留分より少なかった場合は、遺留分侵害額請求によって取り戻すことが可能です。代襲相続は本来の相続人の権利をそのまま継承するため、通常であれば遺留分が認められます。
ただし、遺留分は「兄弟姉妹以外の相続人」に認められる権利(民法第1042条)であり、甥や姪には当てはまらないのです。
代襲相続人に起きやすいトラブル
代襲相続人が発生すると、相続人同士の関係が複雑になり、トラブルに発展することがあります。トラブルの内容は千差万別ですが、代表的なものは以下の3つです。
意向が無視される
代襲相続人は他の相続人よりも世代が下であるため、意向が無視されることがあります。他の相続人だけで話し合いを進めてしまい、不利な結果を押しつけられるケースが少なくありません。
しかし、代襲相続人は相続人の地位を引き継いだ者であり、法的な地位は他の相続人と同じです。
遺産分割協議を成立させるには、代襲相続人の同意が必要です。同意なき協議は無効になります。
意向を無視した遺産分割案は拒否できるので、意に沿わない協議書への署名押印は控えましょう。
ただし、他の相続人が代襲相続制度を知らずに、協議を進めてしまうパターンもあります。この場合は悪意がないので、話し合いで問題は解決します。
相続放棄を要求される
他の相続人から虚偽の事実を説明されたり脅されたりして、相続放棄を要求されるケースがあります。
相続放棄をすると、すべての財産を破棄したことになり、破棄した分は他の相続人が引き継ぎます。
相続放棄をするか否かは自由に決められるので、不当な要求に屈する必要はありません。詐欺や強迫をされれば、相続放棄の取り消しが可能です。
遺産を教えてもらえない
他の相続人から遺産の全容を教えてもらえないこともあります。代襲相続人は全財産を把握しにくいため、遺産分割を不利に進められるケースが少なくありません。
例えば「遺産はこれしかない」と説明されて同意したものの、実際は他に遺産があったケースです。この場合は、錯誤や詐欺があったとして遺産分割への同意を取り消しできます。
相続財産の開示を要求しても、開示を拒否されるケースも存在します。その際は弁護士を雇って、代わりに交渉してもらうのも1つの方法です。
協議の成立には同意が必要なので、不利な内容は拒否しましょう。
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