相続放棄を司法書士に相談すべきケースとは?弁護士との違いも解説

「被相続人に借金がある」「母親にすべての遺産を相続させたい」など、相続放棄を検討する事情はさまざまです。「相続放棄をしたいけれど、どのように手続きを進めたらよいか分からない」という方も少なくないでしょう。

相続放棄は民法に定められた手続きで、それを行うには厳格なルールが定められています。法律上の知識がなければ対応が難しい場面にも遭遇するかもしれません。

そこで今回の記事では、相続放棄を司法書士に依頼すべき場面相談先を探すポイントなどについて、弁護士との違いも交えて詳しく解説していきます。

1分でわかる!記事の内容
  • 司法書士ができる相続放棄の手続きは申述書の作成と付帯業務
  • 司法書士であれば熟慮期間が過ぎた後でも対応してくれる可能性がある
  • 債権者とのトラブルが予見される場合などは弁護士への依頼が適している

相続放棄で司法書士ができること

相続放棄を相談できる専門家は弁護士と司法書士ですが、受任できる業務の範囲が異なります。司法書士ができる相続放棄の手続きは、「申述書の作成と相続放棄を支障なく完了するためのアドバイス」と考えると分かりやすいでしょう。

この業務には、相続人が相続放棄を選択すべきか否かを判断し、手続きを完了するための付帯業務なども含まれます。相続放棄を専門家に相談するに際しては、ご自身が一番不安に思うことがらを考慮して依頼先を選ぶのがよい方法です。

まずは相続放棄で司法書士ができる業務を順に見ていきましょう。

相続人調査や戸籍の収集

司法書士には相続人調査や戸籍の収集を依頼できます。

相続が発生したら、「誰が相続人になるか」を調査しなければなりません。ご自身が相続放棄を選択するにしても、他の相続人にも影響を及ぼします。このため共同相続人が誰であるかを知っておかなければならないのです。

相続人となり得る方は法定相続人と呼ばれ、民法に定める相続順位によって誰が相続人になるかが決まります。

配偶者は順位に関係なく常に相続人となる立場とされ、第1順位は子、第2順位は父母などの直系尊属、第3順位は兄弟・姉妹です。順位が上の方が相続人になると、下位の方は相続人にはなりません。

相続放棄を検討しなければならないのは、ご自身が相続人に該当する場合です。

相続人の調査・確定とは、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて辿って、相続人になるべき立場の人を抽出する作業です。

相続を承認するにせよ放棄するにせよ、第三者に対して誰が相続人であるかを明確に示す必要が生じます。このため被相続人の戸籍や相続人の戸籍をすべて集める必要があるのです。

相続財産調査・目録作成

被相続人がどのような財産を残したかをもれなく調査し、一覧を作成するのも司法書士が行える作業です。

相続財産は、現預金や有価証券、不動産などのプラスの資産だけとは限りません。借入金や保証債務などのマイナスの財産も含まれます。それらすべてが相続の対象です。

特に相続放棄を検討する場面では、負債が資産を上回っているケースもあります。相続開始時点で借入金の残債がいくらか、誰かの保証人になっていないかなどを、正確に調査しなければなりません。

申述書の作成

相続を放棄する意思を固めたら、「相続開始を知ったときから3カ月以内」に家庭裁判所に対して相続放棄の申述をしなければなりません。この申述書の作成も司法書士に依頼できる業務です。

申述書には、相続放棄の理由や相続財産の概略などを記載しなければなりません。記載に不備があれば受理されませんが、司法書士に依頼すれば正確な申述書を作成してもらうことが可能です。

また、後順位の法定相続人が相続放棄をする場合には、相続人であることを示す戸籍などの書類が数多く必要になります。第1に相続人となる配偶者や子どもなどと異なり、先順位の相続人がいないことを示す必要があるからです。

このようなケースでも、前述した相続人調査も含めて依頼できるため、相続放棄をする方の負担を軽減できます。

照会書のアドバイス

司法書士に相続放棄を依頼することで、裁判所から送られてくる「照会書」への回答に関するアドバイスを受けられます。

照会書とは、相続放棄の申述後に送られてくる書面です。必ずしも全員が該当するものではありませんが、「相続放棄ができる条件を満たしているか」などを調査する重要な書面といえます。

照会書に記載されている質問には、「相続財産の処分」などの法律用語が少なくありません。質問に対して、どのような回答をすべきか戸惑う可能性もあります。

質問の意図を誤解して事実と異なる回答を送ったとしたら、それが理由で相続放棄が却下されるかもしれないのです。

熟慮期間が過ぎた後の対応

司法書士であれば、熟慮期間が過ぎた後でも相続放棄の手続きを依頼できるケースがあります。

相続放棄を選択するには、相続開始を知ったときから3カ月の熟慮期間に申述をする必要があります。しかし、さまざまな事情でこの期間に間に合わない場合も考えられるでしょう。

相続財産調査が難航して3カ月に間に合わないなどの場合でも、司法書士であれば熟慮期間の伸長の申立てができます。

「間に合わなくなりそうだ」と思った段階で、この手続きを踏むのが望ましいでしょう。

しかし実際には、「3カ月を過ぎた後に気付かなかった負債が見つかり、放棄せざるを得なくなった」などの事情も十分に考えられます。

このような場合には、やむを得ない事情を記載した申書を提出することで、相続放棄が認められる可能性があるのです。

上申書の作成には専門的な知識が不可欠ですから、司法書士に相談することをおすすめします。

ご自身で不完全な上申書を作成すれば、それが原因で相続放棄が却下されるかもしれません。しかも相続放棄が一度却下されれば、再度の申述は認められないのです。

負債対策のアドバイス

被相続人の負債が原因で相続放棄を検討する場合には、必ずしもそれが正解とは限りません。相続放棄を司法書士に依頼することで、負債を引き継がない対策のアドバイスを受けられる可能性があります。

また、申述が受理されれば返済の義務はなくなるものの、それまでの期間は債権者への対応などが必要なケースもあるでしょう。何も知らずに請求に応じてしまえば、それが相続放棄の支障になる可能性も否めません。

負債の相続に関する知識を持った司法書士であれば、このような場合の対応についても適切な助言が期待できます。

相続放棄を検討すべきケース

そもそも相続放棄を検討すべきケースとは、どのような状況でしょうか?

故人の遺産に多くの負債が含まれるケースを始め、さまざまな場面で相続放棄の活用が想定されます。

とはいえ相続放棄には「すべての遺産を受け取れなくなる」という大きなデメリットが存在し、すべてのケースで効果を発揮するような万能策ではありません。

積極的に相続放棄を検討すべきと考えられるのはどのような場面か、詳しくみていきましょう。

遺産に負債が多く含まれる

積極的に相続放棄を検討すべきなのは、故人の負債が資産を上回る場合です。

相続は、被相続人の財産上の権利や義務のすべてを相続人が引き継ぐ手続きです。それには当然、借金を返済する義務なども含まれます。仮に被相続人が残した資産をすべて売却しても完済できない債務を負っていれば、相続人が引き続き支払っていかなければなりません。

相続人がこのような不利益を回避する手段として、相続放棄は有効な手段といえるのです。

特定の相続人に遺産を継がせたい

相続財産を特定の相続人に集めたい場合にも、相続放棄を活用できます。

例えば、親が亡くなって長男と次男の2人が相続人になったとします。被相続人と同居していた長男に、自宅を含むすべての遺産を引き継がせたいと考えるようなケースもあるでしょう。このような状況では次男が相続放棄をすれば、長男が単独ですべての遺産を相続することになります。

ただし、相続放棄によって次順位の法定相続人に相続権が移行する場合には注意が必要です。被相続人が妻と長男・次男を遺して亡くなったケースを想定してみましょう。

2人の子どもが母親(被相続人の妻)にすべての財産を譲りたいと考えた場合には、相続放棄は適していません。子どもが相続放棄をすれば、その相続権は第2順位の被相続人の親、第3順位の兄弟・姉妹へと移ってしまうからです。

相続放棄を司法書士に依頼した場合の手続き

相続放棄の手続きには一連の流れがあります。司法書士に依頼した場合でも、法に定められた手続きの流れに沿って進めていくことには変わりありません。

相続放棄で司法書士が受任する主たる業務は申述書の作成ですが、これに付随する業務も一筋縄ではいかないものばかりです。「どの段階から司法書士に任せるか」によって、ご自身でやらなければならない作業も異なります。

以下の流れを確認したうえで、ご自身が進めることに不安を感じるようでしたら、早めに相談してみるのもよいでしょう。

相続人・相続財産の調査

相続手続きでは、相続人と相続財産を正確に調査することが不可欠です。司法書士への依頼を検討しているのであれば、この段階から任せてしまうことも選択肢の1つです。

相続人の調査では、誰が相続人であるかを確定させます。ご自身が認識している相続人以外に、実際に相続人がいないことを確認する作業ともいえます。稀な事例ではありますが、隠し子がいないとも限りません。

この作業では、被相続人の出生から死亡までの戸籍をすべて読み解く必要があります。

しかし、年代が古い戸籍は手書きで読み取りにくいものも多く、戸籍の扱いに慣れていなければ時間の浪費につながります。

相続財産の調査に関しては、専門的な知識を必要とする一方で、故人との関係が深い家族のほうが把握しやすい可能性もあり得ます。

借入を例に挙げれば、金融機関の利用状況は専門知識を駆使して効率的に確認できます。その反面、例えば親族からの借入などは、故人と近い関係の家族でなければ分かりにくいです。

このため相続財産の調査に関しては、専門家と依頼者が情報を共有しながら進めることが望ましいのです。

相続放棄の意思決定

司法書士に手続きを依頼した場合でも、相続放棄をするか否かの意思決定はご自身で行わなければなりません。

被相続人の財産の詳細と、共同相続人となる家族などを確認したうえで、「相続放棄によるメリットはデメリットを上回るか」「それ以外に有効な選択肢はないか」などを検討して決定するのです。

相続放棄をすると、撤回することは原則としてできません。このため相続放棄をする選択は、慎重に考えたうえで決めなければならないのです。

相続放棄申述書の提出

相続放棄は、裁判所に対して相続放棄の申述書と相続人であることを証明する書類などを提出して行います。申立先は被相続人の最後の住所地にある家庭裁判所です。

相続人であることを証明する書類は、相続順位が後になるほど多くなります。

相続放棄をする方が配偶者や子どもであれば、被相続人の住民票除票や戸籍、相続放棄をする申述人の戸籍謄本などで足りますが、兄弟・姉妹であれば被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍謄本なども必要です。

「先順位の相続人が放棄したことによって相続人となった」などの事情によって必要書類が変わりますから、専門家の力を借りることが有効に作用するでしょう。

参考:裁判所-相続の放棄の申述

照会書への回答

裁判所から照会書が届いた場合には、期日までに回答を返信しなければなりません。

照会書が送られてくるケースは、申述を受けた裁判所が受理するか却下するかを判断するうえで、なんらかの補足説明が必要な場合です。ここで回答を怠ったり、期日を超過したりすると、相続放棄が却下される要因になり得ます。

どのように回答したらよいか分からないケースでは、専門家のアドバイスが欠かせません。

相続放棄以外の選択肢

さまざまな場面で有効な手段となり得る相続放棄ですが、必ずしも最善策とは限りません。相続放棄を選択する背景によっては、それ以外の選択肢のほうが適している可能性もあります。

相続放棄以外の選択肢を知っておくことも大切です。

限定承認

限定承認とは、「被相続人の資産の範囲内で負債の責任も受け継ぐ」という相続の方法です。仮に資産が負債を上回っていれば、負債の弁済に充てた後の財産を受け取れます。

逆に負債が資産を上回っていたとしても、資産を手にできないものの、返済の義務を引き継ぐリスクは生じません。この点では、相続放棄と同様の効果が得られます。

しかし、相続放棄と限定承認では手続きが異なるほか、後順位の法定相続人に及ぼす影響に大きな違いがあるのです。相続放棄は相続人の1人が単独で行えるのに対して、限定承認は相続人全員が共同で申述しなければ認められません。

また、同順位の相続人が全員放棄した場合には、後順位の法廷相続人に相続権が移行します。これに対し限定承認はあくまでも承認の一形態ですから、限定承認が認められた時点で相続手続きが完結します。つまり、後順位の相続人に負債を引き継がせる恐れがないのです。

相続分の放棄

相続分の放棄とは、相続を承認したうえで受け取る財産(相続分)を放棄することです。特定の相続人に遺産を引き継がせたい場合には、相続放棄よりも相続分の放棄のほうが有効に作用する可能性があります。

被相続人の妻と長男・次男の3人が相続人となり、被相続人の妻にすべての財産を譲りたいと考えたケースを想定してみましょう。

この場合に長男と次男が相続放棄をしても、被相続人の妻がすべての遺産を手にできるとは限りません。配偶者は常に相続人となる立場ではありますが、第2順位、第3順位の法定相続人と共同で相続することとなるからです。

このため長男と次男は相続放棄をするよりもむしろ、相続を承認してしまったほうが合理的です。配偶者と子どもの3人で相続人を確定し、遺産分割協議で「配偶者がすべての財産を取得する」旨の合意をすれば、確実に希望の結果を生めます。

相続放棄を依頼する際の司法書士と弁護士の違い

「相続放棄を専門家に依頼したい」と考えた際、司法書士と弁護士のどちらに相談すべきか悩む方もいるかもしれません。

想像放棄の手続きでは、受任できる業務の範囲が司法書士と弁護士で大きく異なります。

ご自身が最も不安に感じているポイントを考慮して、相談先を選択するとよいでしょう。

弁護士には手続きすべてを任せられる

司法書士に依頼できる仕事が申述書の作成や相続放棄に関するアドバイスなどに留まるのに対し、弁護士に依頼する場合には手続きすべてを任せられます。

相続人に代わって債権者への対応をしてもらうことも、裁判所からの照会書を弁護士に送付してもらい、弁護士が代理人として作成することもできるのです。

また、債務の返済に関する裁判上の争いが生じた場合などでも、訴訟の代理を委任できます。

認定司法書士であれば一部の訴訟代理を受任できるとされていますが、元金が140万円以内であるなどの制限があります。債権者とのトラブルが予見されるようなケースでは、相続放棄を弁護士へ依頼するのが望ましいといえるでしょう。

司法書士は本人が手続きの主体となる

弁護士が相続放棄を受任した場合には、代理人として依頼者の代わりに手続きを進めます。このため依頼者の利益になるように照会書の回答をすることなども認められますが、司法書士に依頼した場合にはこのような代理行為はできません。

あくまでも本人が手続きの主体として行動し、司法書士は専門家として申述書の作成を行うほか、手続きに関するアドバイスをする立場に留まります。

ご自身が手続きに割ける時間が限られているようなケースでは、弁護士へ依頼したほうが円滑に進むかもしれません。

相続放棄を司法書士に依頼した場合の費用相場

相続放棄を司法書士に依頼した場合の費用は、3~5万円程度が相場といわれています。実際にそのような金額を設定した司法書士事務所は多いです。

ただしこれは申述書の作成を依頼した場合の費用で、相続人の調査や戸籍の取得、相続財産の調査などには別途費用が発生します。また、熟慮期間を超過している場合にも、追加費用が必要です。

付帯業務を含めた報酬体系は、事務所ごとに大きく異なります。

相談する際には、提示された費用の中にどのような業務が含まれているのか、ご自身の希望する業務をカバーしているかを、しっかりと確認することが大切です。

相続放棄を依頼する司法書士の探し方

司法書士は登記手続きの専門家ですが、一般の方が司法書士と関わるのは不動産を購入したなど、特定のケースに限られるでしょう。どのように司法書士を見つけたらよいか分からない方に向けて、探し方を解説します。

相続に特化した事務所を探す

司法書士に相続放棄を依頼する場合、相続に特化した事務所を探しましょう。

司法書士の独占業務といえば、法務局への登記手続きの代理です。所有権や抵当権などの権利に関する登記や、会社などの法人登記がそれに当たります。

相続業務では、相続した不動産の所有権移転登記、いわゆる相続登記を伴うケースがよく見られます。これが司法書士の専門分野であるため、多くの司法書士が相続手続きに精通しているのです。

とはいえ、こと相続放棄に関していえば、すべての司法書士が円滑に対応できるとは限りません。まずは相続に特化した司法書士事務所であること、さらに相続放棄の実績が豊富であることなどをポイントに、依頼先を探しくいくとよいでしょう。

不動産会社に聞いてみる

Webサイトや紹介などで司法書士を探すケースが一般的ですが、「まったく手掛かりがない」という場合には、地元の不動産会社に聞いてみるのも1つの方法です。

不動産取引には登記が付きものですから、司法書士とは深いつながりを持っています。相続した不動産の売却といった相談も多く寄せられるため、少なくとも相続手続きに詳しい司法書士を紹介してくれる可能性があるのです。

法テラスでも司法書士に相談できる

司法書士に支払う報酬に対する不安がある場合には、法テラスに問い合わせるという方法もあります。

法テラスは司法書士や弁護士への法律相談を、気軽に利用できるように設立された機関です。正式名称を「日本司法支援センター」といいます。

相談者が抱えるトラブルに則した、法律情報や専門家の紹介などのサービスを提供してくれるため、「どこから専門家を探してよいか分からない」などのケースで力になってくれるでしょう。

法律テラスで相談するメリット・デメリット

相続放棄を法テラスで相談するメリットは、無料の法律相談や費用の立て替えなど、経済的な支援が受けられる点です。

収入や資産が一定額以下であるなどの条件があるものの、最大3回まで無料の法律相談を受けられるほか、手続きに要する費用を分割で支払うことなども可能です。

一方で、相談する専門家が自由に選べないというデメリットも認識しておきましょう。

法テラスで無料相談に応じてくれる専門家は弁護士と司法書士ですが、その相手が必ずしも相続放棄を専門に扱っているとは限りません。ご自身で相続放棄を得意とする専門家を探したほうが、よりスムーズに手続きが進む可能性もあり得ます。

また、「相談者の収入や資産が一定額以下」という条件に該当していることを確認するため、所定の審査を受けなければなりません。

審査に時間を要することで、3カ月の熟慮期間の一部を費やしてしてしまうデメリットが生じます。特に期限を超過している場合などには、審査期間が及ぼす悪影響を十分に考慮する必要があるでしょう。

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